その日は朝からいい天気で、みんなで甲板に出て好き勝手して過ごしていた。

俺はワイシャツの洗濯。
ナミさんは眼鏡をかけて読書。たまに、うたた寝。
眼鏡のナミさんて、いつもと雰囲気が違って可愛いよなァ。

ロビンちゃんは、新聞を読んだり、海を眺めたり。
美人は何しててもサマになるぜ。
これまた真っ白のシンプルなTシャツなんだが、スタイルがいいからすごく綺麗だ。

ルフィとウソップはセットになって、ちょっかい出したり出されたり。
どうやらウソップが何かをいじっていて、ルフィが実験台にされたり邪魔をしたり、って感じだな。

チョッパーは見張り台に上がって、カモメとしゃべってる…のか?
カモメがやたらと飛び交ってる…。
ゾロは、いつも通り。
クソ重そうなダンベルを振り回してる。
あれ、どこで買ったんだろうなぁ…ていうか売ってるのか、あんなもん。




++ サ ン ジ の 好 奇 心 ++




俺はワイシャツをごしごし洗いながら、つい見ていた。


ゾロの背中を流れる汗。
ダンベルの動きと共にくっきりと現れる腹筋。
肩の、…何て言うんだ、筋肉。
二の腕の筋肉も、いいな。
実は腹のデカイ傷痕の引き攣れ具合も、気に入ってる。

…俺って、そんなに筋肉好きだったか?
筋肉フェチ?
いやいや、筋肉がなきゃソソラレねぇってわけじゃねぇから、違うよな。

…かと言って、いくら可愛くて綺麗だと思っても、ナミさんやロビンちゃんにムラムラっとすることもねぇな…。
や、それは当然か。
同じ船に乗るもの同士、そんなことになっちゃ困るもんなぁ。

って…、ゾロとはそんなことになってるか。


俺は3枚目のワイシャツを石鹸水につけながら更に考えをめぐらせる。


ゾロ程じゃないが、ルフィも筋肉ついてるよなぁ。
腕とか…あと、腹も。
でもなぜか、ゾロみたいな筋肉とは違う気がするな。あ、ゴムゴムの実のせいで伸びたりするからだったら、ウケル…。
伸びたり膨らんだりしてる時って、ルフィの体ん中はどうなってんだろ。

…。

…あ、あんまり深く考えない方がいいな。
キモい想像図が浮かんできそうだ。


洗濯板にシャツを滑らせて泡立てながら、頭の中は手の動きとは全く関係なくそんなくだらないことを考えてる。

いい天気で、クルーがのんびり好きなことして過ごして。
こんな平和な日が好きだ。
もちろん冒険と俺の足技を好きなだけ披露できる戦いの日々も好きだが、滅多にないこんな平和な日もたまにはあってもいいだろ?


手元から目を離して、今度はルフィを見た。
日差しはそれほど強くなく、暑いと感じるほどではないのに我らがキャプテンは太陽の光を直に浴びたいらしい。
上着を脱いで、ウソップの隣に行儀悪く座ってニカニカ笑っている。
ゾロみたいに体全体がむやみにブアツイわけじゃねぇ。でも、華奢っていうんじゃないんだよなぁ。
過不足なく、いい体つきしてると思う。
うーん、俺に比べて、やっぱ上半身とか腕のが鍛えられてるのか。
ルフィは戦う時に道具を使わない。
自分の体で全て補っている。戦いの中で敵を殴る時、ひときわ目立つ腕の筋肉をふと思い出してしまった。

俺、ヒジから先の、手に続いてくあのスジ好きかも…。
何筋って言うんだろうなぁ。
あのスジはゾロもあるな。剣を振り回すから鍛えられるのか。
てことは俺にもあるか?包丁をずっと扱ってるし、左手はフライパンや鍋なんかを振り回したりしてるし。


ルフィから目を離してシャツをごしごし洗っている自分の右腕に目をやってみた。


おぉ、あるある、確かにある。そうそう、このスジ。何だか気が付いてみたら自分の腕ながら、いい筋肉してんじゃねぇか。

泡だらけの左手で、右腕のそのスジに触れてみる。

あ、このスジって、マッサージしててグリグリやると指が勝手に動くヤツじゃねぇか?

料理が忙しい時に疲れた腕を親指で揉み解してる時に気が付いて以来、このスジは不思議に思ってちょっとしたお気に入りなのだ。

右手の力を抜いてそのスジを左手でグリグリしてみた。


おっ、お?


右手の中指が洗濯板の上でぴょん、と跳ねた。

「ははっ。」

やっぱ、動く。
なんだこのスジ。

ぐりぐりぐり。

今度は中指と薬指がバラバラに動く。

「うぉーっ!」

すげー。おもしれー。

手の動きに半分感動したようになって左手と右手と交互にぐりぐりして遊んでいたら、ふと洗濯板の上で反射していた光がかげった。

「ん?」

顔を上げるとウソップが目の前にいて、周りにナミさん、ルフィ、ゾロがいる。

「な、なんだよどうした?」

焦って声をかけたら、全員大爆笑だ。

「あははは、サンジ君…!」

「さ、サンジ…!!お前バカか!!」

大笑いされた上にアホのウソップにまでバカと言われては、黙っていられねぇってのが俺の性分だ。

「てめぇ、誰に向かって言ってんだ、ウソップ!」

その大声に大げさにビクつくウソップを尻目に、更に笑い声を高くしたナミさんが、目尻に浮いた笑い涙を拭いながら泣き笑いの声で言う。

「だ、だって」

ナミさんの右手の人差し指が、俺の腕を指す。

「サンジ君、ずっと腕いじってニコニコしてたわよ…」

俺を指す指は震えている。…笑いすぎて、震えてるってことかよ?!
これまた笑いすぎて涙目になったゾロが言う。

「しまいにゃ嬉しそうに大声出してな」

また全員で大爆笑だ。
ウソップに至っては床に倒れ込んで腹を抱えて泣いている…。笑いすぎで。

「オマエラなぁ〜…、人をバカにすんのもいい加減にしろよ!」

迫力を込めて怒鳴っているつもりなのに、俺が大声を出せば出すほどコイツらは笑わずにいられないらしい。

…なんでこんなに笑われてんだ、俺。
そもそも、どうして腕のスジが気になり始めたんだっけ…?

…、あっ、

「元はと言えばてめぇが筋肉ムキムキだから悪ぃんだろうがぁー!」

大笑いしたせいで力のゆるんだゾロの腹に、俺のキックが綺麗に決まる。
とっさに逃げようとするウソップには、泡だらけの洗濯桶を蹴りつけて。
ルフィには、どうせ効かないと思いながらも洗濯板を投げつけた。
(もちろんナミさんには絶対に当らないようにだ)

とりあえず、一番近くにいてうずくまってるゾロへ向かった。

「てめぇ、マジで蹴りやがったな!」

真っ赤な顔で腹を押さえて唸るゾロに、俺は怒鳴り返す。

「てめぇがこれ見よがしにダンベル振り回したりしてるからだろォ?!クソマリモが!」

「はぁ?!俺のダンベルとてめぇのヘンな行動は関係ねぇだろ!」

「大有りだ!てめぇの筋肉見てて気が散るんだよ!!」

「じゃあ見なきゃいいだろ!」

「見ちまうから気が散るんだろ!」

「じゃあこそこそ見てないで見せてくれって言えばいいじゃねぇか!!」

「…!!わざと見せてたのか?!」

「お前が『筋肉好き』とか言うからだろ!!」

「へ?!俺はそんなこと言ってねぇ!…よな?」

「…言ったんだよ。」

「…いつ?」

「…。」


***


「なぁナミ、サンジとゾロは昼間何をケンカしてたんだ?おれ見張り台にいてあとの方はよく聞こえなかったんだ。」

「チョッパーが気にするようなことでじゃないわ。」

にっこり笑ってナミさんはチョッパーにそう言った。
その笑顔に何かおそろしい迫力が込められてるのを感じているのは、俺だけじゃないだろう。

恥さらしな言い合いをしたと気が付いた時には後の祭りで、ナミさんに甲板の隅に連れて行かれてタップリ絞られた。

幸いなことにウソップは洗濯桶の直撃を食らってご就寝、ルフィには全く通じてないらしかったので助かったが。


助かったけど。


俺は、金輪際、ぜっっったいに、ゾロと筋肉の話はしねぇ!!




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