神に悪戯

神に悪戯


「ん…」
 気がつくと周りがほんのり明るい。まだ少し早いようだが、朝のようだ。
 頬には柔らかなシーツと布団の感触がある。その柔らかさに潜り込んで、横向きに体を丸めて眠っていた。自分の家の空気ではないが、誰の家かはすぐ解る。何度もこうして起きたし、布団からは馴染んだ匂いがする。
「高知君…?」
 昨日の記憶が全くない。手から若干酒の匂いがするのは関係があるのか。が、取り敢えず寝かせてくれたのは彼だろう。お礼を言おうとまだ寝呆けた上体を起こした。
「待て愛媛! 動くな!」
「へぁ?」
 非常に緊張した彼の声がした。声のした方を向くと、蒼白になった彼がいる。
「何で?」
「ええけん動くな!」
「え、え? 何? ご、ゴキブリ?」
「違う。でも動くな」
「は、はい」
 言われた通りにじっと動かずにいると、酷く警戒するようにじわじわ近付いてきて、じっと目を見つめられた。それが何だか居た堪れなくなって視線を逸らすと、顎を掴んで無理矢理目を合わされた。
「ぅ……ね、ねえ…何?」
「…ま…祭は…?」
「え? ああ! 終わってしもとるー!」
 確か昨日の晩で祭は終わりだったはずだ。まさか記憶がないのはそのせいなのか。
 記憶がないまま終わるなんて何と勿体ない…とがっかり考えていたら、ぎゅうっと腕を掴まれた。
「い、痛…あの、高知君」
「悪い。でもな…愛媛、昨日のこと覚えとらんがか?」
「えっと…うん。変やなあ…いつもやったら覚えとるんやけど」
 そうか、と言って、掴んでいた腕を一纏めにして手ぬぐいのような布でぎゅっと縛られた。痛くはないが、硬い結び目で全く緩まない。訳が解らなくて、動くなと言われたベッドの上で縛られたまま見上げた。
「…あんな、縛っといて何やけど、もうちいと抵抗せえ」
「え、あ…えっと、ごめん」
「いや…うん…」
「あーもー! お前ら面倒臭いんじゃ! 縛ってお仕置き宣言するぐらい5秒でせえ!」
 あからさまに苛立ちながら入ってきたのは香川と徳島。
 『お仕置き』という単語にびくっと反応し、徳島はいつもの威勢を見せずにちらちら愛媛の様子を窺っている。
「お前が俺に縛る役押しつけたんやろが!」
「じゃんけんで負けたんは自分のせいやろ!」
「煩いわお前ら…腰に響く」
「あれ…何でみんなおるん?」
 突然現れた隣人二人に更に訳が解らない。ただならぬ雰囲気の三人の顔をきょろきょろ見回して不安になる。
「くそ…本当にほにゃほにゃに戻りやがって…」
「本当に忘れとるがや…怒らんでやれ」
「…愛媛」
「何?」
「バイブって知っとるか」
「なっ! な、な、なな何聞くん朝から! もう! めっ!」
「……」
「怒んなって徳島。あと泣くな」
「…腰痛いだけやし馬鹿」
「ね…ねえ何なん? 忘れとるって何? 覚えてないけど…僕何かしたん?」
 悪気も何もなくそう言ったのだが、明らかに三人の顔が渋くなる。
「…ちょっと耳塞いで待っとれ、愛媛」
 高知が言って三人がくるりと背を向ける。うん、と頷いて素直に耳を塞ぐ。
「どうするが」
「取り敢えず道具で仕返しさせろ。すげえの持ってきたから」
「俺にも手伝わせろよ」
「おい…お前らな」
「心配すんなって。最後はお前に譲ってやんよ」
「そういうことやのうて」
「あ、あの……ね…もう良い? まだ?」
「ほいだら、俺らからな!」
「あ、終わった?」
「愛媛、脱げ」
「へ?」

「やだっ…やだぁ…やめてよぉ…!」
「俺が何回それ言うたと思っとる」
「俺も何回言うたと思っとる。俺らにはクッションすら無かったぞお前」
 全裸になった愛媛がうつ伏せになり腰を上げ、顔の下にはささやかな優しさなのかクッションを置いてある。徳島はその指で、ローションでどろどろにした愛媛の中を掻きまわしている。指は段階的に増やされ、今や三本の指が飲み込まれていた。香川は愛媛の頭を足で挟むようにして座り、両手を伸ばして愛媛の両胸を弄っている。ただでさえ敏感な乳首は散々弄られて赤く尖り切っていた。
「や、あぁ…ごめ…ごめんって…許し…ひゃぁんっ!」
 徳島の指が三本とも一気に抜かれる。曲げたままわざと中を擦って出ていく意地悪な指に愛媛が嬌声を上げた。
「はー…やっとほぐれた」
「な、に…? 何…する…」
 指の余韻にひくひく震えながら怯えた様子で尋ねる。その表情に満足したように香川と徳島が嗜虐的な笑みを浮かべる。
「昨日大分好き勝手されたけんな。夜中に大人のおもちゃ屋さん行って買ってきた」
「な…ひっ…!」
 柔らかく蕩かされた後ろに冷たい物が当てられる。その太さに愛媛が息を呑んだ。
「やっ…や…ふぅうっ!」
 ずぐりと挿し入れられた弾みで愛媛の目から涙が跳ね、苦しげな声が漏れる。太いそれを中でぐりぐりと軽く掻き回されると、愛媛自身から白濁が零れた。
「もうイったんか愛媛」
「流石はエネマ」
「あ…ぃあぁあっ! 抜い、てえ…!」
 射精の感覚に幼く喘ぎながら弱々しく訴える。
「俺ら二人分責めたらな。ちゃんとお前も気持ち良くさしたるけん、心配すんな」
「しかし昨日と全然違うな…ま、いっぱい啼けよ? 愛媛…」
 二人の言葉を聞いて、愛媛はまた涙を零し、びくんと大きく震えた。

「さて。そろそろ高知呼んでくるか…」
「そやな。疲れたし…愛媛、抜くぞ? 大丈夫か?」
「ん…んぁ…はぁ、ああ…はぁんっ」
 香川が高知を呼びに部屋から出て行った。徳島にとろとろになったそこから器具を抜かれ、渇いた喉から吐息に近く甘い喘ぎが零れた。涙と唾液で濡れた顔を徳島がタオルで拭いて、あやすように何回か髪を撫でた。
「これで、仕返し終わりな」
 不思議そうな顔をした愛媛に笑顔で、またみかん送れよと言い残し、徳島が出て行った。入れ替わりに高知が入って来るのを横になったままぼんやりと見ていた。
「愛媛…えっと、大丈夫か?」
 とろんとして焦点の合わないような愛媛の目を心配そうに覗きこむ。同時に徳島がしたように頭を撫でてやると、ふわりと微かに笑って撫でている手に触れた。
「高知君…」
「ん」
「ごめんね…」
「何もないが。謝らんでええ。お前がやろうとしたんやないがやろ」
「僕は…」
「魔が差したがかな」
 首を振った。ゆっくり起き上がって少し寒そうに服を被った。

「かみさま」

「うん?」
 返事はしなかった。
 何だか手持ち無沙汰で、くしゃっと愛媛の頭を撫でた。少し恥ずかしそうに下を向いたが、嬉しそうに笑った。香川は最後は譲ると言ったが、そういう訳にもいかなかった。
「愛媛」
「ん?」
「昨日の酒、美味かった」
 そう言うと、顔を赤くして更に俯いた。
「今日も泊まってけ」
 明日にしような、と付け加えるとぱしっと膝を叩かれた。
「神と悪戯」の続きです。逆襲の三県。

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