…とか言う事になってるんじゃねぇか!? 此処まで想像した所で望月はソファーから立ち上がってウロウロと落ち着き無く部屋を歩き回った。このまま行くと、彼の妄想世界の早坂は子猫の為に身体を自分以外の男に捧げただけでなく、これからも自分がいない隙を見計らって部屋に誘い込まれて………
「そ、そんな事させるかぁっ!! ……良ちゃん!」
お得意の妄想世界での話である事も忘れて派手に声を荒げ、深呼吸一つする事も無くドタバタと玄関に向かってスニーカーを突っ掛け、大切な人を救う為に扉を開け……
バンッ。扉に手を伸ばしたまさにその時に目の前の扉に突如攻撃された望月は、鼻を強かに打ってその場に蹲った。
「痛ってぇ〜……」
「あっ、しゅ、駿君! ゴメン、大丈夫!?」
「!!?」
頭上から聞こえる声に鼻の痛みも忘れて眩暈を起こしそうな勢いで顔を上げると、其処にいるのは黒い子猫を抱えて自分を心配そうに見下ろしている大切な人。大丈夫? 彼は改めてそう言い、自分と同じようにしゃがみ込んで鼻先を撫でて来た。
「だ、大丈夫って…それはこっちの台詞だ! 大丈夫か? 良ちゃん!」
「はぁ?」
彼は鼻ではなく頭を打ったのだろうか。余りにも突拍子も無い言葉に怪訝な表情で首を傾げる早坂の反応すら無視して望月は早口で続けた。
「その子猫飼う為に色々やらされたんだろ!? 此処の大家って若い男で、良ちゃんの身体を滅茶苦茶して……」
「?? …何言ってるの? また夢でも見た?」
本当に頭をやられているのでは…と撫でる手を鼻先から頭に移動させて来た早坂は、安心させるかのように何時もの笑顔を見せた。
「駿君、知らなかったっけ? 此処の大家さんはおばあさんだよ?」
「え? で、でも、この前、大家の部屋から若い男が…」
「その人は多分、大家さんのお孫さんじゃないかな? よく、おばあさんの所に遊びに来るらしいよ」
「…………」
全ては自分の妄想が暴走しただけであった事を漸く思い出した望月の顔は大火事になり、瞳はキョトキョトと落ち着き無く泳ぎだす。その様子を見た早坂は密かに安堵の溜息を吐き、そのままクスクスと笑い出した。
「もしかして、また一人で暴走していましたか?」
「うっ、うるせぇな! だって…良ちゃん、遅かったから……」
図星をさされて声を荒げつつも少しずつ声をトーンダウンさせる望月に早坂は軽く謝罪の言葉を口にし、腕の中の子猫を軽く抱え上げた。
「ちょっと大家さんと話し込んでたんだ。このアパート、ペット飼育可能で許可もちゃんと貰ったんだけど、その時に猫の話してて。大家さんの家にも可愛い猫がいてね、この子も一緒に遊ばせたりして……。ゴメン、怒ってる?」
「にゃあ」
最初の内は猫の話に目を輝かせていたが、望月の不満そうな顔を見た瞬間に申し訳なさそうに俯き、上目使いで恐る恐る尋ねる。その後に続く子猫の声が早坂を庇っているように感じた望月は妙なおかしさがこみ上げ、一気に顔を緩めた。
「怒ってねぇよ。ちょっと心配したけどな」
「ゴメン。今度からは、ちゃんと連絡するから」
「あ、あぁ、うん。別に良いよ。良ちゃんが無事なら」
「ふふっ、今回はどう言う心配してたんだろうなぁ?」
「……………」
まさか、子猫飼う為にレイプされたんじゃないかと心配してた…とは言えないよなぁ。自分の相変わらず愚かと言うか欲望に忠実な暴走妄想に苦笑する望月を早坂はニコニコと見詰めていたが、そうだと何かを思い出したかのように子猫の顔を見詰めた。
「名前付けないといけないよね。どうしようかな」
子猫と向かい合うように抱きながら廊下を進む早坂の後を少し不機嫌そうな顔の望月が続く。何だか、子猫にばかり視線が行っている気がして面白くないのだ。
「うーん、どんなのが良いのかなぁ…可愛い名前が良いよねー」
ソファーに座って子猫の身体を高く上げたり、瞳を覗き込んだりする早坂の背中を見ながら望月は台所の戸棚を物色して見付けた菓子のパッケージを開けた。
「黒い猫だからクロで良いんじゃねぇの?」
「クロかぁ……それでも良いんだけど、もうちょっと……ねぇ?」
「ハイハイ。俺の案はボツですか、そうですか」
「? 駿君、何か怒ってない?」
ぶっきらぼうな態度で話しながら菓子をボリボリと噛み砕く望月の方を振り返った早坂は、望月の手を見るなり瞳を輝かせた。
「そうだ、アポロにしよ!」
「アポロ? …またチョコレートの名前じゃん。チロルにアポロ…」
早坂の視線の先にある自分の手の中のチョコレート菓子のパッケージに書かれた三文字に目をやって呆れの混じった笑顔を浮かべるが、早坂はお構いなしと言わんばかりに子猫を高い高いした。
「良いじゃないか、可愛いんだから! 今から君はアポロだよ。よろしくね」
嬉しそうに高い高いをし、思い切り抱き締め、頬擦りまでして、アポロと名付けられた子猫との時を堪能している早坂だったが、ふと望月の方に視線をやると嬉しそうな笑顔を一層深くした。その笑顔に、漸く相手に存在を思い出して貰ったような感じを受けてヘラリと笑う望月に子猫が突き出される。
「駿君、アポロ抱っこしてて。写メールして羽鳥さんに送るから」
「………。何で羽鳥?」
「羽鳥さんも猫好きだから」
「…………」
何か知らない間に小さな世界が出来ていて、自分だけ其処から外されているような……。子猫を抱く望月の虚ろな表情にも気付いていないのか早坂は頬を上気させながら、何度も携帯電話の撮影ボタンを押してシャッター音を部屋に響かせる。何かしらメッセージを添えてメールを送ったのであろう早坂は幸せそうに携帯電話を閉じた。
「俺の顔も写してた?」
「? うぅん、アポロだけ写して送ったけど?」
「…………」
「みゅう…」
「あ、お腹空いたよね。今、ミルク作るから」
良ちゃんが猫好きなのは分かってるし、可愛い盛りの子猫にのぼせるのも分かるけど、もう少し俺の事も気にしてくれたって良いと思いません? 猫の鳴き声に立ち上がって台所へと消えた早坂の背中に心中で語りかけ、そのまま深い溜息を吐く。よし、こうなったら……
「美味しい? 一応、子猫用のミルクを大家さんに分けて貰ったんだけど……」
ピチピチと皿に注がれたミルクを幾度も舌を出して飲み続ける子猫の近くにしゃがみ込んで、目を細める早坂の背中にズシリとこれまた重たい“猫”が圧し掛かって来た。
「良ちゃん、俺もミルク〜」
「駿君、重たい。冷蔵庫に牛乳入ってるから飲みなよ」
「牛乳じゃなくて、良ちゃんのおっぱい…」
「ハイハイ、吸ったって何も出ませんから! もう、重たいってば!!」
背後から早坂のシャツの裾に手を滑り込ませて胸元を物色しようとするが、何時ものように恥ずかしがる事も反応する事も無く、それどころか鬱陶しそうに自分を振り落とそうとして来る。黒い子猫に完全敗北した茶色がかった毛の巨大な猫はすごすごと退散した。
「はぁ〜あ」
髪をバスタオルでガシガシと拭きながら冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップ1杯のそれを一気飲みした望月は大きく溜め息を吐いた。結局、あの後も良ちゃんってばアポロアポロ。ティッシュを丸めて作った即席の玩具を軽く投げたり、ビニール紐で狩りごっこをしたりと小さな子猫の遊び相手をしている内に夜も更けて、サッサと寝床に行ってしまった。早坂を骨抜きにしてしまったアポロはと言えば、毛布を敷き詰めた大き目の篭と言うVIP(猫だからVICか)待遇を受けて、スヤスヤと高級ベッドの中で身体を丸めて眠っている。
勿論、可愛いよ。可愛いけどさぁ…。眠る子猫をつつきながら、下唇を軽く突き出す。俺の良ちゃんを横取りしないで欲しいよな。子猫に嫉妬するなんてカッコ悪いかも知れないけど、新参者のお前にアッサリと大切な人を奪われるって結構辛いんだぜ?
昨日までアイツは駿君、駿君だったのに。お前がその可愛らしさで良ちゃんを独り占めしようって言うなら、俺にだって考えはある。俺にしか出来ない良ちゃんを独り占めにする方法――。
「良ちゃん♪」
早坂の部屋のドアを開き、妙に軽いステップで部屋に入り込むと布団を羽織って本を読んでいた早坂は微笑を見せて本を閉じた。
「どうしたの?何だかご機嫌みたいだね」
布団を持ち上げて自分を迎え入れる早坂に例の子猫の如くじゃれ付き、執拗に身体を抱き締めて来る。何時も以上にベタ付いて来る相手にきょとんとする早坂の口元に望月の唇が触れた。
「駿君?」
「良ちゃん、俺さ…」
笑顔を突然真顔に変えて静かに口を開くと、早坂の表情も自然と真剣になって行く。早坂の瞳の中に真剣な様子の自分が映るのが見えた。
「良ちゃんが好きだ。この想いは誰にも負けたくないし、良ちゃんを誰かに取られるのも嫌だ」
「…え? な、何? 急に…」
突然の口説きに微かに赤くなる頬をゆっくりと両手で包み込む。子猫に出来なくて自分には出来る事。それは彼に想いを伝える事。そして
「誰にも取られたくない…俺だけ見てて欲しい」
互いに交わる事。口付けをし、手をゆっくりと早坂の胸元に近づけて寝巻きのボタンを外す。隙間から手を差し入れて左胸に乗せると少しリズムが速くなって来ている早坂の鼓動を感じた。
「しゅ、駿く……」
「良いだろ?」
不安なんだ。あの子に良ちゃんを取られそうで。その言葉は何とか飲み込んで早坂の肩を抱き、手を少しずつ下方にずらして行く。へその辺りを通り、両足の間に近付き、早坂の口から艶めいた溜め息が漏れようとした瞬間。
「みー! みぃーっ!」
「――――!!」
早坂がハッと我に帰ったかのように身体を起こし、その反応に望月の手が強張って止まる。
「アポロが鳴いてる!」
「………」
寝巻きのボタンを留めながら部屋を飛び出した早坂に取り残された望月の手が空しく虚空を掴んだ。
早坂が子猫を抱えて部屋に戻ったのは、それから数分後の事だった。
「よしよし、寂しかったんだね。ゴメン、一人にさせて…。今日は一緒に寝てあげるから…」
「えっ。一緒に寝るって、良ちゃん、あの……」
「ゴメン、駿君。続きはまた今度にしよう?」
腕の中で悠長に喉を鳴らし始めた子猫を撫でながら早坂は困ったように微笑んで布団に入る。予想外の展開に呆然とする望月に早坂は再度微笑みかけて横になった。
「ほら、駿君ももう寝ようよ。…アポロ潰さないでね、お休み……」
「…………」
早々と布団を被って目を瞑った早坂を恨めしそうに見ながら、望月もわざと乱暴に布団に入り込み、フンッと不満そうに鼻を鳴らして背中を向けた。あーもう、子供が生まれた直後の父親とかもこんな感じなんだろうな。…何だよ。新参者のクセして。良ちゃんと話す事もHする事も出来ないクセに。子猫に妬みをぶつけ、その直後に自分の心の狭さに自分で腹を立てた望月は、結局殆ど眠れないままその日の夜を過ごしたのだった。
<To Be Continued......?>
<後書き…と言うか言い訳>
こんなオチでゴメンなさい。
早坂のレイプシーンは全て望月の妄想でしたチャンチャン♪……ふざけんなぁぁっ!!!と怒られそうでビクビクです。
何とまぁお約束な話…というか危険な頭の望月。
いや、だってラブラブ同棲シリーズなのに早坂がレイプされて云々と言うのは、ちょっと…ねぇ?(何だよ)
Hありマークを見て「まぁ!久し振りの望月と早坂の和姦なのねドキドキ☆」と言う気持ちで読んだと言う方がいらっしゃいましたら、
この場でお詫び致します。裏切って本当にすみません…(土下座)
一応、終盤でヤりそうになったけど寸止めで終わっちゃったし。
望月と早坂のHシーンがある話は、もう暫く先になりそうです。何となく。
今回、書いてて楽しかったのは「猫が大好きな早坂」でした。猫大好きと言うより猫馬鹿なのですけど。
…ウチの受けキャラ猫好き多いな…。ハンニバルに早坂に暮羽にオリキャラだけど羽鳥…。
あと、小説は書いてはいないけど、フロミのサカタも猫好きだし。
別にどうでも良い話なのですが。
逆に苦しんだのは、意外かもしれませんがレイプシーンだったりします。
Hは書き慣れてるからサクサク進むだろヘイヘイと思ってたんですが、どうもテンポ良く進まないし上手い表現も出て来ない。
マンネリ化の所為か、最近Hシーンとか書かなかったから忘れかけてるのか…。
何かイマイチなHシーンになってしまいました。反省。
あ。今回、望月との仲を妨害すると言う憎まれ役(?)だった子猫のアポロちゃんですが、
次回からは仲を妨害する事はしないのでご心配なく。
望月がバイト中に一人で寂しがる早坂を慰める癒しの存在となってくれるでしょう。
…例によって早坂のヘタレ具合がエスカレートして来ているような…。
そろそろヘタレ度アップをストップさせたい気もするのですが、どうなる事やら。
ここまでお付き合い頂き有難う御座いました!
次回作が何時になるかは分かりませんが、また頑張って書けたらなーと思います。