やわらかく咲いたそれは華。
自分のために華開いた花弁に口吻けたなら恥じらうように俯いた。
ねえ、顔を見せて…………?
ちっぽけな自分のために、それでも華開いた花弁よ。
触れさせて。口吻けさせて。
…………あなたの傍に、置いていて。
誓うように祈りを込めて囁いたなら返される苦笑と誇り高き視線。
あなたの背を支えられる者であれるように、また一歩先へ……………
………………あなたの背が、見える場所まで駆け寄っていく。
逃げる事なく待つわけでもなく。それでも佇むその背へと……………
祈りと誓いと抱擁と。
軽い溜め息が間近で聞こえる。
自分もまた同じ心境だけれど…幾分気分が軽いのは多分立場の違いなのだろうけれど。
…………ちらりと見やってみれば眉間に刻まれた深い皺が子供の苛立つ内心をよく表していた。
厭うという事をあまり知らない子供がここまではっきりとした感情を示している事も珍しい。子供がそこまで嫌であるなら…いっそこのまま逃げてしまおうかとちらりと物騒な事が頭の片隅を過った。
正直…自分も特に乗り気なわけではないし、嫌だと子供がいうのであればこのまま逃げてしまっても一向に構わない。後々叱責されるのはおそらく自分ひとりであろうし、予測出来るその言葉の嵐を耐えられるのであれば一向に問題はなく思えた。
だから視線があった瞬間…小さく帰りますかと囁こうかと……思ったのだ。
子供は自分が責められるだろう事を理解しているから敢えて逃げられるなか逃げないでいてくれるわけだし、その気遣いさえ大丈夫だと示したならきっとその顔も晴れる。
………鬱屈とした表情より、やはりいつものように不敵である方が子供らしいから…少女の叱責くらい構わない。
構わない……の…だが。
見事なほど自分達の心境を看破している監視者がそれを阻んでくれている事も否めなかった。
勘のいい少女の明るい声がどこか楽しげに弾みながらからかいの言葉を口にしても、止める事も出来ない自分もどうかと思うのだけれど…………
「あらー? なによ爆。眉間に皺寄せちゃって。あんまり嫌がると化粧もするわよ?」
「………貴様………どこまで嫌がらせをすれば気が済む………」
ヒクリと子供の頬が引き攣る。
子供の性格からしてかなり現状を甘受するために精神力を使っている事は判る。
人一倍プライドの高い子供が…正直見せ物じみた児戯に頷くとは思わなかった。どこか少女に甘いと少しだけ苦いものも込み上げるけれど…そんな子供に惹かれたのだから結局は詮無き事。
なんとか逃げようとするだろうかとことの成りゆきを見守ってみればどう見たって形勢は子供に不利だ。
我が侭をいう気でいるものと、それをできるだけ叶えようかと悩んでいるものが言い争ったところで結果は目に見えている。
もっともその内容にもかなりよるものだと思うけれど…………
それでも強く出られない事は多分に子供にも少女への申し訳なさがあるからだろうと少年は少しだけ笑んで二人を眺めた。
………正直、本当にどうでもいい話なのだ。
自分にとってどれほどの意味があろうと、端から見たならなんてことはない日常の一部。
世界を放浪しはじめた子供は滅多に掴まる事はなくて…けれど時折思い出したように戻ってもきて。いまは故郷に戻っていると聞いて…………顔を見に行こうかと思いながらも師の言い付けに忙殺されて訪ねるにはあまりに失礼な時間になってばかりいた。
そうしたなら、子供は珍しく自分から家の戸を叩いてくれたから。
…………たまたま久し振りに子供に会って、たまたま紅葉の綺麗な時期だった。
折角久し振りに会ったのだから、せめてもと必死で考えたのだ。
だから…自分の知る山の隠れた名所に一緒に紅葉狩りにいっていただけだった。
そうしたなら少女はやっぱりたまたま子供の家に遊びにいっていて。けれど留守だったと帰ってみれば調度帰り道に出くわしてしまった。
散々詮索された結果………何故かひとり除け者にされたと拗ねてしまった。
勿論自分達にそんな気はなく、まして邪推されているような事もない。
………がしかし、これ幸いと少女は自分達をおもちゃにする事を選んだらしい。
落ち込んだ少女の小さな我が侭くらい叶える事を厭うはずのない子供は………けれど指し示された衣装を目にした瞬間誰にだって判るほどはっきりと顔を顰めた。
自分に投げ付けられた衣装はまだ……いい方なのだろうと子供の拒否具合を観察しながら溜め息を吐いた事も否めない。
言い争いが段々とエスカレートをはじめているなか、黙々とひとり着替える。着替えを渋る子供とは勿論早さが異なり、下衣を脱ぐに至ってさすがに少女の前での着替えに抵抗を覚えてアコーディオンカーテンの奥に身を滑らせれば抵抗をはじめたらしい子供と阻止しようとする少女の騒ぐ音が響いた。
…………部屋が破壊されはしないかと一瞬疑いたくなる騒音に肩を跳ねさせながら恐る恐る顔を覗かせてみる。
普段とは打って変わって余裕のない…僅かに紅潮した顔で子供が少女に食って掛かっても軽くあしらわれるだけで。まるで姉弟のような二人の姿に軽く息を吐けば……再び同じ文句の言葉が耳に触れた。
「大体! なんで俺がこんなもの着なきゃいけないんだっっっっ!!!!」
そうして指し示された衣装は………確かに子供の着るものではない。
ふんだんに布を使ったゆったりとした布地の流れの先、髪に結ぶためらしいリボンの軽やかな鈴の音が響く。
それは少女が手習い先で作った婚礼衣装。……つまりは結婚式用の物だが…なにより問題はいま少年は男性用を身につけているという事。
体格差から考えていくらなんでも自分が少女の体格に合わせて作られた衣装を身につけることは不可能で……自然その役目は子供に回されてしまった。
口を挟む余地もなく滞りなく押し進めた具合からいって、多分多少の計画性はあったのだろう。この男性用の服を自分が着るという計画でない事だけはよく判るけれど………
どこか重い溜め息は自分以上にこの衣装を着て並ぶ事のできる可能性を秘めた少女への羨ましさだろうか…………?
もっとも、だからといって現状を楽観視する事もただの幸運で済ます事も出来ない。
活発な少女らしく全体的に動き易さを重視されてはいてもやはりそれなりに夢がある。
…………男が身につけるには抵抗を覚える子供の心理もよく判るため下手な口出しも出来なかったけれど。
そんな自分達の心境などお構いなしに少女の明るい声が絶対的なまでに響いた。
「決まっているじゃない。私、力作は全部モデルに着せて写真撮っているからよ!」
身も凍るたった一言に一瞬子供の思考回路が氷結した。
動きのなくなった人形のような子供を見つめ、ふうと溜め息を吐くと少女は至極あっさりと現状を認めて子供の着替えを手伝いはじめるのだった………………
複雑な面持ちの少年は手を貸すべきか否かを悩みながら耳に響く大音響の復活に頭を悩ませるのだった………………
「まったく……あいつには女としての恥じらいはないのかッ!?」
「まあ………ないかもしれないですね………」
特に子供に対してはという言葉は飲み込み、少年が苦笑して返せば不貞腐れたように子供の唇が引き結ばれる。
…………あのあと、少女の言葉による硬直が溶けて我に帰ってみれば危うく下衣まで着替えさせようとしている所だったのだ。言葉もなく引き剥がしはしたが、まったく少女は悪びれもしないし気にもかけていない。
いくら自分が幼く見えるとしても男である事に代わりはないのだから…それくらいの尊厳は気遣って欲しいと深く溜め息が出る。
お互い着替えさせられ…ついでに何故か小さな撮影会までさせられる事にいつの間にか流れていて……………結局拘束されたまま同じ部屋のなか少女が再び現れるのを待っているのもどこか滑稽だった。
いっそこのまま逃げてしまおうかとも思ったのだが…………
「あ、爆殿。お茶でも飲みますか?」
立ち上がった少年を見上げればジャラリと音を奏でる鎖。
…………逃げないようにとにっこり笑んだ少女はあっさりと少年に首輪までつけていってしまった。
子供につければ子供自身が多少の怪我も覚悟して引きちぎる可能性が高いが、少年につければその危険性がほぼ皆無になる。
懐に入れた相手に甘い事を理解している少女の対応に苦笑を零すが、今更多少加わったくらいで騒ぐ気も起きない。結局着させられたのだから、もう自棄になったともいえるかもしれないけれど……………
室内を歩く少年の足音とともに鎖と紐が引きずられる音も響く。それに溜め息に近い吐息を落とせば肩の聖霊がたったとその音に従うように駆け寄っていった。
なにをする気かと思って見やってみれば紐の先を掴んでニカッと笑う。………まるで自分の飼っている犬の自慢でもするような様子に一瞬頭痛が襲った。
それは少なくとも聖霊のものではない。………浮かんだ考えに子供が驚いたように目を瞬かせた。
じゃれつく聖霊をあやしていた少年がふと子供を見やれば目元が朱に染まっている。………どうかしただろうかと訝しんでみれば唐突に立ち上がってこちらへと歩み寄ってきた。
予測出来ない行動を不可解そうに眺めてみれば不貞腐れた面持ちの子供はそのまま二人を無視して茶箪笥の上にある茶筒をとろうと腕をのばした。………が、思いのほか高い位置で少しだけ足りない身長に…なんとなくいま身につけている衣装が原因のような、よく判らない憤りが生まれる。
自分でもおかしいと思いながらも原因を探す事を放棄した子供は身近にあった椅子を使おうかと足をかけた。
…………と同時に、バランスが崩れる。耳に響いた聖霊の慌てた鳴き声と少年の自分の名を叫ぶ声、それになにかがぶつかりあう鈍い音。それらを妙に冷静に受け止めて、襲うだろう痛みを覚悟すれば…………フワリとした感触が身を包んだ。
耳の間近で、深い吐息が吐かれる。
「爆殿…………先ほどピンクさんが椅子は粗大ゴミに出すやつだといっていたでしょう………?」
座るならソファーにしておけと確認していった少女の言葉を思い出させる少年の囁きに、そんな事を言っていたかどうか覚えていない自分の鬱屈が思われる。
なんとか抱きかかえてくれたらしい少年は…多分下肢のどこかは確実に痣つくっているだろう。耳に響いた音はそれをつくるに充分足るものだったのだから。
どこか上擦った、声。
痛みさえ忘れたような少年の意識はまっすぐに自分に向けられていて…怪我など欠片もしていない身には少しだけ申し訳なさを感じさせる。
高く響いた鈴の音がゆっくりと静まり、静寂のなか焦ったらしい少年の息遣いが耳に響く。
そんななかを聖霊の小さな足音が横切り、子供を気遣うように肩までよじ登ってきた。………その小さな手のなかには少年と繋ぐ鎖の先を包んだまま。
それを視界に入れればまた湧き出る、馬鹿みたいな感情。
なんとはなしに理解しながら……それを拡散させるために不貞腐れた子供の声が優しく少年の長い耳に注がれる。
「ジバクくん……それは俺のだ」
差し出した指先のなか心得たように渡される紐。しっかりと掴んだ子供は認める事が悔しそうに不貞腐れた顔を醸すけれど。
………それでもその身は静かに腕のなかに佇んでいてくれるから。
至福に濡れた笑みを讃えて堅く抱き締めれば………どこか優しく鎖の音が響く。
包み返してくれる小さな指先を思って捕らえられたその身を誇るように少年が微笑んだ…………
というわけで……擬似結婚式。……にすらしない自分に拍手v
まあみんなわかっちゃいただろうけどね。私が結婚式書くわけないじゃん。ギャグでもないのに!
いや初めはね。正直いって……カップリングにすらしないでおこうかなーと思ったんですが。
恵ちゃんへの返礼で……ねえ。カイ爆じゃなくしても(むしろピン爆になる)と思って変えました。
あっはっは。なんでこんな甘くなったんだろ………………
ちなみに。…………嫌がるでしょう、普通。
嫌だと思った格好写真に撮られるとわかったら(遠い目)
ちょっと書きながら爆の気持ちを察してしまえた自分が悲しかったですv
…………………まあ強く生きろ、爆…………
ちなみにちょっとおまけ。
ピンク「あれー、これいつ撮ったの?」
アリババ「ん? ああ、これ? さっき声かけに行く時よ♪」
ピ「これの方がよさそうじゃない、あげるやつ」
ア「そうねー♪ でもこんなイイシーン…なんかむかつく」
ピ「まあ誕生日だし……今回くらいはあの馬鹿立ててあげますか!」
ア「ピンクってば太っ腹v でも今度私にも着せてね。爆とペアでv」
ピ「…………あんた…女物着る気?」
つうわけで、カメラマン(?)はアリババでしたv
■…いや、そこはかとなくギャグだよね…(笑)恥ずかしさも色々通り越して笑いが止まらないカンジ!
■コレも、イラストの方はこちらには展示してません。
■カメラマン。こういう騒ぎに付き合ってくれそうなのはアリババくらいよね。もしくはルーシー?