桜と柳の孤独
柳の下には幽霊が出る
桜の下には――
桜と柳の孤独
「ええ月やなあ」
「満開にちょうどええ月で良かったねえ」
古い枝垂れた巨木の下、腰を下ろして酒盛りをする影が四つ。
「花見で月見で贅沢やなー」
「こんな穴場あるんやったらはよ言えや」
「教えてやっとんやけん文句言うな」
人工の照明は遠くの町灯りのみ。満月の月明かりで四人は動いている。
「おい愛媛、そろそろ酒やのうて茶にしとけ」
「ふぇい…」
そこそこに酔っているらしく、ゆらゆらと頭を振って頷く。
「やけん酔うんやったら最初っから……ところでこの酒美味いな高知」
大きな瓶を空にしつつ徳島が気分良く笑って高知に言った。
「おう、そうじゃろ」
「なーなー、俺んちの刺身もなかなかやろ?」
花弁の乗った刺身を気にせずに口に運びつつ香川がそわそわ聞く。
「はいはい美味いわー」
「てっめえ…」
「もー…せっかくおはなみなーやけん、けんかせんひょってよー」
「おい愛媛、ちゃんと言えとらんが。へろへろしとるぞ」
「へいきや…て……」
と言いつつも、頭が重そうに俯いてごくんと渡された緑茶を喉に入れる。
和やかな空気を揺らすように穏やかな風が吹き、花弁がまたぶわっと散る。柔らかな月光の色に白い歌弁がきらきら反射した。
「なあ、何かこの桜って白いよな」
「あー…確かに」
「白いんは年寄りなんよ」
愛媛が欠伸をして言った。
「桜の色は年取ったらだんだん抜けて白くなるんやって」
「へえー」
「何か白髪みたいやな」
ははは、と朗らかに笑った後、またざわりと枝が揺れて、吹雪が散った。
「うー…」
「やけん茶にしとけって言うたやろが」
「んー…今日もごめん…」
ゆっくりと歩く高知の背中で愛媛がむにゃむにゃ喋る。
「ねえ高知君…柳の下には幽霊さん出るんよね?」
「ん? まあそがに聞くが…どした急に」
「でも死体があるんは桜の下なんよね」
「ん…? ああ…まあ…そがも聞くな…やけん何じゃ急に」
「僕んちのお城のお濠ね、柳と桜が一緒にあるとこあるんよ。やけど桜の死体さんはもう成仏しとんやったら、柳の幽霊さんは独りなんかなーって思ったんよ」
「……おう?」
「言いよること分かった?」
「……おう…やけどお前すごいこと考えるんやな」
「ほうかな」
「桜の死体にまで気い遣うたんか」
「埋まっとんは暇かなーって」
「……」
黙ってしまった高知の背中で首を傾げ、うとうとと高知の肩に目を落とす。
「あ」
「ん?」
「桜入っとる」
高知のパーカーのフードに白い欠片がぱらついていた。
「僕は独りやなかったら柳でも桜でもええかなあ」
「独りはやっぱ暇か」
「暇なんはええけど、寂しいんはちょっと困るかなあ」
「そうか」
ゆたゆたと高知の背中に揺られて歩く道は月に照らされて薄明るい。
「柳でも桜でも俺が一緒になっちゃる」
黙ったので多分寝ているであろう愛媛に言った。
了
規制でむしゃくしゃしてやりました。
皆さんお花見は行かれましたか?
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