あの悪夢のような事件から5年が月日が過ぎた。
日本シリーズ最終戦開始直前の熱気に沸く横浜マリンスタジアム。
上杉達也はそのマウンドに横浜マリンスターズの先発投手として立っていた。
そして、アルプス席に陣取るマリンスターズの大応援団の中に、父俊夫とともに
ひっそりとその姿を見守る南の姿があった。
あの事件後、検査の結果南は幸い妊娠には至っておらず、身体の傷もやがて癒えた。
そして深く傷つた精神(こころ)も父親と達也の深い愛情に支えられて徐々に立ち直り、
そして1年の浪人を経て第一志望の東応大学に合格し、今は4年生になっていた。

――この試合に勝てたら・・・・ 俺と結婚してほしい。

試合が始まる直前、改めて達也から南はプロポーズされていた。

「(タッちゃん、頑張って・・・・)」

そして2時間半後、相手エースとの息詰まる投手戦に投げ勝ち、マリンスターズファンの
大歓声に包まれてお立ち台でヒーローインタビューに答える達也の姿があった。
その雄姿を見つめながら南は彼のプロポーズを受け入れる決断をし、傍らの父親に伝えた。
「お父さん、私、タッちゃんと・・・・」
俊夫は南がすべてを言い終える前に彼女を抱きしめた。
「分かってる。達也君なら・・・・ 南・・・・ 幸せになるんだよ・・・・」
「うん、うん。お父さん・・・・ ありがとう」

                      ※

マリンスターズ優勝の熱狂もようやく一段落した一週間後の夜。
達也と南は都心郊外のあるシティホテルの一室で抱きしめ合っていた。
あの事件以来、南は一時的に極端な男性不信とセックス恐怖症に陥り、恋人関係に戻った
達也に対しても身体の関係を結ぶことには強い拒否反応を見せるようになった。
達也もまた南が置かれている状況や心情を慮って彼女にむやみに関係を迫ることは控え、
焦らずじっと南の心の傷が癒えるのを待った。
すると時が経つにつれて南のそれらの症状もしだいに和らぐようになり、プロポーズを
受け入れたのを機に今夜ようやく達也の誘いに応じて、2人は初めて身体をねることに
なったのだ。
達也は南と長いキスを交わし、そのままもつれあうようにしてベッドに押し倒した。

「ああっ、タッちゃん!」

達也はゆっくりと南の服を一枚一枚脱がせて上下下着だけにすると、さらにベッドの上で
互いの身体を上下させながら残された下着もすべて剥ぎ取り、とうとう彼女を一糸まとわぬ
姿にして組み敷いた。
間接照明の薄明かりの中に浮かび上がる南の裸身。
適度なボリュームと美しいフォルムが際立つバスト、贅肉の一片も感じられないくびれた腰首、
均整のとれたふっくらとしたヒップ、すらりと伸びた長い脚。一つ一つのパーツがそれぞれの
個性を主張しつつも、全体のバランスを失わず、返ってその魅力を際立たせている。

「きれいだ・・・・ 南」

目の前に現れたこの非の打ちどころのない裸身を目の前にして感嘆の声を上げる達也。
この世にこれほど美しく、淫靡なものが存在するのだろうか。

「タッちゃん・・・・ 恥ずかしい」

思わず南が恥じらいの声を上げ、その身をよじったその時、達也の雰囲気が豹変した。
達也は自身も裸になるや、やにわに南の身体を起こし、背後から乳房を荒々しく揉み砕き、
うなじに舌を這わせた。それは奇しくもあの夜、最初の阿倍野にその身を蹂躙された時と
同じ体勢だ。

「ああっ! タッちゃんっ! だっ、だめっ・・・・」

思わず声を上げた南だが、達也はそこからまるであの夜の暴漢達の行動をなぞるように
南の身体の隅々まで丁寧かつ執拗な愛撫を繰り返し、舌を這わせ、甘噛みし、彼女の弱みを
探りながら徹底的に責め立て、彼女を高みへ高みへと連れて行く。
南はそのあまりの荒々しさに戸惑いながらも、達也のなすがままにされていた。

「ああっ、そ、そんなっ・・・・ タッ・・・・ ちゃん・・・・ ああんっ!」

身体の中から突き上げてくる官能の昂りの嬌声を上げる南。
さらに達也は南の両脚を割り裂くと、すでに溢れ出した愛液で洪水を起こしている淫裂に
舌を挿し入れた。
それがあの天王寺の怒涛の責めを思い起こさせ、南は思わず悲鳴を上げた。

「あああっ! そ、そんなのっ、いやっ・・・・ そ、それは・・・・ タッちゃん、
や、やめてっ・・・・」

一瞬、達也の動きが止まったが、すぐに挿し入れた舌が激しく動いて中を掻き回し始めた。

「あっ・・・・ ああんっ・・・・ だっ、だめなのっ・・・・ タッちゃん、
やめっ・・・・ あああっ!」
達也の猛々しいセックスは、まさしくあの夜の悪夢を南に思い起こさせるに十分だった。
あの夜も今のように南は思うがままにその身を貪りつくされたのだ。
だがあの時とただ一つだけ違うのは、今自分の身体を貪っているのはあのケダモノ達ではなく、
愛する男だということだ。
あの夜は絶望と恥辱の中で無理やり受け入れさせられたものが、今は歓喜と喜悦の中で
自ら望んで受け入れている。

「(わ、私は・・・・)」

快美の波濤に翻弄されて身悶えしながら、南は己の心の中に巣食う「女」の本性に気づいた。
自分は達也になら犯されても構わない、いや達也に犯してほしい、と思っていることに。
身体の中で荒れ狂う快美の奔流に身も心も委ねた南は、レイプとさえまごうばかりの
達也の責め立てに自ら腰を開き、あられもなく叫んでいた。

「タッちゃん、お、お願いっ、来て! わ、私を犯してぇぇぇっ!」


達也は己の本能のおもむくまま無我夢中で身体を南の貪りつくしていた。
あんな事件があった後初めて男に身体を開く南を気遣い、最初に彼女の服を
脱がせるのにも時間をかけた。もちろんそれからもことを急がず、彼女の身体と
精神(こころ)に負担を掛けないようにしつつもじっくりと南の身体を味わい尽くして、
その身を刺し貫くつもりだった。
だが、彼女の非の打ちどころのない裸身を目前にしてその客観性があっという間に
吹っ飛び、そしてある思いが滾った。

「(この身体をあの男達は・・・・)」

天王寺以外が全員未成年だったため、達也には天王寺と平野敏和以外に南を凌辱した男達の
顔も名前も知ることができなかった。そんな男達が、自分より先にこの魅惑的な身体を
蹂躙し、その処女を散らしたのだ。
いったい彼らはどのようにして南をいたぶり弄んで、刺し貫いて犯したのだろうか。
南と最初に身体を重ねるのは・・・・ いや、南を最初に「犯せる」のは自分だったはずなのだ。
それなのに・・・・ そう思った時、達也の中で何かが弾けた。
気がつけば、達也は南の身体を荒々しくいたぶり弄んで、思うがままに蹂躙していた。
それはかつて自ら慰めていた時の彼女を犯す妄想をそのまま実践し、彼自身の心の奥底に
確かにあったレイプ願望を実現しているかのようであった。
だが達也にとって意外だったのは南がそれに抗議することなく受け入れ、歓喜の声すら上げて
いることだ。さらに達也にしがみついた手の爪を彼の背中に食い込ませて性の喜悦に身悶え
している。それは達也に歓喜をもたらしたが、同時に悪魔のような疑問が浮かんだ。

「(まさか・・・・)」

南はあの夜、あのケダモノ達に凌辱されている時も、こんな嬌声を上げて身悶えし、彼らを
歓喜させていたのだろうか?
達也は首を振ってそれを否定した。

「(そんなことあるわけないっ!)」

その時、南の半狂乱に近い絶叫が聞こえた。

──タッちゃん、お、お願いっ、来て! わ、私を犯してぇぇぇっ!

達也は南の両脚を刈って彼女の身体を「く」の字に曲げてハードスタイルの体位を取り、、
すでに極限まで張りつめていた己の怒張を南の淫裂にあてがうと、突然達也の目の前に
幻想の和也が現れ、達也は彼に向かって絶叫した。

「和也っ! 南は俺がもらうぞっ!」

そして達也は・・・・ 南を「犯した」のだ



               ※

達也と南が獣のように互いの身体を貪りあって濃厚な交合を繰り返していた時、
そのシティホテルをじっと見つめる男達。阿倍野・住吉・都島・旭・敏和の5人だ。
犯行時20歳だった天王寺はいまだ刑務所で服役中だが、未成年だった彼らは少年院に
送られ、一番長期だった阿倍野が先日退院してきてようやく全員そろったのだ。

「それで、今、あのホテルで上杉と浅倉がやってるってわけか」

阿倍野が都島に訊いた。

「ああ、間違いねえよ。今頃お楽しみの真っ最中だろうぜ。それにしてもあの上杉って
野郎は輪姦(まわ)された恋人(おんな)と別れなかったんだから驚きだぜ」

「まああれだけいい女だからな。いいじゃねえか、凌辱された恋人にも純愛を貫くなんて
男として立派すぎて涙が出てくらあ」

阿倍野はあからさまに嘲笑し、そこで旭を振り返った。

「それよりさっきの画像をもう一回見せてくれよ」
阿倍野が催促すると、旭がノートパソコンを開いて立ち上げ、すぐに液晶画面上に画像が
映し出されてきた。
それは5年前のあの夜、南が四つん這いの格好を強制されて住吉と都島に上下の口を同時に
犯されているシーンだ。もちろんそれだけではなく、あの5日間に撮影された南の凌辱映像の
ほとんどすべてがデータとして残っているのだ。

「それにしてもよくこんなのが残せたな。全部警察に押収されたのかと思ってたぜ。
実際天王寺さんの所にあった映像データはみんな警察に持っていかれちまったからな」

阿倍野が感心したように言うと、旭が胸を張った。

「まあそれは頭の使いようってことで」

あの時、天王寺との電話中に現場に警察が踏み込んできたのを察知した旭は自らが
捕まる前に手持ちのカメラから南の凌辱映像のデータを全て取りだし、信頼のできる
第3者に預けておいた。
もちろん警察には映像データのことも追及されたが、捕まる前に専用のソフトですべて
消去したとしらを切り通し、少年院を出所後に再びそれを受け取ったのだ。
次々と映し出される凌辱映像に食い入るように見入る5人の男達。
彼らの脳裏には5年前の歓喜の性宴の様子がくっきりと思い出されていた。
映像が一区切りついたところで住吉が言った。

「それにしてもやっぱりいい女だし、最高に犯り甲斐があったよ。あの夜のことは今でも
忘れられねえぜ」

阿倍野がにやりと笑いそれを引き取った。

「ああ、そうだな。だけど今夜はこんなものじゃ済まさねえよ。今度は愛しい「タッちゃん」の
目の前でたっぷりと可愛がってやるとしようぜ」

大きくうなずく哄笑をあげる男達。その時、ホテルを注視していた敏和が声を上げた。

「おっ、出てきたようだぞ」

駐車場から出てきた日産セレナの運転席に達也が、助手席に顔を伏せるようにした南が
乗っていた。
達也が周囲を見回し気を配っている。一瞬、自分達の存在に気づかれたのかと思ったが
そうではなく、どうやらマスコミを警戒しているようだ。日本シリーズでの活躍で一躍
時の人となった上杉達也がホテルで恋人と密会しているとなれば、それは芸能マスコミには
大スクープだろう。
達也がわざわざ車を使って都心郊外のこのシティホテルを利用したのもマスコミ対策なのかも
しれない。
だがそれはこの機に乗じて悪辣な奸計をめぐらしていた彼ら5人にとっても好都合だった。
セレナが発進すると、5人は阿倍野と敏和、都島・住吉・旭の組み合わせで2台の車に
分乗してそれと気づかれぬように車間距離を取って尾行した。
そして交通量の少ない脇道に入ったところで阿倍野が携帯電話で都島に連絡した。

「透。行け」

たちまち3人の乗った車がスピードを上げてセレナの前に出るや、突然スピードを落として
前をふさぎ、阿倍野達もすぐに追いついてセレナの背後にぴったりとついて挟み込み、
無理やり停車させた。
セレナのドアが開いて達也が憤然とした様子で出てくるのが見えた。
阿倍野は目深に帽子をかぶり、セレオの車内に残った南に表から情を分からないようにして
外に出ると上着のポケットに両手を突っ込んだまま達也に近づいた。

「きさまいったいどういうつもりなんだ!」

いきり立った達也が詰め寄ってきた。どうやら達也は自分のことが誰かは気付いていないようだ。

「申し訳ないね。マリンスターズエースの上杉達也さん」

達也の顔に浮かぶ驚愕の表情。

「俺が上杉達也だと知っていてこんなことをしたのか? いったいどういうつもりなんだ」
「なあに大した用じゃないさ。あんたは単なるオマケ、ギャラリーに過ぎないからな」
「ギャラリーだと? それはどういうことだ」
「俺達が本当に用があるのはあんたじゃなくて・・・・」
そこで言葉を切り、親指を立てて車内に残った南を指差した。
「アンタの恋人の浅倉南ってことさ」
「何っ!」
達也が目を剥いた時、阿倍野の合図とともに、敏和が車から姿を現した。
「あっ・・・・ お、お前は、ひ、平野っ! ど、どうしてお前がっ!」
驚愕と衝撃で一瞬身体が固まった達也の首筋に、阿倍野がポケットから素早く取り出した
スタンガンが押し当てられ、強烈な閃光が煌めいて達也がその場に倒れ伏した。


「タッちゃん!」

突然倒れ伏した達也を見て南が叫ぶと同時に、セレオの運転席側の窓ガラスが鉄パイプで
叩き割られた。

「きゃあっ!」

車内に飛び散るガラスの破片に叫び声を上げる南。
ロックがはずされ、ドアを開けて男が2人車内に侵入してきた。

「あっ・・・・ あなた達は・・・・」

絶句する南。そこにいたのは忘れもしない都島徹と住吉輝樹の姿。そしてその背後では
旭勝義がカメラを肩に構えて撮影している。

「久しぶりだね、南ちゃん。あの夜の続きを犯りにきたよ」
「そうそう、今度は恋人の目の前でたっぷりと可愛がってやるからよお」

南は瞬く間に2人によって車内から引きずり下され、改めてワゴン車に達也ともども
押し込まれた。
そして阿倍野がスタンガンを抗う南の首筋に当てた。

「しばらくお寝んねしてな」

再び閃光が煌めき、気を失った南が倒れ伏して達也の上に折り重なる。
阿倍野が車内にあった卓上カレンダーを見て快哉を叫んだ。

「見ろよ。今日はちょうど5年前にこの女を輪姦(まわ)した日だぜ!」
そう、ちょうど5年の歳月を隔て、浅倉南の輪姦凌辱ショーの第2幕が今まさに
開幕しようとしていた。




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