三日間の夢

 何でやろ。あれー何でやろ。あっれー?
「おい…ちょ…愛媛…」
「んー? なん?」
「いや、あの……う、嘘やろ? …なあ?」
「はは」
 やべえ。目が笑ってない。

 四国三大祭(一説)。
 少しずつ色の変わり始めた山を眺めつつ、香川は愛媛の東部へと進んでいた。
 目的は東予の秋祭。徳島の阿波踊りと高知のよさこい。それにこの太鼓祭を加えると四国の三大祭になる。何でうちのが入ってないんだ納得いかない。しかしまあ三大祭というぐらいだからそこそこのものではあるのだろう。今年の夏も大分疲れたが(降雨量的な意味で)、例年通りやり過ごしたし。祭好きの血も騒ぐし、前回来たのも随分前だし、愛媛も自分に会えなくて寂しいだろうし……ちょっと見たいし。でもそう言えば、高知がやけに血相変えて喧嘩祭だからやめとけ、マジでやめとけ、と来る途中引き留めてきた。
 普段あれだけほにゃほにゃしているあいつに喧嘩祭なんかできてたか? 前行った時どうだったっけ?
「まあええか、行きゃ分かる。……この辺やったか?」
「おらァはよせんか!」
「お」
 すぐ近くを荒々しく怒声を上げて若衆が走り過ぎた。
「へえー中々熱いな」
 街をふらりと歩き回ると、何基か大きい神輿がそこここに出されていて、その周りに人が集まっている。しかし女子供がいない。
「なるほど…」
 喧嘩祭というのは本当らしい。街全体が祭特有の男臭さを纏っている。
「あれ?」
 その時、背後で喧嘩や祭とははっきりいってかなり無縁な声がした。
「お! 愛媛!」
「こんにちは。この時期には久しぶりやなあ、香川君。僕のお祭見に来てくれたん?」
「まあ…そんなとこ…やな。…へえ、まあまあ様になっとるやんけ」
 祭の衣装になった愛媛は、額に締めた鉢巻のようにきりっとした印象が強くなり、心なしか表情もいつもより締まって見える。夏を越したはずなのに相変わらず肌は生っ白いが。
「はは、ありがとうね。…ところでさ」
「ん? 何だよ」
「高知君と徳島君に聞かんかった?」
「何を。…おい、ちょっと、近い」
「僕ねえ、この三日間だけ、ちょっと元気ィなるんよね」
「は?」
「ね、今からここの通り危ななるけんさ、ほらこっち」
 そう言って躊躇いなく香川の手を握り、普段では考えられない強い男の力で引いた。
「えっ! お、おう…」
 もの珍しい強引さに手を引かれたまま、薄暗く、人一人がぎりぎり入る程度の狭い路地に入る。
「なあ、ちょい…どこ行っ、痛って! 狭っ!」
「ああ、ごめん、もうちょいやけん。あ、足元、瓶割れとるけん」
「うわっ! 早よ言え!」
 右に曲がり左に曲がり、何度となく頭をぶつけ、しかし一度も止まらない。もう愛媛の手のガイドなしでは絶対に戻れない。灰色の建物の間、古いトタン屋根で空はほとんど見えない。通りの喧騒も大分遠のいたようだ。
「なあ、えひ…」
「香川君さあ」
 唐突に立ち止まった。愛媛の向こう側を見ると、コンクリート塀が高く積み上がった行き止まりだ。来た道以外の三方が灰色の壁に阻まれた狭い空間に二人だけで立っている。
「な、何?」
「高知君と徳島君に聞かんかった?」
「やけんそれさっきも……うわっ! 何す、んんぅっ!」
 いきなり視界を手のひらで覆われ、一瞬怯んだ隙に口を口で塞がれた。そのまま舌が口内に侵入して歯茎をなぞり、上あごをくすぐると、香川の膝から力が抜けた。
 その場にへたりと座り込んだ香川の上を軽くひょいと飛び越えて、愛媛が唯一の通路に立った。
「は、……ふ…っ」
「この三日間だけはねえ、僕には近づかんとってほしかったなあ」
 にっこりと緩む表情。しかし目が笑っていない。
 そして冒頭に戻る。

「え、愛媛…、やめ…っ」
「だーめ」
 愛媛が香川の雄を吸っている。しかもじゅくじゅくとわざと水音を立てて、香川の羞恥を煽っている。
「も、ほんと、に…いかん…っ!」
「もうイきそうなん? 早いなあ。こんなに涎いっぱい出よるしねえ」
「嫌、…ぁ、あ、や、出るっ……ふうぅ!!」
 びゅく、と弾けた白濁が舐めている愛媛の口から髪までを汚す。愛媛は気にする風でもなく口の端に付いた精を舌で拭い、荒い息を繰り返し、体をざらついたコンクリートに預ける香川を見下ろした。
「解った? こないになるけん、お祭の間は僕に会いに来たらいかんかったんよ」
「……ふ…けん、な」
「え?」
「お前…覚悟、できとん、やろ…なあ…」
「あ、されるん嫌やった?」
「ったり前やろがこの阿呆が!」
「ごめん」
「ごめんで済むかァ!」
「えー」
「えーとか言うな! 許さん…愛媛…今から仕返ししたらァ! 脱げ!」
「え、僕のもしてくれるん?」
「てめえ頭みかんでできてんのか! んな訳あるか! 今から俺がお前を犯す!」
「えー…あ、うわ」
「押し倒されたらもうちょっと慌てろ!」
 押し倒した愛媛の下を一気に引きはがすようにして脱がす。しかし目に入るのは、滅多に外気に触れないような潔癖そうな雄で、一瞬無垢なものを犯しているような罪悪感に襲われる。
「ねえ、犯すってことは僕が入れられる側なん?」
「そう! そうやけんもう黙っとれ!」
 減らない口を塞ごうと口と舌で襲いかかるが、絡めとられて逆襲される。また力が抜けそうになるのを踏み留まり、まだ濡れていない愛媛の蕾に無理に指をねじ込む。
「んぁっ…ぁ、痛…痛いって…! も、ちょっと…濡らして、よぉ…」
「おま…いつもの調子はどこへ持ってっとる……ほら、そんなら自分で濡らし」
「あ…うん…ん、ぁう…んん…」
 大人しくしおらしいいつもとのギャップに閉口しつつ、愛媛に自分の指を舐めさせ、濡らしてからもう一度解しにかかる。
 すると今度はくぷりと素直に飲み込み、じわじわと動かすとくちゅくちゅと水音を立て始めた。
「ひゃ、あ、ぁう、ん…あ、香川…君…」
「もうこんなに柔い。体はいつもと変わらんのやけん、実はいっつもやらしいってことか」
「ああ…ぁん…っ、あっ! あ、や、そこ…ぁ、イイ…よぉ…っ」
 香川の指がポイントを掠めたらしく、びくんと腰を跳ねさせて甘い声を漏らす。その扇情的な様子を見て、香川は自身を扱きつつ溜息をついた。
「…マジ、調子狂うわ。おい、いくぞ」
「うん…シて」
「…愛媛が『シて』って言うた(性的な意味で)」
「気持ちよくしてくれな、交代ね」
「……」
 膝裏を押さえ、猛った物をぐっと中へ押し込むように突き入れた。愛媛が息を乱すのが分かったが、今はそれすら寧ろ歓喜の音だった。
「う…やっぱきっつ…」
「ぅあ…あ、ぁん…っ、あ…はぁ……まあまあかな」
「ちょ! まあまあって何や!」
「え、まあまあ…って、まあまあやけど。ほら、早よ、動いて」
「くっそ…腹っ立つ…!」
 慣れていない身体なら少々手加減しようと思っていたが、流石にこの反応をされて優しくするほど人が良くない。もうこの際後に残らなそうだし、いつもやれないことをやってみよう。
「お前さっきここイイって言うたな」
「え? っあ! ふぁ! はぁあんっ!」
 指で探った時の感覚を頼りに柔らかく吸いつく内壁を擦りあげる。同時に胸の袷からのぞく淡い色の乳首も噛んでやった。
「あっ、や、あぁっ、ぁ………あー…」
 しかし可愛らしい嬌声を上げていたように見えた愛媛がいきなり萎えたような声を出す。
「はっ? ちょ、『あー』って…」
「もう面倒いわ。香川君ちょっと、入れたまんまでええけん、体勢変えるよ」
「い、いやいやいや、入れたまんまって、ちょ、痛いってうわっ!」
 押し倒されていた愛媛が上体を起こし、再び半寝の状態になった香川の上に乗る、所謂騎乗位状態になった。
「はぁ…っ、やっぱ、こっち、のが…深い…っ」
「っ…おいっ…そんなに、絞めんな…!」
「あ、ぁん…ははっ…おっきくなった。ね、気持ち、ええ?」
「うる、せ……ぅあ…っ」
 眉を顰めて強がるものの、さっきよりも深く飲まれている自分が熱い。びくびくと動く内側がきゅうきゅう締め付けてきて、本音を言えば気を抜いたら出そうだ。
「ねえ…も、香川君の、すごい…熱い…っ、あっあっ…んぁ、びくびく…してる…」
「えひ、め…っ」
「イきたい?」
 うっとりと笑うその表情が妖艶すぎて、それだけでまたぞくりと感じた。もう敵わないと思って小さく頷いた。
「じゃ…僕の中に、いっぱい…っ、ちょうだい、ね…」
 この道に入ってきた時と同じように手を握ってきた。素直に握り返したらいきなり腰をがくがくと震われた。
「うあ! あ、あ、ああっ、あああっ! あ、イく……愛媛ぇっ」
「んぁ…ああぁんっ! ふぁぁああっ!」
 どく、どく、と流れてきた熱に耐えきれず、愛媛も香川の上に白濁を散らした。
「あ…はぁ…はぁん……熱、いの…いっぱい…っ」
「はぁ…あー…もう…疲れた…」
「え、もう?」
「はぁ!? ちょ、お前…うぁっ!」
「そんなんやけん僕に『まあまあ』って言われるんよ」

 高知がやたらと止めてきた理由はよく解った。高知、お前は意外と他人思いの良い奴だ。今度からお前の話はもうちょっとちゃんと聞く。祭の間の愛媛には近寄らない。
 でも問題は、これから三日間もこの状態が続くことだ。
逆切れ香川×どS愛媛ということでしたが、ちょっと違うような気も…。イメージに添えていなかったら申し訳ない。

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