漸く落ち着いた望月が小さく鼻を啜りながら離れると、早坂は小さく首を横に傾けて問うた。
「…もう大丈夫かい?」
「あぁ…悪いな。戸惑わせちまって」
「いや……それは気にしなくても良いんだけど…」
何処か意味深に語尾を濁しながら俯く早坂に望月は少し赤くなった瞳を丸くした。
「どうしたんだよ、良ちゃん」
「………うん……」
俯いたまま曖昧な返答をし、古毛布をギュッと握り締める。そして、小さく口を開いて言った。
「…幻滅………したんじゃない…?」
「?何にだよ」
突然の奇妙な質問の意味が分からずにきょとんとする望月を一瞥した後、再度視線を下に向けると同時に微かに上ずった声で言う。
「僕は……君が言ってた通り………被虐嗜好なのかも知れない…」
「被虐嗜好って…………あっ…」
聞き慣れぬ単語の意味を頭の中にある辞書で必死に引きながら、ある一言を思い出す。お前、マゾじゃねぇの?目の前の親友を初めて汚した時のあの台詞。そんな………まさか……
「縛られて…抵抗出来ない状態で犯された時も……色々な言葉で罵られた時も…そして、犯されている所を君に見られていた時も……傷付きながら感じてた。一瞬、苦しいけどその後で妙に気持ち良くなるんだ」
「………………………」
「…幻滅……したよね…。知らない男相手に犯されるのを喜んでたんだから。余り覚えてないけど下品な事も言ってたんだろう?幻滅しない方が…おかしいのかもね」
古毛布に深い皺を刻む手の甲にポツッ…と透明な雫が一粒落ちた。
「……………………」
無言を保っていた望月の手が動き、雫が砕け散った甲の上に重なる。重ねられた手の主が驚きの表情で顔を上げると、目の前の親友は目を細め、口の端を吊り上げていた。
「…馬鹿だな……」
静かに言い、手を重ね合わせたまま顔を近付けて一筋の線が描かれた頬に唇を押し当てる。唇は頬の線をなぞり、そのまま瞼に到達する。
「幻滅なんかする訳ないだろ?…確かに驚きはしたけどな……」
瞼に重ねられていた唇が離れ、言葉を紡ぎながらゆっくりと顔の下方に動く。頬や瞼に満足しなくなったそれは早坂の涙の余韻に小さく震えている唇を押さえるかのように静かに重ねられた。
「んっ………」
望月の唇が触れた瞬間、自分の唇の震えはぴたりと止んだが、今度は胸元が落ち着かなくなって来ているのを感じた。胸の中が震えて……いや、跳ねている。ドクンドクンと派手な音を立てながら脈打っている。相手はその反応に気付いているのかいないのか、口付けを保ったまま右手を早坂の背中、左手を腰に回してゆっくりとコンクリートの床に横たえると早坂の顔が迷いの感情を見せた。
「…あ。嫌だったか?」
迷いの表情に気付いた望月が慌てて唇を離し、身を引こうとすると下に居る身体の左手が離れようとした腕を掴んだ。床に転がったままの早坂がゆっくりと首を左右に振る。
「嫌じゃない。…嫌だったらとっくの昔に突き飛ばしたり、君の唇に噛み付いたりしているよ」
「………そっか」
何処となく安心したような声を出しながら、壊れやすい何かを扱うようにシャツに隠された胸元を指でなぞると早坂の身体がピクンッと小さく動いた。
「嫌だったらすぐに言えよな」
とりあえず、そうは言ってみるが嫌だと言われても止められるかどうかは非常に微妙だった。指が止まらない。止められない。シャツの布が邪魔に感じ、許可無く捲り上げる事で晒された身体に刻まれている縄傷を迷路の本で遊ぶ子供のようになぞり続けると早坂の呼吸が荒くなり、胸も大きく上下し始めた。
それに負けじと言わんばかりに望月の胸も大きく脈打つ。まさか早坂を慰める為の口付けが、自分の性衝動の起爆剤になってしまうとは思ってもみなかった。衝動に、本能に任せて指を動かし、その後を自分の舌が続いて傷を癒す動物のように身体の模様を舐り続けていると指が迷路の行き止まりにぶつかった。
「……………」
迷路の行き止まり――下半身に穿かれたハーフパンツの布地にぶつかった指を止めて視線を変えると、薄く眼を閉じ、無言だが喘いでいる親友が居た。抵抗も何もしない辺り、彼も“その気”になっているらしい。その反応に思わず安心し、思わず安堵の溜め息を小さく漏らし、思わずふっと小さく笑ってしまう。迷路にぶつかっていた指が再度動き出し、行き止まりの下に割り込んで来る。迷路の続きは自分の手で切り開くしかなかったのだ。
「っ!あっ……駿君………」
喘ぎながらの声が聞こえて来るが無視して迷路の続きを楽しもうとすべく、行き止まりの原因を引き摺り下ろすと性的な屹立が現れた。迷路よりもその塔に魅力を覚えた望月は手を伸ばして包み込み、軽く上下させると呆気なく塔の最上部から露が溢れ出し、ポツポツと床に滴り落ちた。
「お前マジでエロい身体してんな。あんなにイカされてたのにまだ出るのかよ」
笑顔で言う意地の悪い台詞に早坂は近くの古毛布を強く握りながら喘ぎ、声を震わせた。
「意地…悪…。…だって……まだ…薬が…残ってるから…ぁ…」
言いながら涙を流すが、望月はその涙は苦痛の涙ではなく快楽の涙である事に気が付いた。被虐嗜好と言うのは本当かも知れない。…いや、そんな事はどうでも良い。相手が…良ちゃんが気持ち良いんならそれで良いんだ。
「薬?あぁ…さっきのジャムみたいな奴な。シャワーで洗い流せなかったのか?」
わざとらしく首をかしげながら、前を弄っていた手を蹂躙され続けていた其処に移し、確認するように指を挿し入れる。くちゅんっと微かな水音が聞こえた。
「あっ…ぁんっ………」
指の侵入に嬌声を漏らし、古毛布の皺を深くする早坂の顔を観察しながら望月は再度意地悪な言葉を口にした。
「そう言や、さっきアイツらにヤられてた時すっげぇ言葉連発してたな。あんな言葉何処で覚えたんだ?」
「はぁっ…はぁっ……あんな言葉…って………?僕…余り覚えてないんだけど……」
「…いや……何でも無い。覚えてないなら良いんだ」
低俗なポルノビデオのような単語を吐き続けた…と言う真実を伝える気にはなれず、ただ安心させるかのような微笑を浮かべて早坂に快感を提供し続ける。本当にあの淫らな親友を引き出した薬が残っているのかと指をそっと引き抜くと赤いジャムではなく白い粘液が纏わり付いていた。まだ彼の身体の奥に残っていた陵辱の証が何故か望月の興奮を強めてしまう。汚れてしまっている親友の身体を浄化するには自分が彼を抱くしかない。都合良く考えた自分勝手な浄化方法。ただ、性衝動に任せて彼を抱きたいだけなのに。
理性の何処かが身体を止めようとするが、衝動には勝てなかった。ゆっくりと穿いていた物を下ろし、早坂を求める膨張物を引っ張り出すと、求められている方は少し驚いたような顔を浮かべたが、次の瞬間に何処か艶めいた微笑を浮かべて上半身を起こした。床に右手を後ろ手について座り、両足を躊躇無く広げて最も求められている箇所を堂々と晒す。
「……駿君………来て…」
恥ずかしさからか僅かに震える左手を広げられた両足の中心部に近付け、“来て”欲しい場所を器用に指で広げると浄化すべき注がれ続けた精が愛液のように溢れ出て床を濡らした。
望月が唾を飲み込む。
広げられた足の間に膝をつく。
既に濡れている先端を押し当てる。
腰を少しづつ突き出す。早坂が自分を飲み込む音が聞こえて来る。
「あ、あっ、あぁっ……」
飲み込む音と重なるのは早坂の涙声。早くも相手の身体が小さく震え始めていたが望月は止まると言う自己制御さえも出来ない状態になっていた。
「…きつ………」
親友の中に対する率直な感想を口の中で呟きながら仰向けに倒れそうな早坂の腰を掴み上げると、その勢いが一気に望月を早坂の奥まで導いた。
「あぁぁーーっ!!」
余りの衝撃に口から飛び出したのは苦痛の悲鳴か快楽の雄叫びか。口を大きく開けたまま仰向けに倒れてしまった相手の腰を掴み直して揺すると淫靡な水音が響き始めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」
腰から下を浮かせている状態の早坂の身体を貪る望月の口からは激しい息切れの音しか聞こえなかった。言葉も何も浮かばない。ただ貪欲に快楽を求めて腰を揺すり、限界まで腰を突き出して奥までの侵入を試みる。衝撃を与える度に下にいる身体はビクビクッと跳ねた。
「あっ……ぁはあっ…駿っ……くんっ…」
「…辛いか?」
頭の近くにある古毛布を引っ掻く親友に心配そうに声をかけると、彼は視線を自分に向けて暫くその瞳を見つめていたが、突然頭を激しく横に振った。
「辛くっ…なんか…ないよ………」
身体を引き攣らせながらも笑顔を作り、精一杯手を伸ばす。その母を求める幼子のような早坂の腰から手を離した望月はそれを傷だらけであろう背中に回し、何時の間にか汗にまみれた額を熱を測るかのように相手の額に押し当てた。
「んっ………もっと………もっと…して…」
接触している望月の体温に安心したのか、力の限りにしがみ付いて甘えた声を出し始める。甘え声を出す唇と望月の唇が溶け合った。甘い口付けがどちらからともなく激しくなり、離れるのを拒むかのように舌が絡み合う。互いの口内を貪欲に食らう感触に二人の頭はボンヤリと熱くなり、熱は体内に回って激しい性交を促し始めた。二人は激しく抱き締めあう。上に居る身体が下に居る身体を壊すかのように腰を揺さぶり、下に居る身体は負けじとリズムを合わせようと下半身を揺らす。息切れの声と嬌声と打ち付け合う音が二人の耳に休み無く飛び込んで来る。
「はぁっ……ひぁっ…駿く…ん………イ…イイ…よぉ…」
上半身を反らして快感を堪能する早坂はその“御返し”をするかのように接合部を締め付けた。それは無意識だったのか否かは分からないが望月にとって絶頂を促す行動である事は間違いなかった。体内を回っていた熱が急速に一箇所に集中し、無意識の内に早坂を強く抱き締める。奇妙な苦しみの元である熱を吐き出してしまおうと本能的に動く腰。駿君、と苦しげな声を耳元で聞いた瞬間、全てが弾けた。
「ぅあああぁっ!」
思わず叫びながら派手に動かしていたそれを小刻みに揺らすと苦しみが一気に快感に変わり、浄化するには充分過ぎる位の精が射出されているのを感じた。
「ゃっ……あっ…熱……いぃ……!」
下から悲鳴に近い声が聞こえたかと思うと腹部に生温かい水玉が散る。そのまま倒れこみそうな早坂を望月は慌てて抱き留め、大きく溜め息を吐いた。
「このまま倒れたら頭打つぞ。ったく、危ねぇなぁ……」
「…………うん……」
まだ快感の余韻に浸っているのか何処かボンヤリしたまま返事をする早坂の瞳が微かに動き、望月の瞳を確認すると同時にそれを細めた。
「…そう言えば……君に抱かれるのは初めてだよね」
「えっ…初めてじゃないだろ?だって………その…」
「レイプとセックスは違うよ。……気持ち良さとか…全然違う…」
続きが言えずに口篭もる望月の首の後ろに手を回し、身体を密着させながら静かに言うと自分を抱き留めている親友の手の力が強くなった。
「…やっぱり……あの工場跡のは…苦痛だったか?」
「………うん……」
小さく頷く早坂に胸がズキッと痛む。
「……ゴメンな…」
「………うぅん。…もう良いから」
既に数え切れない位に口にしているであろう謝罪の言葉に早坂は今度は首を小さく横に振り、その首を望月の腹部まで移動させた。早坂の返事に安堵しながらも、親友の行動の意味が分からずに首を傾げる望月は次に襲った感触に目を丸くした。
「っ!良ちゃ………」
生温かく濡れた感触の正体は親友の舌だった。躊躇無く腹を汚している白を舐め取り、舌の上に乗せている。そのままそれが、ついさっきまで早坂を蹂躙していた箇所まで移動しようとした時、望月は我に帰って腹部にある黒髪を突き放した。
「ストップ!そんな事する必要ないんだよ!!」
驚きと戸惑いと僅かな怒りに似た感情が混じり合ったような声と表情で止める望月に対し、早坂はきょとんとした顔を見せた。
「でも…僕、汚しちゃったし」
「こ…こんなのシャワーで流せば良いんだよ…」
何とか答える事は出来たが、望月の心中は何かがグルグルと回っていた。間違いなく、早坂の何かがおかしくなっていると思った。ほんの数日前まで性的な事には関わりの無かった彼が、今では精を躊躇無く舐め取るまでになっている。その理由は何となく分かる。この地下室での容赦無き強姦。きっと、その時に様々な事を強要され、その“様々な事”が彼の、早坂の中では“普通の事”になって、そして早坂は、親友は………。
…俺の所為だ。舞い戻る自己嫌悪と罪悪感。俺が良ちゃんを滅茶苦茶にした。溢れ出そうな涙を必死に堪えながら、まだきょとんとしている早坂の顔を見る。その、自分よりも幼く見える表情が望月の心を余計に締め付けた。
「良ちゃん………」
腹の底から声を絞り出しながら、早坂の身体を強く抱き締める。突然のその行動に抱き締められた方は小さな瞬きを何度か繰り返したが、そのまま両腕を震える親友の背中に回した。
望月駿と早坂良麻の二人が抱き締め合っているシーンを別室のモニターで見ていた藤堂はクスクスと笑いを漏らした。
「全く……君達は本当に協力的だよ。まさか夜中に二人で始めちゃうなんてね。また新しいビデオが出来そうだよ…ククッ………ハハハハハッ!!」
堪えきれずに高笑いをする藤堂の視線の先は再度、二人が映っているモニターに戻る。藤堂の高笑いの事など知る由も無い二人は、ただモニターの中で抱き締め合っていた。
<To Be Continued......?>
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<半ばヤケクソな後書き>
すみません、何も言わずに逃げたら駄目ですか?
…と言いたくなる位、偉い事になってしまいました。
藤堂は極悪だわ、早坂はヤバイわ、望月は何処か意志薄弱だわで…
第3章の後書きでも言っていますが、早坂は本当に2章だけに出て来る予定でした。
それが今ではもう……。望月並(以上?)にエロシーンに参加させられています。
そして、トドメに被虐嗜好!平たく言えばM!ファンの方に刺されても文句は言えません。
でも私、本当に早坂大好きなんですよ。信じて下さい…(切実)
何か知らないけど、この望月受け続き物は難産が多いです。
今回も酷く難産でした。かなりのリテイクを繰り返して、漸く最後に到達できた…と言った感じです。
それでも、イマイチ納得いかないと言うか、自分の文才の無さが情けないと言うか…。
「書きたいシーンと言わせたい台詞を無理矢理入れて出来た」みたいになってしまいました。トホホ。
さて、捕えられた二人はこの後どうなるのでしょうか?
…もし、この章で物語を完結させたら、救いようのない話になりますね、コレ
えっと…次回もヤバイ鬼畜シーンはありそうです。望月&早坂扱い易過ぎ。
特に早坂なんてSM系もOKっぽいキャラになってるし。ファンに刺されそう。
なお、ヤバイ鬼畜シーンと言ってもあ。カストロ議長(謎隠語)ではないです。
それだけは恥ずかしくて書けないし、本人にそんな趣味が無い。
ドンドンヤバイ方向に進んでいる望月受けの続き物。
何か早坂が異様に危ない子になって来てるんですけど…
彼は今までに無い受けのタイプのような気が。
こんな小説を読んで下さった皆さん、有難う御座いました。感謝!