はじめ、突き刺さったのはあなたの視線。
 なにもかも見透かすように………射すくめるように至純がこの身を貫いた。

 恐れるように立ち向かえばその愚かささえ包む魂に目を奪われる。


 命の重さを知っていた。それは多分身勝手な定理で。
 ………それでもあなたはそれさえ認め、さらなる未来を指し示してくれるから。

 喉が、塞がる。

 見窄らしいほど拙い思考を、あなたはなお導くのか。痛みも傷もたったひとり請け負って。
 どうか…守らないで。
 私が…あなたを守りたいから。

 命でも肉体でもなく。
 あなたの意志と自由と清廉なる視線を守らせて…………………



泡沫の夢


 陽射しが瞼を射る感覚に微かなくすぐったさが附随する。肩には誰かのぬくもり。………ひとりくらいしか、想像も出来ないけれど。
 待っている間にいつの間にかうたた寝をしてしまったらしい自分にちょっとだけ自己嫌悪。溜め息を吐きそうになる所を…なんとか飲み込んで詰めた息をそのままにこっそり肩にもたれた人を見やる。
 思った以上に間近な容貌に一瞬胸が高鳴った。………我ながら純朴な反応で気が重いけれど………………
 いい加減…慣れてもいい筈なのだ。
 いつだってこうして肩にもたれて眠ってしまう思い人を知っているのだから。
 それでもなかなか慣れる事が出来ないのは…多分ひとえに自分が彼を敬愛し過ぎているからなのだろうとちょっと苦笑いを零してみたり。
 いつからだか……見慣れてしまったこの人の寝顔。
 思ったよりもずっと長い睫とか、いつもなら絶対に気づけないくらいのあどけなさとか。……多分、知っている人なんて他にいないんじゃないかと誇ってしまう。
 ………これでも知っているんですよ、爆殿?
 ちょっと心の中で囁いても当然ながら彼は眠っていて気づきもしないけれど。
 こうして…無条件で眠れる場所が彼にとっては稀少である事くらい、わかっている。用心深い猫のように…彼はあたりに張り巡らせた意識をなかなか緩和しない。
 私やピンクさんを信用していないとか、そうした事じゃない事も知っていますけど。微かな溜め息とともに思えば肩のぬくもりがその重みを増すような気がした。
 ………………緊張する事に、もう慣れてしまったんですよね。
 ひとりって自分で自覚したらもう、心休ませる事なんかできないくらい神経が際立ってしまう事、あるんですよね………?
 判る事ができる事を誇ってもきっとあなたは顔を顰めてしまうんでしょうけど……嬉しいんですよ、これでも。
 小さく息を唇から落として…ゆっくりともう一度深く息を胃の奥にしまい込んで。
 陽光の中霞むかのように溶ける彼の硬質な髪に少し恐れるように躊躇いながらも頬を寄せてみる。
 ………あたたかい。日の香りがして…少し笑みが漏れてしまう。…………起きて…ないですよね?
 眼下の瞼は揺れてもいない事にほっとして、改めてその香りと感触を楽しむように振動のないよう気を配りながら身を近付けてみる。
 ………………あ、爆殿の肩からピンク色が転げた……という事は…………
 コテン♪なんて弾むような音とともに芝生にダイブしてしまったジバクくんが一瞬しーんと倒れたままの格好で動かない。
 怒って……いる………?
 ドキドキしている間もなく起き上がって叫ぶのでは、なんて勝手な思いが先走って思わず爆殿の寄り掛かっていない左腕で捕まえてしまった………。
 しかもまるで目覚まし時計でも止めるような具合に。………これで怒るなという方がひどい話なので素直に謝罪を込めて小声で囁いてみる。
 「あの…スミマセン、ジバクくん………。大丈夫ですか………?」
 小さな声は少し掠れて多分聞き取りづらかっただろうけれど、こうしているわけくらいジバクくんも判るから、それに甘えるように視線と助け起こす指先だけで謝意を汲み取ってくれるように願ってみる。
 不貞腐れたような雰囲気を醸しながらもちゃんと汲み取ってくれた小さな指先は……けれどその鬱憤を晴らすためか思いっきり噛み付いてくれた………………
 痛い……ですけど。でも結局先に痛い思いをさせたのは自分だから我慢我慢。そう思いながらちょっと苦笑してじゃれるようなジバクくんの気晴らしに付き合えば、抵抗しない事に飽きたのかあっさりと解放されてしまった。
 ………やっぱりちょっとはやめろ、とか怒鳴った方がいいものなのだろうか。額を溶かしている相手だったら多分、こうしたコミュニケーションをとる事はとても自然に身についた所作なのだろうけど。
 改めて指先にじゃれつきはじめたジバクくんをあやしながら、ふと陽光に溶けた肌を見やってみる。………知らなかったものを、1つずつ教えてくれた小さな筈の子供はまだ夢の中。
 自分の視線の先に気づいたのかジバクくんが腕を辿って肩までやってきた。………くすぐったくて一瞬吹き出しそうになってしまったんですけど……………
 なんとか飲み込んだこそばゆさを我慢して、小さな掌がこっそり爆殿の額に張り付いた前髪を掬いとった。
 ………ちょっと…強過ぎる気もするんですけど……。でも起きてない…かな?
 まるで早く起きろと催促するようなジバクくんの素直さはちょっと羨ましかったり…するんですが。
 でももうちょっとこうしていたいとも思う自分の矛盾に少しだけ笑って、緩くジバクくんの指先を途絶えさせた。
 きょとんと見上げる無表情さ。少し、爆殿に似ている。愛しい自分のパートナーもまたその身の中に眠らせた聖霊を眇めた視線の中に溶かして…ゆっくりと指先を自分の口元に触れさせる。
 ジェスチャーだけで充分伝わる思いに少しだけ思案したジバクくんは頷き、まるで滑り台でも滑るような感覚でまた、私の腕を下りていった。
 どこに行く気かとその背を追って見れば……木登りにチャレンジしている。好奇心の旺盛さはいつまで立っても変わらないらしいと微笑ましく見やっていた視線を再び自分の間近に戻せば………あ、目があってしまった。
 って、それはつまりもちろん爆殿が起きてしまったというわけで…………!?
 一気に高鳴った胸と紅潮した頬を隠す術もない自分が恨めしい。慌てふためく様が如実に出ているだろう身体の跳ねも今更隠しようもなかったけれど…………
 「ば、爆殿? いつから………」
 起きていたんですか、なんて言葉も繋げられない。まるで過呼吸の金魚のような自分に少し落ち込んでもどうしようもなくて………困ったように見つめてみれば微かな笑みが浮かんでいる。
 「ジバクくんが肩から落ちた時……か?」
 思い出すような声はまだ眠いのかちょっとだけ幼い。耳の間近で聞き取れる微かな掠れ声の内容に一気に顔が赤くなった気がする。……自分で判るほどの熱が集まっているんだから絶対に赤いのだろうけれど…………
 けれどそんな事気にも止めていないらしい爆殿はのんきにあくびを噛み殺していたりして。……ちょっと悲しいかも……………
 でも随分眠そうな仕草に少し陽射しを見上げてみる。あたたかくて、回りは静かで。芝生は眠りを誘うような気がするし、風まで子守唄を歌う気がしてくる。
 こんな中じゃ眠くなっても仕方ないですよね?
 ぽんと爆殿の目の上に静かに掌を重ねて、光が刺さないようにしてみる。
 それだけでもちゃんと意図に気づいたらしい眉の顰めた具合にいつも驚かされる。でも、言わないのは多分…私が戸惑うのを懸念して、なんですかね?
 「まだ時間もありますし…もう少し寝ていて大丈夫ですよ?」
 ジバクくんもいま遊びはじめた所だから調度いいと思いますし。
 ………もう少し、このままでいたいから…なんてことは内緒なんですが。
 提案に微かな苦笑を感じて目を向けて見れば微睡む視線が宙を彷徨っている。……こんな姿を見ていると自分の方が年上なんだ、なんて当たり前のことを随分強く感じてしまう。
 いつもあんまりにもこの人は幼さをひた隠しにしたがるから、気をつけないと見失ってしまいそうになる。零してくれるそんな拙さを大切に汲み取れる事に感謝しながら、囁く声に耳を澄ませて見れる。やっぱりこの音は心地いい。………深く自分の心をくすぐるから。
 「お前の傍にいるといつもだな。………なんで…眠くなるんだか………………」
 どこか悔しそうで…不思議そうな声。本当にわかっていなくて、怪訝そうな響きに思わず口元が笑みを象ってしまう。
 気づいて…いないですね。それって最高の賛辞ですよ?
 私の傍が安心出来るって…そういう事でしょう…………?
 眠っても大丈夫だって。意識を手放してもいい場所なんて…本当に少ないのに。それでも自分がいればそう出来るなんて……………どれほど深い信頼だろう?
 ほんの些細な一言でここまで幸せな気分になれるのだから自分もいい加減現金だと思いながらも、愛しさが枯れるわけもない。
 落とされた瞼の先、夢見る世界を見つめる事は出来ない。ちょっと…寂しくても構わない。こうして眠る時間を守る役目を無意識に自分に課してくれるから。
 肩に溶けるぬくもり。……あったかい、なんてもう遥か遠い記憶だけだったのに。
 思い出させてくれたのはあなた。だから…傍にいさせて下さい…………?
 瞼に溶かせていた指先を頬を辿って落として……こっそりとその唇に触れてみれば微かな音で自分の名が囁かれて。
 …………満たされた思いに、視界が霞みそうになる。駄目ですね、まだ私はあなたに救われたがっている。
 そんな狭い定義なんて関係なくあなたを知りたいし…私を知って欲しいのに。
 落ちかけた涙を隠すように爆殿の髪に頬を寄せる。胸いっぱいにその香りを吸い込んで……瞼を落としてみれば不思議なほど心が安らぐ。

 まだ自分もあなたも歩み方も進む速度さえもチグハグで、時折絡んでいたはずの指先を見失いそうになるけれど。
 それでも、大丈夫。
 まだまだ道は長いから………それをお互い知っているから。
 ゆっくり、寄り道をしながら不器用に進みましょ?

 だってほら。
 閉じた瞼の先、広がる世界にあなたは必ず笑んでいるから………………



 鋭く射抜かれた視線が……いつからか心地いいと思った。
 恐ろしいものではなくて。……自分を知ってくれるのだと、感じた。
 だから受け渡して近付いてみれば躊躇うような気配に苦笑する。

 ……不器用な拙さ、お互い様。
 だから一緒に歩みましょう。
 誰にも邪魔なんて、させませんから………………………



 


 キリリクHIT、カイ爆で「カイ一人称」! 更に矢井田瞳の「手と涙」のイメージでv
 ………………結果。………あまったる…………

 …………ふっ。思った通りにくさいわ!!!
 なんでそこまで真面目に気障なセリフを一人称で思えるんだカイ!!!(汗)
 でもなにより問題なのは。
 ………………そんなカイしか書けない自分ですね(遠い目)

 私は基本的に一人称=ギャグ、な人間です。
 なもんでこれかなり神経費やしたんですよぉ(涙) でもそれでもこんなカイ。恥ずかしい奴………
 でもちょっと目指したもの。……爆と対等の意識をできる限り持っているカイ。
 半ば成功。半ば失敗。所詮はうちのカイ(きっぱり)
 ちなみに書きたかったシーン→爆の「お前といると〜」の所です。
 安心出来る場所は起きていたくても眠くなるのです。…………だからって毎回毎回寝てしまうのもどうかと思うけどね………(改善しなきゃいけないのはわかっているが治らん)

 この小説はキリリクをくれた草原恵ちゃんに捧げますv
 なんでこんな甘いというか…バカップルなのかは聞かないでやって下さい。
 後悔しても私は知らない(きっぱり)



■個人的に「手と涙」はカイ爆ソングなのです。えへへ。
■このお話がやたらとこっ恥ずかしい気がするのはカイ語りだから、だとは思いますが。…そうやってリクしたのは紛れも無く私。いやはや、予想以上の状態で嬉しいですよ(嬉しいのか)ありがとせせねー!!