夜の帳の中。
まるで儀式のように繰り返される言葉遊び。
彼にだけ、意味を持つ。

「なあ、おれの事……好きか?」

抱きつかれながら無邪気に問われる睦言。
けれど見上げた黒い瞳の奥に宿るのは、不安気な迷い子の光。
そのクセのある髪に触れながら、その問いに答える。

「ああ……、好きだ」

「どれくらい……?」

嬉しそうに細められる瞳の奥、不安な色はいつまでも消えずにある。
傍から見れば他愛無い恋人同士の会話だろうに。
妙な必死さが感じられて、切ない。
自分の言葉は彼を安心させることすらできないのだ。

「そうだな……、お前をこの手で殺めてもいい位に、好きだ」

「ば……ッか、じゃねえのッ!」

何を言っているのだという表情を作るくせに、瞳の奥の不安な色は影を潜める。
この歪んだ執着に安心して。

「お前に殺されるなんて、ごめんだね」

「……知っている。だからやらないんだ」

お前が腕の中にいる間はな。

そう囁いて、唇を塞ぐ。
閉じる前の瞳の奥、満足げな光。
その言葉が欲しかったのだと、自覚もないまま言葉よりも雄弁に語る瞳。
背中に回る腕に、瞳の奥の光には気がつかない振りをして。
寝台へその細い身体と共に飛び込んだ。


お前は気がついているのだろうか。
熱を分け合うその前に、執着としか言えない思いを言葉にしろと繰り返すお前。
けれど未だ幼さを残すその自分自身の柔らかな唇から愛の言葉を零したことが無いことを。


強請るばかりのお前。
そんな傲慢なお前を、酷く愛してる。




「んッ、んん……ッ!も、やあ……ッ!」

月明かりに照らされた部屋に満ちる、否定の意味とは裏腹に甘い悲鳴と粘着質な水音、そして軋む寝台の音。
目の前の白く浮かび上がる細いしなやかな肢体を思うままに揺さぶれば一際高い声が上がる。
その声は耳から入り込んで、脳を、身体を、心を侵していく。
甘い、毒のように。

「ああ……ッ!や、そこ、やだ……ッ!!」

「ん……?ここ、か……?」

「やッ!……ッの、こんじょ……悪……ッ!」

感じすぎて怯え逃げ惑う身体を引き寄せてもっと奥へと侵入する。
もう既に知り尽くした弱いところを攻め立てれば、泣きながら拒絶の言葉を繰り返すけれど、そんな言葉は信じない。
自身に纏わりつく、柔らかでキツイ、熱い肉が何よりの証拠。

「んあッ、あ……ッ、も、……ッ!」

濡れた瞳と視線が合う。
繋いでくれ、とでも言うように手が伸ばされて。
その手を取れば、安心したように身を任せてくる。
込み上げてくる愛しさと、そして苦い、切なさ。

「……ヒュ、……ケ、ル……ッ!」

「……ポ、ップ……!」

そこに見える終焉に、駆け上がる。
離さないでくれ、とつながれた手と共に。

決して離さない。
お前がこの腕から逃げることは、例え命を捨てても不可能なこと。

愛の言葉なんて、無い。
愛の言葉なんて、必要無い。
この伸ばされる手だけが、総て。






勇者に捨てられた魔法使いを癒すのは、剣を失った剣士の執着。









END












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執着と恋の違いはどこにあるというのでしょうか。





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