一つの宗教の
一つの行事にすぎないのに
それでもその日は
街の雰囲気に押されて
愛する人と一緒にいたいと思う……
クリスマスに願うこと
12月24日午後10時 出井家。
紀世能は富良兎の姿を捜していた。
「ねぇ風吼。富良兎、どこにいるか知らないかい?」
「さっき出掛けたよ。…多分あいつの所っしょ」
「不満そうだね」
クスクスと笑われて風吼はさらにおもしろくなさそうに眉をひそめた。
「当り前っしょ。好きな子が他のヤツの所に行ってて
良い気がするわけがないっしょ。紀世能は平気なの?」
「そうだね、僕は……」
同じ少女を好いている2人。
自分の信念に真直ぐに生きる少女。
その瞳は決して自分達には向かないけれど
それでも可愛くて可愛くて仕方ない。
叶わないとわかっていても、諦められないほどに。
「紀世能は甘過ぎるっしょ」
曖昧な笑みを浮かべた彼に、風吼が言った。
「このままじゃ富良兎がここに
帰ってこなくなるんじゃないかって思ったりしないの?
オレは…それが不安っしょ……」
「いつかは出ていくだろうね、あの子は……
でもこの家を忘れたりはしないよ」
「それじゃ嫌だ!ずっとそばにいなきゃイヤだよ……」
語尾が頼りなく消えた。
「紀世能は兄だから…家族だから富良兎の特別でいられるっしょ。
でもオレはそうじゃない。やっぱり富良兎が欲しい。
自分だけのものにしたいよ」
「そんなことしたら、あの子はあの子でなくなってしまうよ」
「わかってるけどっ!」
「…その気持ちはわかるよ」
紀世能は軽く風吼の肩を叩いた。
「僕も、そうだったから……」
「え?」
ぽつりと呟いた言葉は、風吼には聞き取れないほど小さかった。
ただ、一瞬見せた紀世能の表情は懐かしむような、
それでいて寂しそうなものだった。
「紀世能?」
「なんでもないよ。それより……
富良兎は…あの子の自由にさせてあげよう。
あの子は僕らの手に納まるような子じゃないよ」
自ら試したわけじゃないのに妙に説得力を感じて
風吼は頷いてしまった。
紀世能がそれを笑顔で返した。
「さあ、皆を呼んできて。僕らは僕らでクリスマスをやろう」
「うん、わかった」
一つの宗教の
一つの行事にすぎないのに
それでもその日は
街の雰囲気に押されて
愛する人と一緒にいたいと思う
けれどそれは自分の勝手で
彼女を縛る鎖でしかないのなら
そんなものは心の中に封印してしまおう
今日という日が彼女に幸せを与えてくれることを願いながら
終わり
クリスマス。さすがに何もやらないのはどうかと思って作ったSS。でも振られ組のお話(笑)女の子、実際の出番なしですな。
だって紀元前の封神じゃまず無理だし、テツはバイトで稼ぎ時……いやあったんですけどね。テツフラでクリスマスネタ。ただいろいろと迷う所があって、その番外編のようなこれを。
詩のようにしようとしてますが慣れないことはするものじゃないです。
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