山口が美幸から離れても宮崎と岡山は続かず、互いに顔を見合わせて
まるで嫌な役を押し付けあっているように動こうとはしなかった。
そこで再び大須賀が猟銃を手に取ると、銃口を宮崎に向けた。

「さっき俺が何て言ったかもう忘れたのか? 俺は
『3人ともこの婦警を犯せ』って言ったんだ。それができねえなら・・・・
わかるだろ? そら、早く犯るんだよ」

猟銃に急き立てられ、ようやく宮崎がおずおずと美幸に近づいていく。
山口による2連発がよほどの衝撃だったのか、美幸はぐったりとしたまま
宮崎が近づいてきても逃げようともせず、仰向けに倒れたままだ。
それを見て山口が舌打ちし、蔑んだように吐き捨てた。

「何だ、マグロになっちまったか。これじゃあ犯りがいもねえよな」
「山口さん・・・・」

宮崎が山口を信じられないものを見るような目つきで見つめた。
いくら猟銃で脅されたとはいえ、この状況下で美幸を躊躇いなく、
いや嬉々としてレイプできる山口はどう見ても異常だ。
宮崎が大須賀を振り向き懇願した。
「勘弁してください。こ、こんなことできるわけが・・・・」

その瞬間、再び銃声が轟き、天井の蛍光管が割れて砕け散った。

「何を勘弁しろって?」

大須賀がニヤリと笑う。

「ああ・・・・」

もはや従うしかなかった。宮崎は観念したように、美幸の下半身を割り裂き、
そこに身を沈めていく。

「おおっ! いいぞ、いいぞ、犯っちまえっ!」

一斉にはやし立てる3人。
だが、こんな異様な状況下で宮崎のペニスはまともに勃起せず、
インサートするには硬度が足りなかった。
だが今更それではすみはしない。しかたなく宮崎は美幸の乳房を鷲掴んで
揉みしだき、乳首に吸い付いて舐め転がし、その刺激を受けてようやく
昂ぶり滾ったペニスをためらいながらも秘裂に埋めて、美幸を犯していった。
だがこんな状況でまともにセックスができるわけがない。
インサートしてグラインドを開始するやすぐに達してしまい、
わずか1分程度ですべて吐き出して、あっという間に果ててしまった。
宮崎は身を起こすと、泣き笑いの表情になって美幸を見下ろし悲しげにつぶやいた。

「ごめん・・・・」

そして、まるで自身が犯されでもしたかようにがっくりとうなだれて美幸から離れた。

「けっ! なんて早漏野郎だっ! そんな情けない姿を見せられたんじゃ、
返ってこっちが萎えちまうじゃねえか」

鞘堂が蔑むように宮崎を罵倒し、何と山口までもが軽蔑したように宮崎を見下していた。

「そんじゃ、次はあんただ、おっさん。今度はまともなセックスを見せてくれよ」

猟銃の筒先が岡山に向けられた。だがそれでも岡山は抗った。
猟銃の脅威にいったんは屈し、山口が美幸を犯すことを手伝いはしてしまったが、
さすがに自分自身で美幸を犯すことはどうしてもできなかった。

「お客様を犯すなんて、そんなことは・・・・」

すると大須賀が何か言うより早く、諏訪が鼠をいたぶる猫のような目つきになり、
猟銃を構えると、岡山に歩み寄り直接銃口を額に突きつけた。

「犯るんだよ、オヤジ」
「す・・・・ 諏訪君・・・・ 君は、な、何てことを・・・・」
「『諏訪君』なんて気安く呼ぶんじゃねえ! この渋ちんオヤジがっ!」
「・・・・」
「まあ、てめえが渋ちんのおかげで、こうしてお金をゲットできたんだから、
多少は感謝してるがな」
「あっ! じゃ、じゃあ、まさか君があのお金のことを・・・・」

諏訪が銃口をいったん下ろしてせせら笑った。

「そうさ。アンタががめつく稼いでいるのはよーく知ってたからな」
「いったいどうしてなんだ。前の仕事を首になって困っていた君を
アルバイトとして雇ってあげたのは私じゃないか」
「恩着せがましく言うんじゃねえよ、あん安いバイト代で散々こき使いやがって」
「何てことを・・・・ ああ、こんなことになるんだったら、あの時ちゃんと
君を警察に突き出しておくべきだった。恩を仇で返すとはこのことだ。
君がこんな恩知らずの愚か者だったとは・・・・」
「何だとっ?」

諏訪の表情が醜く歪んだ。

「オヤジ、もう一度言ってみろよ。俺が何だって」
諏訪が岡山の額に再び銃口を突き当てた。

「・・・・」
「『恩知らずの愚か者』だと・・・・ ふざけんじゃねえっ、てめえっ!」

激昂した諏訪の指が思わず動き、猟銃が轟音を上げた。
もちろん諏訪は銃口をずらしたのだが、轟音とともに発射された弾丸は岡山の
大腿部を貫いて血が噴き出した。


「うぐっ!」

岡山が呻き倒れ、手で押えた太股からはとめどなく血が流れ出している。

「何やってるんだ!」

大須賀が諏訪を背後から羽交い絞めにした。

「本当に撃ってどうするんだっ! ばか野郎っ!」

岡山の傷口から溢れ出す血に我に返った諏訪ががたがたと震えている。

「ど、どうしよう、武人」
「しかたねえ、さっさとずらかるぞっ! チャド、そいつらをもう一度縛り上げろっ!」

鞘堂が山口と宮崎を猟銃で脅して手際よく縛り上げた。
さらに大須賀が矢継ぎ早に指示を出す。

「チャド、あとはこいつらの携帯電話を全部奪え。そしたらここの電話線を切って
外部とすぐには連絡をできないようにするんだっ!
諏訪っ! オマエは早く金をまとめてバッグに詰めておけっ!」

呆然と立ち尽くしていた諏訪が、弾かれたように金をバッグに詰め込む。
言われた通りに全員の携帯電話を奪い、電話線も切った鞘堂が叫んだ。

「タケト、この女はどうするんだっ?」
「そいつも適当に縛って転がしとけばいいっ!」

だが鞘堂は美幸にちらと視線を送ると、大須賀におもねるように言った。

「なあ武人、あの婦警さんも一緒に連れていこうぜ。そんでもってどっか別の場所で
もう少しお楽しみってのはどうだ。俺はまだ少し犯りたりな・・・・」

大須賀が苛立ったように鞘堂を一喝した。

「何言ってんだ、ばかっ! かえって足手まといになるだけだっ!
くだらねえことを言ってないで、早くずらかるぞ」
「わかったよ」

鞘堂はしぶしぶ大須賀の言葉に従い、3人は大急ぎで荷物をまとめると、
慌てて外へと飛び出した。

「くそっ! 早く、早く車に戻るぞっ!」


土砂降りの雨の中を一目散に駆け出し、ライトバンに戻った3人。
車内でびしょぬれの身体をタオルで拭ってようやく一息つくと、
諏訪が不安そうに言った。

「あのオヤジ・・・・ まさか死ぬってことはねえよな」

運転席の鞘堂が諏訪を振り返り、怒鳴った。

「自分で撃っておいて何言ってんだ、オマエはっ!」
「で、でも・・・・」
「大丈夫。あそこを出る前に傷を見てみたけど、血はもう止まりかけてた。
死ぬことはないぜ」
大須賀が諏訪を安心させるように言ったが、彼にしても確信があるわけではない。
鞘堂が舌打ちし、忌々しげに諏訪を睨んだ。
「たっく・・・・ 次はあの婦警さんのケツをいただこうと思ってたのに、
テメエのせいで台無しじゃねえか」
「で、でも・・・・」
「でももくそもねえよ。あんないい女を犯るチャンスなんて、そうそうねえんだ。
クソッ、こんなことなら最初からケツを犯っておけばよかったぜ」

そして大須賀の方を振り向いた。

「なあ、やっぱあの女を連れていこうぜ。どうせ俺達の身元はばれてるんだし、
もしかしたらいざという時の人質とかに使えるんじゃねえか」

大須賀は深くため息をついた。

「だめだ。かえって足手まといになるだけさ。それにあんだけ楽しんだんだから
もういいだろう。ほら、早く出せよチャド」
「ちぇっ」

鞘堂は不満げに舌打ちすると、車を発進させた。


どんなに気が急こうも、土砂降りで視界の悪い深夜の細い山道を
そんなにスピードを上げられるわけがない。10分ほど走ったところで、
後部座席に座っていた諏訪が急に素っ頓狂な声を上げた。


「ああっ、しまった!」
「ど、どうしたんだ、諏訪」

助手席の大須賀が振り返った。

「カメラだよ、カメラ。ほらあの婦警さんの陵辱シーンを激写した
カメラを置いてきちまった! 撮ったフィルムも全部だよ!」
「何だって!」

鞘堂が急ブレーキをかけて車を停めた。

「武人、まずくねえか。あれには俺達があの婦警さんをやりたい放題に
犯してる写真が山ほどあるんだ。取りに戻った方がいいよ、絶対に」

鞘堂が車を反転させようとするが、大須賀がハンドルに手を掛け、冷静に言った。

「やめとけ、チャド。無駄だよ、無駄」
「無駄?」
「ああ、よく考えてみろ。あんなカメラやフィルムを回収したところで、
俺達があの婦警さんを散々輪姦(まわ)したことを証言するやつらは
いったい何人いると思ってるんだ」
「・・・・・」
「それを隠すつもりなら、あの連中を全員殺さなきゃならないんだぜ。
おまえはそこまでやる気なのか? 俺は殺しなんてごめんだぜ」
「・・・・」
「それにオマエの本心は分かってるぜ、チャド。オマエはあの婦警さんをやっぱり
連れて行きたいんだろ。だから戻りたいんだ。カメラなんて口実なんだろ?」
「・・・・」

本心を見抜かれた鞘堂の顔が歪んだ。
少し言いすぎたと思ったのか、大須賀は鞘堂をなだめるように言った。

「まあ気持ちは分かるけど、今は・・・・」

だが突然、声を潜めて2人を見回した。
「おい・・・・ 何か今、妙な音がしなかった?」
「音?」
「ああ、何か地鳴りのようなごーって感じの」
「風の音じゃないのか?」

諏訪が運転席と助手席の間に身を乗り出してきた。

「いや、風とは違うような・・・・ チャド、オマエも聞いたよな」
「あ、ああ・・・・」

その時、今度は3人ともはっきりと低い地鳴りの音を聞いた。

「い、いったい今のは何なんだよ?」

不安げに顔を見合わせる3人。鞘堂が窓を開けて山肌を見上げた。
その時、彼の目に映ったもの――それは黒い山肌が轟音と共に崩壊し、
土塊が怒涛となって凄まじい勢いでライトバンめがけて襲いかかってくる
光景だった。
そして・・・・ それが彼の生前の瞳に映った最後の映像となったのだ。

翌日昼のニュースでこの山津波の事故は大きく取り上げられた。
昨日までの長雨で地盤が緩んでいたところにゲリラ的な集中豪雨が襲い、
その結果、地盤が大崩落して山津波が起こり、深夜にもかかわらず不運にも
そこを通りかかって巻き込まれた車の中から3人の男性が発見されたことが
まず報じられ、その後続報として3人の身元も免許証などから判明し、
鞘堂薫(28)と諏訪祐樹(27)の2人が死亡、大須賀武人(28)が意識不明の重体で
病院に運ばれたことが報じられた。



      戻る   作品トップへ  第九章へ  第十一章へ