ボタンの掛け違い

 

「なぁ、訊いてもいいか?」
 と、乱丸が切り出した。
 ここでダメですと言ったら、この人とても困るだろうなーと思いながらもカイはいいですよ、と返した。
 バイト先の横のファーストフードで、晩飯とも昼食ともおやつともとれない食事を取った。つまり、朝、バイトに来る前で家に食べて以来、ご飯を食べてなったのだ。
 まぁ、休日は混むから仕方ないのだが。
 乱丸はつい1ヶ月程入った新しいバイト仲間だ。学校も同じで、去年カイと同じクラスだった。
「や、俺は信じてないんだが……」
「おいおい、一体どんな内容だよ」
 難しい顔で言いよどむ乱丸に、ハヤテが突っ込む。
「じゃ、言うけど………」
 くるくるとプラスティックのスプーンを回す欄乱丸。
 カイは紅茶を啜る。
「カイ………。お前。
 デッドと付き合ってるって、本当か?」
 …………………
 ぶふほぅっ!とその一角は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

「なんっ、なんっ、なんっ!!!」
 おそらくは、”何でそんな事を言い出すんですか!!”と言いたいカイ。
「だからッ!俺も信じてないと言ってただろう!!お前、爆が好きだもんな」
「えぇ、大好きですよ、愛しちゃってますよ。ここの窓開けて外に向かって叫んでもいいくらいです!!」
「あー、それは今度俺の居ない時に」
 言いながら、カイの生み出した惨状の後始末をする乱丸。ハヤテが居ないのは、直撃したから顔を洗っているのだ。
「何でそういう事になっちゃってるんですか!?私の業はどんな具合に深いものなんですか!!」
「ちょっと話を聞いてみたんだが……ちょくちょくお前らが一緒居るから、それを見た子が勘違いしたらしい」
 確かに、デッドとカイはよく一緒に居て一緒に話をする。
 会話では無い。断じて。
 だいたい一緒に居るのだって、デッドがカイに爆へ近づくのを阻止しているからだ。
「そんな……そんな」
 あまりと言えばあまりな事に、カイはひたすら瞠目する。
「私は……私は爆殿が好きなのに!好きなのにぃぃぃぃぃぃぃぃッツ!!」
「……愛を叫ぶなら世界の中心だけにしろ」
 紅茶から解放されたハヤテが席に着く。
「どうして他の人と噂になんて………」
 しくしくと泣き出すカイ。こいつ、まさか紅茶で酔ってんのかと思うハヤテだ。
「噂と言うか、人見せパンダというか……皆、他人の恋愛で好き勝手はしゃぎたい年頃だからな」
「自分のじゃ、あまり軽くはなれませんからね」
 納得は出来るが……符には落ちない。
「どうして、デッド殿なんですか………爆殿とでしたら、両手挙げて大賛成なのに……サービスもしてあげるのに………」
 爆がこの場に居たら確実に蹴られる事を呟くカイだ。
「……をーい、俺を前にそんな事、言うの、お前は」
 少し憮然として言うハヤテ。
「え、どうしてです?」
 本気できょとんとするカイ。
「……乱丸、こいつどうしちゃおうか」
 こめかみを引きつらせながら、横の乱丸に言い掛ける。
「え、何でだ?」
「………………………」
「嘘ですよ、ハヤテ殿はデッド殿が好きなんですよね」
「でもあんまり相手にされてないから、うっかりすると忘れがちだよな」
「しッ!乱丸殿!そんな事言っちゃだめですよ!真実が一番胸に深く突き刺さるんですから!!」
「………………………」
 ”涙が出ちゃう、だって男の子だもん”----そんなフレーズが頭を過ぎった。
「----ところで」
 カイが言う。
「物凄く重要な事ですが……えー、爆殿はこの事は………」
「俺の知る限りでは、聞いてないようだけどな」
「デッドも?」
 これを聞いたのはハヤテ。
「あぁ」
 あくまで、乱丸の知る限りだから、知らない所で聞いてる可能性はたっぷりある。
 どうか聞いてませんように!と2人は神に願った。

 

「あぁ、聞いたぞ」

「知ってますよ」

 ゴズン、とカイとハヤテはそれぞれ別の場所で電信柱に頭を打ち付けた。
 2人は神様の存在を信じなくなった。
 まずは、カイと爆。
「お前に会いにスタッフ控え室とかも行くから、その時小耳に挟んだ」
「そ、そ、そぉですか………」
 カイの頭の中で「ヤバいマズいどうしよう」という言葉のみひたすらちかちかとリフレインする。
「あ、あのですね、爆殿!!」
「そんなに必死にならんでも、ちゃんと解ってるから」
 苦笑して、カイを宥める爆。
「どうせ人の噂だ。いちいち振り回されてたら、身が持たんぞ?」
 と、悪戯にカイの胸にぽん、と拳を打ち込む。
「爆殿…………」
 叩かれた箇所から、温かいものがじん、と広がる。
 そしてその後爆に抱きつき、現れたデッドに後頭部をどつかれた。

 

 そしてハヤテとデッド。時を少し遡る。
「知って……たのかよ!」
「何か不都合でも?」
「不都合って、だってよ」
「特に実害もないので、わざわざ相手する程ではないですよ」
 本当に事も無げに言うデッド。
「あるだろ、お前とカイが噂になって、俺も傷つく爆も悲しい」
「……そうなんですよね、爆君の事です……」
 俺は?と言っても聞いてもらえない事は解ってるので、言わないハヤテであった。
「このまま放っといてもいい訳でもありませんし……無責任な流言飛語に爆君が傷つくなんて、絶対あってはならない事です」
「じゃ、何か手を打って」
「……ですが………」
 苦渋を舐めるような表情でデッドが言う。
「解決した場合、一番喜ぶのがカイさんだと思うと………!!」
「……………」
 何でデッドはここまでカイを嫌うんだろうな。まぁ、俺がデッドの立場だったら強ち解らない訳でもないかもしれないけど。
 ハヤテがそこまでつらつら考え、ふと横を向くと。
 そこにデッドの姿は無くて。
「……………」
 今頃、カイをどついてるんだろーなーとハヤテは遠い方角へ視線を投げた。

 

 その夜。
 風呂から上がって、フルーツはいるか、という炎の申し出を断り、自室へ戻った爆。
 ふう、と温まった息を吐いて、ベットに腰掛ける。
 ふと携帯電話を開いて、メール受信の履歴を見てみる。
 ピンクや両親、そしてカイからのメール。
 読み返して、その内容に苦笑する。会う度に好きだ好きだと言ってるのに、どうしてメールでも言うんだろう。
『だって、どれだけ言っても足りませんよ』
 いつか、それを問えばそう返して来たっけ。思い出して、苦笑が微笑に変わる。
 そして。
(………こんなに、オレに好きだって言ってるカイなのに)

 デッドと並ぶと、恋人同士に見間違われるんだな。

「…………………」
 眉を自分でも知らず顰めて、携帯電話を閉じた。
 別に、そんな事はどうでもいいんだ。そもそも、自分達がそうなのだと、はっきり言ってないのだから、間違えても可笑しな事じゃないし。
 どうでもいい。
 どうでもいいんだけど。
 ただ、ちょっと。
 そう、自分じゃなくて、残念だな、と思うだけ。

 

<続く>

 

 

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続いた!いや話長くなりそーだと思ったし!
次で完結……あるいは3部作?

乱丸も出て、ますます草原殿好みな話となりましたとさ。
鈴村〜。

リク内容は「カイ&デッドに嫉妬する爆&ハヤテ」
えぇい無理な事ばかりを。あの2人の何処に嫉妬しろと!!

色々頑張ってます。




■ええと。11039といういっそ私にしかキリ番にならないような数字を踏んで書いて頂きました。ハヤテデッドでカイ爆。もはやデフォルト。
■折角数字の並びがアレなのだから、爆&ハヤテとカイ&デッドで展開してもらおうとする相変わらず極悪な草原さん。
■…っていうかさ。私と鈴村が何だと(笑)いや、嫌いじゃないですよ?鈴村くん。神谷と鈴村で某双子。