冷たい殺意の瞳が自分を見下ろし始めてからどの位経ったのだろう。突如、望月の拳が動いた。拳は早坂に触れる前に広げられ、次の瞬間には制服の襟元を掴んでいた。
「お前、何で木下や平に言ったんだよ!」
「んんっ!!」
 激しく首を振って“違う”と答えるが、冷静さを失っている望月にはその意味を捉える事さえ出来なかった。襟元を掴む手に力が込められ、皺が深く刻まれていく。早坂は戸惑いながらも、眉を顰めて親友の顔を見つめた。違う、違うよ。僕、言ってない。本当に誰にも言ってない。お願いだから、これを外して。そしたら全てを説明出来るから。話してないって言えるから! 心の中で叫んでも、瞳で訴えても、興奮している相手には通じない。あぁ、彼の心の中に直接訴えられる術があればいいのに!
「何でなんだよ……」
 呻くような声を搾り出しながら視線を落とすと、陵辱されている箇所が見えた。相変わらずの振動音が響く其処からは血が溢れ、本体の先端からは透明な体液が滲み出て床を濡らしている。その性的な反応を示している親友にチッと舌打ちをした。
「平の言う通り、お前マゾじゃねぇの? こんな玩具や縛りに感じるなんてさ。そう言や、この前も唇噛み締めたり右手引っ掻いたり指噛んだりしてたな。そうか。お前、そっちの気あったんだ? そうなんだろ!」
 声は少しずつ大きくなり、最後の方は殆ど叫びに近かった。襟を掴んだ手を大きく前後させると、縛り付けられた身体はガクガクと動き、手首の鎖がギチギチと軋んだ。身体を動かされる事によって後ろからの刺激が強くなり、固く眼を瞑った早坂に望月は嘲りの視線をぶつけ、吐き捨てるように言った。
「最悪だな」
 様々な意味が込められた一言に早坂の眼から大粒の涙が零れ出た。完全に誤解している。完全に僕を憎んでいる。完全に僕の事を……
「何だ、泣くほど嬉しいってのか? そうやって痛い目に合わされるのも、最悪って言われる事も。……嬉しいよな? お前、そう言うの好きな人間だもんなぁ?」
 襟元から手を離し、そのまま縄に移動させて強く引っ張る望月の精神に冷静や理性など欠片もなかった。憎しみや怒り、歪んだ欲望と本能、それに自暴自棄が重なって自分を残虐な行動に駆り立てている。数十分前までは和解したいと考えていた親友は今では嘲りの対象となり、冷酷な言葉で傷付けていく。こんな事、本当は望んでいないのに。いや、お前が悪いんだ。お前が、裏切ったりするから……!
「本当はこんな玩具より“本物”でヤられてぇんだろ? 他の奴の前じゃ良い子で秀才ぶってるけど、本当はこんなにやらしい奴なんだよ、お前は!!」
 怒りに身を委ね、勢い任せに陵辱の物体を引き抜くと篭った悲鳴の声が裏返った。手の中で暴れるそれを見ると、粘液と血と油のような何かが混ざり合った液体が床に滴り落ちていた。望月は濡れている道具に嫌悪感を覚え、後ろ手に投げ捨てると同時に早坂に向き直った。二本の指が近付き、休息を許さぬかのように捻じり込む。想像以上に解れている其処は軽く掻き回すだけで水音を立て、指を濡らして来た。濡らしながらも食い付いて来る感触に慌てて指を抜き、滑り気を帯びた赤い指への視線をそのまま前に移すと、親友は頬を紅潮させ、塞がれた口の隙間から妙に熱い吐息を漏らし続けていた。
 僕、何て反応してるんだろ。身体を震わせ、吐息も震わせながら早坂は戸惑う。痛い筈なのに、こんな事、嫌な筈なのに。
「やっぱりな。犯されてぇんだろ」
 冷たい声が聞こえ、カチャカチャとベルトを弄る音が重なる。耳を塞ぎたくても手が動かせなくて。ただ、眼を逸らす事しか出来なくて。眼を逸らした分、鋭敏になった耳が親友の足音をしゃがむ音を先端を押し当てる音を捉える。圧迫感。さっき、例の二人に押さえつけられて捻じ込まれた時のような圧迫感。恐怖が心を支配する。止めて。嫌だよ。こんなの、嫌……
「ぅん、んっ!!」
 最後の抵抗であるかのように親友の名を叫ぶが、咥えられた枷が妨害する。思わず視線を戻して見てしまった物は親友の顔。完全に全てを見失っている、邪欲に満ちた獣の眼。瞳から滲み出る異様な光に硬直してしまった早坂の眼が飛び出んばかりに見開かれたのは次の瞬間の事だった。
「――――っ!!!」
 余りの衝撃に声が出せず、ただ口枷を力の限りに噛み締める。ビキッ……とヒビが走ったような音がした。ヒビが入ったのは枷か歯かは分からなかったが。
「くっ……すっげぇ締め付け。なるほど、俺を相手にした奴はこんな感じを楽しんでたワケか」
 一気に奥まで貫かれた接合部からは新たな血が溢れ出す。それでも容赦なく腰を打ち付けられ、肉体がぶつかり合う音が辺りに響いた。
「んうっ、んっ……」
 望月が深く侵入して来る度に身体は大きく揺れ、縄を繋いでいる事務机がガタガタとけたたましい音を立て、手首の鎖がガチャガチャと鳴く。それに接合部の水音が重なり、廃墟内の事務室に騒音が響いた。
「はぁ……気持ちっ、いいんだろっ? ココもグチャグチャに濡らしてるしな……」
 息を激しく切らしながら、繋がっている箇所の下に手を近付けると生温かい血混じりの粘液が斑点となって手の平に模様をつけた。血と粘液と油のような物(木下達が用意した潤滑油だったが、当然望月は知らない)が混じった斑点。それを一頻り観察した後に赤い手の平を早坂の頬に擦り付けると、涙と赤い滑り気が混じり合った。
「くっ……うぅっ……」
 涙も涎も無制御状態だった。体内にある水を全て捨てるかのように流れ出る体液。親友に誤解され、虐げられる悲しさ。痛み。そして密かな快楽が早坂を支配する。口の端から唾液と共に漏れる短い嬌声も何処か熱が篭り始めていた。交わる事で乱れ始めた幼馴染みに興奮が高まり、篭った嬌声に物足りなさを感じた望月の手が動いた。
「外してやるからさ。もっと声出せよ」
「はっ、あ……」
 糸を引きながら離れた枷は唾液に濡れ、小さなヒビが入っていた。雫を滴らせながら床に落ちたそれが乾いた音を立てる。床を転がる音を聞きながら、望月は相手の頬を掴み、解放されたばかりの口を貪った。
「んぅ……!」
 無意識の内に眼を瞑り、顔を動かして弱々しい抵抗をする早坂に口の端を吊り上げる。
「やっぱりな。お前、キスも初めてだったんだろ。ガキの頃から勉強勉強で恋なんか関係ないって感じだったもんな。全く……秀才様は違うなぁ」
 口の下で混ざり合った自分と早坂の体液を手の甲で拭いながら嘲りと皮肉の声を叩き付けると早坂の唇が細かく震えながら開いた。
「駿くん……どうして……」
「どうして、だって? それはこっちの台詞だ。何でバラしたんだよ!」
「ひあっ、あぁああぁっ!!」
 突然の突き上げに高い悲鳴を上げ、壊されそうな衝撃に泣き叫ぶ。それでも相手は止めようとはしなかった。怒りと欲望に任せて奥まで突き上げて来た。
「ぃや、だっ……壊れ、るぅ……!」
 身体を痙攣させながらの必死の声も相手を高揚させる薬に過ぎず、残虐な心を強めてしまう。息を弾ませながら望月はニヤリと彼らしからぬ笑顔を見せた。
「壊れちまえばいいんだ……そしたら、もう誰にも話す事はねぇしな……!」
「はぁっ、あっ……僕、言ってな、い……言ってない、よぉっ……!! あ……んっ」
「!?」
 早坂の言葉に一瞬、動きが止まる。言ってない? 戻りかけて来る理性。だが、例の欲望と感情が理性を再度追放する。……嘘だ。理性を蹴り飛ばした怒りの感情が無理矢理こじつける。コイツ、嘘ついてるんだ。そうで、ないと。
「じゃあ、何でアイツらが知ってんだよ!!」
「し、知らないっ、で、でも、僕、本当に……あぁっ!」
 言いたい事が最後まで言えず、身体がビクンッと引き攣る。幾度も捻じり込まれる痛みと快楽は早坂の頭の中にある“言い訳”を封印した。
「ふぁっ……あんっ……あっ、あっ!」
 無意識の内に漏れ出る己の嬌声に恥辱を覚え、顔を赤く染めながらもその声に酔いかけている自分がいた。それでも親友による陵辱は耐え難く、許してと言う懇願の声を幾度も繰り返す。だが、今の彼は一時的な狂人だった。自分の知っている幼馴染みではなかった。大切な親友である望月駿ではなかった。
「“許して”って言葉で許す位なら、こんな事したりしねぇよ」
 懇願を氷の声で一蹴すると同時に罰するかのように屹立したままの早坂の本体を強く握る。痛みを感じるまでに握り締めて来た手はそのまま乱暴に上下したが、長い間絶頂のきっかけを求める状態で放置されていた其処にとっては有り難い行為だった。先端から溢れ出る蜜の量は急激に増えて粗暴に扱く手にも流れ落ちる。そして、早坂の嬌声も急激に短くなり、絶頂を知らせる言葉が混じり始めた。
「あっ、あっ、あんっ……い、やぁっ……イッちゃう……出るぅ……!」
 迫る絶頂に足がガクガクと揺れ、無意識の内に後ろもヒク付いて望月を刺激する。震える事で繰り返し締め付けて来る早坂に熱が一点に集中する。打ち付ける音と、裏返った嬌声のリズムが徐々に速くなる。
「ま、待ってっ、はぁっ……抜いてよ……お願い、だからぁ……!! このまま、だったらっ……」
「あぁ、お前の中に出しちまうな。ま、男だから大丈夫だって」
「そんな……そう言う、問題じゃなっ…! あっ、やっ、ゃだっ……! あああぁぁあーーっ!!!」
 中に感じる熱。同時に吐き出す熱。搾り出す悲鳴。ぼやける視界。薄れ行く意識。霞んだ視界に映るのは汗を滲ませた親友。彼は、笑っていた。達すると言う快楽に笑顔を見せていた。離れていく意識の中で早坂は最後の力を振り絞るかのように口を開いた。
「酷いよ……駿くん……僕、本当に、言って、ない、の、に……」
 全てを言い終えた瞬間、ふっと何も見えなくなると同時に頭がガクンと揺れるのを感じる。それっきりだった。

 腹部に吐き出された白濁液に生温かさを覚えながら、ゆっくりと身を引くと、さっきの玩具と同じように様々な体液と油にまみれた本体が現れた。長い陵辱から解放された其処からは精と血が混じって皮肉なまでに鮮やかなピンクが溢れ出ている。完全に、早坂を、汚した。
「……」
 精と一緒に興奮も吐き出してしまったのか、一気に気持ちが冷めていくのを感じる。冷めると同時に戻ってくる理性と冷静。憎しみや怒りは何時しか空しさと自己嫌悪に変わっている。俺……俺は……。
 濡れた箇所を手近な布で拭って服を整え、疲れきった顔を軽く動かして、固定されたままの親友に目をやる。鎖や縄で縛られた箇所から血を滲ませている早坂は頭を垂れて気を失っていた。僕、言っていない。抱いている間に何度も言っていた台詞。あの時は完全に嘘だと思っていたが、今思うと彼が嘘をつくとは思えない。嘘を嫌う正直者で、約束した事は完全に守る。彼が非常に律儀な人物である事は幼馴染みである自分が一番知っているではないか。それなのに自分は話を聞こうとしなかった。感情と欲望だけで動いて彼を痛め付ける事だけ考えていた。そして、最終的に彼を。
「あ、あぁ……!」
 後悔が津波のように望月を襲う。津波に飲み込まれた心は胸を締め付け、瞳に涙を湛える。馬鹿だ、俺、大馬鹿だ。何で、信じてやれなかったんだ。何で、話を聞いてやれなかったんだ。何で、痛め付けたりしたんだ。何で何で何で何で!!
「うっ、うわあああぁぁああっ!!」
 声を限りに号泣し、動かぬ親友にしがみ付く。手首の鎖がカシャリと鳴った。
「ゴメン、ゴメン良ちゃん……俺、俺ぇ……!」
 力の限りに抱き締めても、耳元で泣き叫んでも、早坂は目覚めなかった。まるで、彼の謝罪を許さないかのように。
「うぅっ……良ちゃん、良ちゃぁん……!!」
 肩を震わせながら、ひたすらに親友の名と謝罪の言葉を繰り返し口にする。慟哭が響く廃墟の中、人間の物とは違う何かの視線が二人を捕らえていたが望月は気付かず、目覚めぬ親友の首元に顔を埋めていた。

 その頃、木下と平は豪奢なソファーにどっかりと座り、目の前にいる人物にニヤケ面を見せていた。
「アンタも罪な事するなぁ。俺達をあの公園に行かせるなんて。まぁ、結構楽しかったぜ。アイツがヤられる所の撮影はよ」
「あの援交相手もアンタが用意したらしいじゃねぇか。望月の奴、完全にアンタの手の内で踊っているみたいだな」
「僕は欲しい物の為なら金は惜しまないのさ」
 テーブルの上に置かれたビデオテープを手に取りながら、その男は冷たく笑った。
「御苦労様。君達には感謝するよ。ちゃんと時間通りに行って、彼の秘密を隠し撮りしてくれた事にね。正直、早坂くんもいたのは計算外だったけど」
「あぁ。それは俺達も驚いた。だが、より良いビデオになっただろ?」
テーブルに足を乗せて笑いかける木下に、男はフッ……と笑った。
「まぁね。それにお楽しみが増えたかな。例のビデオの方も宜しく頼むよ。木下くん、平くん」
「例のビデオ? あぁ、望月が口止めしてる奴だな。任せとけって。じゃ、近い内にそのビデオも渡すからな」
 二人がソファーからスッと立ち上がり、開いた巨大な扉から姿を消す。やけに広い部屋に残ったのはビデオテープを手に取った男一人。男はクスクスと笑いながら、ビデオテープに目をやって呟いた。
「楽しませて貰うよ、望月くんに早坂くん」

<To Be Continued......?>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<例によって後書き>
すみません…早坂ヤッちゃいました。
望月総受けの筈だったのに、望月攻めにしちゃったし。
最初の設定では、この章は無かったんです。
早坂の登場シーンは前章(「秘」)で終わる筈でした。

……が、ここ数ヶ月の間にどう言う心境の変化か
早坂にモロにハマッてしまい、早坂受けも書きたくなっちゃったんです。
にしても、何で早坂にハマッたんだろ。その理由が今では思い出せない←…。

今回も難産でした。心の動かし方が難しくて…
そう簡単に親友を犯せるかなぁ?でも、まぁエロ小説だから良いかな、と言う事で(良いのか)
今回の望月は何気に調子が良い奴です。
ヤる事しっかりヤッた後に気が付いて謝ってます。
さて、この後二人は和解出来るのでしょうか。

正直、最後のシーン要らなかったかなぁ。
とりあえず「木下と平が何故望月の援交の事実を知っているのか」と言う説明の意味で書いたのですが…
本当に文章力が無くて申し訳無いです。
とにかく、早坂は喋ってなかったんだよ、と言う事で。

にしても結構楽しかったです、望月×早坂。