例え、彼に翼が生えたとしても。
なくした翼を手に入れたとしても。
これだけ自分が汚したのだから、空に還ったりしないだろうとそう思うのに。

どこまでも純粋な存在に見えて、その足に縋りつきたくなる。
どこにもいかないでくれ、と。






『肩甲骨は人に翼があったときの名残なのだ』

何かの本で読んだのだろうか、その言葉が不意に浮かんだのは、夜の閨のなかで恋人の細い身体を抱いている時だった。
自分が身体を進めるたび、甘い声を上げながら背中の筋肉が蠢く。
その浮かび上がる奇麗な肩甲骨を見ると、翼の名残である事も間違いではないと思う。
細い身体を抱きしめ、浮いた肩甲骨に口付けた。
唇を離すと陽に当たらない白い肌に浮かび上がる赤い痕。

「・・・んッ・・・ぅ・・・!あぁッ、もお・・・ッ!」

甘い悲鳴のような声があがった。
限界を知らせる恋人の声。
とても耳に心地いい。

「・・・ああ、オレも、だ・・・ッ!」

「んッ!あ、ああッ!!」

2人同時に駆け昇り、そして堕ちた。









情事のあとシャワーを浴びることなく眠ってしまった朝、ポップは早起きだ。
ヒュンケルが目を覚ます前に寝台からするりと抜け出して、身支度を整えてしまう。
しかしその日はヒュンケルの目覚めた時にはまだポップは腕の中から抜け出した直後だったらしく、滑らかな背中を無防備に向けていた。
その背中に昨夜つけたひとひらの赤い花弁。
腕を伸ばしてだきしめて、惹かれるようにその場所に口付けた。

「にゃッ!?・・・起きてたのかよ・・・。」

ポップが呆れたような声を上げながら振り向いた。
腕から逃げ出そうとするので、拘束する力を強くする。
傷だらけでお世辞にも奇麗とはいえないのに、魅了されてやまない肌の感触が気持ちいい。

「・・・ヒュンケルさん、朝からなにを考えてらっしゃるんですかね?」

逃げるのを諦めたポップが身体を預けて来ながらため息混じりに呟いた。
返事をせずに少し拘束を解いて、ポップの肩甲骨を指でなぞる。
するとひゃあ、とポップが情けないような声をあげた。

「何すんだよ!!!」

顔を真っ赤にさせながら緩んだ拘束から抜けだしたポップが怒鳴る。
威嚇するような瞳を向け、背中を見せようとしない。
どうもからかわれたと思っているらしいが、無理は無い。

「あ、いや・・・。肩甲骨が・・・。」

「肩甲骨ぅ!?」

何を言っているのだまだ寝惚けているんじゃないかコノヤロウは、という視線をあからさまに送ってくるポップ。
その視線に苦笑を浮かべながら、思っていたことを口に出す。
肩甲骨が、人が昔持っていた翼の名残なのだと。

「お前のを見ているとあながち嘘では無い気がしてくる。」

もし今、肩甲骨がコトリと外れて、美しい翼が生えてきたとしても。
そうおかしいこととはきっと思わない。

それでもどこにも行かないでくれ、と言えない思いを込めてその細い身体を抱きしめた。

「まったくさー、お前はおれに夢見すぎ!」

ケタケタと笑いながら抱きしめ返してくるポップ。
仕方の無いヤツだとでもいうような瞳で。
それでもヒュンケルの何とも言えない焦燥のような思いは穏やかにはならない。
その気持ちはポップにも伝わったのか、抱きしめ返してくる腕に力がこもった。

「・・・同じ鳥でも、飛ばないとりはなあんだ?」

小さな子供に諭すような口調で、謎かけを口にするポップ。
穏やかで柔らかく、そして少し甘い、そんな声。
少し、悪戯を思いついた子供のような光を瞳に宿して。

「飛ばない鳥・・・?」

「答えは、『ひとり』という鳥。」

ひとりじゃ飛ばないんだから、行くなら一緒だろ?
そう言って顔を覗き込み、笑った彼。
その言葉に、泣きそうになる。

どうして彼は、いつもそうやって、自分を甘やかすのだろう。

「だーいじょうぶ。なんてったって大魔道士ポップ様だからな。お前一人くらい訳ねーよ!」

任せとけ!と抱きしめられた。
その背中に、朝の光に煌く大きな翼が見えた。




























END






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ヘタレで夢見がちな乙女ヒュンケルがうちの標準装備です(笑)
でも攻め。いやむしろ攻めは乙女で。
受けはかっこよく男前で。
でもあんまりポップの男前さが表現できません(泣)




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