「(コナン君遅いわね。ちょっと見に行ってこようかしら)」
蘭がふと校舎に目をやった時、前方から先ほどの男が近づいてきた。
男はさっきの醜態など忘れたかのように、平然とぞんざいな口調で言った。
「あんた、毛利蘭って名前なんだな。東京の帝丹高校の2年生で空手の
関東チャンピオン。そんで雑誌にもグラビア掲載された『格闘天使』様だとは
恐れ入ったよ。どうりでさっきの突きがとんでもなかったわけだ」
蘭は嫌悪感も露わに顔をしかめた。
「そ、それがどうしたのよ。そんなことあなたには関係ないでしょ」
「まんざらそうでもないんだよな」
「ど、どういうことよ?」
鵜飼は蘭の問いかけを無視し、口の端を歪めて下卑た笑みを浮かべた。
「せっかくなんだ。ちょっと付き合ってもらおうか、チャンピオン様よお」
「嫌よ。どうして私があなたに付き合わなくちゃいけないのよ」
その卑しい笑みに虫唾が走る。新一にそっくりだからよけい腹立たしい。
蘭は右拳を脇にひきつけ、左拳を前方に突き出して半身に身構えた。
「まだ懲りないの? 今度は寸止めしないわよ」
「おお、怖い、怖い。でもこれを見ても、まだそんなこと言えるのかよ?」
鵜飼がおどけたように言いながら右手を突き出し、掌を開いて見せると、
そこに現れたものを見て蘭の顔色が変わった。
「えっ・・・・ ま、まさか、これはコナン君のメガネ!」
鵜飼はニヤリと笑って続けた。
「そういうこと。あのガキは今俺の相棒が預かっている。無事に帰して
欲しかったら、黙ってついてきてもらおうか」
「相棒って・・・・ コ、コナン君にいったい何を!」
いきり立つ蘭を制するように鵜飼は若干声を低めた。
「でかい声立てるなよ。『黙って』って言ったろうが。来たくないって
いうならそれでも構わねえが、そうなるとあのガキに少しばかり痛い目に
あってもらうことになるぜ」
「なっ・・・・ そ、それは、ど、どういう・・・・」
「ほら、早くついてきな。そうそう、お得意の空手でさっきみたいな真似を
しようなんて思うなよ。俺がアンタを連れて戻らなきゃ、あのガキがどうなるか
わかるよな? 相棒は気が荒くて加減を知らない超あぶないやつなんだよ」
だが、蘭は臆することなく鵜飼をにらみつけた。
「ここで私が叫んで人を呼んだら、あなただって、あなたのその相棒とやら
だって無事じゃすまないわよ!」
一瞬怯んだ鵜飼だったが、その蘭の反応を予想していた烏丸にあらかじめ
教えられた通りのセリフを吐き捨てた。
「そうしたきゃそうすればいいだろ。でもな、そんときゃあのガキが死ぬほど
痛い目にあうだけだ」
「『死ぬほど』って・・・・ ふざけないでよっ!」
「ふざけてなんかねえよ。さっき言ったろ。俺の相棒は気が荒くて加減を
知らない超あぶないやだって。アイツが一度ぶち切れたら、まあ半殺し
程度で済めばいいほうだ。へたすりゃマジ死んじまうかもしれないな」
「なっ!・・・・」
愕然とする蘭とは対照的に落ち着きを取り戻した鵜飼が続けた。
「分かったんなら、おとなしくついてきてもらおうか。おっと、そのポーチは
預からせてもらう」
蘭の手からポーチを奪うと、鵜飼は蘭の返事を待たずに背を向けて、
校庭の外へと歩き出した。
一瞬躊躇した蘭だったが選択の余地はなかった。コナンがこの男の仲間の
手にある以上、主導権は男にある。
コナンを殺すなどというのはおそらく脅しだろうが、万一ということを考えれば
下手な真似はできない。
それに小五郎に連絡を取りたくても、携帯の入ったポーチを奪われてしまい
それもかなわない。
状況的にはかなりピンチだが、それでも蘭にはまだ多少心の余裕があった。
彼の「相棒」という言葉から判断すれば、相手は男を含めて2人だけの可能性が
高い。
それならば下手にここで騒ぎ立ててコナンを危険にさらすよりも、とりあえず
この男の言うことに従ってその場で対処した方がいい。
「(2人だけなら・・・・ 何とかなるわ)」
蘭は振り返りもせずに歩いていく男の背中に向けて、強い口調で言った。
「わかったわ、ついて行くわよ。だけどもしコナン君の身に何かあったら、
あなたと相棒の2人とも、絶対にただじゃおかないからっ!」
「(かかった!)」
鵜飼はその「2人とも」の言葉を聞いてひそかにほくそ笑んだ。
最初烏丸から「相棒」の言葉を使えと言われた時はその理由をいぶかしんだが、
蘭を確実に呼び寄せるために仲間は2人だけだとミスリードするのだと言われて
納得した。
なまじ腕に自信のある蘭だから、相手が2人きりだと思い込めば、無理せずに
必ずついてくることを烏丸は確信していたようだ。
「(ホント、烏丸さんはこういうことには頭が切れるんだよな)」
それにしてもあまりに烏丸の予想通りの展開に、鵜飼は驚きも隠せなかった。
こうなるとこの後どれほどの姦計をめぐらして、烏丸がこの格闘天使を
凌辱地獄へと突き落すのか楽しみにすら思えてくる。
「聞いてるのっ! コナン君に何かあったら絶対あなた達を許さないからっ!」
蘭のいきり立つ声が背後から聞こえてきた。
「大丈さ。アンタさえ来てくれりゃあ、ちゃんとあのガキは無事に帰してやる。
安心しな」
鵜飼が蘭に背を向けたまま答えた。その端正なマスクに浮かぶ邪悪な笑み。
「(もちろんあのガキには何もしねえさ、ガキにはな。けどアンタは違う。
ただじゃすまないのはアンタの方なんだぜ、チャンピオン様よお。
クックックッ・・・・)」
足早に校庭を出て行く男に躊躇いながらも蘭は黙ってついていく。
校庭を離れるにつれて周囲の暗闇が濃くなり、人家の灯もまばらになって
蘭の不安が増大する。
「ど、どこへ行くのよ。コ、コナン君をいったいどこへ連れて行ったの!」
鵜飼が軽く舌打ちをして面倒臭そうに振り返った。
「黙ってついてこいよ。あのガキに会いたいんだろ。おい、こっちだ」
校庭の喧騒を離れ、人の気配も皆無となったところで鵜飼は脇道にそれ、
林道と思しき細い道を登っていく。
もうかれこれ15分以上は歩いただろうか、蘭の鼻腔にかすかに木屑の匂いが
感じ取れ、冴え冴えとした青白い月光に照らされたトタン屋根の建物が
見えてきた。暗くて分かりにくいがどうやら製材所のようだ。
「い、いいかげんにして! こ、コナン君はどこにいるのよ!」
その製材所へと続く坂を上りきって蘭が立ち止まり、思わず声を上げた時、
奥から低い声が聞こえてきた。
「ようこそ、チャンピオン様。それとも格闘天使様と言ったほうがいいかな」
カチリという音とともに突然サーチライトが点灯し、蘭はその眩しさに手を
かざして目を細めた。
だがすぐに目が慣れると、照らし出された光の下に3人の男がいることが確認できた。
「あっ!」
そのうちの1人はぐったりと意識を失っているコナンを右手で抱きかかえ、
左手のナイフを彼の首筋に突きつけていた。
「コナン君!」
蘭が思わず駆け出そうとした時、
「おっと、近づくんじゃねえよ!」
真ん中に立つ鷲尾が低い声でそう言うと、ナイフを持った鷺沼の手が動いて
その切っ先がコナンの喉元にわずかに食い込み、蘭の動きが止まった。
「コナン君を放しなさい! さもないと許さないわよ!」
蘭はとっさに半身に構えながら瞬時に状況を把握する。
男の「相棒」という言葉から相手は2人だけだという先入観があった。
しかし、実際今目の前にいるのは合計4人。これは完全に誤算だった。
それでも普段の蘭ならたとえ男相手でも苦もなく叩きのめせる人数だ。
しかし今は浴衣姿で蹴り技は使いにくいし、何よりコナンを人質に取られている。
蘭はキッと男達を睨みつけた。
「約束通り来たんだからコナン君を放しなさい!」
鷲尾はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながらうそぶいた。
「来てくれただけじゃあたりねえな」
「どういうことよ! 何をすればいいって言うのよ!」
「さあて、じゃあ何をしてもらおうかな。クックックッ・・・・」
男の顔に浮かんだ歪んだ笑みと明らかに悪意を含んだその笑い声に、
背中を走るぞっとするような悪寒。それ振り払うように蘭は叫んだ。
「早く言いなさいっ! いったい何をすればいいのよっ!」
「なあに簡単なことさ。あのガキを無事に帰して欲しかったら、
アンタが俺達を楽しませてくれればいいんだよ」
「た・・・・ 楽しませるって・・・・ どういうことよ!」
「おいおいとぼけんなよ。女が男を楽しませるって言ったら一つしか
ねえじゃねえか。あれだよ、あれ。いちいち説明しなくたって、
ガキじゃないんだからそのくらいのこと分かんだろ」
男の暗く淀んだ瞳に宿った妖しい光。
その不気味な視線が蘭の浴衣姿を無遠慮に這い、舐めるように上下した。
「(ま・・・・ まさか・・・・)」
その視線の奥に潜む淫らな悪意が最悪の想像を喚起して蘭を慄然とさせ、
さらにその意図をはっきりと示す残酷な言葉が鷲尾の口から放たれた。
「そうだな。じゃあまず、その浴衣を脱いでストリップでもしてもらおうか」
「なっ・・・・ 何ですって! ふざけないでっ!」
硬く拳を握り締しめ怒りに震える蘭。
しかし、鷲尾はからかうような口調で楽しげに続けた。
「はあ? ふざけてなんかねえよ。何をすればいいか教えてやったんじゃねえか。
ほら、さっさと素っ裸になってチャンピオン様のヌードを拝ませてくれよ」
「なっ! 何をっ・・・・」
絶句した蘭にさらに鷲尾が追い討ちをかける。
「もっとも脱ぐだけじゃあすまないがな。本当のお楽しみはそれからさ。
言ってる意味、分かるよなあ・・・・ たっぷりと可愛がってやるから
覚悟するんだな。クックックッ」
一斉に沸き起こった男達の哄笑が我が身に降り注ぎ、淫猥な期待に満ちた
視線が集中する。
男の言葉の意味することは明白だった。
彼らは己のどす黒く歪んだ欲望を満たす餌食として自分の身体を弄ぼうとしているのだ。
すなわちそれは強姦―――レイプにほかならない。
「そ、そんな・・・・」
犯される、それもおそらくここにいる男達全員に。
そのあまりにおぞましく身の毛がよだつ恐怖に蘭の足の震えは止まらず、逆に
身体は硬直して身じろぎ一つできない。
それも当然だろう。
いくら気丈で勝気な性格とはいえ、蘭はもともとこの手のことにはかなり奥手
で、セックスはおろかまだキスの経験すらないのだ。
そんな姿を見てますます加虐心に火がついた鷲尾がさらに蘭を追い詰める。
「ほら、どうした。まあ別に無理強いはしねえよ。嫌ならこのまま回れ右して
帰ってもいいんだぜ。ただそん時は・・・・」
鷲尾が顎をしゃくり、鵜飼がコナンの喉元に突きつけたナイフの切っ先を
さらに少し食い込ませ、そこからわずかに血が滲み出して首筋を流れ落ちた。
「や、やめてっ! コ、コナン君には手を出さないで!」
蘭の悲痛な叫びに勝ち誇ったように応じる鷲尾。
「やめてほしいなら、言うことを聞くんだな。俺達もこんなガキをいたぶる
趣味はないんでね。アンタが俺達を楽しませてくれればそれでいいのさ」
「くっ・・・・ ひ、卑怯者! そ、それでも男なの!」
「『卑怯者』か。いいね、いいね、俺達には最高の褒め言葉さ。
それに馬鹿なこと訊くんじゃねえよ。オレ達が『男』だから『女』の
アンタを犯ろうってんじゃねえか。ほらほら、どうするんだい?
可愛い弟を見殺しにできるのかい、チャンピオン様よお。クックックッ・・・・」
その身を犯されるという想像するだにおぞましい恐怖、そしてコナンだけでも
何としても救い出したいという切実な想いの二つが蘭の中で葛藤する。
そして・・・・ 蘭の膝ががくっと折れ、うなだれた。
何があろうとコナンを見殺しにはできない。
本当の血のつながりはなくても、これまで実の弟のように可愛がってきた彼を
見捨てて、自分だけが助かることを選択できる蘭ではなかった。
そう・・・・ たとえその代償が我が身をこの暴漢達の餌食として捧げるのだとしてもだ。
「わ、分かったわよ。言うことを聞くわ。だ、だからコナン君には絶対何も
しないと約束して!」
声の震えを必死に抑えながらも蘭は気丈に相手を睨みつける。
「そうそう、最初から素直にそう言えばいいんだよ。安心しな、アンタが
俺達を満足さえさせてくれればこのガキには何もしない、約束する」
「ほ、本当でしょうね」
「ああ、信じて欲しいなあ・・・・ 俺達はこう見えても紳士でね。
今まで女との約束は破ったことはないんだよ」
いけしゃあしゃあとほざく鷲尾。
『紳士』の言葉に男達が笑いを堪えている。
鷲尾がサーチライトの向きを変え、ライトの光を蘭へと直接当てた。
「スポットライトはこれでいいか? さてと、それじゃあチャンピオン様の
ストリップショーの開始といこうか」
「くっ・・・・」
眩しい光と男達の卑猥な視線を一身で受け止めながら、蘭は唇をきゅっと
かみしめ、震える手で帯を解いていく。
外した帯がしゅるりと地面に落ちる。
さらに浴衣の襟元に手をかけたが、そこから先はどうしても手が動かない。
「ほらほらどうした、早く脱げよ。ガキがどうなってもいいのか」
楽しげに鷲尾が言えば、鵜飼の手が再び動いて、ナイフの切っ先がコナンの
頚動脈に触れる。
「だめっ! やめてっ!」
「だったらやることをやるんだな」
蘭は一瞬天を仰いで目を瞑り、思い切って掴んだ浴衣を大きく開いて
肩からはずすとそのまま手を真下に下ろした。
浴衣が重力に逆らうことなくはらりと地面に落ち、そこには上下純白の
下着のみを身に着けた蘭の半裸姿がサーチライトに照らされ露わになった。
「ひゅっー! 見事なもんだ」
卑猥な姦声があがり、蘭は思わず両腕を胸元でクロスして隠し、
そのまま自身を抱きかかえるような姿でしゃがみこんでしまった。
「何やってるんだ! 立て、立つんだよ」
鷲尾が催促するが、蘭は立てない。
「まだ分からないのか? オマエが言うことを聞かなきゃ・・・・」
繰り返される脅迫の言葉。
「まっ・・・・ 待って・・・・ た、立つわ。立てばいいんでしょ」
蘭がのろのろと立ち上がる。それでもまだ両腕はクロスして胸を隠している。
「ようし、それでいい。ほら、腕を下ろして胸もちゃんと見せてみろ。
まだブラはつけてるんだ、水着のビキニと同じだろ。たいしたことねえだろうが」
「くっ・・・・」
身を震わせためらう蘭だが、逆らう術はない。
羞恥に顔を紅潮させながら、ぎこちなく両腕を下ろした。
「おおっ!」
改めて男達の間から感嘆の声が上がった。
「こりゃマジにいい身体してるぜ。たまんねえ・・・・」
かすかに揺れるブラに包まれた胸の隆起はCカップはありそうだ。
浴衣の上から推察した通り、決して巨乳とまではいえないが、細身の
身体には十分に大胆なボリューム。
またそれだけのバストにもかかわらず、二つの膨らみは瑞々しく張り切ってわずかに
上を向いてきれいな半球形のフォルムを描き、その合間に見事な谷間をなしていた。
バストからウエストにかけてのナイーブなスロープは艶かしい括れを形作り、
豊かな腰を挟んで、丸々と実った美しいピーチ形のヒップへと繋がっている。
さらにそこからすらりと伸びた長い脚ときゅっと引き締まった足首は、
まさしくこれぞ脚線美というものを実感させる。
もちろんただ細いだけではなく、大腿部には程よく肉が乗って適度に張り、白くぬめ光っている。
そんなスタイル抜群の美少女が半裸姿で羞恥に身を震わせているのはこのうえなく煽情的な光景だ。
「(ゴクッ・・・・)」
思わず生唾を飲み込む男達。
これから思うがままに蹂躙し尽くせる肢体が
期待にたがわぬ、いや期待以上の極上レベルだと知って盛り上がる。
逸った鵜飼が下卑た声で催促した。
「ほっ、ほら、さっさとそのブラとパンティーも脱いで素っ裸になるんだよっ!」
「そ・・・・ そんな・・・・」
こうして下着姿を晒しただけでも羞恥と恥辱で気が遠くなりそうなのに、
さらにこの上、一糸纏わぬ全裸姿をこんな下衆な男達に晒せというのか。
そんなことは絶対に嫌だ、出来るわけがない。
この穢れない裸身をいつか露わにしてもいいと心ひそかに決めている相手は
工藤新一ただ1人。
それを他の男の目に晒すというのは彼に対する裏切りに他ならない。
だが、男達は淫猥な期待に満ちた笑みを浮かべ、固唾を呑んで抵抗の余地のない
蘭を凝視している。
「(新一・・・・ ゴメン)」
蘭は覚悟を決め、震える手を背中に手を回してブラのホックに手を掛けた時、
鷲尾から思いもよらない
言葉がかかった。
「いや、そこまでだ。そこから先は脱がなくていい」
「えっ?」
予想外の言葉に蘭が顔を上げた。
鵜飼と鷺沼も驚いたように鷲尾を見つめている。
「ど、どういうことすっか、鷲尾さん」
「そ、そうっすよ。ここまできて脱ぐなって・・・・」
さすがにやや気色ばんだ様子で鷲尾に言い寄る2人。
だが鷲尾は表情を変えずに冷酷に言い放った。
「気が変わったんだよ。そこから先は俺がこの手でじかにひん剥いてやる。
やっぱりブラジャー引き裂き、パンティ剥ぎ取りはレイプの醍醐味、それが
なくちゃお楽しみも半減だからな」
「(くっ・・・・)」
蘭は絶望の淵に立たされながらも、一縷のチャンスを窺っていた。
そう、男達がコナンを解放して自分に近づいてくるその時を。
浴衣を脱いだ今なら足技も自由に使える。
男は4人ともとりたてて格闘技などをやっているようには見えないし、刃物を手にしているのも1人だけだ。
コナンという枷さえなくなれば、素人4人程度なら一蹴する自信がある。
だが、そのためにはどうしても彼らの注意を自分にひきつけ、コナンを
喉元に突きつけられたナイフから解放する必要があった。
蘭は顔を上げ、屈辱をこらえて目の前の男に言った。
「わ・・・・ 分かったわよ。わ、私を・・・・ 好きにしていいから・・・・
早くコナン君を解放して、お願いよ」
「おおっ! 聞いたかよ。『私を好きにしていい』だとよ。
女にそこまで言われちゃあ、ご期待にこたえなくちゃ男じゃねえよな」
そこで鷲尾は蘭の半裸姿を改めて上から下まで舐めるような視線でねめつけた。
「安心しな、チャンピオン様よお。アンタに言われなくたって、俺達は今から
アンタを好き放題に犯りまくるんだからよ」
鷲尾がずいと一歩足を前に踏み出した。
「だ、だから早く、コナン君を解放してあげて、お願い、約束でしょ」
蘭は懇願した。
いや、懇願の振りをした。鷲尾は足を止め、やれやれといった表情で鷺沼を振り返った。
「しょうがねえな。そのガキを放してやれ」
鷺沼は頷くとナイフの切っ先をコナンの喉元から下げ、それを地面に置いて
手を放した。
男達との距離は3メートルもない。この距離なら・・・・
「(今だっ!)」
蘭が勇躍、男達を叩きのめそうとダッシュしようとした瞬間、
そのタイミングをまるで計ったかのように鷲尾が右手をさっと上げ、
勝ち誇ったように叫んだ。
「オマエの考えなんてお見通しなんだよっ!」
鷲尾の合図とともに鷺沼は再び素早くナイフを手にし、その鋭い切っ先が
コナンの喉元に突きつけらて蘭の動きが止まった。
「あっ!」
「ふん。俺達があのガキを解放するチャンスを狙ってたんだろ。残念だったな」
鷲尾が蘭を嘲笑い、烏丸を振り返った。
「それにしてもさすがだな連耶。ホント、このチャンピオン様はお前の言った
通りに行動してくれるぜ。怖い怖い」
「くっ・・・・」
全て見抜かれていたのだ。
蘭は唇を噛み締め、連耶と呼ばれた男を見据えた。
その瞬間、まるで爬虫類のように冷たく気味の悪い、感情が全て欠落したような
視線に射すくめられて、
蘭の背筋に走る氷のように冷たい感触が走り、直感した。
本当に怖いのはリーダー然とふるまっている目の前の男ではなく、この男だ。
だがそれも一瞬、鷲尾の声で引き戻された。
「待たせたな。おい、やれ」
蘭の背後の暗闇に向かって命じる鷲尾。
「えっ?」
振り向くより早く、背後に積み上げられた材木の陰に潜んでいた鷹村と鴨志田が
飛び出し、蘭の両腕をそれぞれ掴んで後ろにねじり上げた。
「うっ!・・・・」
その強烈な痛みに思わず呻き、まるでお辞儀をするように上半身を屈める蘭。
前方のコナンと男達にばかりに気を取られ、うかつにも背後の2人の存在に
全く気づいていなかった。
もちろんそれも烏丸の計算通りだ。
彼は万一、蘭がコナンを見捨てて逃げようとした場合に備えて、2人をそこに配置し、あらかじめ逃げ道を
ふさいでおいたのだ。
ここまでの蘭の反応の全ては烏丸の想定範囲内であり、蘭はここに足を踏み入れた
時点で、既に烏丸の仕掛けた陥穽に完全にはまっていたと言ってよかった。
そうして蘭の両腕を完全に封じておいてから、コナンを抱えた鷺沼以外の
5人で周囲を取り囲んだ。
「何しろ空手のチャンピオン様だ。このくらいのことはさせてもらわないと
危なくてしょうがないからな」
鷲尾が目配せすると、さらに鷹村と鴨志田が蘭の背中と頭をぐっと押さえつけ、
蘭はそのまま膝をついてやや前のめりの格好となった。
鷲尾は蘭の前にしゃがみこんで彼女の顎先に指をかけると、彼女の顔をくいっと
上げさせた。
「ひ、卑怯者! 女1人にこんなことして、アナタ達、最低のクズよ!」
蘭が鷲尾を睨みつけるが、鷲尾は蘭の胸を覗き込むようにして卑猥に笑った。
「さっきも言ったろ。卑怯者で結構、クズでオッケーさ。クックックッ・・・・
それにしてもいい眺めだぜ。形もきれいでちゃんと谷間までありやがる」
慌てて身を捩ってもがき、その卑猥な視線から逃れようとする蘭。
しかし、男2人に背後からがっちりと押さえつけられては無駄な足掻きだ。
ここに到ってようやく鷺沼もコナンを地面に降ろして近づいてくる。
「コナン君!」
「安心しな。さっきも言ったろ、あのガキには何にもしねえよ。
ああいうガキのケツに突っ込むのが趣味っていう変態野郎もダチにはいるが、
俺達はいたってノーマルでな。こんなガキなんざに興味はねえ。だけど・・・・・」
そこでわざと間をおき、ぐっと顔を近づけた。
「若い女、特にアンタみたいなとびきりの上玉には興味津々、もうヤル気
満々ってわけさ」
沸き起こる哄笑。
それに合わせて野次も飛ぶ。
「ヤル気の『ヤル』ってのは『犯す』って書くんだぜ!」
「『満々』っていうより『ギンギン』すっよ! もう俺のあそこはギンギンに
立ちまくりっす!」
野卑た姦声に鷲尾の顔もより一層卑猥に歪んだ。
「まあ、そういうこった。アンタは今から俺達に死ぬほど犯られまくるってわけさ。
いや、輪姦(まわ)されるって言った方がいいかな。クックックッ・・・・」
その歪んだ笑顔に、蘭の吐きかけた唾がべっとりとついた。
「このケダモノっ! こんなことしてただで済むと思っているのっ!
私のお父さんは・・・・」
「うるせえよっ! この女(あま)っ!」
乾いた破裂音とともに蘭の頬を往復する激烈な痛み。
「うっ!」
鷲尾が右手の甲で顔を拭いながら、怒りを押し殺して低く言った。
「たく・・・・ オマエ、何か勘違いしてねえか? ただじゃすまないのは
俺達じゃねえ、オマエなんだよ。まあ、そういう気の強い女は好みだぜ。
変に観念されて無抵抗のマグロを犯るより、その方がずっと犯しがいが
あるってもんだからな。それにその方がいい映像(え)が撮れるってもんだ」
「映像(え)って・・・・ どういうことよ!」
「ほら、あれを見てみな」
鷲尾が親指を立てて指し示した先で、鷺沼が先ほどまで手にしていたナイフの
代わりに、ハンディカメラを
肩に担いでいた。
鷲尾がさらに続けた言葉に蘭の顔面が蒼白になる。
「アンタとのファックシーンはあれでばっちり撮影させてもらう。
もちろん俺だけじゃなくて、全員の分もな」
「な・・・・ なんですって」
「思い切り泣き叫んでせいぜい無駄な抵抗してくれよ。それでこそレイプって
感じで燃えっからよお。せっかくなんだ、お互い協力して最高のレイプシーンに
仕上げようじゃねえか。クックックッ・・・」
鷲尾が鷺沼を振り返る。
「おい、オレが犯ってる間の撮影は任せたぞ。この前みたいにしくったり
しねえで、ばっちり決めろよ」
「任せてくださいよ。今日のために集音マイクも高性能のやつにバージョンアップ
しましたし、モノホンの生レイプ、ばっちり激写してみせますよ」
鷺沼が片目をつぶって胸を叩いた。そこで改めて鷲尾が蘭に顔を向けた。
「そうそう、犯る前に一応聞かせてもらおうか。そんだけ可愛いんだ、
彼氏くらい当然いるんだろ? どうせだったらそいつの名前を教えてくれよ」
蘭が顔を背けた。
この男には新一の名前を告げることすら汚らわしい。
だが・・・・
「たぶんこの男だと思うぜ」
いっせいに男達の目がその声の方角を注視する。
ポーチから取り出した蘭の携帯電話をいじっていた烏丸が、データフォルダの
中から蘭と新一の2人が
写った写真画像を見つけたのだ。
画像の欄外には「トロピカルランドで新一と」というコメントが入っている。
「へえ、こりゃ驚いた。見てみろよ、この男鵜飼にそっくりだぜ」
「えっ? マジっすか?」
鵜飼が驚いた表情を見せる。
「ああ、なかなかイケ面だ。おっ、アドレス帳の一番最初にも『工藤新一』って
名前があるし、どうやら
彼氏と見て間違いないな。あれ待てよ? 工藤新一ってどこかで聞いたことがあるな」
烏丸が首を捻り、すぐにはっと思い出した。
「そうだ、工藤新一って確か『東の高校生探偵』とか言われてるやつだ」
「高校生探偵すっか!」
鵜飼が素っ頓狂な声を上げる。
「ああ。最近ちょっと噂を聞かないが、警察に協力して結構事件を解決したり
しているかなり有名なやつだぜ。ふうん、なるほどな。高校生探偵と格闘天使の
美男美女カップルってわけだ。なかなかゴージャスな組み合わせじゃないか」
改めて鷲尾が蘭の方を向き直った。
「へえ、彼氏が高校生探偵ねえ・・・・ それでチャンピオン様はその高校生
探偵とはもうやったのかよ? 分かんだろ? セックスだよ、セックス。
素っ裸になって大股ばっくり開いて、そいつがおっ立てたペニスをお○○こに
もう咥え込んだのかって聞いてんだ」
わざと下卑た言い方で蘭を言葉責めする。
「そ、そんな・・・・」
蘭が絶句した。新一とはセックスはおろかキスの経験すらない。
いや、それどころかまだきちんと告白を受けたことすらない、
いわば『彼氏』と呼べる以前の存在なのだ。
「答えろよ、蘭ちゃんよお・・・・ そいつとやったのかよ? 恋人なんだろ?」
鷲尾は今度は蘭を名前で呼び、改めて顔を覗き込んだ。
蘭が羞恥で顔を紅潮させ、叫んだ。
「そ、そんなこと、あなたたちに関係ないわっ! そ、それに新一は恋人なんか
じゃないわよっ!」
だが、そのあからさまな反応で鷲尾は確信した。
「なるほどな。まだそいつとはやってねえんだ。てえことはもちろん処女だよな?
まだ男とヤッタことはねえんだろ?」
蘭が顔を背けた。
そんなことは答えられないし、答えたくもない。
「そうかい、答えたくないならべつにいいさ。その答えは後でその身体に
直接訊いてやるから楽しみにしてな」
鷲尾は立ち上がると周囲を見渡し、高らかに宣言した。
「さあて、そろそろお楽しみの時間といこうじゃねえか!
チャンピオン様の輪姦ショーの開幕だぜっ!」
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