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 H*Pスキーさんに20のお題(ヒュンポプ同盟さまより)
  #016 「必殺技」
  #017 「輝聖石」
  #018 「邪魔者!」
  #019 「2人の秘密」
  #020 「告白」

 

 

 ***「必殺技」







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 ***「輝聖石」







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 ***「邪魔者!」







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 ***「2人の秘密」



 それは、ちょっとした悪ふざけ。
 そのはずだったのに。



 覚えたての変身呪文”モシャス”が使いたくてちょっとした悪ふざけをした。
 いかにも怪しそうな老婆に変身して、街の路地の片隅に椅子をおく。そこでじっと街の様子を眺めているだけ。
 行き交う人々は全く気にもとめなかったり、時に不審そうな顔をしたりと様々でそれがまた面白い。いまこの場所に座っているのがポップだとは夢にも思わないのだ。

 幸せそうに笑う恋人と思しき男女。
 疲れた顔で家路につく中年の男。
 いそいそと買い物を済ませる若い女。

 それらを視界に流していたポップは、ふと見覚えのある人物が歩いてくることに気付いた。
 背の高い、銀髪の男。彼と擦れ違う女たちがその姿を控えめに盗み見て、通り過ぎた後に振り返って甘い息を漏らす。当の本人はそんなことなど無関心という風で、それがまた「良い男ぶり」に拍車をかけているように思えた。

 同じ男としてあまりにも腹が立つ状況に、ポップの悪戯心がむくむくとわきあがる。
 あの兄弟子をちょっとからかってやりたくなったのだ。

「もし…そこのかた」
 しゃがれた声で老婆……まあ正体はポップであるのだが……が呼び止めると、ヒュンケルは視線をこちらに向けてぴたりと立ち止まった。
「なにか?」
 怪訝そうな色はあるものの、その表情には不快を感じている様子はない。まあそれは兄弟子ヒュンケルと付き合いの長いポップだからこそ分かることで、他人からすればただの仏頂面としか取れないだろうが。

「今は何時ごろになりますかの? 今ではすっかり目が衰えましてな」
 老婆がそう問いかけると、ヒュンケルはちらりと後方にあった高い時計塔を眺めて時間を伝えた。
「暖かくなってきたとはいえ、まだ夕方は冷える。身体に障るからそろそろ家に戻られた方がいい」
 続けられた言葉はぶっきらぼうではあったものの、老人を労わる響きを持ったもので。ポップは不器用な男の何気ない優しさに顔を綻ばせた。

「ご親切にありがとう。ところで、おぬしは何か困りごとがあるようじゃが?」
 ポップの台詞はヒュンケルのことを驚かせるに充分だったらしい。彼は一瞬ぽかんとして、それから困ったような顔を見せた。
「そう驚くことはない。わたしは昔占いのようなことをしておったのものでな」
 言うまでもないが、ポップに占いなどできるはずがない。
 では何故そんな言葉をかけたのかというと、ここのところのヒュンケルが、どこか上の空であることを知っていたからだ。誰が尋ねてもこの秘密主義な男が答えるはずもなく……それならばとちょっと好奇心から問いかけてみただけだ。

「亀の甲より年の功。何か助言ができるかもしれん。時間を教えてくれた礼じゃ、言ってみるといい」
 老婆の言葉にヒュンケルは心底困り果ててしまったらしい。見ず知らずの人間に悩みを打ち明けることなど、普通の人間なら躊躇いを見せて当然だろう。
 だからポップもあまり期待はしていなかった。―――していなかった、のだが。

「大切なひとを怒らせてしまったらしい……のだが。どうしたら良いだろうか」

 普段は無表情でクールを気取っている男の、馬鹿正直というか良く言えば素直というか……意外な行動にポップは後ろにひっくり返るほど驚いた。が、それを寸でのところで留めて何とか言葉を返す。
「ひとこと謝れば良いことじゃと思うが?」
「一応謝ったんだが」
「許してはくれなかったのか」
「ああ、避けられている」
 当時の状況を思い出したのか、ヒュンケルの表情が暗いものとなる。
 最初は驚くだけのポップだったが、ヒュンケルにここまでの顔をさせる人間が誰なのか興味がでてきた。さきほど目の前の男は”大切なひと”という言葉を使った。ということは彼に近しい人間であることに相違ないだろう。
 人付き合いの得意でない兄弟子だ。少し突けば(老婆ならともかくポップには)誰のことかすぐに分かるに違いない。

「どうも頑固な人間らしいの」
 まずは軽くかまをかけてみる。
「頑固というか……心内がまったく読めないというか」
 それはお前の専売特許だろう! そうポップは突っ込みたかったがやめておいた。
「ならば聞いてみればいい。なにか理由があるはずじゃ」
 元来無口で言葉が得意でないこの男には酷とも言えることを助言してみる。
「おそらく何も答えない」
「聞いてみたのか?」
「聞いてはいないが……大体分かる」
 最初から諦めてしまっているヒュンケルが、ポップには腹立たしい。
 そうだ、こいつは昔からこうだった。他人に対しては自分を犠牲にすることまで考えるのに、自分に関わることは最初から諦めていて何も望まない。
 そんな姿を見るたびに苛々したり悔しくなったり哀しくなったりしている弟弟子の気持ちも知らないで。

「お前の口は何のための口だ! 口に出して言わなくちゃ何も伝わらないだろうが」
 感情のままに言葉をぶつけたあまり、口調が”普段の自分自身”のものに戻ってしまっていたことに気付いたポップ。あわわ、と言わんばかりに焦ったが、ヒュンケルは気付かなかったらしい。厳しい顔をして俯いている。

「オレが口を開くと、なぜか……を怒らせてしまうんだ」

 呟いた台詞に答えようと口を開きかけたが、ヒュンケルが空を見上げてマントを外す姿に一瞬見蕩れてしまった。いままで身にまとっていたものを手渡されて、ポップはやはり何もいえなくなってしまう。
「だいぶ陽が暮れてしまった。これを使ってくれ」
 老婆が素直にそれを受け取るのを確認すると、ヒュンケルは城の方向に歩き出していく。
 ポップは呆然とそれを見送ることしかできなかった。




 最後に呟いたヒュンケルの言葉。
 小さな声だったが、確かに聞こえた。

『オレが口を開くと、なぜかポップを怒らせてしまうんだ』


「え……? ええええっ??」
 訳が分からなくなって、ポップは混乱する。
 ヒュンケルがおれを怒らせた? おれがヒュンケルを避けてる?
 自慢じゃないが、そんなつもりなど毛頭ない。

 そういえば、とポップは4日前のことを思い出す。
 あれは昼食をとりにどこかの店に入っていた時だった。その時偶然ヒュンケルに会って。
 確か……ヒュンケルはポップを見た瞬間眉をひそめて嫌味を言ってきた。

『なんだその顔は』

 美形の類に入るヒュンケルに顔のことを言われると腹が立つ。
 どうせおれ様はてめえみてーに整った顔立ちなんてしてねーよ!とばかりに言い返した。

『おれがどんな面してようと、おめえには関係ねーだろうよ』
『鏡を見ているのか? それに、ちゃんと食事はとっているのか?』

 ここがどこだと思ってるんだよ。いま正にその”食事”をしようとしていたところなんですがね?
 つーか、今度は体格自慢かよ!
 どうせおれはお前みたいに男らしい体格なんてしてねえよ!ヒョロヒョロの軟弱魔法使いだよ!と、情けなくなってぶち切れて
『おめーのいけすかねえ面見てたら食欲も失せるぜ』
 頼んだ食事が出てくるのも待たずに席を立ってしまったのだ。

『ヒュンケルが”ポップに悪いことをした”って』
 あとから店に頼んで作ってもらったらしい弁当をダイ経由で渡されて……そうだよおれはあいつのせいで昼食抜きになったんだからな!と恨み言を言いつつそれはありがたく頂戴したわけだが。

 そういえば……あれからヒュンケルと一度も顔を合わせていないし、会話すらしていない。
 別に避けていたつもりはなく、全く偶然のことではあったのだが、ヒュンケルは気に病んでいたというのだろうか。
 あの、ヒュンケルが?
 自分の顔を見るたびに嫌味しか言わないような、あの男が?

「ま、まさかぁ…!」

 こう言ってはなんだが、ヒュンケルは自分に対してだけ厳しい。
 他人には軽くでも微笑んでみせたりするくせに、ポップにはそんな顔を見せたことがない。
 優しい言葉なんてかけてもらったことがない。(一度あることはあるが、そんなことされるくらいならぶん殴られたほうがマシのような最悪な状況だったので喜べなかった)
 ダイやマァムのことは勿論(時には敵でさえ)褒めたりするくせに、ポップがメドローアをハドラー親衛隊にぶっぱなした時ですら感嘆の息ひとつ漏らさなかった。
 そんな彼が。

 ”大切なひと”

 こんな言葉で自分を形容するなど、信じられるはずがない。

 ポップは城まで転がって帰りたいくらいに動揺していた。
 熱を持つ頬と、高鳴る動悸を隠すため無駄に運動したい気分だった。





「思えばあれが、あいつへの気持ちをはっきり確認しちまうきっかけだったんだよなぁ」
 思い出して、息をつく。
 あれから凡そ1年の時が流れていて、現在、何の間違いか自分とヒュンケルはめでたく恋人同士というやつになっていた。

 ひとり想いを巡らせていると、風呂から上がってきたヒュンケルがゴソゴソと衣類を漁っている。
 ポップのクローゼットの中になぜヒュンケルの服があるのか、その辺のところは深く突っ込まないで欲しい。
「おい、ポップ」
 後方のヒュンケルからの呼びかけに、ポップは頬杖をついて剣呑に答える。
「普段着は右下の箪笥。寝巻きならその隣」
「いや、違う」
「靴下ならその下」
「いや、だから……」
 要領を得ないヒュンケルの答えに焦れたポップは、不承不承振り返る。
 ヒュンケルはタオルを軽く腰に巻いた状態で、何かを手にとっていた。その正体を確認して、ポップは少しぎくりとする。
「箪笥を漁っていたら、オレのマントを見つけたんだが」
「衣類やら寝巻きやら果ては下着までおれの部屋にある状況で、お前のマントひとつあってもおかしくねーんじゃねえの?」
 平静を保って言い放つが、ポップは内心ドギマギしていた。
 ヒュンケルが手にしているマント……それは、あの日”ヒュンケルが老婆に渡したもの”であったのだから。
 さっさと処分しておくんだったと後悔してみても後の祭り。ここはひとつ上手いこと持ち前の屁理屈で乗り越えるしかない。
「しかし、おかしいな……」
 ヒュンケルはやはり納得できないようで、マントを見つめ首を捻っている。
 何かを思い出された挙句色々と詮索されるとなると、ポップとしては非常に芳しくない状況になるのだ。
 そんなわけで、ポップはちょっと乱暴な手段に出ることにした。ある面では諸刃の剣だが致し方ない。

 マントをヒュンケルの手から奪い取り、自分の身体に巻きつける。
 そして、上目遣いでひとこと。

「このマントとその中身、どっちがいいんだよ?」

 ヒュンケルの答えなど最初から分かりきっていることで。
 今まで何かを思案していた男の表情は、それまでとは全く別のいやらしい顔に変化していた。
 意識を向けていたマントを早々に剥がしてぞんざいに床に放り投げる。それとは対照的に、優しくゆっくりとポップを寝台に転がした。
 ヒュンケルとは既に一戦交えていたのだが、もう二三戦覚悟した方がいいだろう。
 明日のことを考えて頭が痛くなってきたが、あれはどうしても話せない自分だけの秘密。何があっても絶対に教えてなどやるものかとヒュンケルの甘い吐息に浸りながらポップは思った。



 そして、ポップを組み敷きながらヒュンケルは思う。
 棚から牡丹餅とはこのことだろうか。

 実は、ヒュンケルは”あの老婆がポップであった”ことを知っていた。
 その時は気付かなかったのだが、後でレオナに
『ポップ君が変身呪文を覚えたのよ。かなり舞い上がってて、鳥になったり蛙になったり大忙しなの。しばらく悪さするかもしれないからヒュンケルも気をつけてね』
 そう言われてハッとした。
 かなり恥ずかしいことをしてしまったと自己嫌悪に陥っていたのだが、それ以上にポップの態度に驚かされ……羞恥心すら吹っ飛んだ。

 あの、自分の顔を見るたびに嫌味や憎まれ口しか叩かなかった少年が、戸惑いながらも普通の態度で自分に接してくれるようになったのだ。

 『なんか、今日は雨が降りそうじゃねえ?』
 それまでは天気が悪いのもヒュンケルのせいだとばかりに、わざとらしく嫌な顔を作っていたくせに。

 『すげー良い天気! こんな日はどっかに遊びにいきてえよな』
 それまではそんな台詞を自分に言う前に、ダイを誘ってどこかに行ってしまったくせに。


 『なんか、今日は雨が降りそうじゃねえ?』
 『今日はちょうどオレが外回りの警備担当なのだがな…』
 『うわ、お疲れさん! 本当にお前って運がねえのな。ラナ系の呪文で何とかしてやるか?』

 『すげー良い天気! こんな日はどっかに遊びにいきてえよな』
 『……ダイも誘ってどこかに行くか?』
 『え!? ヒュンケルがサボり!? 不真面目なおれやダイならともかく、馬鹿正直なお前がサボり!?』

 そんなこんなで親交を深め、酒の勢いに任せて押し倒して現在に至る。

 懐かしいマントを見つけて……あの日のことを思い出した。
 思えば、あれがポップと自分を近付けてくれるきっかけになったのだ。
 マントを大切にしまっておいてくれたことに感動しつつも、それをネタに少しからかってやろうかと思っていた。
 しかし、目の前に可愛らしくご馳走を出されてしまってはそんな気分も吹っ飛ぶというもの。

 どうせなら、老婆の正体など気付かないままの自分で。
 ポップにはずっと秘密にしておこうと考えなおす。



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口下手ヒュンケルと意地っ張りポップにも萌えます

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 ***「告白」









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