目を開けると、見慣れた天蓋が目に入った。
 だるい身体を起こして、身体に掛けられたシーツをどける。モノトーンで統一されたこの部屋に来てから、一体何日経っているんだろう。
 ああ、考えるのが面倒だ。眠たくはないけれど、気だるく身体をまたベッドに倒す。

「……ん」

 ベッドに寝転がっていると、部屋の隅でおとなしくしている獣が目に入る。トリップのオールメイトの黒いライオンだ。俺より大きくて、目が透き通って青い。実はこうしてじっくり見るのは初めてかもしれない。オールメイトだし、ご主人様のあんな命令やこんな命令なんて何も考えていないのかもしれないけど、やっぱりなんだか落ち着かない。あんな大きなライオンが、自分の身体を、なんて。飼い主のいない部屋でこうしておとなしく待っている所なんて、猫なんかと変わらないのに。
 今日は留守番なんだろうか。大きな身体でどしっと横たえて、待てをされているみたいに行儀よくしている。

「おーい」

 気づいてくれるだろうか。返事なんて期待していなかったけれど、俺の声は届いたんだろう、耳をぴくっと動かしてこちらを向いた。大きな目がじっとこっちを見る。喋っているところは見たことがないけど、言葉は分かるのかもしれない。
 ちょいちょいと手招きをすると、ゆっくりと身体を起こしてこちらに歩いてきた。こうして近づいてくるのを見てると、本当に大きいな、と思う。あと、ちょっとだけ可愛い。

「今日は留守番か?」

 俺のそばまで寄ってきたライオンは、何も答えない。ただまっすぐに俺を見ている。しばらくじっとしていたかと思うと、フン、と鼻を鳴らして、俺の手に鼻を擦りつけた。意外に懐かれているのかもしれないな。そのまま鼻筋を撫でても、ライオンは噛みついたり怒ったりする様子もなく、目を細めて気持ちよさそうにしている。

「お前、ふかふかだな」

 まるで蓮みたいだ、と思って、急に胸が締め付けられる。蓮、蓮。どうしているだろうか。変な蟠りを残したまま、もう会えなくなってしまったけれど。あれから一体何日経つんだろう。無事ここから逃げ出して、旧住民区の家に戻っているといいけれど。
 蓮に会いたい。旧住民区のみんなにも。協力してくれた紅雀達は、みんな元気なんだろうか。知りたい。

 考えているうちに涙が溢れそうになって顔を伏せると、そばにいたライオンが動いて頬に擦り寄った。もしかして慰めてくれてる?柔らかい毛の感触に、心が和む。すりすりされて気持ちいい。

「もう、お前のご主人のせいなんだからなー」

 うりゃっと鬣をかき回すと、ベッドにのぼってきたのでそのままひっくり返された。大きな体躯でじゃれるようにくっつかれる。裸の肌に、毛が触れてくすぐったい。こうしてると、ライオンだって大きな猫みたいだ。なんだか楽しくなってきた。

「くすぐって、ははは!あははっ」


「可愛くて入れないですねえ」
「ずっと見てたいな」





20121218

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