寒いん

「はぁ…寒いなあー…」
「全くじゃあ。最近一気に寒うなったのぉー」
「…とか言いながらさ…高知君結構余裕そうよな…」
「ん? ほうかえのー」
 秋も大分深まってきたころ。この時期は四国に限らずとも、突然に朝晩が冷え込むことがある。普段が比較的温暖な為に、愛媛は寒さに滅法弱い。まだ気温はそこまで下がっていないが、既にファーの付いた上着にニットの帽子を被り、首を縮めて歩いている。
「僕寒いの苦手なんよねー…冬のええことって炬燵でみかん食べれるぐらいやん…」
「ええとこそんだけか」
「そんなもんやろー。僕が珍しく熱なれる秋祭りもこないだ終わってしもうたし…」
「ああ…ほうけ…」
 確かにあの祭りの間の愛媛(主に東予)はいつもの愛媛とは違う。色々違う。兎に角違う。
「お前…何であの時期にだけああなるんじゃ…?」
「え? あー、確かにちょっと元気ィなるねえ…うーん…何でやろうねえ…僕もよう分からんかなあ…。でも高知君も徳島君もおんなじやないん?」
「いや、それは違う。ギャップのレベルが違う」
 力いっぱい否定した。これは香川も徳島も分かってくれるはずだ。当の愛媛は『ほうなん?』ときょとんとした顔をしていたが。
「しかし寒いなあー…僕沖縄さんちの子になりたなってきたなあ…」
 高知の足が止まった。少なからず動揺した。思わず隣を歩く愛媛を振り返ってしまう。『それってここからいなくなるってことじゃないか』と。
「…愛媛」
「んー? な、……ん…?」
 難しいことは、面倒なことは何も考えないまま、高知は愛媛との距離をなくし、唇を触れさせていた。
「ん…! んっ…ん、ぅ……ふ」
 突然の高知の行為に対しての驚きで、愛媛は抵抗らしい抵抗も覚束ない。寒さに震えた手で辛うじて高知の薄着の袖を掴んだ。
 それを気にかける風もなく、高知は口付を更に深める。
「はっ…ぁ……っ、んんっ」
 流石に息苦しくなったのか、袖を引っ張って合図する。
 やっと出て行った熱い舌。その感触が口の中に残っている。息苦しさに開いた口が外気に触れて、口内が余計に冷えた気がした。
「は、ぁ…はぁ……な、に…」
「何やない」
「だって…分からん、よ……いきなり……」
「……」 
「ごめん…僕、何か、したん…?」
 抱きしめられた格好のまま、そう言って少し赤くなった顔で上目使いに見上げてくる。
(そやき、そういうんが困るんじゃ、馬鹿)
「愛媛、俺らお隣じゃろ」
「う、うん」
 愛媛の背中に回した手に力を込める。
四国ここは、嫌なんか?」
(俺の隣は、嫌なんか)
 愛媛がぱっと顔を上げた。
「嫌じゃない」
 まっすぐに届く目線には、嘘の成分は微塵もない。
「嫌なわけないやろ?」
「ほなら、居れ」
「うん。…うん、解った。…ごめんな」
「おう」
 ゆっくりとまた歩き始めた。ほんの数分の間だったのに、随分暖かくなった気がした。
「あ、ほうや」
「何じゃ」
「冬は寒なるけど、香川君のうどんが美味しいなるね。寒い時にあったかいん食べたらありがたみが違うし…」
「ああ…まあ、ほうじゃの」
「徳島君のすだちと、高知君のゆずちょっとずつ入れたらええって、こないだ香川君に聞いたんよ」
「ほうか」
「それに、温泉もいつもより良うなるかも」
「ほうじゃの」
「またうちに来る?」
「ほうじゃの」
「何しに来てくれる?」
「……え?」
「…冗談よ」




おしまい!
どうも。よう読んでくれたぞなもし。(読んでくださってありがとうございました。) 最後愛媛が誘い受けっぽいですが。

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