蝉がけたたましく鳴く並木道を歩いて、曲がり角にあるコンビニに入る。このコンビニから火神の家までは五分とかからないので、暑さが本格化してきた今、今日みたいに火神の家に行くまでに時間を潰したい時にはとてもありがたい。しっかり効いたクーラーにふっと短く息をついてから、顎に伝っていた汗を拭った。
朝掛かってきた電話によると、火神の兄貴分の所に行っていた師匠が、国に戻りがてら火神の家に寄っているらしい。突然押し掛けてきたので断るわけにもいかず、午後には帰ると言うのでしぶしぶ了承したという事だ。バスケ上手いからお前がいたって大丈夫だって火神は言ってたけど、そこはお断りした。午後には帰るんならそれまで待ってるって伝えると、わかった、悪い、と申し訳なさそうな声が聞こえた。火神だって俺に早く会いたいんだって分かったから、全部帳消しにしてやるよ。
それで今、火神んち近くのコンビニで携帯が鳴るのを待ってるわけだ。あんまり読んだ事がない週刊漫画雑誌をぺらぺらめくって見る。表紙は今人気のグラドルだったので中のカラーページ目当てで手に取ったが、載ってる漫画もなかなか面白い。結構夢中になって読んでいると、携帯が震えた。
画面を見れば、火神から師匠帰った、来てもいいというシンプルなメールが来た。もっと掛かるかと思ったが、意外に早かった。漫画を棚へ戻す。
そのまま出ていこうとして、ふとアイスのショーケースを見てみる。ガキの頃よく食べていたアイスがあったので、ふたつ取ってレジへ持っていった。ただなんとなく、火神と食べたいなと思ったからだ。
「悪かったな、突然予定変えちまって」
「いんや、コンビニ入ってたし。ほらよ」
「ん?」
玄関まで迎えに来た火神にアイスの入ったコンビニ袋を渡す。おー涼しい。やっぱりこの季節はクーラーがないと死ぬな。冷えた部屋のフローリングが、裸足に心地いい。
「アイス買ってきてくれたのか」
「おう。一緒に食おうぜ」
「うん、ありがとな」
いつもはソファに座るが、今日は暑いのでフローリングにベタ座りだ。そのまま寝ころんでごろごろしてると、火神がアイスふたつとスプーンふたつを持ってきて、机に置いて俺のそばに座った。
腰あたりにがっと掴まってみると、火神もひんやりしてて気持ちいい。特に抵抗もされなかったので、そのままシャツ越しに腕をよじ登らせて身体を起こし、火神を跨ぐようにして座りなおした。
「お前つめたー」
「あ?暑さでバテてんのか」
「まあそんなとこ」
シャツから露出した首筋あたりが、俺の火照った身体に気持ちいい。顔を擦りつけると、くすぐってえ、と笑って俺の頭をくしゃくしゃと掻いた。
あー、首筋舐めたい。思うまましゃぶってやろうかと思っていると、火神がぱかっとアイスを開ける音がした。
「なんだこれ、かき氷?白い」
「ああそれ練乳だよ。書いてあんだろ」
「ふーん」
練乳を多めに使ってて、かき氷のアイスにしては濃厚でうまいから、昔よく食べてたのを思い出す。真ん中に練乳が溜まってるから、火神のスプーンを持った手を掴んで、ざくざくと混ぜ合わせてやる。家族は混ぜるのは邪道だなんて言ってたが、俺は混ぜた方が断然うまいと思う。火神だってそうだろ、多分。
「ほら、うめぇから食ってみろ」
ざくっとひと掬い、火神の口に運んでやる。ペットみたいにぱくっと食べて、しゃくしゃく、と租借するのが聞こえる。こいつ動物みてえ。
「うまい」
俺の方を向いてニコニコする火神。そりゃあ良かった、もっと食え。可愛い生き物め。餌付けみたいにどんどん口に運んでやる。
「ん、青峰」
「あ?」
「お前食わねえの?」
ちょっとした沈黙のあと、火神に向かってかぱっと口を開けてみる。何がしてほしいのか察した火神がふっと呆れたように笑った後、俺が握ってる手を動かして氷を掬って俺の口に入れた。冷たくて甘い。夏を感じる、涼しいあの味。思い出すのはガキの頃の俺だけど、このアイスを好きなやつと一緒に食うのも、またいいもんだな。
「うまいか?」
「んー、あ」
「ペットかよ」
お前もさっきまでペットだったろ、とは言わない。こんな風に火神が素直に甘えさせてくれるのは結構珍しいのだ、水を差してこの時間を終わらせるような事は言うまい。フリースタイルがウリの俺も、こんな時は慎重なのだ。
じゃくっと音がして、また口に氷を入れられる。結構量が多かったのか、かき氷特有の頭までキーンとくる痛みが走った。顔をしかめた俺を、業とやったのかケラケラと笑う火神。
「んぐ!」
この野郎。仕返しにこれでもかとスプーンで掬って口に突っ込んでやった。口から溢れそうな氷に火神も頭を痛めたようで恨みがましそうに俺を睨むので、襲いかかるように唇を奪ってやった。
甘い、冷たいキス。お互いの唇も、舌も、口の中もひんやりしていて、練乳の甘ったるさに頭までやられたみたいに舌で味わう。上顎を舌先でくすぐってやれば、火神の腕が俺の首に絡まってきて、分厚い舌を絡め合わせてくる。
「はぁ……ん」
くち、と音をたてて唇を離すと、火神の口からとろっと唾なのか練乳なのかわからない白いものが垂れた。思わず喉が鳴って、それを舐めてすくい上げる。やっぱり甘い。もっと舐めたい。そこから火神の口の中に舌をねじ込むと、火神が俺の唇を柔らかく噛んだ。
それが合図みたいに、フローリングに二人して倒れ込んだ。
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「液体になっちまったー!」
「あー……」
あれから事が済み、その間ずっと机の上に置かれていたアイスは、見事に氷が溶けてちゃぷちゃぷ音がするようになってしまった。ひとつは半分以上食べていたものの、もうひとつは蓋さえ開けていない。もったいない事しちまったな。
「アイスなんだしもっかい冷凍庫入れたら元に戻るんじゃね」
「あっ、そうか!よかった!」
「なわけねーだろバカ」
また買ってきてやるか、と思いながら、分かってるよバーカ!と赤い顔でぎゃいぎゃい騒ぐ火神がおかしくて、思わず笑った。
20130714
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