雲一つ無い晴天が広がる日曜日。家族連れを始めとする多くの客で賑わうデパートの食器売り場では二人の少年がウロウロと何かを探していた。
「……あー…アレと同じ奴ってのはねぇのかなぁ…。さっきの陶器売り場にも無かったし…」
「…………そうだね」
数日前、自分が割ってしまった早坂の大切なマグカップと同じ物が見付からない事による焦燥に駆られながら売り場に並べられたマグカップを改めて見回す望月の横で、早坂も彼と同じように売り場を見ては、ある物にチラチラと視線を寄せていた。はぁっ。そんな早坂の様子に気付いていないらしい望月が両手を腰に当てて深く息を吐く。
「駄目だ、ねぇや。……どうする?取り寄せて貰うか?」
「……え?あ、う、うん………」
「………良ちゃん?」
妙に切れの悪い早坂の返事に怪訝そうに眉を顰めながら、ふと早坂の手元を見ると1つのマグカップを大事そうに持っている。それは自分が割ったマグカップと同じ水色だったが、その縁には小さな陶器の猫が1匹しがみ付いていた。
「あ、何だ。それが欲しいのか?」
「うん。……変かな?こんな子供っぽいの…。それに、これだと駿君のとペアにならないし」
口では否定的な事を言いつつも、より大事そうに手の中のマグカップを持つ力を強める早坂を見た望月はクッと小さく笑い、早坂の気持ちを掴んだのだろう小さな猫を指先で軽く撫でた
「変じゃないって!良ちゃん猫好きだもんな。そうだ、俺も新しいの買おっと♪」
鼻歌交じりでパッと素早く売り場の棚から攫うように手に取ったのは、早坂の手の中にあるそれと同じ形、同じ大きさのマグカップ。違う点を挙げるとしたら色がオレンジと言う事と……。
「あ、それ犬がしがみ付いてる」
「そうそうっ!俺もちょっと欲しいかなーって思ってたんだ。ほら、これでペアのマグカップになるだろ?色と動物は違うけど、それ以外は同じなんだし」
早坂が思わず笑顔で指差した先にいる陶器の子犬と早坂の間で何度も視線を往復させながら満面の笑みを浮かべ、例の子猫のマグカップを早坂の手からそっと取る。望月の手の中で二つのマグカップが軽くぶつかってカチンと小さな音を立てた。
「じゃ、買って来るな。良ちゃん、歩き回って疲れただろ?近くの休憩所のベンチにでも座って待ってろよ」
「あ、駿君!僕の分のお金……」
「良いって、俺が出す。俺が割ったんだから弁償しないと…。ほら、良ちゃんは座って休憩!」
慌てて鞄から財布を取り出そうとする早坂を制し、売り場近くのエスカレーター脇にあるベンチを指差すと早坂は暫く戸惑いの表情を浮かべていたが、結局望月の勢いに負けたのか素直にベンチの方へと歩いて行った。
「おまたせっ!」
ベンチに座って目の前を行き来する他の客をボンヤリと見ていた早坂の視界に突如望月の笑顔が飛び込み、その後にリボンのかかった箱が続く。いかにも贈答用にラッピングされた箱に目をパチクリさせる早坂に望月は改めて笑った。
「へへっ、俺から良ちゃんへのプレゼント!…と言っても、さっきのマグカップだけどな。俺がお前の為に何か買うのって余り無いから、つい……」
「そんなに気を遣わなくても良かったのに……。でも、有難う」
笑顔に照れの色を加える望月に早坂も顔が崩れるのを感じ、受け取った箱を大事そうに両手で包み込む。その嬉しそうな笑顔を見た望月は喜びの余りに身体が熱くなって来るのを感じた。一緒に遊びに出かけて本当に良かった。良ちゃんのこんな嬉しそうな笑顔が見れるんだから。……もっと、もっと笑顔が見たい。良ちゃんを喜ばせたい!心の中では両手両足を振り回して大騒ぎをしつつ、表面上では至って普通な自分を装って両手を腰に当て、早坂の顔を覗き込む。
「さて、と。次は何処に行きたい?」
「僕はもう買いたい物も買ったから良いよ。駿君は何処に行きたい?僕、其処に付き合うよ」
「良ちゃんの行きたい所が俺の行きたい所だよ。今まで一緒に遊べなかった分、今日はトコトン付き合うからな!」
本当はそのまま抱き締めて口付けの一つでもしたかったのだが、公衆の面前である事を思い出して何とか押さえ、朝起きた時からずっと考えていた決め台詞を口にすると、予想通りに早坂は顔をほんのりと赤くしつつも嬉しそうに瞳を輝かせた。
「本当?今日はずっと僕と一緒に過ごしてくれるの?」
望む場所に連れて行くよりも望月が一緒にいてくれる事が嬉しいらしく、ベンチから立ち上がって望月の袖を軽く掴み、えっとえっと…と口の中で呟きながら小さな子供のように少し落ち着きの無い様子で目をキョトキョトさせる早坂に望月は笑いながら時計を見た。
「そんなに焦らなくて良いって。時間はまだたっぷりあるんだ」
「でも、こうして迷ってる時間も勿体無いよ…。あ、そうだ!少し早いけどお昼食べない?このデパートの地下にあるイタリア料理店のパスタが凄く美味しいんだって!」
「あ、そうなのか。誰から聞いたんだ?羽鳥?」
「うぅん、同じ講義受けてる人。席が近くになる事多いから時々話すんだ」
「何だ、ちゃんとお前も友達作ってるんだな。何か安心した。…よしっ!じゃあ行くか!」
早坂の手を掴んで走ろうとすると、転んじゃうよと言う声が背後から聞こえると共に声の主が自分の手を強く握って来る。台詞とは裏腹に何処かはしゃいでいるような声に振り向くと、早坂は声そのままの表情で自分に手を引かれていた。心の底から嬉しい時に見せてくれる、少しあどけなさすら覚えてしまう無垢な笑顔は自然と望月の胸を高鳴らせ、手を握る力も強くする。そうだよ、俺はずっとお前のその笑顔が見たかったんだ。俺はその笑顔を見てお前の虜になったんだ。俺はお前の笑顔が何よりも好きなんだ。良ちゃん、気付いてる?俺、お前のその笑顔の為に頑張ってるって………
「…お昼食べたら、何処行こうかな。久し振りにカラオケ行って歌おうかな。あ、でも2人でアイスクリームでも食べながら公園とか散歩するのも楽しそうだし…。あぁ…どうしよう……」
「……………」
気付いていない…かも。心の中のラブコールにも熱視線にも気付かない様子で俯き加減で指折り数え、今後の予定を考える事に夢中になっている相手に望月は密かに溜め息を吐いた後、ゆっくりと向かい合って下を向いている早坂の黒髪を軽くクシャッと揉んだ。
「そんなに考え込むなって。今日出来なかった事は次回に回せば良いだろ?また一緒に遊ぶ日作るから、な?」
「…本当に?また一緒にいてくれる?」
「あぁ。もう寂しがらせないからな」
約束。一言付け加えて自分の小指を早坂の小指に絡めると早坂は頬を赤らめつつも微笑を浮かべて同じように小指を絡めて来たが、すぐにその小指が離れた。思わぬ反応にポカンと口を開ける望月の耳元に早坂の唇が近付く。
「………此処じゃちょっとアレだよ…人が見てる…」
「………………あ……」
早坂の一言に辺りを見回した望月の顔が瞬く間に燃え上がり、望月の感情が伝染したかのように早坂も俯いてしまう。自分達に浴びせられている好奇の視線達を振り払わんと、望月は顔を勢い良く振り上げて早坂の手を引っ掴んだ。
「行こう!」
ある意味開き直りとも言える態度で声を出して笑顔を見せ、自分の返事も待たずにその場から駆け去ろうとする望月の手を早坂はギュッ…と握り返して小さく呟いた。
「……離さないでね…」
その呟きに答えるように自分の手を強く握り返し、人の波の間を器用にすり抜けて走り続ける望月の背中が何時も以上に眩しく見えた。
<To Be Continued......>
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<後書き…と言うか言い訳>
ちっとも喧嘩になってないし。
「何時もラブラブしてても駄目だ!たまには喧嘩させなければ!!」と喧嘩ネタを書いてみたものの
結局、甘っちょろい二人の内容に…。
あんなに険悪(?)に喧嘩したくせにマグカップ1個で見事に反省&和解。
そして早坂は相変わらずのヘタレちゃん。
喧嘩の真っ最中の時は強気っぽかったのになぁ?
望月に暴言を吐かれて泣き、マグカップを割られて泣き、指を切ったり寂しがっては泣き、
トドメに猫のマグカップを欲しがる始末。
早坂泣きまくりだね!と言うか同棲SSで早坂が泣いていない話が今の所1つも無いよ!!
望月は望月で妙に「旦那さん」状態になっていますね。
ついつい「付き合い」を重視してしまって、早坂の事を放って置いてしまう。
それが長く続いて、とうとう早坂が怒ってしまったのが今回の喧嘩の発端。
今更、何を説明してるんだ自分。
…と言うか喧嘩の発端のシーンを読み返してみると、望月って最低男の典型な気が…
何だかんだで羽鳥君が色々首突っ込んで来てますな。オリキャラの分際で。
でも、彼がいないと望月が自分の鈍感さに気付かないままだったかも知れないし…。
ま、まぁ、話を進めやすくする為に登場させてるようなキャラなので勘弁して下さい。すみません。
色々と甘っちょろい面と文章構成力の無さが目立った「喧嘩編」ですけど
どうしても1回2人を衝突させたかったんですよ。
「1回喧嘩をして、仲直りする事で余計にラブラブにv」みたいな感じにしたかったんで。
それでは、お付き合いして下さった皆様に本当に感謝いたします。有難う御座いました!