「だ、だめっ!」
「あ?」

 向き直って、目の前まで迫ったアオミネさんの顔を、手のひらで防御する。

「えっと、俺んち、だめだけど、アオミネさんちなら……行っても」

 いいかな、なんて。話が進まないから俺なりの逃げ案のつもりだったが、アオミネさんはちょっと驚いた顔をした後、いいぜ、と笑った。とりあえず、俺の家から引き離す事はできた。説得して、わかってもらわないと。俺はアオミネさんのものにはなれないって。
 はっきりと言えば、アオミネさんはもう俺を指名してくれないだろう。その前に、せめてもう少しだけ、一緒にいたい。できれば、セックスも。
 最後だと思って抱いてほしいなんて、俺にはとても言えなかった。

「ゆっくりしてろよ」

 そう言ってあげてくれたアオミネさんの家は、玄関から物がないシンプルな部屋だった。広いフローリングの部屋に、絨毯も敷かずに必要最低限の家具がぽつぽつ置いてある。なんとなく、アオミネさんぽいと思った。

「……はい」

 部屋に入ってすぐするのかと思ったから、ちょっと拍子抜けだ。車の中でだって、ここまで来るエレベーターの中でだって、アオミネさんは俺に触れて放してくれなかった。腕だったり、首だったり、服越しだけど、腰だったり。手には触れずに、思わせぶりに触れるから、少しその気になっていたりした。んだけど。
 まあ今日の昼したばかりだし、今日はもういいのかもしれない。残念だけれど、しょうがない。大きなテレビの前にあるソファに腰掛けて、テレビを点けてみる。大きなテレビだな。部屋に物がないから、余計に大きく見える。やっぱり少し落ち着かない。

「カガミ。シャワーでも浴びるか?」
「あ、はい」

 俺がテレビを見ている間に、アオミネさんはお風呂に入っていたみたいだった。黒のタンクトップに、軽めのハーフパンツ。家着って感じに、ちょっとどきっとする。アオミネさんの言葉に甘えて、バスルームへ急いだ。
 シャワーを浴びながら、ボディソープを泡立てると、高そうないい匂いがする。
 俺にシャワーを勧めるって事は、やる気なのかな。こういうのって、話だけしか聞いた事ないな。金持ちのおっさんが、気に入った女囲っちゃうとか……なんとか。俺もそうなんだろうか。でも、アオミネさんはおっさんなんかじゃなくて、多分俺とそんなに歳も違わないし、背も高くて、手足も長くて、いい身体してて、かっこいい。目つきが鋭くて、エッチの時は乱暴で。アオミネさんとは今日会ったばかりなのに、なんでこんなに意識してしまうんだろう。
 考えているうちに反応しそうになってしまったので、慌てて思考を振り払った。まだ焦る必要はないだろう。きっと話せばわかってくれるはずだ。頭を振るってから、バスルームを出た。

「あれ」

 バスタオルで身体を拭いてから、傍らにアオミネさんが用意してくれたであろうバスケットを見て、思わず声を上げた。ズボンとかハーフパンツとか、履くものと下着、がない。仕方なく今日履いていたものを履こうとしたら、もう洗濯されて洗濯機の中で回っていた。あれ。

「えっと、アオミネさん……」
「おう、どうした。似合ってるな」

 リビングに出て、アオミネさんに出してもらおうと思ってとりあえず用意されていたシャツを着たら、これが丈が微妙で、手で押さえていないと少しずれただけで見えてしまいそうになる。そんな俺を、アオミネさんはニヤニヤと人の悪い笑顔で見ていた。

「履くもの、と、パンツが」
「いらねーだろそんなもん」

 何を言ってんだこいつって感じではん、と笑われる。もしかしたらアオミネさんは家じゃ下着を着ない……いや、アオミネさん自身はちゃんと着てる。あれ、いじめ?いやがらせ?

「カガミ」

 気付くと、アオミネさんがすぐそばに居た。俺の手を、ぎゅっと握る。手、触ってくれた。嬉しくて、胸がドキドキしてうるさい。アオミネさん、今の俺と同じ匂いがする。
 立っていられなくなりそうな俺を引き連れて、大きなベッドに辿り着いた。自分の思い通りに動かなくなってしまった身体を、アオミネさんは簡単にベッドに横たえてしまう。グレーのシーツの上に、容易く押し倒されてしまった。

「アオミネ、さん」

 見降ろしてくる目は、さっきと違って、優しい。深い青に目を細めると、唇に柔らかいものが触れた。唇を包むみたいに触れるだけのキスをしてから、顎を持ちあげられて開いた口に舌が入ってくる。にゅるにゅる舐められて、気持ちいい。

「ふ、あ、あ……」

 随分長い間キスをしていた気がする。唇が離れる頃には、俺は息も絶え絶えになっていた。俺の頭を、浅黒い手が撫でる。

「このまま帰りたくなくなるくらい、気持ち良くしてやるよ」

 期待に、鼻がひくっとした。本当に、帰れなくなってしまうかもしれない。そう思ったけれど、逃げる力は俺にはなかった。

「あ、ん、あっ」

 俺のシャツを捲りあげたアオミネさんが、執拗に乳首を吸う。散らしきれない快感に、行き場のない手足がシーツの上を泳ぐ。車の中でしたのとは違う、ゆっくりと、じっくりとされるセックスに、ただ戸惑う。
 じゅうっと強く吸われて、腰を捩った。シャツなんて首元で蟠ってどこもかしこも丸見えだけれど、それももう気にならない。

「ふぁっ……」
「敏感だな。お前こんなえっろい身体で学校行ってんの?」

 アオミネさんがくすくす笑うのが恥ずかしい。俺はやっぱり、おかしいんだろうか。

「お、俺……変、ですか」
「ん?変じゃねーよ。俺にとっちゃ好都合だな」
「んひっ!」

 油断しているところで、突然性器を握られた。敏感な先端を摘まむようにして、きゅうきゅうと揉まれる。痛いと気持ちいいの間くらいで、ぐらぐらと揺れているような気分だ。必死で暴れても、アオミネさんにとってはなんでもないらしく、足をよけられてしまう。

「いひゃっ、あ、あああっ!」
「こんなに敏感だと、お外でいい子できないんじゃねーか不安ではあるな」

 お外?いい子?なんでそんな事言うんだろう、どういう意味だろう。まともに頭が動かないから、手を放してほしくて咄嗟にアオミネさんの手を掴んだけれど、結局重ねているだけみたいになってしまった。
 柔らかい亀頭をぷにぷにといじられて、達するまでに時間はかからなかった。ぴゅくっと精液を吐き出すそれを、アオミネさんは嬉しそうに見ている。

「ん、はあっ……ぁ」
「おーおー、若いな」

 アオミネさんもほとんど変わらない歳の癖に。そう思ったけれど、言葉も出なかった。肩で息をしながら、シーツに倒れる。イった後の疲れに身を委ねていると、ぐっと後孔に指が入ってきた。ゆるまったそこは、滑るものがなくても簡単に入りこんでしまう。

「うくっ……」
「尻の穴もこんな緩ませてよ」
「っ……ぁ」

 ぐったりした俺を横向きに寝かせて、アオミネさんも隣りに寝ころび、指を出し入れする。首を舐めながら囁く声はどこまでも低くて、いやらしい。たんたんと指の付け根が尻に当たるほど奥まで出し入れされていると、次第にくちゅ、と鳴り始めた。

「ん、まだ中濡れてね?」

 アオミネさんが俺の中から指を抜き、人差し指と中指の間でぬちゃっと糸を引くそれを見せつけてきた。さっきしっかり洗ったつもりだったのに、奥にまだ残っていたらしい。

「あっ……」
「まあ、洗ったとこ悪いが……また濡らしてやるからな」

 心臓がドキドキして痛い。期待に全身の力が抜けて、早く早くと急くように疼く。アオミネさんの、が。俺を貫くあの快感が、どうしても忘れられない。

「ん」

 また、アオミネさんが俺にキスをした。俺からも懸命に舌を絡め合わせながら、首に手を回す。ちゅくちゅくと音が出るほどのキスをしながら、緩んだ後孔に硬いものがひたっとくっついた。ずにゅっ、とゆっくり進入してくる。塞がれているせいで声も出せずに呻いていたら、アオミネさんが口を離した。

「うあ、あ、入ってっ」
「う、お……やっぱり、イイわ」

 ゆっくりと、確実に犯されていく感覚。目の前にバチバチと火花が散って、下半身から溶けてしまったような熱と痛みと、喜びが襲う。容赦なく、けれど気遣うように腰を揺さぶられる。

「あ、んぁ!あ、あっ」
「カガミ、お前が俺のもんになれば、コレで毎日気持ちよくしてやるぜ?」

 ぱんっと腰を打ちつけられる。張り出た亀頭がごりっと前立腺を擦った。

「ひぃいっ!」
「すげー気持ちよくして、可愛がってやるよ、な、俺のもんになれ」
「うあ、ああっあ、あっ」

 気持ちいい、すごくいい。頭がおかしくなりそうだ。これが、アオミネさんとのセックスだ。アオミネさんに気持ちよくしてもらえて、可愛がってもらえて、愛してもらえる。それって、すごく幸せなんじゃないか。
 そうだ、もうどうでもいい。だって俺は、気持ちいい事が大好きな、変態なんだから。
 一度この快感を知って、断れるはずなんてなかったのだ。

「あ、アオミネさ……してっ」
「ん?」
「俺を、アオミネさんのものにしてっくださぁっ!毎日、あいして、かわいがって、く、ださいっ」

 ああ、言ってしまった。アオミネさんがニヤッと笑うのを見て、もう戻れない、と頭のどこかで思った。

「カガミ」
「んっ」

 口をふさぐみたいにキスをされてから、中の性器がびくびくと脈打ち、熱いものが広がる。びゅくびゅく出るアオミネさんの精液、あったかい。中がいっぱいになって、そのうち穴から溢れて。唇が離れ際、名残惜しげにちゅる、と鳴った。
 俺の性器はとろとろと精液を少しずつ垂らし、ずっといってるみたいになってる。気も虚ろに、身体の所々がぴくぴく震えた。
 後孔を、アオミネさんの精液で満たされる喜び。もう俺はとっくに、アオミネさんのための雌になっていたのかもしれない。

「あ、あー……ん……」
「すげー出る……よっと」
「んんぅっ」

 性器に繋がれたまま、ぐるんと身体を反転させられて、うつ伏せになる。重みを利用して、ぐぼんっと奥まで入れられた。

「へぁあっ!」
「お前が俺のもんになった記念だ。たっぷりしよーな」
「うあ、あ、んぁっ」

 腰を掴んで、がくがく揺さぶられる。ぱちゅっと音を立てる後孔の入り口がひくついた。もっと、もっと犯してもらえる。口元が緩んで、涎がこぼれた。

--

 俺がこの家に来て、一体何日経ったんだろうか。学校にも行かず、ずっとこの家にいるから、どうも曜日感覚が曖昧だ。
 はじめの頃は点けていたテレビも、面倒になってもう見なくなってしまった。アオミネさんも、そういうものは見なくていいと言う。俺が見てるからお前は見なくても大丈夫だって。だから大丈夫なんだろう。アオミネさんが言うなら、それがすべてだ。

「あ、あっん!あぁ」

 自分の後孔に指をつっこんで、ぐぷぐぷと出し入れすると、今朝出された精液が溢れてくる。毎朝中に出してもらって、中に精液が入ったまま家の事をする。垂れないように歩くのも、ずいぶん上手くなった。
 垂らすなんてもったいない。アオミネさんの精液なんだから。

「は、あ、好き、アオミネさん、好きっ……」

 アオミネさんの精液で、オナニーをする。ああ、中に染み込んで、吸収できたらいいのに。
 指を夢中で動かしていると、ガチャッと鍵の開く音が聞こえた。アオミネさんが帰ってきた。急いでドアに駆け寄る。
 ドアを開けて入ってきた身体に飛びついた。いつも優しく、受け止めてくれる。

「おかえりなさい!」
「ただいま、カガミ」
「今日は早いな、ご飯は?もう家にいられる?」
「メシはお前が作ったの食べるよ。今日は後もうオフだ」

 顔に、ちゅ、ちゅ、とキスを落としてくれる。

「あっ」

 シャツから入り込んできた手に、尻を掴まれた。この家では、シャツ一枚が俺の服だ。アオミネさんが喜ぶし、不便もないからそうしている。すぐにセックスに雪崩れ込めるから、俺も楽だ。
 両手が両方の尻たぶを掴んで、ぐにぐにと揉まれて、中が疼く。

「んぁ、あっ」
「ご飯の前に、お前な」
「あっ……」

 ずぼっと後孔に指が入ってきた。
 ああ、今日もまた抱いてもらえる。可愛がって、愛してもらえる。

 俺は幸せだ。アオミネさんの体温に触れながら、そっと身を預けた。




20140113

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