Cherry blossom

桜のようだと思った。
例えるならば、七分咲きの桜。
全てを明かしはしない、何かを秘めた様子がより美しく感じさせる七分咲き。

唯一、オレの意のままにならない桜――


「風ー吼」
「富良兎!?学校行ったんじゃなかったの?」
 平日の昼間に職場――宛内ドリームランドのオレのスペース――に、富良兎は突然現れた。
「今日は早く下校する日だったのよ」
 そう言って屈託なく笑っていた。
 きっと、意図的に前もって伝えなかったんだろうな。
「仕事、どぉ?」
「あ…んーと、ぼちぼち、かな?開園当初に劣るけど、平日でも結構人入るんだ。今の30分間でも20人くらいいたし。午後はもっと増えると思うよ」
「大変じゃない?それだけの人の夢を一遍に請け負うのって…」
「まぁ、ね。それでも必要としてくれる人達がいるから」
 年齢問わず、多くの人がストレスを抱えている。ストレスを受ける機会が多くなったことよりもそれを発散する場が少なくなっていることの方が深刻なんだろう。それがまたストレスとなり、どんどん蓄積されていく。
 最初は小さなものでも、それくらいどうってことないと言われるようなことでも溜め込めば心にゆとりなんてなくなる。
「でも…アトラクションでの、短い時間ではそんなに効果をあげられはしないんだ。ホントに気休めくらい。その場限りのものばっかり。それでいいのかなって最近ちょっと考えてるんだ……」
 言ってしまった後でハッとした。
 こんな愚痴っぽいこというつもりなかったのに。こんな情けない所見せるなんてかっこわるい。
 なんとか誤魔化そうと口を開きかけた時、富良兎がオレの手を握って引っぱった。
「ちょっとついてきて」
 ただ一言、ふわりとした声でそう言って。

 詳しい説明のないまま、富良兎はオレを手を放さずにドリームランドの敷地の中を進んだ。
「ね、ねぇ富良兎!一体どこに……」
「もうすぐそこよ」
 客の少ない裏道を抜けて一気に視界が開けた。
 いっぱいの光の中、オレの目にほのかに赤く色付いた小さな光が映った。
「…花びら?」
「風吼。あれ見て」
 そこには、桜の大木が満開の花を抱えて立っていた。
「オレ…何もしてないよ?」
 他にもたくさん言いたいことがあったような気がしたのに、オレはうまく言葉がでなくて妙なことを口走ってしまっていた。
 花びらを舞わせている風に目を細めながら富良兎はオレに言った。
「あれはね、自分の力で咲いたの。今、春だもの。ねぇ、もうちょっと傍に行ってみましょう」
 言われるままに桜に近寄っていき、天を仰いだ。
 桜色のカーテンの合間から暖かな陽がこぼれ落ちてくる。
「いつの間にか春になってたんだ……」
 桜だけではなく、ほかの草木もそれぞれの春を表現していた。その景色はとても華やかで、眩しいほどだ。
「毎日、自分で春の陽気を作り出していたから気付かなかった」
「風吼」
 呼ばれて振り向くと、富良兎が隣で地面にペタッと腰をおろしていた。
 彼女は右手をそっとオレの方に差し出して、微笑んでいる。
 なぜだろうか、言われもしないのにオレはメットをはずし、腰を屈めて彼女の膝に自分の頭の重さを委ねた。
「アトラクションの方は、アリスちゃんに頼んでおいたから少しくらい休んでも平気よ」
「富良兎…いつから考えてたの?こうすること」
「そうねぇ…雪が解けた頃あたりからかしら」
「オレ、そんなに大変そうに見えた?」
 富良兎は優しく頭を撫でてくれた。真白な柔らかい羽毛が触れるように、ちょっとくすぐったく。
 それから、片手をオレのまぶたの上に乗せた。細い指のその隙間は鮮やかな赤色を帯びていた。
「今は何も考えなくていいから、おやすみ…」

 目を閉じると富良兎の温もりがよりはっきり感じ取れた。他の誰でもない、大好きな人の温もり。
 ただそれだけで嬉しかった。
 オレにとっての最高の桜……オレに春を運んできた少女。
 今この時だけは、オレだけのためにいてくれてるのだろうか?
 ねぇ富良兎…このままずっと眠っていちゃだめかな……?


終わり


一発書きゆえに。まとまりってナンデスカ?(撲)
風吼→富良兎…のハズです。くっついてもいいかなくらいの心持ちではいましたが、富良兎の最優先事項は対話篇だと思うので両思いってのは無理でした。たぶん…富良兎にとって風吼は弟みたいに思えるお気に入りの侵略者、なんじゃなかろうか?そんな扱いとなってます。
描写が全然足りないー(泣)心理も、情景もっ!何を表現したかったんだー……そしてこれはいつだ!?富良兎さん、まだ高校生なのか、進学したのか?…考えるのよそう(汗)
元ネタは以前参加したチャット。それに桜を合わせてみました。


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