ノースロップ P-61 ブラックウィドウ
ノースロップ P-61 ブラックウィドウ
現代の第一線に配備されているジェット戦闘機は全天候戦闘機といいます。これは悪天候や夜間などのパイロットの視覚に頼らずとも空中戦が可能な戦闘機のことを指します。特に最新鋭機になるほど、戦闘機のコンピュータシステムは発達し、戦闘空域に到達するまではオートパイロットというパイロットな何もしなくても良いという技術に進化しているとさえ言われています。
今回はそんな夢のような戦闘機とは正反対の過去の戦闘機です。1940年イギリスの首都ロンドンはドイツ空軍による夜間爆撃に悩まされていました。昼間の爆撃ならば実戦配備されたばかりのスピットファイアがその任務に当たりましたが、夜間の作戦には使うことができませんでした。
視界の悪い夜間では高速を出して飛ぶこと自体が危険であること(空中衝突の危険)、敵機の視認が困難で友軍機撃墜のリスクが高くなること、また敵機を捕捉しても照準がつけ難いなど、パイロットも含め夜間専用の戦闘機が別に必要となりました。
イギリスは1940年のバトルオブブリテンに勝利し、大規模な都市夜間空襲に心配せずともよくなったものの、レーダー基地や前線の飛行場への夜間奇襲攻撃の脅威は去っていませんでした。イギリスはこの戦訓からデハビラント社の「モスキート」を夜間戦闘機へと実用化し、この脅威に備えました。
アメリカ陸軍はイギリスの戦訓から夜間戦闘機を独自開発する必要性を考え、ノースロップ社に夜間戦闘機の開発を依頼しました。夜間戦闘機に要求される条件として
① 機上レーダー(航空機で運用できるサイズのレーダー)を標準装備すること
② レーダー専門の搭乗員が乗れるよう複座であること
③ 長時間の索敵が実施できること
などが挙げられます。
開発指示を受けたノースロップ社はレーダーの装備と3名の搭乗員を前提とした機体設計を行い、基礎設計の時点では双胴型の大型戦闘機に仕上がりました。これはレーダーなどの電子装備、爆撃機との空中戦のための重装備、長時間索敵するための動力系などで重量が増加したためでした。この重量を飛ばすために設計スタッフはF6Fに搭載される2000馬力のエンジンを2基搭載することを選択しました。
開発は順調に進み、陸軍からの指示のあった1年半後の1942年5月に初飛行を迎えました。機体の設計はユニークながら優秀なものでしたが、なんと搭載するはずのレーダーが完成していませんでした。また本機の特徴の一つであった機体上面の回転銃座が飛行時に乱気流を発生させ、尾翼に異常振動を起こす欠陥まで発覚しました。
搭載するレーダーは1943年に入ってようやく実用化し、レーダーを搭載した量産機はこの年の10月に生産が始まりました。異常振動は回転銃座の形状変更でやっと収束しましたが、この銃座が実戦でどれだけ役に立ったかはあまり記録が残されていません。この頃に試作機P-61は「ブラックウィドウ」という愛称が付きました。このブラックウィドウは毒クモの一種ですが、直訳すると「黒衣の未亡人」ともなります。
未亡人というとあまり縁起の良い言葉ではありませんが、事実、改修を受ける前の初期生産型は着陸時のスピードが早すぎて着陸事故を起こすことが有り、「ブラックウィドウ(黒衣の未亡人)ではなくウィドウメーカー(未亡人製造機)だ」と陰口を叩かれる不遇の機体でした。
肝心の戦果ですが、実用機が生産ラインに乗った時局は1944年。この頃の敵国ドイツはすでにドイツ空軍そのものが弱体化した上に夜間戦闘機の出番そのものが減っていました。またヨーロッパ戦線ではP-51ムスタング、P-47サンダーボルト、モスキート、スピットファイアといった名戦闘機がズラリと並ぶ状況のため、P-61が活躍できる場は限られていました。また対日戦でもB-29に随伴するのはP-51、F6F、P-47といった単発戦闘機がほとんどでP-61が護衛戦闘機として出撃記録はあまり出てきません。夜間戦闘機として運用されるよりも戦闘爆撃機として使用されるケースの方が多かったのではないかと考えられます。
P-61の重武装と高性能の電子装備は夜間戦闘機としては世界最強クラスでしたが、対日戦終結後はジェット戦闘機実用化の波に飲まれ、早々と退役が進みました。その中でも偵察機として改装された少数の機体のみは朝鮮戦争にも運用されました。
性能諸元
全長; 14.91m
全幅; 20.12m
全高; 4.32m
正規全備重量; 12,519kg
エンジン; プラット&ホィットニー R-2800-10 空冷18気筒 2000馬力×2
最大速度; 594km/h
武装; 12.7mm 機銃×4(上部旋回銃座)+20mm 機銃×4(胴体下面)
爆弾; 最大2,900kgの外部兵装を主翼下4箇所の武装搭載点に装備可能
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