火神と付き合いはじめてわかった事がある。まあこんな言い方しなくてもたくさんあるんだが、その中でも俺が特別に言いたい、と前にかっこを付けておきたいレベルの、わかった事があるのだ。
こういう関係になったからといって突然いろんな事ができるようになる訳ではないので、俺と火神が行く場所といったら、バスケのできる所とスポーツ用品店、あと火神んちと、マジバぐらいだった。特に平日夕方は腹が減るし、火神がマジバが好きだから、俺らの待ち合わせは専らマジバだ。
ある日、俺がいつものマジバに行くと火神の前にテツがいた。俺たちの事を知っているテツなら大丈夫だろうとテツの前、火神の隣に座る。俺は火神と二人でいるのを誰に見られても平気だが、火神が気にするんだよ。
その時、テツが珍しくシェイク以外にもう一つ、バーガーを頼んでいた。確かCMでやってる、新作のやつ。定番のバーガーとは違い、独特の箱に仕舞われている。
俺と火神とテツで他愛もない話をしていると、テツがそのバーガーを取り出して一口食べて、顔をしかめた。
「ん?どしたテツ」
「……失敗でした。おいしくないです」
ずばっと物を言うのが、テツのいい所だ。しかめっ面を見ながら思う。
「いらねーんならくれ」
「でも火神くん、おいしくなかったですよ」
「まだ食べるのか?」
「いいえ、食べません」
「じゃあくれよ」
なら、と黒子が一口かじったバーガーを火神に渡した。それをペロリと平らげ、さんきゅーな、とテツに言った後、またトレイの上に積まれたいつものバーガーを消費する。
その時の俺は、腹減ってんだな、位しか思わなかった。
それから数日後、いつものようにマジバで待ち合わせした俺たちは店の前で鉢合わせした。いつもなら火神が先に座っているのに、たまにこういう偶然がある。
並びつつ今日は何食おうかと悩んでいた時、俺が火神に言った。
「あ、お前がこないだテツにもらって食べてたやつ。あれにしようかな」
「いや、やめた方がいいぞ。あれまずい。黒子もまずいって言ってただろ」
は?お前、ふつーにパクパク食ってただろーが。いつもと変わらず。
俺が訪ねると、火神は何がおかしいのかわからないという顔で、「人がくれたものを、まずいって顔して食ってたら失礼だろ」と言った。
火神は、まずいと思ったものは二度と食べない。
あの日火神は、まずいとわかっているものを、テツの事を気にかけて顔色ひとつ変えずに平らげたのだ。これを当たり前にできるって、案外すごい事だと思うんだよな。食い意地だけじゃできないぜ。俺は火神のそういう所に、呆れもしたし、感心もした。
なんにでも興味のある俺達は、多分かなり早い期間で男同士のセックスを覚え、それにのめり込んだ。いろんな火神が見られて、お互いに気持ちいい。躊躇う火神を女役に引き込み、持ち前の器用さで高めていくのがたまらなく楽しかった。
はじめこそ抵抗ばかりしていたけれど、次第に慣れ、火神もセックスを楽しむようになってきた頃だった。
「ん、あ……あっ、はぁ」
火神の手が、自分の性器を抜くのを眺める。お互いを見ながらオナニーをしようって提案したのは俺だった。向き合って座り込み、一人でする時みたいに手で射精する。オカズはお互いのオナニーシーン。
俺のマニアックな要求に渋々了承し、泣きそうな顔をして自分のを擦る火神は正直たまらないし、今すぐにでも食いついてしまいたいが、それは我慢だ。
羞恥に顔を染めながら、俺が俺のを擦っているのをチラチラと見る火神。嫌だって素振りを見せても、やっぱりこいつも楽しんでいるのだ。そういう所、興奮する。
そのうち、俺の手も火神の手も粘着質な音が聞こえ出し、性器を抜くのが早くなる。気持ちよさに負けて、火神の声が大きくなってくる。
「あ、ああっ……!あ、青峰ぇ」
「ん……?いきそうか、いけよ」
おーおーエロい顔しやがって。早く襲ってやりてえ。でも今日はだめだ。あと少し、火神がいった後、俺もいくまで。
「んあ、も、いくぅっ!」
火神が自分の手で亀頭をぐりぐりといじって、射精する。震えながらいく火神に、俺も限界だ。業と強めに握っていきつつ、吐き出す精液を手に受け止める。水を掬うような形にした手に、精液が溜まっていく。
今日は具合がいいな。量が少なかったり、ねばつきすぎてたらやめようと思ったが。本日の目的は達成できそうだ。
「火神」
射精した余韻ではあはあと息をついている火神を引き寄せる。あったまった身体を後ろから包み、目の前に先ほど精液を溜めた手を持っていく。
鼻をつく精液の匂い。俺でもそう思うんだから、顔に近づけられた火神はもっとだろう。
「飲んで」
「!」
火神の身体がぴくっと動いた。そんな事を言われるとは思いもしなかったんだろう。赤く染まった火神の耳にキスをする。
「俺の精液、飲めよ」
「や、嫌だっ……なんで」
縋るような目をする火神。そりゃそうだ、フェラの時だって絶対ティッシュに出してたのになんで今更、って思ってんだろ。
「下の口では飲んでくれるじゃん」
「っ……」
「上のお口でも飲んで」
業と火神の裸の尻に性器を押しつけながら、首にちゅっちゅと何度もキスを落とす。実際尻につっこむ時は出した後腹こわすから掻き出すし、最近はゴムつけてっから飲んではいないんだが、まあいいだろう。意味合いは伝わるはずだ。
「う……」
「かーがみ」
甘えるように名前を呼ぶと、火神が渋々と俺の精液が溜まった手に両手を添えた。やった。心の中でガッツポーズだ。
真っ赤な顔をしながら、俺の手にちゅっと唇を付ける。器を傾けるみたいにして、こく、こく、と少しずつ俺の精液を飲み下す。それがまるで、大事に味わってるようで。なんだこの、子猫にミルクやってるみてーな癒される光景。しかも火神が飲んでるのは、ミルクじゃなくて、ミルクによく似た精液だ。俺の出した、精液だ。癒されるのにエロいってどういう夢の共演だよ。腹の奥がぞくぞくする。
そこまで言っていないのに、全部飲み干した火神は赤い舌を出してペロペロと俺の手に残った精液を全て舐めとって、口に含み、飲み込んだ。手全体に、火神の舌の感触が残っている。
火神が目に涙を溜めて、惚けている俺に言った。
「まずい……」
わかった事、ひとつ。
火神は、まずいと思ったものは二度と食べない。ただし、俺の精液は除く。
その後も火神は、興奮しすぎて襲いかかった俺の精液を、下のお口でたくさん飲んでくれた。
20130720
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