「今日はカガミにプレゼントがあるんだ。」
「ん?」

 アカシさんが引きずってきたのは、アカシさんが入れそうなサイズの大きな段ボールだった。ずっしりとしていそうなのになんの苦もなさそうに運んできた箱を俺の前に置き、いつものように笑う。

「俺に?」
「ああ」

 アカシさんの顔からは、何も読み取れない。ほんの少しの期待と、同じくらいの不安。アカシさんは俺よりずっと大人だから、高校生の俺には目を見た位じゃ何か企んでいるかそうじゃないかなんてわからない。
 開けて、と手で促されて、そっと段ボールを開く。そしてすぐに、アカシさんの思惑を知った。

「全部、カガミのために買ったんだ」

 段ボールにぎっしりと詰め込まれた、ラブグッズ。思わず目眩がしそうになり、箱に頭を突っ込みそうになるのを耐えた。なんだこれ。つーかこの人、こんなもんにいくら掛けたんだ。
 アカシさんが微笑みながら俺を見ている。脅されたように、箱の中のものに手を延ばした。
 オーソドックスなバイブも、カラーバリエーションや形が様々だ。コードでつながってる小さい卵みたいなのは、確かローター?とんでもなくリアルに男性器の形をしたディルドもある。何に使うのかわからないものも多い。医療器具みたいなチューブとか、白いスプーンを折り曲げたみたいな道具もある。
 こんなにいろんな種類があるんだなあと感心してる場合じゃない。もしかして俺、身の危機?

「さあカガミ、おもちゃで遊ぼう」
「あの」
「どれがいい?好きなのを選んでくれ」
「えーと」
「ああ、一つに絞れないなら、いくつかでもいい」
「……」

 俺、逃げた方がいい?背中を冷や汗が伝った。

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「じゃあ、コレで……」

 先ほど見つけた、ピンクのコードで繋がれた二つのローターをアカシさんに手渡した。どれか選んでとあんな凄みをきかせた笑顔で言われては否定するわけにもいかず、とりあえず一番負担が少なそうなのにした。なんに使うのかも分からないようなのは当然避けるだろ。

「ああ、これか。これにはね、確か付属のリモコンとテープが……あった」

 箱をガサゴソとしたアカシさんの手にあったのは、ローターと同じ色の小さなリモコンと、テーピングみたいな小さなテープ。もしかしたらこのおもちゃたちは、アカシさんが開封して、この箱の中にぶち込んだのかもしれない。

「よし、服を脱いでくれ。カガミ」
「……はい」

 そっとシャツに手をかける。確かアカシさんの好みは、焦れるほどにゆっくりと。俺が恥ずかしがるのが、好きなんだっけ。頭の中で考えながら、なるべくゆっくり手を動かす。シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぎ、下着も取り去れば、服をきっちり着たアカシさんの前に、全裸な俺が現れる。
 足を折り、布団の上に座る。すごくさわり心地のいい、高そうな布の上だから、裸でもあまり嫌な感触はない。
 ドキドキする。アカシさんは、あのローターを俺にどんな風に使うんだろう。なんであのおもちゃは繋がってるんだ?リモコンの意味は?
 気づけば俺の頭の中は、アカシさんとおもちゃでいっぱいだ。

「カガミは毎回、慣らして来てくれるからね」
「ひゃっ!」

 とぽっと後孔に何か冷たいものがかかった。アカシさんがローションのボトルを傾けている。もう準備のできた俺の穴は、ローションを飲むみたいにひくっと動く。
 ああ、この感覚すごく焦れったい。本当にこの穴は、埋めて、擦ってもらうのを待ってる。
 アカシさんの方に尻を向け、摘まされたローターの一つを、尻に持っていく。

「これなら、すぐに入ってしまうな」
「あ、んっ……」

 後孔にあてがったローターは、にゅるんっとなんの抵抗もなく入っていった。そりゃそうだ、下手したら俺の指四本より小さい。
 機械だからつるつるしてて、思ったより奥まで入った。正直、ちょっと物足りない。

「は、あう」
「カガミ、足りないか?大丈夫、本番はこれからだよ」

 嬉しそうに言ったアカシさんが、手に持ったリモコンを押した。
 すると、俺の中に入り込んだローターが、ぶぶぶぶぶと振動しはじめた。

「うあ、あああああああっ!」

 小さな卵型の機械が、中の柔らかい肉を震わせ、暴れる。小さいから一部分だけを刺激されて、それが余計に感じてしまう。バイブだとか中を震わせて刺激するおもちゃがあるのは知ってたけど、こんなになるなんて。正直、飛びそうなほど、イイ。

「あ、ああ、ああああっ」
「カガミ、気持ちいい?身体も震えているよ」

 アカシさんがよく見えるようにって言うから四つん這いになっていたけれど、骨ごとガクガクして腕で支えきれない。面白い位に体中痙攣して、端から見ればおかしくなったと思われるだろう。
 耐えきれず腕が崩れ、尻だけを掲げるようにして突っ伏すと、その拍子にローターが移動した。俺のやばいところに、ぴったりと。

「あ、がああああっ!あぐ、ああ、あっ」
「いい所に動いてしまったんだな。さっきより身体ががくがくしてる」

 アカシさんは、俺の姿を楽しそうに鑑賞している。前立腺を、直接伸ばした爪でがりがりと引っかかれているみたいだ。のたうつようにして布団にべったりと付いてしまった俺の顔をさすり、頭を撫でられた。

「大丈夫、まだまだこんなもんじゃないよ。カガミ」

 ふっと息を吐いたアカシさんに、意識がぴいんと張る。まだ、何かあるのか。これ以上に、まだ何かが。
 そういえば、このローターはもう一つとコードで繋がっていた。思い出した時には、もう遅かった。
 アカシさんが繋がった外にいるローターをつまみ、俺の亀頭にぐりぐりと押しつけた。

「ヒッ――――!!!」

 もう声も出ない。これはもうただの拷問だ。気持ちいい事を一挙に受けてしまうと、身体も耐えられなくできているんだろう。脳の気持ちいいことを感じる部分を傷つけられているような、底なしの快楽。

「い、いやっ!いや、らっ!アカシさぁっ!やめ、やめええええ!」
「どうして?すごくイイだろう、狂いそうなほどに」

 そうだ、狂ってしまう。このままだと、確実に。怖い、気持ちいいのが。気持ちよすぎて頭がおかしくなってしまう。
 今だって、俺は自分で自分がどんな状態なのか、何を言っているのかよくわかっていない。ただひたすらに、アカシさんにやめてと叫ぶだけだ。
 舌も回らず、口がはくはくして締められない。垂れる唾液が、布団と俺の顎を繋ぐ。

「やら、らめぇっ!!や、やっ!あーーっ」
「ああカガミ、すごく可愛いな……吹いて、見せて」

 ローターを亀頭に当てられているだけで死ぬほど辛いのに、アカシさんはそれで尿道口をこじ開けるようにねじった。バチン、と目の前が真っ白になる。その拍子に、性器が何かを解放した気がした。

「あ、あああーっ!!」

 ぷしゃああああ、という音と、身体がどろどろに溶けてしまったんじゃないかと思うほどの愉悦。漏らした、と本能的に思った。でもすごく気持ちいい。排尿なんて、比べものにならないほどいい。
 その間も俺の中に埋め込まれたローターは動いているから、下半身だけがおかしくびくびくと揺れた。

「は、ああ、あ、あう、あっ」

 アカシさんが、ローターのスイッチを切ったのと同時に、頭が冷静になっていく。漏らしてしまった、アカシさんの家で、アカシさんの前で。不思議と嫌なにおいはしないけれど、布団に恥ずかしく染みて、色を濃くしている。情けなくて、性的な涙に混じって視界が潤む。

「俺……」
「カガミ。今のは尿じゃないよ」
「へ……?」
「潮吹きって言うんだ。分かる?とにかく、お漏らしじゃないんだよ。まあカガミならお漏らししても別に構わないかな」

 アカシさんが笑う。いつもの顔より、ちょっとおどけた顔で。マジで死ぬかもしれないと思うような目に遭ったけれど、やっぱり、この人嫌いになれない。

「アカシ、さん」
「ん?」
「アカシさんが、欲し……い」

 アカシさんは、優しく目を細めて、いいよって言った。

 ずるんっとローターが抜けていく。改めて見ると、こんなに小さな丸いおもちゃによってあんな底なしの快感が生み出されてたのかとおもうと、おもちゃって恐ろしい。ラブグッズってのは、本当に気持ちよくなるための道具なんだな。どん欲で、容赦がない。それはアカシさんも同じか。
 そんなアカシさんは、自分の性器にローションを掛け、塗り付けている。そんなのいいから、早く。

「アカシさん」
「ん?」
「大丈夫、だから、早く」

 恥ずかしいけれど、誘うように尻を振ってみる。アカシさんは少し汗ばんだ様子で笑みを深くし、俺の方へ来ると脚を持ち上げた。亀頭を、俺の後孔へあてがう。

「あんなカガミを見せてもらったから、ほら、もう大きく……っ」
「あああっ」

 本当だ、いつもよりもう大きくなってる。ずずっと入ってくる性器は脈打って、あったかい。やっぱりおもちゃよりも、こっちのが好きだ。
 目を開けると、気持ちよさそうに息を吐いたアカシさんがいた。そうだ、機械の狂うような快楽も良かった。だけどやっぱり、誰かと分かちあう快楽の方がいい。セックスって、きっとそういうものだ。
 だから俺は、セックスが好きなんだ。

「あ、あ、んっ、アカシさんっ」
「は、やっぱり……カガミの中は最高だな」

 伝う汗を拭ってくれた手が優しくて、思わず腕を首に回して引き寄せようとして、やめた。
 そうだ、俺達はどんなに身体を重ねても、恋人同士じゃない。ただのセフレでもない、お金をもらっている代わりに抱かれているだけなのだ。
 気安く、恋人みたいな事なんて。身勝手だけれど、悲しくなった。アカシさんの本当のぬくもりに触れる事など、許されないんだ。

「あ、あっ!んぁ、あっ、いっ」

 もどかしい思いを、業と声を大きめにしてかき消す。繋がっているのに、とても遠い。それがすごく孤独な気がした。
 アカシさんが、ふと気づいたように俺の目を見た。赤みがかった俺とは違う、真紅の目と、黄色というより金色に近い目。きれいだと思う。この目には、もしかしたら俺の考えている事なんて筒抜けなのかもしれない。

「カガミ……好きだ」
「!」

 アカシさんは驚いた俺の手を取り、指を絡めて、そっと握った。街でカップルがしている、恋人つなぎだ。俺より少し小さなアカシさんの手が、しっかりとした力でぎゅっと握ってくれる。
 やっぱりだ。アカシさんは俺の考えてる事なんて、お見通しなんだ。胸がきゅうっとするのと同時に、体中が熱くなる。

「あ、ん、ああっ!アカシさんっ」
「カガミ、カガミ……!」

 きっと起きたら、この手は離れてしまっているだろう。それで、いつものように夕飯をごちそうになって、札束を渡されて、家へ帰る。それが当たり前で、崩してはいけないルールだ。
 でも、今だけは。この肌の暖かみを、少しでも感じていたい。そう思った。




20140113

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