火神くんを連れていくと約束しました、と黒子に急かされるようにして連れてこられたマジバで、うず高く積まれたチーズバーガーと共に黄瀬が待っていた。四人席で黄瀬の隣に黒子が座り、俺は二人の正面に一人で座る。
 二人が何も言わずにじっとこちらを見るので、とりあえず見つめ返してみると、黄瀬がずいっとチーズバーガーの積まれたトレイを俺の方に押した。

「これは情報りょ……じゃなかった話を聞かせてもらうほんのお礼っス」
「ああ食べていいのか!良かった!じゃあ遠慮なく食う」
「単刀直入に聞くっス。火神っちはなんで青峰っちと付き合ってるんスか?」

 早速食べていたチーズバーガーを吹きそうになる。今黄瀬はなんて言ったんだ。誰が、誰を好きだって?

「な、なななななっ」
「黄瀬くん、火神くんは僕らにバレている事さえ知らないんですよ」
「ええっ、そうなんスか?!あれで隠しているつもりとは……」
「という事で火神くん、僕たちは火神くんと青峰くんが付き合っている事は知っています」

 混乱して頭が回らないうちに、二人が淡々と話を進めていく。待ってくれ、俺を置いて行かないでくれ。俺と青峰は、周りのバレないように二人きりの時以外は注意を払っていた。メールや電話の内容が流出したんだろうか、いやそれも多分ないだろう。とにかく、俺達の仲は誰にも知られていないはずだ。

「火神くん、質問に応えて下さい」

 ぐるぐると考えている俺を、スパっと冷たく言葉で切る黒子。思わず立ち上がった。

「お前!俺は今なあ!」
「ほら、もうチーズバーガーも食べているんですし」
「そーそー、答える以外の選択肢はないっスよ」

 責めるような目で俺を見る黒子と、ニヤニヤしている黄瀬。そして、食べてしまったチーズバーガーの包みと、未開封のたくさんのチーズバーガー。
 俺は、泣きたい気持ちでまた席に座り直した。

「……よく、わかんねえ」
「え?それが質問の答え……っスか?」
「う、嘘じゃねえよ!本当に、よくわかんねえんだ」
「……」

 二人の驚いた表情に間違った返答をしたのかと思ったけれど、そうじゃない。あいつのバスケは好きだし、外身や中身も嫌ってわけではないけれど、だから付き合っているんじゃない。よく分からない、というより、二人になんと言えば伝わるのかが分からない。

「よく分からないのに付き合っているんですか?」
「おう」
「青峰くんは男なのに?」
「ああ……そうだけど」
「でも、好きなんスよね?」
「うん……」

 黒子が何かを考えるようにして、口元に手をあてた。

「黒子っち、どういう事っすか?」
「これは……火神くんは、本能で青峰くんと付き合っているのかもしれません」
「ええ?!本能?!」
「はい。火神くんが、青峰くんの外面や内面のみでなく、青峰くんという存在を本能的に愛していたとしたら……なぜ付き合っているのか、と聞かれても具体的な理由は答えられませんよ」

 二人がこそこそと何かを話しているが、愛とか本能という単語しか拾えない。それだけでも十分不安ではあるが。

「これは……相手にも聞いてみましょうか」
「そ、そっスね」
「呼び出します。もう学校も終わっているでしょうし」

 俺を置き去りにして、黒子がポチポチと携帯をいじる。
 それから暫くして、青峰がドカドカと店に入ってきた。俺達を見つけた途端、黄瀬の首根っこをひっつかむ。

「黄瀬ーー!テメェ何してやがんだーー!」
「えー何もしてないっスよ!黒子っちなんて言ったんスか!」
「すみませんすぐに来てもらうために少し盛りました」
「盛ったぁ?」

 青峰が、俺の方をじっと見る。今日は見られる日だな、と思っていると、俺の隣にどかっと座った。ぐいっと肩を抱かれる。

「ほんとに何もされてねーんだな」
「ああ、チーズバーガーもらった」

 よく分からないが普段通りの俺を見て安心したのか、青峰が座りなおし、黄瀬と黒子を睨みつける。

「何企んでんだよ、お前ら」
「青峰くん、どうして火神くんと付き合ってるんですか?」

 黒子の質問に、青峰が一瞬目を丸くした。
 自分にされたのとは訳が違う。青峰がなぜ、俺と付き合っているのか。それを青峰の口から聞けるのかと思うと、胸が高鳴った。

「かはっ、そんなの……こいつを抱きたいと思ったからに決まってんだろ」

 暫く、俺も黒子も黄瀬も、無言。思わず叫んだのは俺だった。

「だ、抱き?!」
「うわあー!火神っちとっとと別れた方がいいっスよ!身体目的なんて最低っスー!!」
「青峰くん、それはちょっと……」
「何が悪いんだ?」

 動じる事もなく、青峰は続けた。

「男で、胸も、柔らかい身体もねえこいつをだぜ?抱きたいと思ったんだ。理屈じゃねえ、俺の本能が火神を欲しいって言ったんだよ。それだけだ」
「……」
「帰るぞ」

 俺の腕を掴んで、席を立つ。耳まで熱くなった俺を、青峰は何も言わずに店から連れ出した。


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「なんスかあの二人」
「盛大に、惚気られてしまいましたね」
「……あっほらしーっスね、俺達」
「火神くんと青峰くん……二人を結んでいるのは、言葉にできない、ただただ、まっすぐな愛……うっ」
「黒子っちなんで泣いてんスか!?」





20130615

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