「ふふふ」
ベッドの上に横たわる彼を見て、思わず顔が緩んでしまう。
キングサイズのベッドの上、無防備な格好で寝ている彼をここまで連れてきたのは僕だ。いつもの調子で電話を掛ければなんの疑いもなく彼はこの店に来た。そして、僕が用意した無味無臭の薬を飲んで、意識を失ってしまった。自分を支える力を無くした彼を運び、店から出て、目的地である僕の家まで運ぶのは楽じゃなかったが、これからの事を考えるとちっとも苦じゃなかった。
だって火神くんが、僕のものになるんですよ。こんなに嬉しい事はありません。
この計画は、早ければ早いほど良かった。でないと、彼を気に入った誰かが僕と似たような行動に出ないとも限らない。だから、間に合って良かったと心の底から思う。
ううん、と火神くんが唸った。僕はベッドに近づき、彼が目を覚ますのを見届ける。彼の性格のように逞しい眉毛の下の閉じられた瞼が、ぴくぴくと動き、うっすらと開いてゆく。
「う、ん……」
「おはようございます、火神くん」
「黒子……?あれ、俺……」
とろんとした目で僕を確認する火神くん。可愛くて今にも食いついてしまいたいけれど、それをぐっと我慢する。
火神くんは当然ながら自分の置かれた状況をわかっていないらしく、身体を起こしてきょろきょろと周りを見た。殺風景な僕の寝室。彼は一度も来たことがない場所だ。
「確か、俺お前に呼ばれて、ビル、行って……そっから、記憶がねえ」
「ここは僕の家です。僕がここへ君を連れてきました」
「へ、黒子が?ってか俺、なんで寝てたんだ?」
なんでだ?と僕を見る目からは、やはりなんの疑いもない。彼は頑固で融通が利かなさそうに見えて、信じた人間をとことん信じるタイプだ。そういう率直なところも、僕にはとても好ましい。
きっと今ここで僕が、君が体調を崩し倒れてしまったので、僕の家まで連れてきて看病していたんです、なんて言ったら、彼は信じてくれるだろう。そういう人なのだ。
けれどそういうわけにはいかない。そんな彼を絶望につき落とす事も、僕の楽しみの一つなのだから。
「火神くんは、今日からずっとここで暮らすんです」
「は?……なに言ってんだ、お前」
やっと彼は、僕に対して怪訝な表情を見せた。この状況の異常さに、じわじわ気づいてきたらしい。そんな彼を煽る為に、ベッドへ乗り上げた。
僕が乗ったくらいでは、この高級ベッドは軋みもしない。今から軋ませるのだ、彼との行為によって。
火神くん。火神くん。火神くん。
「君はもう、僕のものです」
「な、なんの冗談だよ黒子……昨日だってふつーに電話して、ぇ」
彼が少し後退すると、がくんと身体を支えていた肘が崩れた。火神君の身体が、どすんとベッドに横たわる。どうやら、効いてきたらしい。
「ごめんなさい、君に飲ませた薬は、ひとつだけじゃなかったんです」
「く、薬?ひとつ?」
「僕が君に初めて会った日、君に使った薬を覚えていますか」
はじめてここに来た彼の痴態を写真におさめる為に盛った、体の自由が効かなくなる薬。それを使い、彼の身体を検分し、触り、射精させた。思い出した彼が、ぼっと頬を赤くした。
どこまでも初心だ。何人もの男に、抱かれているのに。
「な、え、ええ?ちょ、笑えない冗談だぜ黒子」
「それはそうです、冗談ではありません。」
僕は本気です。そう言ったところで、彼は僕の言葉のすべてを理解したようだった。さきほどまで可愛く赤くなっていた顔が、さっと青に染まる。
「いやだ!なんでこんな事、くそ、おっ」
「ああ、暴れると余計薬が回ってしまいますよ」
薬を盛った彼の抵抗などあってないようなものだから、僕は笑いながら火神くんのシャツをたくしあげた。現れる、逞しい身体。貧弱な僕とは、大違いだ。うっとりしてしまう。
「ああ、すごく綺麗です……」
「う、っ」
「ここも、綺麗な色で、ぷっくりしてる」
「ひっう!」
色づいた乳首をつまみ上げると、彼はベッドの上で身体をのたうたせた。いい反応に、両方の乳首を摘んで捻る。
「うっ!」
「気持ちいいんですか?かわいい、かわいいですよ、火神くん」
きっと何人もの男の手によって、男なら意味のないここを、性感帯にされてしまったのだろう。それにすごく嫉妬するし、興奮する。
「う、うぅっ!やめろっ……」
「ああ、もっとぷっくりしてしまいましたね。美味しそうだ」
誘うようにツンとした乳首を食み、唇でその感触を味わう。火神くんの乳首は身体に比例して少し大きくて、いじりやすい。気づいたら、夢中になってしゃぶっていた。
「あ、くっ!ん、やめろぉ」
「やめろ?嬉しいんでしょう、ほら」
彼に覆い被さっていた僕の足に、ずっと当たっていたもの。乳首をいじられただけで彼の身体は喜び、性器を反応させていた。ズボンと下着をまとめて脱がすと、ぶるん、と大きな性器が飛び出す。
「ふふ、久しぶりですね。相変わらず、色は薄いんですね」
「っ……くろこ、もうっ」
やめてくれ、なんてお願いは聞いてあげられません。あの時よりも強くごしゅごしゅとしごくと、声を詰めた彼がうっ、うっと呻いた。
「う、うく、んっ」
「火神くん、素直に声を出していいんですよ」
「ふうぅっ」
ぶんぶんと首を振る火神くん。おもむろに僕は彼の顎を掴み、肉厚な舌をひっぱった。乱暴かもしれないが、屈強な彼ならこんな事でケガしたりはしないだろう。
僕がこんな事をすると思っていなかったのか、彼はびっくりした様子で僕の方に目を見張っていた。
「火神くん、声を我慢しないで下さい」
「は、あ、ああっ」
「もう一度言います、声を我慢しないで下さい」
今、火神くんの自由は僕に奪われているという事。どんな抵抗も無駄だという事。それを教えるように、舌をぎりぎりと掴む。犬のしつけと同じだ。
僕には、火神くんを気持ちよくする事も、痛めつける事もできると、教える。
「わかりましたか?」
「あ……あっ、ん、ああっ」
性器をまた擦れば、彼は声を詰めるのをやめた。それでいい。火神くんに言う事を聞かせるのが、とても楽しい。
「は、ああ、んあぁっ」
「そうです、素直にしてくれていれば、気持ちよくしてあげますからね」
「あ、あ、ああっ……!」
かわいい声を出して、彼は射精した。あふれた精液で、僕の手が汚れる。それを指につけて、もっと下にある後孔を探り当て、塗り込む。
「黒子、もう、やめてくれっ……」
「それは聞いてあげられません」
生理的な涙をぽろりとこぼす火神くんがかわいそうだけれど、否定は聞きたくない。もっともっと彼を、快楽に落とさないといけない。
「お前ずっと、そんな、うぐっ!」
「そうです。僕はずっと、火神くんが好きでしたよ」
彼の後孔に、精液で滑りのよくなった指を埋める。仕事という名目で呼んでいた為彼は下準備を済ませているので、指は難なく飲み込まれていく。温い中の肉に、背筋がぞくぞくする。
「そう、ずっと……君を抱く男たちを渡しながら、君を抱きたいと思っていたんです」
「あ、くあっ……ん、うっう」
途中まで、自分でも気づかなかった。彼の指名が入る度気分が高揚するのは、仕事が円滑に回っているからだと思っていた。彼に出会う度に嬉しいのは、うちに大きく貢献してくれた彼に、感謝しているからだと思っていた。
全部違った。僕は、とっくの昔に、もしかしたら会った時から、君に焦がれていたんです。
解れたのを確認して、指を抜く。彼が身体をぶるっと震わせた。ああ、早く入れたい。ずっと仕舞われたかった、彼の中に。
「火神くん、入れますね、入れますよっ……」
「やめろ、やめろ黒子、だめだ、ぁっ……!」
震える手でズボンと下着を下ろし、もうガチガチになっている性器をあてがい、ぐっと腰を進める。彼の中は、温かくてきつく、ねっとりと絡みついてきた。想像よりずっと、いい。
「はあっ……いいっ」
「ああ、あっ」
火神くんと繋がっているという事と、具合のいい後孔。出してしまいそうになるのを、必死で我慢する。
僕の性器は、火神くんのとは比べものにならない。そんな僕のが火神くんの後孔をずっぷりと犯し、そのいくらか上で、火神くんの性器がカウパーを垂らしながらびきびきと震えているのが、アンバランスですごく興奮する。
「は、は、わかりますか火神くん、中に僕がいるんです、ねっ」
「あ、あ、あうっ!ん、なんでっ」
まるで交尾中の犬だ。僕は夢中になって腰を振る。今までの経験からして性欲は薄いと思っていたけれど、火神くん相手だとこんなに違う。こんなに興奮する。
ギシギシとベッドが軋む。煩いのに、嫌な音だとは思わなかった。
「これから毎日、こうやって、繋がりましょうね、君は僕だけのものになるんです」
「な、何言って、ああっ!そんな、やだぁっ」
「もう誰にも君を抱かせない、触らせない、見せはしません、僕だけの火神くんなんです、僕だけのっ」
手に入れた、やっと。ほしかったものが、やっと手に入ったのだ。僕だけの火神くん、なんていい響きなんだろう。
僕の性器の先に、こりっと何かが当たると、火神くんが喉を反らした。ここが、前立腺なのか。
「ここ?ここですね、火神くんのいいところ」
「や、だめ、だめだ、黒子っ」
「いっぱい気持ちよくしてあげますね」
「あっーー!!」
狙ってそこを突くと、火神くんが声にならない声を出した。中がきゅうっと締め付けてくる。そこばかりを刺激してあげると、火神くんの性器はとろとろと精液を流して喜んでいた。
「う、うあああーっ、あーっ」
「ああ、ドライオーガズムですか?いけない身体です……でもそれも、もう僕だけのものですね」
たくさん汗をかいた彼の身体にキスをしながら、ぐんぐんと腰を動かす。時たま回すようにして中を掻くと、それがまたいいのか身体を強ばらせていた。
そろそろ僕も、限界が近い。よすぎるのだ、火神くんの身体が。
「は、火神くん、そろそろイきそうです、中に、中に出しますね、君が僕のものという証に……」
「黒子、だめぇ……」
それは、彼の最後の抵抗だったかもしれない。甘く囁かれたそれは、僕にとってはとどめだった。
彼の中、奥の奥めがけて精液を吐き出す。びゅくびゅくとのたうつ射精はなかなか止まらず、僕はこんなに出るのか、とどこか他人事のように思った。
火神くんを連れ去り、脅し、犯して汚す、喜び。それは今までの何にも代え難く、そして何よりも興奮した。
「あ、ああ、あーっ……」
僕が出している間、火神くんはぴくっぴくっと痙攣するように小さく身体を跳ねさせていた。
涙がいっぱい溜まった目は、もう何も写していないように虚ろだ。どうやら、半分気を失っているらしい。たくさんの涙の筋ができた頬を撫で、その焦がれた唇に、口付ける。
「ん、ん、んん」
僕のものだ、僕のものになったのだ、もう。夢みたいで嬉しくて、胸が震える。
これからもずっと一緒にいられるのだ。誰にも彼を見せずに、閉じこめて、僕が一生かわいがっていく。
彼の唇は厚くて、すごく柔らかかった。肉の感触を楽しむように、触れ合わせて、吸って、やわく噛む。火神くんの唇は、想像よりもずっと甘い味がした。
20140113
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