青峰に、うちの合鍵を渡した。
 手のひらの上の鍵を見つめて呆けている青峰に、いつきてもいいから、俺が帰った時にお前がいたら嬉しい、と伝えたら、滅多に見せないはにかんだ笑顔で、サンキュって言ってくれた。
 俺には青峰が必要だって、そう思ったから渡した。それは間違っていないと思うし、この先もそう思える自信がある。

「明日おまえんち行くから」

 今までと変わらないような約束がなんだか特別な言葉みたいで、その日一日ずっと浮かれていた。
 ワクワクしながら部活を終え、家に帰ると、まだ誰もいなかった。最近は青峰も前より部活に出るようになったから、そのせいだろうか。料理をして、あいつの好きなもん作って、待っていよう。それから、そうしたら……
 そんな事を考えていると、瞼が重くなり、身体が眠気に逆らえなくなっていく。
 寝てはだめだと思いながら、意識は遠のき、そのうち、眠りに落ちた。

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「ああ、んで?」

 意識の遠くの方で、青峰の声が聞こえる。はじめは夢かと思ったけれど、自分の頭を撫でる慣れた手つきで現実だと分かった。青峰を待っているうちに、うたた寝してしまっていたらしい。うっすら開いた目で時計を見ると、あれから1時間ほど経っていた。
 また寝てしまいたくなるほど心地いい眠気は、自分の頭が乗っている腿からもきていた。制服から着替えてないって事は、今来たばかりなんだろうか。自分の渡した合鍵を使って家にあがってくれたのが、やっぱり嬉しい。

「はァ?んなんしらねーよ」

 自分の頭を撫でる手は、どこまでも優しい。でも、青峰の意識は電話の向こうの誰かに向けられている。自分が起きた事にさえ、気づいていない。それがなんだか、ちょっと気に入らない。
 俺を見ろよ青峰。俺に会いにきてくれたんだろ青峰。他のやつなんか見るなよ。眠っていたせいでまだぼーっとしているけれど、確かにそう思う。
 二人でいる時は、青峰が俺にべたべたしてきて、俺がそれをつっぱねる事の方が圧倒的に多い。だからちょっと、いたずらしたくなったのだ。少しの嫉妬と、少しのイタズラ心を引き金にして。
 俺の頭を撫でていた手を掴む。

「!」

 気づいたのか、視線だけを下に向けてきた。起きた俺を見る青峰の目を俺も見ながら、撫でてくれていた手の指に、ちゅっと吸いつく。それだけで、青峰の顔がひくっとゆがんだ。

「……や、なんでもねえ」

 それでも電話を続けるつもりらしい。なんでもねえってなんだ。俺の事なんて、なんでもねえってのかよ。
 もっともっと色々やってやる。
 ちゅっちゅっちゅ、と続けて他の指も吸ってみる。指の又から舌を繰り出すように順番に舐めた後、中指をゆっくり舐めた。
 セックスの時、俺の後孔にまず入り込んでくる指。いつも短く爪が切ってあるのを、俺は知ってる。もちろんバスケのためだろうけれど、他の理由もあるって、思いたい。青峰が舐めてって言ってきた時を思い出しながら、なるべくいやらしくしゃぶる。
 俺の唾液で、ぬちゅぬちゅと音がする。わざと唇にひっかけたり、口の中で擦ったりしてみると、また興奮した。青峰の指、おいしい。
 舐めて、くわえて、ちゅっと吸うたびに青峰は身体をびくっとさせるものの、顔を背けてしまった。
 そんなに電話の相手がいいのかよ。もう俺もヤケだ。

「うひっ!」

 身体を起こして、耳に思い切り噛みついてやった。ざまあみろ、なんだ今の間抜けな声。バーカ。

「なっ……んでも、ねえ!」

 まだ切らねえのかよ!この強情!もうズボンがテント張ってるくせに!青峰も俺も意地っ張りだから、こうなるとなかなか終わらない。
 そうまでして、電話の相手との話を続けたいのか?俺がそばにいるのに。俺に会いに来てくれたのは、お前なのに。そう思うと、どんどん寂しくなってきた。
 俺が隣にいるのに、どうしてそんな態度とるんだよ。俺よりも、その電話の相手の方が大事なのか?

「……青峰ぇ」

 首に腕を回して頭を抱くみたいにしながら、耳にそっと呟く。
 電話中にいたずらしたのを怒ってるなら、謝るから。だから、無視しないでくれよ。

「ん、青峰、ごめん、ん、怒るなよぉ」

 寂しい。寂しい。こっち見てくれよ。思いを込めながら耳にキスを繰り返す。形のいい耳も好き。許してくれよ。謝ってんじゃねえか。

「好き、好き、ごめん、ん」

 まるで、飼い主に怒られて必死でご機嫌とってる犬だ。犬でもいい、青峰が機嫌をなおしてくれるなら。無視されるのが一番辛い。いつもみたいに俺の方を見て、好きだって言ってくれよ。

「ん、れ……あ、ふ」

 本当に犬みたいに、従順になれば許してくれるだろうか。舌をぺとっと耳につけて、そのままぺろぺろ舐める。許して、こっち見て。そう思いながら。

「っあーーー!」

 がちゃん、とあっちの方で音が鳴った。青峰が携帯を放り投げたのだ。画面が真っ暗になっているのが、俺からも見えた。

「お前、普段そんな事一切しねえくせにムキになった時にしてんじゃねえ!ぶち犯されてえのか、アァ?!」

 腹の底に響く怒鳴り声。頭ががくっと揺れて、さっきまで溜まっていた性的な涙が、こぼれた。
 青峰が怒ってる。やっぱり怒ってたんだ。俺を否定する言葉なんて、何も聞きたくない。顔を引き寄せて、あわてて唇を奪う。

「ん、んっ」
「っ……!」

 とっさに唇を押しつけた俺の頭をがしっと掴んで、舌をつっこまれた。苦しい、でも、嫌われるよりずっといい。お前の好きなようにしていいから、嫌わないでくれ。応えるように、必死でこちらからも舌を絡ませる。
 ズボンと下着を脱がそうとする強引な手を手伝うようにして、身体を動かす。裸になった下半身がすーすーして、既に勃起してる性器がとろっと先走りを垂らした。
 さっきまで舐めていた指を、ぐちゅっと後孔に乱暴に突き入れられる。

「んううっ!」

 夢中で舌を絡ませながら、ぐりぐりと容赦なく俺の中を抉る指に腰が震える。乱暴で、でも気持ちいい。青峰の指が好きだから。青峰が、好きだからだ。指をくわえて喜ぶ後孔が、妙に熱を持って、熱い。
 わざと、指がもっと奥にいくように尻を動かす。早く慣らして、早くお前の性器が、ほしい。せめて身体をつなぎたい。
 俺の尻が恥ずかしい動きをしてんのは、きっと青峰だって分かってる。

「はひンっ……!」

 抜きざまにわざと前立腺を引っかかれて、仰け反ったせいで唇が離れた。はあはあと肩で息をしながら青峰を見ると、すげー顔でこっちを睨んでいた。ああ、やっぱり怒ってる。

「ごめん、なぁ、ごめんって……ばぁ」

 俺の事嫌いにならないで。お願いだから。

「……さっきからよくわかんね、けど、怒ってなんかねえよ」
「ほんとに……?」
「泣くな」

 浅黒い手が、涙を拭ってくれた。
 一人は寂しい。青峰がいないと寂しい。青峰が、欲しい。
 青峰のズボンの下でテントを張っていた性器は、外に飛び出ていた。赤黒くて、筋張って、ドクドクと脈打つ性器。口の中に涎が溜まって、それを飲み込む。
 もうすっかりゆるんだ後孔を性器の亀頭にあてがうと、ぬちゅ、と粘膜同士がキスをした。

「これ欲しい、くれよぉ……」

 何かがぶちっと切れた音がしたのは、俺の気のせいかそうじゃなかったのかは、わからなかった。

「ひゃああ!」

 青峰が俺の腰を掴んで、一気に下に押さえつけたから、すごい勢いで性器が中に入ってきた。敏感な肉を突然いっぱいいっぱいにされて、頭のヒューズがばちばちと飛ぶ。

「はひ、ひぃっい!」
「くそっ、この淫乱!」

 尻を掴まれ、ひねるようにして乱暴に揉まれる。にゅぶにゅぶと動く中の壁が性器にゴリゴリひっかかって気持ちいい。気絶してしまいそうだ、膝がガクガクする。

「あ、あっ!やぁ、ひ、いい、青峰ぇっ」
「ウダウダ考えてんじゃねえよ、バ火神のくせに!」

 うつ伏せに押し倒されて、腕を引っ張られながらバックでガツガツ突かれる。硬い亀頭がいい所や奥をひっかく度、意識が飛びそうになる。
 嬉しい、青峰が俺の中にいるのが。気持ちいい、嬉しい、愛しい。好きだ、俺は青峰が好きだ。嫌われていなかった事が分かった時、安心と嬉しさで壊れてしまいそうだった。今は気持ちよくて、壊れてしまいそうだ。

「青峰え!好き、好きだ、あっ!やぁあっ」
「っ……」
「俺の事、嫌いに、ならないでっ……!」

 中の青峰が大きさを増したかと思うと、びゅううっと精液を吐き出した。熱いものが、尻を満たしていく。

「あぁ、あーっ」
「くそ、反則だ……」

 射精しながら、俺を引き寄せて、抱きあげてくれる腕。青峰の胸に頭を置くと、また涙がこぼれた。快楽のうちに目に溜まった、これも性的な涙だ。

「泣いてんなよ」
「うっ」

 涙を指で拭った後、鼻をつままれた。意地悪でもない、野獣でもない、いつもの青峰だ。その事になぜかふっと、安心する。

「ったく、なんであんな事したんだよ。意味わかんねえ方向に暴走しやがって」
「だって、俺が起きたのにお前、電話ばっかしてっから」

 寂しくて、いたずらしてやろうと思ってと言うと、青峰の頬がかっと赤くなった。青峰が照れてる?いやまさか。

「お前、あんまデレんな……」

 頭をかくっと下げてぷるぷる震える青峰は、よく分からないけれどとりあえず怒っているわけではないみたいだった。





20130727

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