「色気がねえ」

 目の前のソファに横たわる男を見ながら、呟いた。
 真っ赤な顔でお前が好きかもしんね、と言ってきたのは火神からだった。男だとかこんなでかい同士がとかふっとばして、火神といるのが楽しくて、それが何にも代え難い時間になっていた。それは多分火神も同じで、正直お互いに意識しあってて、俺が言うか火神が言うかの問題だけだった気がする。しんねえってなんだと思いながら、おう、とだけ返事をして、俺たちは恋人になった。真っ赤になって俺の答えを待っていた火神が嬉しそうに笑ったのを見てその場でキスしてしまったのは、まあ若いからという事にしておいてほしい。むしろ襲わなかっただけ立派だ。
 そして今日、あれから1ヶ月ぶりに火神と会って、汗だくになってバスケをして、火神の家でシャワーを浴びて。家まであがった俺に、照れながらシャワーをすすめた火神の耳は赤かった。今日の火神は抱かれる覚悟ができている。そう確信して、気も漫ろにシャワーを済ませて出てきたというのに。

「爆睡じゃねーか……」

 なんとまあその恋人はソファの上で片腕片足を投げだし眠っているではないか。深く深くため息をついた。火神とセックスしたいが為に駆け足で出てきた自分がバカみたいだ。
 今にも落ちそうな身体をソファに預けて、上は外から帰ってきたTシャツのまま、下は暑かったのかズボンがなくなりボクサーパンツになっている。どちらも汗まみれで、黒がもう一段階黒くなってしまっていた。それでも、身につけている本人はすうすうと安らかに眠っている。
 そのあまりに気持ち良さげな表情に、むくむくと沸いてくるのはイタズラ心と今にも暴れ出しそうな性欲だ。
 俺を置いて寝こけているお前が悪い。

 ソファに近づき、火神の足側に音を立てないようにまわる。筋肉に包まれた脚に顔を近づければ濃い汗の匂いがして、不快なはずなのにそれに何故かひどく興奮した。火神のものだというだけでここまで違うのかと思いながら、そっとボクサーパンツに手をのばす。腿の付け根近くの裾をくいっと引っ張って、そこから中をのぞき込む。
 見えた、火神の性器。通常時はこんなもんか、と思いながら、そこから目がそらせない。火神の、いやらしい部分。唾を飲み込んだ後、吸い寄せられるようにその隙間に舌を入れた。
 舌が、陰嚢に触れる。そのまま皺を感じながら舐めつつ、うわあ俺今男のタマ舐めてる、と頭の中は冷静に考えているのだからおかしい。でも、やめられない。

「……ん、」

 火神が不意に声を出したので起きたのかと思って頭を上げても、瞼は閉じたままで相変わらずだらんとしていた。寝ていても感じるのか、とほっと胸をなで下ろす。今の声、もっと聞きたい。
 ボクサーパンツが邪魔で、少ししか舐められないのがもどかしい。ゴムがのびるの構わずに強く引っ張り、火神の性器を全て露出させる。部屋のライトの下で初めて見るそれは、俺のより多分小さくて、陰嚢を舐めていたせいか少し頭をもたげ始めていた。たまらず蛇口ごと口に含んで吸い上げる。亀頭から溢れる先走りのせいでじゅるる、と下品な音が鳴って、それがまたいい。

「ぁ、んっ……!」

 火神が今度ははっきりといやらしい声を上げた。いい声だ、それだけでいってしまいそうだ。事実俺の性器は、火神のものを舐めているだけでもう反応しまくってる。

「あぅ、ん、あっ……あ?!え、え!」

 性器の持ち主がついに目覚めたらしい。ぼーっとしていた声が次第に鮮明になって、俺にフェラされている事に気づいたのか、火神が跳ね起きて俺の頭をぐいぐいと押す。

「ば、ばか青峰!なにやってんだ、寝てる間に!」
「……どっかの誰かが誘うような事言って熟睡しやがってよ」

 一応悪いとは思っているのか、押してくる手が止まった。

「……わ、悪い、昨日あんま眠れなくて……」
「ふーん、今日が楽しみでかぁ?」
「そうだよ!!」

 叫んだ火神の目尻に、涙が浮かんでいた。さっきまでのフェラのせいか、それとも。

「俺、だって、したかっ……のに、寝てる間にしやがって……起こせよぉ」

 頭のヒューズが吹き飛んだ音がした。人間が理性を飛ばす、その瞬間を身を以て知ったのだ。
 わずかに残っていた寝込みを襲って申し訳ないという気持ちもどこかへ消え、火神犯す犯す犯す犯すと頭の中で連呼しながら、ボクサーパンツを脱がして投げ捨てる。乱暴な動作で自分の性器を引きずり出して、もう既に亀頭から漏らしている精液を、控えめな後孔に塗り付けた。

「ひ!あ、青峰、いきなりは無理っ」
「くそ、優しくしてやろうと思ってたのに……うっ」
「いぁっ……!」

 そのまま無理矢理突っ込んで、ガツガツ腰打ちつけて犯しまくってやった。



「しょっぱなからとばしすぎだっつの……腰、いてえ」

 ぐちぐちと文句を言いながらシーツにもぐりこむ火神の腰を撫でてやる。まあ確かに、初めてだったのにやりすぎた感は否めない。

「悪かったって……でもお前も寝てたのはわりーんだぞ。無防備な格好しやがって」
「……」
「あの後風呂にもつれてってやったし、身体も洗ってやったじゃん」

 恨めしそうな顔をしてこちらをみた後、顔を反対に向けてしまった。言い返したいけど言い返せない、そんな火神にこみあげるのは愛しさだ。思わず笑って、赤い髪に手をのばして、梳く。避けられないのを肯定と見て、耳にそっとキスをした。

「次はもっとゆっくり、いちゃついてセックスしよーな」
「優しくが抜けてるぞ」




20130610

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