BREATHLESS

ylangylang

 バーナビーの羽枕は穏やかな甘い香りがするのを知ったのは昨夜。
バーナビーはその香りがイランイランという花の香りだと虎徹に教えてくれた。
よく眠れるようにイランイランのアロマオイルを使っているのだそうだ。
「イランイラン…あ、あった。これだな」
 名前が面白いことで興味を持った虎徹は、バーナビーのパソコンでイランイランについての情報を検索していた。
画面には細長く放射状に伸びた花弁を持った黄色い花が映し出されていて、その花弁の先はクルンとカールしていた。
「あはは…この花、バニーの髪みてぇだなー。えーっと、何だって?
『この花の精油は仕事や勉強での疲れや緊張をほぐし、リラックスした気持ちになることができます。
高濃度で長時間使い続けると吐き気を催すので注意』か。
俺は平気だったな。バニーの枕は丁度良かったわけか」
 虎徹は自分で言ってから、枕を『長時間使い続けた』昨夜のことを思い出して赤くなった。
バーナビーにいいように翻弄され、泣かされ、知らなかった快感を骨の髄まで思い知らされた。
「バニー、めちゃくちゃエロかったな…。いやいや、そうじゃなくて!
えーっと、続きは…『南国では古くから…』ん?んんっ?え、ちょ…さ、催淫効果?!催淫効果があるのか、コレ?!
『南国では古くから…催淫効果があるとされ、結婚式を挙げたばかりの夫婦のベッドに、
つまりしょ…っ、初夜にこの花を撒き散らす風習があります』…か」
 虎徹は顔ばかりか全身を真っ赤にして、パソコンの前で頭を抱えた。
『催淫』『結婚式』『夫婦』。目に入った単語が恥ずかしくてたまらない。極めつけは『初夜』。
「そうだけど…確かに初めてだったけど…こう文字にされちゃあ…」
「何やってるんですか?」
「わああっ!」
 突然、耳元でバーナビーの声がしたので、虎徹は椅子の上で飛び上がった。
そして別に悪いことをしているわけではないのに、慌ててパソコンの画面を両手で隠した。
「何見てるんですか?アダルトサイトですか?」
「ちっ、ちがっ…」
「別にアダルトサイトでも驚きませんよ。どんなのがお好みなんですか、虎徹さんは?」
 バーナビーは虎徹の手をやんわりと退けて画面を見たが、想像とは全く違うもので、少々拍子抜けだった。
「ああ、イランイランの花ですね。そういえば興味お持ちでしたね。どうして隠したんです?」
「…言えない」
「どうして?」
「だって…お前、笑うから」
「笑いませんよ。教えてください」
 バーナビーは虎徹を背中から抱きしめて、髪に顔を埋めた。
バーナビーの温かい吐息を感じて虎徹の背中がゾクゾクと震えた。
ああ、ヤバい。この流れ。やっとベッドから起き上がったっていうのに。
でもまぁ、冷静になろうったって無理だし、もう今更我慢する必要もないよな?
虎徹はバーナビーの腕の中でくるりと向きを変え、琥珀色の潤んだ瞳でバーナビーを見上げた。
「だってよぉ…『催淫効果』とか『新婚』とか『初夜』とかさぁ…お前、知ってて使ったの?」
「ハイ」
「ハイってお前…くっそー、エロ兎め」
 笑顔のバーナビーのキスが降ってくる。
虎徹はおとなしく目を閉じたのだが、『新婚』という言葉が急におかしくなって、もう少しで唇が触れるというところで噴き出した。
バーナビーは眉間に皺を寄せた。
「何がおかしいんですか?ムードのない人ですね。僕を怒らせたらどうなるか…覚悟してもらいましょう」
「あ、ごめん!ごめんね、バニーちゃん!だからちょっと手加減して…」
「さぁ、どうしようかな…?」
 どうしようもこうしようもない。この可愛い年下の恋人はクールなフリして、その実、いつも全力投球なのだから。


END


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