質の良くないぬるつく眠りから、規則的な揺れで目を覚ます。腰にくるだるさと、穴を擦られたひりひりする痛みに顔をしかめたけれど、どうやら拭いてくれたらしく気持ち悪さは無かった。あれだけ汗だくだったのにすっきりしているので、おそらくウェットティッシュを使ってくれたのだろう。
 俺を荒々しく抱いて、丁寧に拭った相手は今頭だけ俺に見せて車を運転していた。どこへいくんだろう。ぼんやりと、身体を起こす。

「お、起きたかカガミ。こっち座ってお前んち教えろ」
「は、はい」

 送ってくれるのか。アオミネさん、悪人面してるけど案外いい人だ。セックスの時も悪人だったけど。
 赤信号の間に前に座り直す。この道なら俺の家まで三駅くらいしか離れてないから、案内できるはずだ。駅の近くでおろしてもらおう。俺のこっち、次はこっち、という拙い誘導を聞きながら、アオミネさんは無言で車を走らせた。

 車が角を曲がれば、俺がいつも使う駅だ。ここで、と言うと、アオミネさんが車を寄せる。

「ありがとうございました、じゃあ俺」
「……」

 がしっとアオミネさんが俺の腕を掴んだ。ブルーの目がしかめられてこっちを見てる。その眼光が鋭くて、思わず固まった。なんだか、やばい空気が伝わってくる。

「お前んちまで行ってやる」
「え、い、いいです、ここから歩いて帰れるし」
「……お前、俺の男になれよ」

 ええええええ!何を言い出すんだこの人。冗談だろうと思いたいけれど、俺の腕を掴む手の力で、顔で、本気なんだってわかる。こんな時どうしたらいいんだ。マニュアルにはなんて書いてあったっけ?そもそもそんな項目あったか?

「お、俺高校生で、学校も、家もあるし」
「俺んちから通え、俺が送ってやる。いや、学校もいかなくていい。金だってやる。今からおまえんち行って、荷物まとめてやるよ」

 混乱でしどろもどろの俺に、真顔のアオミネさんがどんどん迫ってくる。とにかく怖い。意味が分からなくて頭がぐるぐるで、もう俺もパニックだ。狭い車内で、どん、と背中がドアに当たる。
 逃げようと咄嗟にドアにすがりついたら、どんなに開けようとしても開かない。ロックされてる。
 必死でガチャガチャやっていた手が、色黒の大きな手に包まれた。

「なあ、お前の身体……俺にくれよ」
「っ……ぁ」

 耳に吹き込まれた低音が、ずんと腰に響く。重なったアオミネさんの身体が熱くて、熱が移りそうだ。嫌だ、ついさっきまでの時間を思い出してしまう。
 はあ、と熱い息をかけられて、耳たぶをめくるように舐められる。

「や、ぁっ」
「カガミ、お前マジかわいい。俺のもんにしたい。金なら俺がやるから、ウリなんてやめろよ」
「んぅ……っ」

 にゅるにゅると舌と唇で耳をしゃぶられる。ああ、耳も気持ちいい。アオミネさんとのセックスは、乱暴で無理矢理で、でも気持ちよかった。おかしくなってしまうセックスを目の前にぶらさげられて、追いつめられている。人参につられる馬みたいに。一瞬、ほんの少しだけアオミネさんから逃げる事を迷ってしまった。
 だめ、だめだ。こんな所で客に捕まるなんて!根性見せろ俺!流されるな俺!

「うっりゃああ!!」

 思い切り頭を振り上げたら、当然俺に被さったアオミネさんの顔にぶち当たり、しかもクリーンヒットしたらしくそのまた運転席側にひっくり返った。この位いいだろう、せーとーぼうえいってやつだ。

「み、店で指名してくれたら、また来ますからぁ!!」

 チャイルドロックを外して、外へ飛び出す。もつれる足で、道を走った。
 アオミネさんのものにはなれない。だけど、そう言われて嫌じゃなかった自分もいる。

「に、逃がさねぇぞカガミぃ!」
「うわあああああ!」

 復活はやくねーか?!
 車から転がり降りたアオミネさんは鼻血ダラダラ流しながら結構な間追っかけてきた。目がさっき以上にマジだったからすげー怖くて、裏道とか使いながら必死で逃げた。
 セックスの後だったし結構ヘロヘロだったけど(アオミネさんも多分痛みでヘロヘロだったけど)、この辺の道は歩き慣れてる俺の勝ちだ。そのうち追いかけてくる足音は聞こえなくなった。
 一応その後もぐるっと遠回りして、コンビニの雑誌を立ち読みしながら外の道を確認して時間をつぶしてから帰った。
 あの形相。本気で俺の家まで追っかけるつもりだったに違いない。今思えばアオミネさんも車使えばすぐ俺に追いついたんじゃ……おかげで逃げられたんだしあんまり考えない事にしよう。

 次の日、家を出て歩いてたら昨日走った道にアオミネさんの鼻血がぽつぽつ落ちててなんとも言えない気分になった。
 カーセックスの後、迫られてからの鬼ごっこ?変な人だったけど、また会いたいな、と思っている俺だった。




20130718

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