「じゃあ、これは分かるか?」
「んー……さ、3番?」
「惜しい!ここも後で復習だな」

 課題テキストに、大きな手がチェックを書き加える。ああまたか、と半ば諦めたような気持ちになったと、ふと気づいた。おかしい、明らかにおかしい。何がって、この状況が。

「あの……」
「ん?なんだカガミ」
「なんで俺、勉強してんすか?」

 キヨシさんが、きょとんとした顔で俺を見た。何言ってるんだって顔してるこの人がおかしい。

「だってカガミ、こんな結果でどうするんだ。もうすぐ中間テストだろ?赤点取ったら大変だぞ」
「そーじゃねえよ!なんでアンタが俺の家庭教師してんだっての!あんたが俺買ったんだろうが!」
「あー、そうだな、そういえば」

 ははははーと笑うキヨシさんに、大きな声を出した俺が馬鹿みたいだ。本当にこの人は、毒気がなさすぎる。呆れて足を崩す俺を、ニコニコと保護者みたいな顔で見ていた。

 はじめて、指名されてここに来た時。学校の小テストの結果が悪かったせいで残されてしまった俺は、制服のまま着替える暇もなくキヨシさんの家に来た。
 息を切らした俺を招き入れたキヨシさんは、身体も手も足も大きくて、落ち着いた声で俺を迎えてくれた。どうぞ、と出してくれたお茶を飲んだ時、制服で来てしまった事に気づいた。まずいと思ったのと同時に、キヨシさんががたんと立ち上がった。

「君は……!」
「は、はい!」
「まだ学生?!」

 多少の沈黙。この人がなにを言っているのか、ほんとに理解できなかったのだ。
 それから、なぜか俺の勉強を見てくれるようになった。はじめにバカ正直に×の多いテキストを見せてしまったのがいけなかったのは分かっているけれど、キヨシさんに頼まれると、なぜか断れない。それは出会ってすぐでも変わらなくて、この人が悪い人じゃないのが全身から伝わってくるからかもしれないな、と思った。
 事実キヨシさんに見てもらってから成績が上向いて来ているし、感謝しているけれど、俺はデリヘルで、キヨシさんは客だ。俺が何かするほうなのに、キヨシさんに教えてもらってどうするんだ。

「だから、俺が教えてもらうのはおかしいだろ、です」
「そうかな。俺が教えたいから教えてるんだし、俺はそれでいいけど。カガミは迷惑か?」
「迷惑じゃない、けど……」

 何か俺もしなければと思う、と直接的に言うのに、少しとまどう。俯くと、キヨシさんがくすっと笑う音が聞こえた。

「じゃあ俺も」

 机の上に置いていた手を、もっと大きな手が包み込んだ。あったかい、と思った。

「カガミに何かエッチなお願いしたほうがいい?」

 明らかに、エロい意味を含んだ声。なぜか固まってしまった俺の頭に、ちゅっとやわらかい感覚がした。キス、された。髪に。
 ちゅっちゅっちゅ、と頭に、髪に、最後は耳に、かわいいキスをされる。ただでさえ真っ赤になっているだろう耳が、沸騰しそうに熱い。提案したのは俺だけど、やっぱり、恥ずかしい。

「キヨシさん」
「カガミに性的に興奮しなかったわけじゃないよ、ごめんな」

 俺があんな風に言ったのを、キヨシさんは俺が自分を抱きたくないからだと思って言ったと思ってるみたいだった。そうじゃないんだけど、悪い気はしないので、否定はしなかった。って事は、キヨシさんは俺に性的に興奮するのか、と頭の中でもう一度思う。
 俺の頬をすっと撫でて、触れて、親指で唇を擦られる。ゆっくりと優しい動作は、この人にぴったりだ。
 こつっと額を当てた後、今度は唇のキスをされた。

「んう、あ、ぁっ」
「ここか?ここがいいのか、カガミ」

 優しい、なんて思った俺が間違ってたのかもしれない。さっきからずっとこの調子で、ここがいいのか、どこがいいのかと質問攻めが続いてる。天然なのかそういうプレイなのか、わからないのがまた卑怯だ。
 今だって、乳首をざらっとした指で転がしながら、ずっと耳元で聞いてくる。低音に腰がざわついてしまう。ああもうその声やめてくれ!

「い、いいって、くそっぁっ」
「かわいい声が出てるから、いいのかな。カガミは、女の子みたいなところが気持ちいいんだな」

 のどでくつくつと笑われる。悔しいけれど気持ちいい。しつこくいじられて、もう気持ちいいというより腫れて痛い。

「いた、痛い、キヨシさんっ」
「ああ、ごめん。赤くなっちゃったな」
「ふ、あぁっ……!」

 不意に、真っ赤になった乳首をぺろっと舐められた。しつこくねっとりと、唾液をつけるようにして舐られるのが、ぴりぴりしてたまらない。

「あ、んぁっあ、あっ」

 次第に、くちゅくちゅと音がしてくる。時たまちゅうっと吸われて、それがまたいい。乳首、気持ちいい。シャツが擦れただけでハっとしてしまうそこは、すっかり気持ちいい場所になってしまった。
 乳首がぬるぬるになったところで、やっとキヨシさんの口が離れた。

「ふぁ……」
「はは、カガミがいい声出すから、夢中になっちゃった」

 くそ、なんなんだこの人。力の抜けきった俺の肩と鎖骨に、ちゅっちゅっとキスを落とす。明らかに慣れた感じだ。男相手じゃないにしろ、童貞ではないんだろう。

「きつくなってきたな、っと」

 履いていたズボンを、下着ごとずるっと脱いだそこで、俺は目を疑う羽目になる。

「……!」

 でかい。どれだけでかいって、俺の高ぶってた気持ちが萎える位に。子供の腕はあんじゃねえのか、大げさじゃなく。
 間違いなく、今まで相手した客の中で一番だ。思わず背筋が冷たくなった。

「……」
「ん?ああ、よく大きいって言われるよ」

 股間を凝視している俺に気づいたんだろう、キヨシさんがまいったなーといった調子で軽く笑った。俺はもうそれどころじゃない。正直、今すぐ逃げ出したい。

「あ、あの、キヨシさん俺」
「しっかり慣らしてあげないとな〜」
「ぎゃひっ!」

 キヨシさんは逃げ腰になった俺のをがっしり掴んで、どぼどぼと後孔にローションをかける。冷たい感触に変な声が出てしまった。間髪入れず、ぐにゅうっとキヨシさんの指が入ってくる。指だけでもすごい質量で、限界まで広げられてしまっているみたいだった。

「うっ……!き、キヨシさん、やっぱっ」
「今更無しか?それはないよなあ、カガミ」
「ひゃっ、あ、そこ、あぅんっ」

 がりっと前立腺に爪が当たって、腰が跳ねた。一気に身体が緩んでしまい、ベッドに沈んでしまう。

「カガミの気持ちいい所もわかったし、大丈夫だよ。ちゃんと入るって」
「は、あっ」

 ぬるん、と指が出ていく。
 違う、心配しているのはそこじゃない。入るとか、入らないとかじゃない。そんな大きさじゃ今までも彼女とかに色々言われたりしたんだろうけど、そうじゃない。
 そんな大きな、太くて、脈打って、ビキビキと硬そうなものが入ってしまったら、自分を保てる自信がない。入れられたら、多分すごくイってしまう。頭が、おかしくなってしまう。それがすごく怖い。怖いけれど、無性に期待もする。だから、やめてほしい。自分がいやだと言えるうちに。
 俺の抵抗も空しく、キヨシさんは亀頭でぐりっと俺の窄まった入り口をつついた。

「だ、だめ、だめなんだ、キヨシさんっ」
「だめ。入れたい」
「いや、いやだ、あっーーー……!」

 今まで味わったことのない、限界まで入り口を広げられる圧迫感。柔らかかった中の肉がぴんと張り、そこをぼこぼことした血管が擦る。ローションのおかげで、奥まで一気にびっちりと広がっているのが、わかる。
 俺の性器から、だらだらと精液が垂れる。身体が痙攣する。意識がとんだ間に、とんでもないドライオーガズムを味わった。

「は、はぐ、ぁ……」
「は……カガミ、大丈夫か」

 鼻水出てる、とキヨシさんが俺の鼻をティッシュで拭った。そんな場合じゃない、と言いたくても言えなかった。やっぱり、すごい。こんなの、はじめてだ。トコロテンよりもっとすごい。

「イってるのか?すごいな」

 絶頂から降りてこられなくてまだがくがくしている俺を、キヨシさんが優しく撫でる。閉じられなくて乾いてしまった口の中を、ぺろぺろと舐めてくれる。
 息もできないほどの充溢感。後孔を、隘路を、熱く硬い性器で限界まで広げられるのがこんな狂いそうになる快感だなんて、知らなかった。
 しばらく入れられたままでいると、少しづつ落ち着いてきた。深く呼吸をする俺を、キヨシさんが抱きしめる。楽になってくると、意識もはっきりしてきた。

「……った……」
「ん?」
「死ぬかと、思った」

 本当に、思った。すると、中の性器がむくっと膨らんだ。おい、これ以上大きくなるのかよ!

「ひっ!」
「今のは挑発だな、カガミ」
「ちげえ!あ、うああああっ」

 そっからはキヨシさんに好き勝手暴かれて、俺はイキっぱなしのあえぎっぱなしだった。
 ぱんぱんと腰を打ち付けられ、中でずるずると動く性器を感じながら、ただキヨシさんの思い通りに動くしかなかった。

--

「お茶、飲めるか?」
 ベッドでぐったりとした俺の少し抱き起こして、湯呑みを口に付けてくる。差し出された通りに飲み込むと、ぬるまったお茶が乾いた喉を通って心地よかった。入れられてすぐは湯気を上げていたお茶がすっかり冷めていて、それが丁度いい。

「入れ直そうか」
「いいっ、す……」
「やだって言ってたのにしちゃってごめんな、カガミ」

 お茶を飲む俺の頭に、また髪越しに軽いキスをする。とりあえず、もう1ラウンドって事はなさそうだ。そうでないと、俺の身体が持たない。
 はっきりしてきて改めて考えると、どうにも納得いかない事がある。

「アンタさ……エロい事好きじゃん」
「ん?ああ、まあな」
「じゃあなんで今までなにもせずに、勉強なんて教えてくれたんだ?」

 どうにもキヨシさんは、俺にそういう事をする気がなかったんじゃなくて、俺から言うのを待ってたように思うのだ。俺が言ってから、はじまって、最後までの手際。あれに、計画性を感じる。
 じっとりと見ていた俺に、からっと笑顔になったキヨシさんは、悪びれもせずはははっと笑った。

「だってさ、勉強教えてる子に手を出す!って、燃えないか?家庭教師もののAVみたいで。だけどまさか、実践できるとは思わなかったな〜」

 思わず持っている湯呑みを落としそうになった。この人、優しいんじゃない。優しい人の皮被った、変態だ……!

「へ、変態!」
「そんな事言って、カガミも俺のに夢中って感じだったくせに」
「うるせえ!キヨシさんが巨根すぎんだよ!です!」
「そりゃ光栄だな、ははは」

 殴りたいとまで思ったけど、客だと思ってどうにか抑えた。
 それでもやっぱり屈託無く笑う顔からは、少しの悪気も感じられなかった。




20140220

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