最初は、触れるだけ。
ちゅ、ちゅ、と音を立てる軽いキスを何度か繰り返して、次第に唇同士が触れ場所を増やしていく。それから互いの唇を滑らせて、口を開いて、舌が絡んでいく。
ミドリマのキスは、いつもそうだ。まるでマニュアルでも見ながらしているかのように、少しも順序を変えない。見た目まで生真面目なこの人らしいとは思う。
くちゅっと音を立てて、唇が離れた。これでも十分気持ちいいからいいんだけど、ちょっと物足りない。順序通りすぎるんだよな。先が予想できてしまうと、つまらないというか。
「……よくないのか」
「よくないわけじゃねーけど」
物足りないけれど、下手だとは思わない。上手く言えなくて視線をはずしたら、特に気になったわけでもないらしく、それ以上は追求されなかった。
今日もまた、はじめてミドリマに指名された時と同じようにミドリマの家に来ている。相変わらず整っていて、家具に少しのズレもないように思えた。空調の利いた部屋で、俺はミドリマから差し出される何かを待ってる。
「今日はこれだ」
「ん?」
ミドリマは、持っていたものをさっと俺の首に回して止めた。何かと見てみれば、赤いエナメルに覆われた首輪がついてる。ペット用らしくリードを繋ぐ金具もついていた。
「よく似合っているな」
にやっとミドリマが笑った。
「趣味悪い……」
ほんと、趣味悪い。俺を縛り上げて目隠しをしてとんでもない方法で脅したあの日以来、ミドリマは何かに目覚めてしまったらしい。主に道具を使って色々、な趣味。詳しくは言いたくないから以下省略だ。呆れた事に、俺にしかその興味が持てないと言うから困った話だ。
「生意気な口を利くな。わんと鳴いてみろ」
「わん」
「……」
鳴いてみろって言われたから鳴いたのに、下向いて黙り込むとか失礼じゃねえか。よく見たら耳真っ赤じゃね?
「ミドリマ?」
「う、うるさい、服を脱ぐのだよ!」
「はいはい」
俺に対して道具を使いたいとか脅したいとかいじめたいとか言うものの、冷たくなりきれないのが情けないよな。まあそれが、俺がミドリマの事嫌いになれない理由の一つなのかもしれないけど。シャツを脱ぎ捨て、ズボンと下着を下ろしながら思った。セックスが始まったらどうせ全裸だし、家の中だし、隠す事もない。遠慮せずぽいぽいと服を投げる。
「脱いだぜ」
「四つん這いでこっちにこい」
おやすいご用で。両手両膝を床につき、ベッドの角に座って落ち着きを取り戻したミドリマのところまで行く。今までいろんな事してきたんだ、この位どうってことない。
「咥えろ」
言われたとおりに、ズボンから出された性器を特にためらいもなく咥える。少し反応している、ミドリマの性器。大きくもないし、小さくもない。あくまで俺の経験上だけど、この身長だとこの位かな、と思う。ちょっと右曲がりか。
犬らしくしてみようかと何度かぺろんと舐めあげて、舌を絡めてみる。頭を動かしながらにゅるにゅる竿を舐めてぬるぬるにした後、舌先で亀頭をぐるっとたどって尿道口をこじるようにすると、ミドリマがうっと息を吸った。
「今日までに、一体何回抱かれた」
「ん、えーっと……5回、くらい?」
多分もっと多いけど、いちいち数えちゃいないからもう分からない。黒子に聞けば詳しい数を教えてくれるだろうが、そこまでする必要もないだろう。
舌で性器を口の中へ導いて、喉の奥までくわえ込んでみる。喉奥を突かれて、えづくのをごまかせるようになったのはいつからだろうか。唇をすぼめて、じゅるっと吸うと、ミドリマの性器がびくっと震えたのがわかった。
「っ、お前は、会う度に変わっていくな……」
さら、と俺の髪を撫でるミドリマの声が、なんだか悲しそうに聞こえた。そう言ったきり、優しくさらさらと撫でられる。
俺は変わってしまっただろう、ミドリマとはじめて出会った時よりも。毎日のように、ミドリマ以外の色んな人の相手をしているのだ、変わらないわけがない。
でもミドリマはそのままだ。俺に色々したがるものの、生意気だと怒る口も、ちょっとした事に照れるところも、キスの順序も、纏う空気も変わらない。俺がミドリマを置いて、どんどん変わる。ミドリマが会わない間に、ミドリマの知らない人に抱かれて、変えられていく。
頭を撫でていた手が耳に移動して、耳たぶをつまんですりすりと擦る。気持ちいいけれど少し物足りない快感に、もっとほしいと尻の奥が疼いた。多分もう後孔はひくついて、入れるものをほしがっている。
だらだらと先走りを零すミドリマのを咥えながら、後ろを自分の指で解す。ミドリマに会ったばかりの頃なら、こんな事できなかった。いい所にわざと指を曲げて当てて、力を抜いていくコツ。自分で覚えもしたし、人に教えてもらったりもした。
「ん、ん……ん」
びきびきと脈打ち、すっかり立ち上がった性器の先端にキスをしてから口を離して、ほしがるみたいにミドリマを見ると、緑の目とかち合った。ほんのり頬を赤くして、瞳の緑がじわっと深くなるのが綺麗だと思った。
興奮しているのに、なんだか寂しそうだ。俺が、すっかりいやらしくなってしまったからだろうか。変わってしまったからだろうか。
「……乗れ」
命令されてからゆっくりとベッドに上がって、ミドリマに引き寄せられるまま足に体重を掛けないようにして向き合う。今日は対面座位か。この体位は顔を見られるし、深く繋がれるから好きだ。
腰を上げて、後孔にミドリマの性器をあてがう。そのまま腰を下ろせば、解した穴は簡単に性器を飲み込んでいく。
「んあああっ……な、なあ」
「うっ、なんだ」
ぐっと苦しそうに息を詰めるミドリマの首に腕を回す。その顔、いい。追いつめられたミドリマ、好きだ。
「お前は、なんでっ……俺を、選んだんだよ、はぁっ」
ぐぷん、と音を立てて、性器を全て飲み込む。みっちりと中を埋められる感覚が、たまらない。疼いていた後孔は、喜んで侵入してきた性器を締め付ける。
妙に寂しそうな顔をするから、俺も聞きたくなってしまった。ちょっと意地悪も込めて。だって、俺の事で寂しそうにするミドリマって、可愛い。
「……前にも言ったが、八つ当たりがしたかっただけだからな、あの時は」
「ひぐうっあ!」
ミドリマが、俺の膝を急に持ち上げた。体重で、更に深くまで突かれる。ごりっと中で亀頭が擦れて、背中が反った。がんがんと突き上げる速度が上がって、俺の息もあがる。
「女ではすぐ泣くからつまらないと思ったのと……くっ、男の方が丈夫だから、多少痛めつけても文句は言わないだろうと思ったのだよ」
「あ、んだよ、それっ!あぁっ!」
「……それと、あの写真のドロドロにエロい面を、見てみたいと思った」
どろどろにえろい、つらって。
ミドリマは育ちの良さそうな出で立ちで、しゃべり方や振る舞いも無駄がないから、下品な言葉や汚いもの言いも、プレイの最中でもした事がなかった。そんなミドリマの、落ち着いた低い声で聞く下品な単語に、妙に背筋がゾクゾクした。
ぐぶぐぶとミドリマが俺を揺さぶって、好き勝手に中を犯す。改めて自分に付いた首輪を見て、余計に体中に血が沸き上がった。
「んあ、あ、あ!ミドリマぁっ」
「あんなエロ顔の写真を登録する淫乱はどんなヤツなのか、知りたかったのだよ」
汗をかいたミドリマが、にやっと笑った。挑戦的な顔。その顔も、好きだ。今だけなら、お前のものになってもいい。今だけなら。
「予想通りの淫乱だったわけだがな」
「ミドリマ、あ、あ、いくぅっ」
「忘れたのか?わんと鳴けと言っただろうっ」
「ひうううっ!わん、わぅっわ、わんっ」
腰を押さえつけられて、前立腺をゴリゴリと擦られて意識が飛びそうになる。目の前で火花が散って、なにも考えられなくなっていく。気持ちいい、このまま快感に落ちてしまいたい。ミドリマの手で。プレイに夢中になると、いつも意識が朦朧とする。夢中でわんわん鳴く俺を、ミドリマは一体どう思っているんだろう。
「わん、わ、あ、ああっ!っ―――!」
「うぐっ……!」
体中がびくびくと震える射精で、性器がびゅくびゅくと精液を吐き出す。ミドリマの腹がどろどろに汚れているのを見て、なんだか嬉しくなった。
射精の締め付けで、ミドリマも俺の中に吐き出す。腹の中がどろりとあったかくて、気持ちいい。精液を中に出されるのが、嬉しい。
「んはぁっ……」
「……淫乱」
耳元で囁かれて、身体がぴくっと震えた。粘着質で、しつこく全身に残る湿り気のようなセックス。じっとりとしていても、不快だとは思わなかった。
俺がベッドに倒れてはあはあと息をついている間も、ミドリマは俺を揺さぶって中に全てを吐き出した。まるで、後孔の隅々まで精液を行き渡らせるみたいに。
征服したいのかもしれない。この首輪を付けて、犬みたいに俺を扱って、言うことを聞かせて。
でも俺は、ミドリマの犬にはなれない。ミドリマのものには、どうしたってなれないのだ。もう一人だけの身体じゃ満足できない。きっとこれからもこの先も、ミドリマが俺に言葉にして言う日が来たとしても、変わらないだろう。
真剣な顔をして俺を見下ろすミドリマにその事を言うのは、酷な気がした。お前が嫌いなわけじゃない。そう言うのも、違う気がする。
「……くうん」
「!」
鳴いて、引き寄せた顔の鼻にちゅっとキスをしてみる。
今だけは、ミドリマの望むとおりにしてやりたいと思う。金で繋がれた今だけは。
ぽっと赤くなったミドリマは、やっぱり可愛かった。
20140113
←back to top