「〜♪」

 鼻歌だって出ようというものだ。二年前、高校時代の先輩から子会社の社長をやってみないかと持ちかけられ、なんとか仕事をこなしていた僕にとって、今は驚くほどの絶好調。上からは誉められ、仕事が回るのがとても楽しい。それも、その功績に大きく貢献してくれているのが、逞しい体躯の、可愛い高校生の男の子なのだ。
 思えば僕の目の前に彗星のように現れ、少し力添えをしただけで、指名がくる客くる客を魅了し、リピーターまでいる。やはり彼には才能がある。この道で大物になれる、才能が。

「ふふ、さすがですね。火神くんは」

 とはいえ、はじめてここに来た時はあんなに初心で清純で、恥ずかしがり屋さんだった火神くんが、一週間後会った時にはあんなに卑猥な色気を漂わせているのにはびっくりしたし少し残念だったけれど。
 まあいい、それでも彼の根本の輝きは失われていないのだから。

「まさに、僕の光です」

 ディスプレイに写った、涙を溜めたイキ顔の写真。僕がこの写真をどれだけ気に入っているか、君は知らないでしょうね。もう僕が君に触れてはならないのが、非常に悔やまれます。
 うっとりしていると、電話が鳴った。ナンバーディスプレイに表示されている番号からして、客からの問い合わせだろうか。

「はい、もしもし。ああ、お問い合わせですね」

 パソコンの待機させていた表を開けば、そこにはすべてのデリヘル達の予約状況が入力されている。
 電話の相手は、案の定火神くんの予約に関する問い合わせだった。近頃本当に多い。

「申し訳ありません、カガミは三ヶ月先まで予約が入っていますが……」

 そう言うと、電話先の男は残念そうに電話を切った。一体何人目だろう、こんな風に謝ったのは。
 しかもこの予約、五人の客が取り合うようにして埋まってしまっているのだから面白い。よっぽど彼の身体が気に入ったのか、それとも。

「……ふふ」

 それが誰かは、お客様のプライベート。僕の口からはとても言えません。





20130710

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