爽やかな風が白いカーテンを揺らす。その心地良さに数名の生徒がついつい舟を漕ぐ午後の授業時間、藤堂は真面目に板書をする素振りを見せながらも、内心では欠伸を噛み締めていた。今日の授業内容は、専属の教育係に既に教わった内容なので完全に理解してしまっている。学校で似たような講義を反復する事は正直、退屈であった。教師の声をボンヤリと、だが何時当たっても良いように構えながら藤堂は再度欠伸を噛み締める。
「…そうだ」
口の中で呟き、頭に浮かんだ良い退屈凌ぎの案に顔が緩むのを感じて慌てて視線を落とす。唇の端をコッソリと吊り上げながら、藤堂はポケットに手を伸ばした。

 あと2時間。気が付けば視線を壁に架けられた時計に向けてしまう。あと2時間すれば、僕は苦痛から解放される。あと2時間、あと少し………
「それじゃあ、この問題を……」
教師の声にハッと我に返り、慌てて視線を黒板に戻すと教室内を見回していた目と自分の目が合い、相手の目が微かに細められた。
「目が合ってしまったな、早坂。と言う訳で前に出てやって貰おうか」
「………はい…」
観念したような笑顔を作って席を立つと、二人のやり取りが面白かったのか早坂の反応が面白かったのか、教室の所々からクスクス笑いが聞こえて来た。
「運悪いな。…ま、お前なら楽勝だろ?」
横から聞こえる竜一の声に、まぁね…と返して証明問題の書かれた黒板の前に立つ。白いチョークを持ったかと思うと止まる事無く鮮やかに動き出した左手に何処からとも無く感嘆の溜め息が聞こえる。少しだけ。本当にほんの少しだけど優越感を感じる瞬間……
「……っ…!!」
パキンッ。急に身体に緊張が走った事によってチョークが真ん中から折られて床に落ちた。どうして…こんな時に…皆の前にいる時に……!床に落ちたチョークを拾いながら、一瞬目を硬く瞑る早坂の後ろでは大人しくしていた陵辱物が派手に暴れ始めていた。震えそうな足を抑えながら立ち上がり、再度黒板に向き合って解答の続きを書くが、その左手は少しでも気を抜けば揺れた文字を書きそうだった。真剣に問題を解いているように装ったその顔は少しでも油断すると泣きじゃくりそうだった。問題を解かないと。ただ、それだけを考えて(問題を解く事で気を反らしている…と言うべきかも知れない)黒板に解答を紡いで行く。そして、やっと辿り着いた“証明終”の一言と“よし、良いぞ”と言う教師の言葉。教師の解説を背中で聞きながら、やや過剰に背筋を伸ばして歩き、席に着く。バレないようにしないと。自分の身に降りかかっている異常を隠す為に机の上のシャープペンシルを握ろうとする左の手の平はうっすらと汗ばんでいた。
「………………」
気にしたら駄目だ。自分に言い聞かせて教科書のページを捲ろうとすると、横から小さな四角が飛んで来て早坂の目の前で小さくバウンドして止まった。
「………?」
四角の正体は細かく折り畳まれた紙らしい。怪訝そうな顔を浮かべながら微かに震える手で紙を開くと見慣れた文字で“また顔赤くなってたぞ。大丈夫か?”と書かれている。顔を上げて手紙が飛んできた場所へと向けると、手紙の差出人である望月が自分の方をじっと見つめ“熱でもあるのか?”と口パクで語り掛けて来た。
「……うん…」
向こうには聞こえない音量で答えながら小さく頷き、細かく折られた事で皺だらけの紙にペンを伸ばす。
『少しだけ。でも大丈夫だよ。有難う。』
本当は余り大丈夫ではないのだが、親友を心配させたくない気持ちが、親友に真実を知られたくない気持ちが、嘘を書かせる。虚偽の返事に小さく歎息しながら手紙を丁寧に畳み直し、望月の方に投げると手紙は即座に広げられ望月の目を丸くさせた。目を見開いたままの望月が顔を自分に戻し、“保健室行くか?”と再度無音の語り掛けをして来たが、早坂は慌てて手を横に振って“そこまで酷くない”と伝える事しか出来なかった。保健室に行く事になれば、彼が付き添うだろうから。付き添った時に知られてしまったら、全てが終わってしまうから。彼と二人きりと言う状況に我を失って淫らに誘い込んでしまうかも知れないから。

 夕日の赤が巨大な窓から飛び込む広い部屋の中。ベッドの上に乗った影が動き、もう一つの影の頭を撫でた。
「最後まで、よく入れられていたね。立派だよ」
立派な…淫乱だよ。その言葉は敢えて口にせず、藤堂はニコニコと笑いながら早坂に褒美の口付けをし、苦痛と恥辱の根源を勢い良く引き抜いた。
「あ…ぅんっ…!………はぁ……はぁっ………」
漸く訪れた解放に頭を垂れ、激しく息を切らす早坂の目の前に赤い中身が詰まった瓶がコトリと置かれた。あっ……と小さく声を漏らす早坂に藤堂が口でUの字を作る。
「さ、コレが約束の物だよ。…全く、君も凄いね。こんな物の為にあんな恥ずかしい事をやってのけるなんて。……で、その薬を使ってどうする訳?」
「……………………」
藤堂の問いには答えずに、ゆっくりと赤い媚薬の瓶に手を伸ばして包み込む。瓶の中身を凝視したまま動かなくなった早坂を藤堂は暫く観察していたが、フッ…と小さく笑って口を開いた。
「…まさか、その薬で望月君を誘い込むつもり?確かに彼は淫らになった君も好きそうだったけど」
「……………」
早坂の肩がピクンと小さく動いたが、彼は何故か小さく微笑み、瞳をジャムから藤堂の瞳に向けた。
「それも…良い案かもね。………でも、それは出来ないよ」
「何故だい?」
意外な答えに思わず丸くなった瞳から眼を反らさずに早坂は手の中の瓶を弄びながら続けた。
「だって……望月君には………小林君がいるから」
「……………………」
ニコッと笑顔を見せ、視線を瓶に戻す早坂の瞳から一筋の涙が零れ落ちた事を見逃さなかった藤堂は、彼が薬を求めた理由を何となく理解した。成る程ね。口の中で小さく呟き、近くのテーブルの上にあるメモ紙を拾ってペンを走らせる。何かの地図が描かれたメモ紙が早坂に突き出されたのは、それから数十秒後の事だった。
「…?何だい?コレ………」
「その地図の場所に行ってごらん。今の君を満足させてくれるだろうから」
意味深に微笑みながらベッドの上に転がっている玩具を拾い上げて早坂に手渡すと戸惑ったような表情が返って来た。
「そんな顔しないでくれたまえ。ちゃんと約束を果たせた君へのプレゼントだよ。……もう指なんかじゃ満足出来ないんだろう?一人で弄る時は」
柔らかい口調の中に重たい冷気を感じた早坂は頭に浮かんだ反論を飲み込み、無言でまだ体液で滑っている玩具を赤い媚薬と一緒に抱え込んだ。

 気が付けば、僕は藤堂君の家の前でボンヤリと沈みかけた夕日を眺めていた。左手には藤堂君からの“プレゼント”が詰まった紙袋。恥ずかしい目に会ってまで欲しかった赤い媚薬。よく分からないけど貰った謎の地図。僕を淫らだと決め付けるようなHな玩具。
「…僕………どうなるんだろう…」
頭から押さえ付けて来るような奇妙な不安が無意識に自分でも意味の分からない台詞を吐かせてしまう。何かが微妙にずれて行くような、狂っていくような、嫌な予感と言う一言では片付けられないような感触。
 いや、気の所為だ。…何時もの、心配性だ。無理矢理こじつけ、不安を振り切るかのように走ると鞄の中でペンケースがぶつかってガタガタと鳴き、紙袋が振動でガサガサと音を立てた。徐々に息苦しさを感じるが速度を緩めずに走り続ける僕を皮肉なまでに綺麗な夕日が照らし、何時の間にか頬を伝っていた細い涙の線を橙色に光らせていた。

<To Be Continued......?>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<言い訳ぶっこいて良いですか?のコーナー>

問題:この小説だけで早坂は何回イッたのでしょう。
…と言いたくなる位、とんでもない話になってしまいました。
まぁエロマンガのようなノリで書いた部分もあるのでアレなのですが…。
何か早坂は書いている内に苛めたくなって、無意味に犯したりしています。
今回の小説もエロシーンを増やした所為でヤケに長くなったし。
本当は番外編は、ほんの数ページで終わらせる筈だったのになぁ。
相変わらず余計な事をダラダラ書くクセがあるみたいです…。

実は「輪姦される悪夢」はプロットには存在しなかったのですが
書いている内に暴走して増えてしまいました。
ちなみに、悪夢のシーンの直後に出てくる「猫のチロル」は私の勝手な妄想設定です。
早坂のお姉さんも妄想設定なので真正面から信じないように。
あ、あと父親が医者と言う設定も(略)

さて、恥ずかしい目に会ってまで媚薬をゲットした早坂君。
一体、その目的は……!?と言うのは次回に書きますが
この番外編には小林さんは殆ど(下手したら「全く」)出ないと言う事だけは言って置きます。
小林さんファンの皆さん、すみません……。先に謝っておきます…。
とにかく、薬をゲットしたからと言って
小林さんを誘い込んだり、誘い込ませたり(←!?)する事は無いと言う事で。

あ、そうだ。この章で冷峰の体育館が出て来ますが
「ダウンタウン熱血物語」に出た体育館の内装は完全に無視しています。
と言うか、体育館のシーン書き終えた後に
「そう言や、ゲームにでも出てるやん冷峰の体育館っ!」と気付いた位ですし。
…すみません、あのシーンは自分が通っていた高校の体育館を想像して書きました…
冷峰の体育館にはステージは無かった筈…と言うより体育館の窓から校舎に侵入できると言う
素敵な体育館だったような…。まぁ良いや。

えっと、この番外編で早坂は見事に失恋しています。
失恋していると言うか、敢えて身を引いたと言うか。

軽く解説(?)させて頂くと、最初の内(本編「駿」の2章辺り)は
あくまでも「親友」だったのですが、藤堂に監禁されてしまった際に
一緒にいた望月と身体を重ねる内に好きになっていったと言うか…。
でも、望月は小林と相思相愛であると言う事を知っていたので諦めた、と。健気?