世界の終わり
バランとダイが出会い、戦って数日が過ぎた。
今現在一行はレオナの意向もあってパプニカにいる。
傷も皆順調に回復し、ポップもあの後に奇襲に来たザボエラにやられた毒も回復していた。
なにもが順調に回復していると思っていた。
目に見えるところは。
目に見えない傷は、いつまでも癒えないで。
血を流し続けている。
目を閉じれば浮かぶのは。
まるで塵屑のように捨てられた、彼の。
自己犠牲呪文を唱えて、抜け殻となった、あの。
あの、姿。
強くなりたい、と願った。
義父が死んだ、あの時よりも強く。
「よー!傷は大丈夫か?」
夜、レオナ姫より割り当てられたヒュンケルの部屋をノックするものがいた。
ヒュンケルは読んでいたアバンの書を閉じると、扉を開ける。
するとポップがひょいと部屋を覗き込んできた。
「ポップ。どうしたこんな夜分に。」
「ん〜、ちょっと眠れなくってよ。ダイはもう寝ちまってるしさ。」
暢気な声で断わりもなしにヒュンケルの部屋に入り込むポップ。
サイドボードの上に置いてあったアバンの書を見つけると手に取り、ぱらぱらとめくり始めた。
「やっぱ、先生はすげーなあ・・・。槍殺法・・・?」
「ああ、もう魔剣は無いしな。ラーハルトの残してくれたものだ。少しは使えるようにならんと。」
ヒュンケルはまだ少し疑っていた。
本当にポップがここに存在しているのか、と。
目を閉じると浮かぶ、あの姿。
二度と見たくないというのに。
確かめたくて、ヒュンケルはポップへと近づいた。
そして彼の手元を覗く。
ポップがやけに真剣な瞳で見ていたページは、すでに槍殺法などのページではなく。
彼が唱えた、あの呪文の。
自己犠牲呪文の、ページ。
「・・・ポップッ!!」
「うわッ!」
ポップが見ていたアバンの書をヒュンケルは乱暴に奪った。
もう、二度とあの呪文を使って欲しくない。
もう、二度とあの呪文は使わせない。
なのに、ポップは。
あの呪文を、常に一つのカードとして持っているのだ。
「なにすんだよ!人が読んでたのに!」
「あの呪文の、ページをか?」
ポップが言葉に詰まる。
それはたまたま開いていたのではなく、そのページを選んでいた証拠に他ならなかった。
「・・・仕方ねえだろ・・・。あっちも本気でどうにかしようとしてきてる。簡単に使う気はさらさらねえけど、使うからには失敗は許されねえ。」
ポップはヒュンケルの目を見て、そう呟いた。
迷いの無い、口調で。
それが、ヒュンケルの背筋を冷たくしてゆく。
そのポップの冷静さが。
普段見せる幼い表情とはまったく違うその顔が。
酷く、怖かった。
そして。
酷く、腹立たしかった。
どれだけの思いを、皆がしたと思っているんだ。
「もう、使うな。」
「は?」
どれだけの思いを
「もう2度とあの呪文は使うなと言ったんだ。お前は死んでいい人間じゃない。」
「な・・・何言ってんだよ!そりゃホイホイ使うつもりはねえけど!」
オレが
「使うんじゃないと言っているんだ!」
「そんな事、お前に関係無いだろ!!!」
したと思っているんだ
それなのに、『関係無い』だなんて。
それを、お前が言うのか?
ガタンッ
「・・・った・・・、何す・・・んんッ・・・!」
気が付けばヒュンケルは、ポップのその細い体を壁に押し付けて唇を奪っていた。
いつからかヒュンケルはこの弟弟子に特別な感情を抱くようになっていた。
その感情は酷く熱いもので、ヒュンケル自身、持て余していた。
ポップが傷つけられたりすると、自分でもコントロールが効かないほどに激昂してしまったり。
けれどそれを告げようとか、そんな事を思ったことは無く。
ただ。
ただ、幸せを願っていた。
そしてあのその柔らかな笑顔を見れるだけで十分だと、そう思っていた。
思っていたのに。
「はな、っせ・・・ッ!痛・・・!や、ヒュンケル!やめ・・・、んッ!」
暴れるポップを力で捻じ伏せて、ポップの額のバンダナを解き、両の腕を縛り上げる。
頭を振って逃げるポップの顎を無理やり掴み、その唇を荒々しい仕草で奪う。
固く閉じた歯列は顎を掴んだ腕に力を入れて無理やり割って、舌を侵入させる。
ポップの口の端から飲み込めなかった唾液が零れ、首筋を伝う。
何度も何度も角度を変えて奪われて。
息苦しさと顎を掴む痛みと腕を戒める自分のバンダナの痛みと背中を壁に押し付けられ痛みと。
ヒュンケルのとった行動への混乱で、ポップの瞳から涙が一つ、零れた。
そしてそれがまるで合図だったかのように。
ヒュンケルの手が、ポップの上着を引き千切った。
「・・・ッ!」
釦は飛び、部屋へと乾いた音を立てて散らばる。
ようやく唇は開放され、ポップは慌てて酸素を補給する。
ヒュンケルはさして息切れした様子も無く、ポップの口の端から零れた唾液をたどるように舌を肌に這わせた。
唇から顎、首筋、鎖骨を辿り。
「あ・・・ッ!!!・・・くッ!」
ヒュンケルの舌はポップの乳首へとたどり着くと、その色の違う部位を舐め上げた。
ポップの身体はビクリと跳ね、同時に唇から悲鳴のような声が上がる。
ポップは慌てて両腕を縛られたまま、その口を塞いだがくぐもったような吐息だけはどうしても漏れてしまう。
「ん・・・・、くう・・・ッ!ん・・・!」
ヒュンケルは固くなった乳首の感触を楽しむように口に含み、舌で転がし始めた。
ピチャリとわざと水音を上げて舐めあげ、時折ポップの反応を楽しむように歯を立てる。
その度にポップの身体はヒュンケルの腕の中で跳ね上がった。
もう片方の胸は腰を掴む腕とは逆の腕で、押しつぶすような愛撫を受け、こちらも固く尖っていた。
「や、ん・・・、も、やめ・・・ろ・・・、ッ!!」
ポップが乱れる息でようやく制止の言葉を告げるも、ヒュンケルにやめる気など無い。
酷く暴力的な気分だった。
思い知ればいいと思った。
あの時の自分の、絶望を。
どれだけ、胸が痛んだのかを。
「う・・・あ・・・、いッ!」
胸から顔を上げると、ヒュンケルはポップを乱暴に寝台へと突き飛ばした。
そしてその細い肩を掴み、動けないように力を込めた。
きっともう少しヒュンケルが力を込めれば、その肩は使い物にならなくなっただろう。
「関係ない、と言ったな・・・?」
「ヒュ・・・」
「だったら」
関係あるようにしてやろう。
ヒュンケルはポップを見下ろすと、自分でもわかるほどに冷酷な笑みを浮かべた。
ポップの顔が凍りついたことに、妙な満足感を覚えていた。
お前は思い知るべきなんだ。
寝台に横たわるポップに、噛み付くような口付けを何度も繰り返す。
息苦しくて開いた唇に、無理やり舌をねじ込んで吐息すら奪うように。
そしてヒュンケルはいきなりポップの下着の中に手を差し入れた。
「な・・・!やめ、ろ・・・、んあッ!」
ポップ自身を掴むと、口付けの強さとは裏腹に優しく緩く扱き始めた。
ただでさえ胸への刺激で敏感になっていた身体は、その愛撫に従順に従う。
すぐにそれは立ち上がり、蜜を零しヒュンケルの手を汚す。
「あぁ・・・、も、やだ・・・ッ!手、はなっ、せ・・・!」
涙と唾液とでぐちゃぐちゃになった顔を歪ませて、ポップはあくまでも気丈に言い放つ。
いつもならばそれがポップだと、いとおしい気持ちにもなるのだけれど。
今、この場面では、逆効果でしかなかった。
従ってしまえば、いいのだ。
堕ちてしまえば、いいのだ。
今、このときだけでもいいから。
もう、どこにもいかない、と。
嘘で、いいから。
「・・・ならば、望みどおり離してやる・・・。」
「え・・・、なッ!やめッ!ヒュン・・・ッ!!!」
ヒュンケルはポップの下着から手を引き抜くと、一気にそれを引きずりおろしポップの下肢を露わにした。
そしてその両膝を掴み開かせると、その中心で震えているポップ自身に舌を這わせた。
下から舐めあげて、括れを舌でつついて、先端を舌で割るように愛撫する。
「んんーッ!く、ん・・・ッ!んんッ!」
ポップは縛られた腕で懸命に口を塞ぐ。
腕にバンダナが食い込んで、細い手首に赤い傷を作っていた。
けれどその痛みもわからないほどの、快感がポップを支配している。
初めて、他人にもたらされる快感にポップはどうしていいかわからない。
ただ与えられる快感に怯えながら涙を零すばかりだった。
ヒュンケルはポップ自身を口へ含んだ。
喉の奥まで向かい入れ、舌を使い、吸い上げる。
そして先端に、柔らかく、歯を立てた。
「んんーーーーッ!!!」
ビクリとポップの身体が一際大きく跳ね、ヒュンケルの喉へとポップの体液が飛び込んでくる。
ヒュンケルはそれを口腔内に残したまま、ポップ自身から唇を離した。
手を口元へ持っていくと、その手のひらに口内のポップの体液を吐き出す。
そしてその手を、未だ開放の余韻にビクつくポップの後ろへと忍び込ませ、触れた。
「ひ・・・ッ、何・・・ッ!?」
指に纏わり付かせたポップの体液のぬめりを借りて、ヒュンケルはポップのそこをこじ開ける。
自分でも触れたことの無いような場所に触れられて、ポップは狂ったように暴れだす。
が、ヒュンケルに敵うわけも無く、体術と口付けとで動きを易々と封じられてしまった。
「やーッ!や、やだッ!い、った・・・!やあッ!」
ポップは先ほど与えられた快感に呂律の回らない声で、懸命に拒絶の言葉を吐くが、ヒュンケルには届かない。
それどころか指はぐちゅぐちゅと粘着質な音を立てながら、ポップの中へと侵入してくる。
痛みと異物感がポップを襲うが、それを訴えたところでヒュンケルはその手を止めることは無く。
慣れ初めてしまったそこに指を増やしては、確実にポップを追い詰めていった。
「あぁ・・・ッ!や、何・・・ッ!?やぁ・・・ッ!」
ヒュンケルの指が前立腺を探し当て、ポップの身体が跳ねた。
初めて知る、快感としかいえないそれにポップは混乱しながらも、身体は素直に反応を返す。
指を動かされるたびに白い腹がビクビクと痙攣し、唇から零れる吐息が色づいていく。
ポップ自身も再び立ち上がり、先端から蜜を零し始めていた。
ヒュンケルが指をそこから引き抜き、突然無くなった異物感と快感にポップが安堵の息をついた途端。
「え・・・、ヒュ・・・ン、や、やだ・・・」
膝裏に手を差し入れられて足を広げられ、そこに、ヒュンケル自身を突きつけられる。
そして。
「あ・・・や、やめ・・・、ああッ!!」
一気にヒュンケルは入り込んできた。
あまりの痛みと異物感にポップの背は反り返り、一瞬息が出来なくなる。
だというのにヒュンケルはポップに構わず動き出す。
「ひ、あッ!やあぁッ!!ヒュン、・・・ッ」
あまりの痛みに逃げを打つ腰を掴まれ、引き寄せられる。
更に深くヒュンケル自身をくわえ込まされ、ポップの瞳からは涙が溢れて止まらなかった。
どうして、こんなことをヒュンケルがするのか。
ポップにはわからなかった。
わからなかったのだけれど。
ヒュンケルが、ふいに動きを止めた。
ポップは訝しげに思いながらも、この行為が終わるならなんでもいい、とそう思った瞬間。
ぽたり、とポップの頬に水滴が落ちる感触。
暖かいそれに瞳を開くと。
それは。
2つのアメジストのような瞳から零れ落ちた、涙だった。
「・・・ヒュン・・・ケル・・・?」
ポップは、今の自分の状態も忘れて、魅入った。
濁りの無いアメジストから生まれる、透明なそれ。
胸が、酷く痛い。
「・・・ポップ・・・」
縛られた腕を伸ばして、その頬に触れた。
「ポップ・・・」
何度も、確かめるようにヒュンケルはポップの名前を呼ぶ。
切なく、胸を締め付ける声で。
ヒュンケルの腕が、ポップを抱き締めた。
「・・・どこにも・・・」
いかないでくれ。
ヒュンケルはそう呟いた。
けれど動きを再開したヒュンケルに乱されたポップには、それが確かだったのかはわからなかった。
ヒュンケルは、海辺に来ていた。
まだ太陽が昇るには早く、真っ暗な海岸。
夜の海は穏やかだというのに、酷く心をざわつかせる。
溺れたら、きっと助からない。
なのにどこか惹かれてしまう、夜の海。
彼の瞳と、同じ。
あの後、気絶してしまったポップの身体を清め、傷の手当をして、その涙に濡れる頬にいたたまれなくなって海岸へと来た。
もう2度と笑顔を見ることも出来ないだろう。
それだけで世界は酷く暗く思えた。
それでも止める事ができなかった。
この胸の痛みを思い知ればいい、と思った。
最初は。
けれど、ポップのぬくもりを身体で感じるたびに、ポップが生きていることが実感できて。
やめられなかった。
ここに、いるのだと。
あの戦いの後、初めて実感できた。
このまま、朝までここにいよう。
目が覚めればポップはあの部屋から出て行くだろう。
そして、もう、2度と。
「おい、なにやってんだ強姦魔。入水自殺でもする気かよ。」
ここにいるはずの無い人間の声が、聞こえた。
驚いて振り向けば、そこにはヒュンケルの服を身につけたポップがいた。
月明かりに憮然とした顔が浮かび上がる。
動きにくそうにギクシャクした足取りでヒュンケルへと近づいてきた。
その足取りはダブつく衣類や、足を取られやすい砂浜のためだけではないことは、ヒュンケルが一番良く知っている。
「ったく。お前が人の服破っちまうから。勝手に借りたかんな。」
そういうとポップはヒュンケルの隣に並んだ。
ヒュンケルは、信じられなかった。
夢でも見ているのかと。
「・・・なんか、おれに言うことないのかよ。」
ポップが海を見つめたまま、口を開いた。
その表情は憮然としたものだったが、口調はあくまでも穏やかだった。
目の前の海のように。
「・・・謝るつもりは、ない。」
「お前ね・・・。こういうときは嘘でも謝っとけよ。」
まあ、おれも人のこと言えねーけど。
ポップがゆっくりとヒュンケルのほうを向いた。
月明かりに背を向けるポップの表情は、ヒュンケルからは良く見えなかった。
「・・・ごめん。」
波の音に掻き消されそうな程小さな声だったけれど。
確かにポップは、ヒュンケルに呟いた。
「ポップ・・・」
「あの呪文を使ったこと、いつか使う時がくるかもしれないこと。それは謝らない。悪いと思ってない。」
ヒュンケルは、痛む胸を押さえ耳を澄ましてポップの言葉を聴く。
「でも・・・、関係ないって言ったのは、悪かったと、思う。」
自分だって、同じことを師と仰ぐ人にされたのに。
それでどれだけ傷つくのか知っているのに。
それなのに。
「それは、謝る。ごめん。」
月が雲に隠れた。
雲を通して降りてくる光に、ポップの顔が浮かび上がる。
けれど。
「ヒュンケル・・・!?」
「・・・今だけでいい。」
こうしていてくれ。
ポップを抱き寄せて、その肩に顔を埋めたヒュンケルには。
その表情をうかがい知ることは出来なかった。
「・・・お前もさ、一緒だかんな。」
お前も死ぬとか、あんま簡単に言うなよ。
でないと強姦魔だってみんなに言いふらすかんな。
ポップはそういいながら、ヒュンケルの背中を撫でた。
小さな子供をあやすように。
酷く、心地が良かった。
END
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珍しく強気兄?
と思いきやヨワヨワ兄。
と思いきややっぱり強気兄。
でも最後はやっぱり弱気っていうか尻に敷かれ兄。
某様とのチャット中に浮かんで、原作中のH*Pって初めて妄想できたので嬉しくてupしてしまいました。
ありがちなネタとは思いつつ・・・。
でもなんかラブラブじゃない話って、私の話じゃないみたいで変な感じ。
ウインドウを閉じてください。