| * sss置き場 ブログに書いていたものの再録です。 殆どがマルチェロ×ククールです。下に行くほど古いものになります。 |
| 2007/12/21「パンドラボックス」 小さな膨らみを大切そうに両手で包む女性に少年は語りかけた。 ”その中には何が入っているの?” 女性は温かく慈愛に満ちた微笑をたたえ、少年に答える。 ”この中には宝物が入っているのよ” 少年は宝箱の中身を楽しみに待っていた。 1日1日を指折り数え……その日が来るのを心を躍らせながら待っていた。 そして、時は来た。 中から出てきたのは―――”モンスター”だった。 「このような早朝にお呼び出しとは……一体いかなる理由からでございますか? お身体に障りましょう。早々に館の方にお戻りを」 法皇テオデバルトの前に立つマルチェロは、憮然と言い放った。 傅きながらも、あからさまに滲み出るのは反発と憎悪。そして殺意。 ―――嗚呼、時が来たのだ―――と、老人は心の中で呟く。 運命に抗わず死んでいった親友を思い出し、テオデバルトは瞑目した。 おそらく同じようにして自分は親友の元に逝くだろう。 すでに覚悟は出来ていた。意を決して、言葉を放つ。 「マルチェロ、煉獄島に送ったニノと未来ある若者4人を至急解放するのだ」 静かだが、威圧感のある声音。 しかし、それを受け止めたマルチェロは眉ひとつ動かすことはなかった。聡明な彼にとって、テオデバルトの一言は予想済みであったに相違ない。 そして、マルチェロもまたテオデバルトと同じように”覚悟が出来ている”のだ。 「申し訳ありませんが、それは聞くことはできません」 マルチェロのはっきりとした物言いと対照的に、覇気をなくした老人の声が続く。 「どうしても、か」 「……どうしてもです」 言いながら、マルチェロは右手でテオデバルトに小剣を向ける。 そう―――時が来たのだ。 ”私は 神にすべてを捧げた身。神の御心ならば 私はいつでも死のう” 銀色に光る短剣が、テオデバルトの身を貫いた。 スローモーションのように、法皇の小さな身体が地に倒れこんでゆく。 視界が霞み、闇に染まる。 その前に、テオデバルトは確かに金色の光をみた。 それは、宝玉のような美しい輝き。 法皇は思い出す。伝え聞いた、親友の遺言となってしまった台詞を。そして悟る。 ”罪深き子よ。それが神の御心に反するならば、お前が何をしようと私は死なぬ” すっかり力をなくした法皇の身体をマルチェロは抱き上げ、数歩あゆみを進めた。 「ごきげんよう。法皇様」 言って、朝陽に身を翳すように法皇を高々と持ち上げる。 ―――哀れな法皇……どうか安らかに眠りたまえ。 祈りの言葉を淡々と呟き、崖の下に亡骸を葬ろうとした。その時。 「……マルチェロ」 テオデバルトのかすれた声が聞こえると、マルチェロは「まだ息があったのか」と些か驚いた様子だった。 しかし、問いかけにはおとなしく耳を傾ける。 最期にひとこと、法皇は呟いた。 「”彼ら”は死なんよ」 マルチェロの手の中にあるのは、目が眩むほどの銀色の光。 「……存じております」 ”神のご加護が必ずや……あの者たちを、悪しき業より守るであろう” 微かに笑って、マルチェロは答える。 大きく広げられた両手は、もう何も持っていなかった。 しかし、それは彼が望むものを掴んだ瞬間。 ……そのはずだった。 一ヵ月後、マルチェロは聖地ゴルドの壇上に立つ。 新法皇即位の式典に招かれた群衆が、ただ一点を見つめている。 宝箱の中身が何なのか、期待と不安に胸を躍らせて。 愚かなことを、とマルチェロは思う。 宝箱の中に入っているのは、いつも絶望と落胆。 期待が大きければ大きいほど『こんなものか』と溜め息をつくものなのに。 ごく稀に宝をみつけることもあるだろうが、人間というものは何かを手に入れれば更に上を目指すもの。 そして知るのだ。自分以上の宝など、得ることはできないのだということに。 マルチェロは全てを手に入れた。 全てを手に入れたはずだった。 しかし、彼こそが現在は忌々しき”モンスター”なのだろう。 ―――それは数十年前のこと。 美しい銀髪の”モンスター”が、ひとりの少年の人生を狂わせ怪物にした。 だが、その”モンスター”こそが彼にとってかけがえのない宝のひとつであること。 マルチェロはまだ、それに気付くことができなかった。 眼前に立つのは、あの日の怪物。 歪んだ笑みを浮かべて、それに剣を向ける。 page top↑ |
| 2007/11/05「曇り空と昔の風景」 毎日違う風景を見るのも慣れた。 当てもないひとり旅。何か目的があるのかと問われれば、ある日は首を縦に振り、またある日は首を横に振った。 今朝は遠出する気で支度を整えた。 何故なら、空が澄み切った青い色をしていたから。風が穏やかに頬を撫でていったから。 ―――それなのに、なんでだよ。 空を見上げてククールはひとりごちる。 昼を過ぎて、青い空はねずみ色の厚い雲に覆われてしまった。整えた前髪を、風が遠慮なく乱していく。 こういう天気は好きではない、とククールは思った。 期待させるだけさせておいて、どん底まで突き落とされる気分だ。 大好きなあの子に優しくされて舞い上がって調子に乗って、あっさりふられた時のような……そんな惨めな気分になってくる。 今日はもう街に引き返そう。 あんなに清清しい気分で出た街を、こんな重い足で戻ることになるとは思わなかった。 ―――え?旅の目的。そんなものないね。 もしも今問われたら、きっとこう返す。 「なーんて、そんなこともあったよなぁ……」 洗濯ものを取り込みながら、ククールは呟いた。 一度家に戻って洗濯物を置いて、もう一度。普段よりも多めに干されていた衣服はまだ生乾きで、ククールに深い溜め息をつかせた。 朝は雲ひとつない良い天気だったのに。今は太陽の気配すら感じさせないほど暗く澱んだ空の色。 「ククール、お前はそれをどうするつもりかね?」 呆れたような声が後方からあがる。 振り返って、ククールは笑った。 「きっと明日は晴れるって! 大丈夫大丈夫!」 軽く言った弟に、兄は厳しい顔を向ける。 「お前は、大層ご丁寧に自分のシーツまで洗っていただろう。今夜はどうするつもりだ」 どうするつもりだ、なんて聞きながら、本当は分かっているのだろう。 マルチェロの不敵な笑みが全てを物語っている。 「夜まで待ってもいいけれど、せっかく辺りも暗くなってきたことだし……今日は早めに兄貴といちゃいちゃしたいんだけど。―――というわけで……兄貴のベッド貸して?」 可愛らしくお願いのポーズを作ってみれば、兄は盛大に溜め息をついた。 それでも否定の言葉を漏らしはしない。 「早く家に入りなさい。あと5分後には雨が降る」 相変わらず物知りな兄。 そんな彼と一緒に暮らし始めたはずのククールだが、なぜかいまだに失敗を繰り返している。 それでも、「教えてくれればいいのに」とは言わない。絶対。 page top↑ |
| 2007/10/21「積もるもの」 身体を合わせて、快楽の果てをみる。 事を終えた後に遠慮なく体重をかけてくる、その、兄の重みが好きだった。 「なあ、兄貴」 「……なんだ」 荒い息を整えつつククールが問いかければ、兄の不機嫌そうな声が返ってくる。普段ならば、余韻に浸っている(かどうかは定かでないが)兄を邪魔するような無粋な真似はしないのだが、今夜は些か不満に思うところがあったのだ。 「兄貴さ、少し太った?」 外見では全く気付かなかったのに。こんなことで気付いてしまう弟は如何なものか。 そうマルチェロは呆れたが、先の質問には肯定せざるをえない。確かにマルチェロは少しだけ体重が増加していたのだ。 「2週間前に量ったときは変わってなかっただろ? 一体どうしたんだよ」 食生活に問題があったとは思えない。運動不足かといえばそうでもないはずだった。 自分に厳しいマルチェロは健康管理にも余念がなかったので、ククールが疑問に思ったのも当然のことかもしれない。 「何か思い当たることはないわけ? あんたもトシなんだからさ、理由もなく太り出すっていうのはよくないと思うぜ?」 ククールがズケズケと物を言ってくる。全くもって口さがない。 が、重い重いと文句を言いつつもマルチェロを引き剥がそうとしないのだから、この弟は可愛いものだ。 「思い当たる節がないとは言えん」 答えるマルチェロの口元が綻んでいるのを、ククールは勿論気付いていない。 「一体なんだよ」 不満そうな、心配そうな声が返ってきたので、マルチェロは肘をついて少しだけククールの身体を解放した。 温もりを逃して、大気に触れた肌が寒さを訴えてくる。 先程は不満ばかり漏らしていた弟だったが、実際離れてみれば、その表情は少し寂しそうにも見えた。 その耳元に、マルチェロは囁く。 「そんなの理由になるかよ…」 否定はしてみたものの、ククールは照れくさそうに顔を背けて唇を尖らせている。 「ずるいよな、兄貴は。そんなこと言われたら、オレ……何も言えなくなるじゃないか」 恨み言を放つ弟の頬に、マルチェロは唇を寄せた。 自分の”重み”を、しっかりと感じていれば良いと思いながら。 『ここ2週間ほど、お前が愛しくて愛しくて仕方がなかったから、そのせいかもしれない』 page top↑ |
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