架空の人






ねえ、お願いだから。
おれを、見て。




「・・・いいか、ポップ?」

「・・・ん・・・、あぅ・・・ッ!」

耳朶を甘く噛まれながら行為の続きを強請られる。
声はとろりと溶けて耳から脳を侵して、体中へと甘いさざなみが広がってゆく。
その言葉に、焦れた身体は脳が考える前に頷いて。
熱い火傷しそうなヒュンケル自身を喜んで受け入れる。

「あ、は・・・ぁン!んん・・・ッ、ああッ!」

大きなそれが内壁を抉じ開けながら入ってくるその感触に、肌があわ立つ。
爪先からじわじわと這い上がってくるねっとりとした快感。
全部、持っていかれそう。

「・・・ヒュンケル・・・、ん・・・」

乾きだした唇が寂しくて名前を呼べば、不思議とすぐに降りてくる唇。
深く口付けられて、移された唾液を飲み込めばそれは甘くて。
首筋にすがり付いて視線でもっと、と強請る。

もっともっともっと。
お前でいっぱいにして。

抱き起こされて向かい合いながら座る体勢にされる。
自分自身の重みで先ほどより深い繋がりに、素直に身体は喜んで。
粘着質な水音を立てながら、もっと奥へと招き入れる。

「ああッ、あ・・・ンッ、や、はぁ・・・ッ」

「・・・ポップ・・・」


ああ、まただ。
いつもお前はそんな顔をする。


ヒュンケルはいつもポップを抱く時、まぶしそうな、どこか遠い瞳をする。
それが、とても綺麗なものを見たりとか、憧憬を含んだ瞳なのだとは知っていた。
抱かれ始めたころは、ヒュンケルの顔を見る余裕なんて無かったから知らなかったけれど。

いつもそんな
なにか綺麗な存在を見るような瞳で
おれを抱いていたのか?

お前の腕の中にいるのは、正義の使徒でも大魔導士でもないのに。
お前を好きな、ただの我儘なガキが一人いるだけなのに。



ねえ、お願いだから。
おれを、見て。





隣で規則正しい息を立てながら眠るヒュンケルの髪に触れる。
見た目よりずっと柔らかな銀髪に唇を寄せた。
ヒュンケルの匂いがする。

ここにいることを。
この髪に触れることを。
許されたのは果たして本当に自分なのだろうか。

自分の考えに胸が痛くなる。
鼻の奥が痛くなる。
胸の痛みで泣くなんて。
女々しくて情けなくて、更に涙が止まらない。

「・・・ポップ?泣いて、いるのか・・・?」

ヒュンケルの目が開いた。
綺麗なアメジストの瞳がおれを気遣う。

その瞳に本当に、おれは映っているのだろうか。

「ポップ・・・?」

暖かい腕の中に捕らわれる。
唇が降りてきて、涙を吸い取られた。

「・・・怖い、」

「え?」

「怖い夢、見た。どんなだか忘れちまったけど。」

ヒュンケルはそうか、と呟くとおれを抱き締めなおした。
もっとずっと肌が触れ合うように。
体温が重なるように。

「・・・もうこれで見ないだろう。もし見たら」

オレを呼べ。

そう言って笑ったヒュンケルに、笑ってうなずいて胸に擦り寄った。
汗の引いた肌はサラサラとしていて、とても気持ちが良かった。


ねえ、お願いだから。
おれを、見て。

どこにもいないおれじゃなくて、目の前のおれを見て。

おれの、名前を呼んで。
















END
















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いつ書いたのか忘れていた話です。
もしや小人が!?

その書きかけに加筆してみました。
珍しい弱気なポップ。
やっぱり時々はコンプレックスとか、そういったものが出てくると思うのです。
私は主にシャンプーをしているときなど。


それと、必要以上にポップを神聖化しちゃうヒュンケルとワタクシへの戒めみたいな。







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