最近この人が、している時の顔を見られるのを嫌がっているのが分かった。

 嫌だとか言われた訳じゃない。明確に言葉にして伝えられたわけじゃないけれど、初めてからもう、両手じゃ足りない回数を重ねている。始めは余裕なんてなかった俺も、やってる途中の顔を楽しめる位にはなってきたから、さすがに気付く。
 まず絶対隠す。力が入らないくせに、腕で顔を隠してしまう。見たくてどけようとしても、そこは男だ。絶対に力を緩めてくれない。昨日した時なんか、かたくなに隠すから俺も意地になって喧嘩みたいになって、セックスしてた事なんて忘れて力比べみたいになってしまった。これがまたなかなか勝負がつかなくて、怒った蒼葉はバタバタと服を着てそのまま帰ってしまった。俺が蒼葉より弱いわけがない。蒼葉相手だと、力が入らないだけだ。
 そんな感じで蒼葉が俺を放置して帰ってしまってから、ずっと上の空ですごしてたらもう次の日になってて、いつも見舞いに来てくれる時間になってるわけなんだけど。問診とか来たっけ。知らね。
 どんな理由にしろ蒼葉を怒らせてしまったのは悪いと思っているから、一応謝りのメールは送ってみた。人にごめんなんてメール送った事ないからよくわからなかったけど、まあ気持ちは伝わっただろう

 だって、見たいんだ。蒼葉が俺ので、気持ち良くなってる顔が。ちゃんと射精してるから気持ち良くないわけじゃないんだろうけど、これだっていう決め手がほしい。
 きっと可愛いのに、蒼葉のいき顔。なんで隠してしまうんだろう。俺と蒼葉の間に隠しごとなんて、ナンセンスじゃないか。

 色々と考えていると、聞きなれた足音が廊下を歩いてくるのが分った。聞き間違えるわけがない、この足音が日々の楽しみなんだ。そしてこのドアの前まで来て遠慮がちにノックをした後、ドアを開けて、青い髪を揺らして、ノイズって呼ぶんだ。
 ん?入ってこない。ドアの前まで足音が来たのは聞いた。だから絶対にドアの前にいるのに。多分蒼葉の事だから、昨日の事を気にしてるんだろう。俺はその事について、アンタと話があるんだ。

「入らないの」

 大きな声を出したわけじゃないけど、ドアのすぐそばにいる人間には、絶対に聞こえただろう。こちらから声をかけてあげないと、きっとこの人は寝てるんじゃないかとか理由を付けて帰ってしまう。
 ゆっくりとドアが開く。どういう顔したらいいか分らないって顔してる。怒ってるけど、それだけじゃない。よく見なければわからないけど、目元が腫れてる。昨日あれから、泣いていたのかもしれない。
 胸が痛くなる。辛いんじゃない、これは俺がこの人の事が好きだからだ。こんな落ち着かない気持ち、アンタと会うまで、知らなかったのに。

「メール、見た?」
「み、た……」
「こっち来て」
「あのなあ!」

 急にがばっと顔を上げられて、こっちが驚く。さっきまでの俺が喋るまで喋らない、みたいな態度はどこへ行ったんだ。本当に見ていて飽きない人だと思ったけどそれは言わないでおく。

「ごめんの三文字だけメールで送るやつがどこにいるんだよ!俺あれからすげー悩んだんだからな!」
「悩んでくれたの?俺の為に?」
 うっとたじろぐ蒼葉に、頬が緩みそうになる。これはきっと悩んでくれたな。涙が出るほどにたっぷりと。俺の為に。嬉しい。慣れないメールは、成功だったらしい。
 なんだか逃げ出してしまいそうな顔をしているので、手をぐっと掴んで捕まえておく。自分の気持ちも伝わるように、しっかりと、でも優しく。人の手を握る力加減だってアンタが教えてくれたんだ。
 俯いた蒼葉の肩が、震えてる。怒っているのかと思ったら、そうじゃないらしい。もしかして、泣いてる?

「蒼葉、」
「き、気持ち悪いだけだろ、男のいき顔なんて……」

 ひく、と蒼葉がしゃくりあげる。辛くて泣いてる訳じゃなくて良かったっていう安堵と、そんな事で悩んでいたのかっていう最高の呆れが混ざって、ふっと肩の力が抜ける。あと、ちょっとムカっときた。

「蒼葉、俺前にも言った」
「なんだよっ!」
「俺が見たいのは男のいき顔じゃなくて、蒼葉のいき顔なんだけど」

 がばっとまた顔を上げた泣き顔が、みるみる赤くなっていく。あ、その顔可愛い。この人は、俺が人のいき顔ならなんでも見たがるとでも思っているんだろうか。きっと蒼葉は、そんな事で本気になって悩んでいたんだろう。自分のいき顔が気持ち悪いから見せたくないって?冗談じゃない。

「俺は、蒼葉の顔ならどんな顔だって見たい」
「っ……」
「だから、いく顔見せて」

 俺より何倍も人の心を読める癖に、こういう時は言ってあげないと分らない。それだけに、俺の気持ちを言葉で伝えた時、すごく可愛い顔をする。本当俺、アンタのそういう所、好き。とどめだって言うみたいに、手の甲にキスしてやる。こっそり見た顔は、

「……マセガキ」


もう、泣いてはいなかった。




「あ、あっ!」
 いつもよりゆっくり腰を動かすと、上に乗っている蒼葉の中が足りないってヒクヒク動く。あんな事があったせいか、いつもより締め付けがきつい。そんなに締められたらいっちゃいそうなんだけど。

「昨日、最後まで出来なかったから……嬉しい?」
「ば、ばかぁっ……うあっ」

 乳首をきゅうっとひねると、いやらしい腰がくねる。蒼葉のやらしい姿をしっかり目に焼きつけながら、下から突きあげてやる。ぐちゅぐちゅと鳴る音を蒼葉ははじめ気にしていたけど、次第にそれも気にならなくなったみたいで、今はただ快楽に身を委ねている。
 俺は誰に見られても気にしないけど、蒼葉は気にすると言っていた。それって、誰かが入ってきそうなスリルに盛り上がっちゃうからじゃないの?とは、言わない。

「ひ、俺、俺……もうっ」
「蒼葉」

 俺の腹の上に置かれた手に、手を重ねる。俺の視線で、何が言いたいか分ったみたいだった。負けたって顔をして、また腰を振り始める。ちゃんと顔は、隠さないままで。

「あ、も、もういくっ……あーっ!」
「!!」

 びゅるっと蒼葉が射精した精液が俺の身体に散ったのと一緒に、俺もドクドクと蒼葉の身体の中に精液を吐き出す。はあはあと荒い息をしている蒼葉の肩に、顔を埋める。不覚。こんなの反則だ。
 だってあんな、えっろい顔してたなんて。そりゃ最中の顔だってくるもんがあるけど、あれはやばい。あんなのずりいだろ。いくなって方が無理だ。あんな顔隠してやがっ

「……ん?ノイズもういっ」
「うあーーーーっ」
「うぇ?!はんっ!」

そっからはもう、誤魔化すためにっつーか恥ずかしくて散々抱きまくってやった。





20121217

←back to top