目の毒だ。
ジョミーは堪らず眉を寄せて奥歯を噛み締めた。
いっそ目を逸らしたいのに、それもできない。
視界を覆うように腕を上げたのに、結局それは額の上に置かれて目隠しすることもできなかった。
「………ぼく、あなたを誤解してたかも……」
小さく呟くと、先ほどまで口に含んでいたものに舌を這わせながら、ブルーは伏せていた瞳を上げてベッドに横たわるジョミーを見下ろす。
目が、合ってしまった。
「なにがだね?」
そう訊ねると、再びブルーの舌がジョミーの肌を撫で上げる。
「ん………」
ざらりとした感覚が背筋を駆け上り、ジョミーは反射的に目を閉じて出来る限り下へ伸ばそうと引っ張っていた上着の裾を握り締めた。
せっかくブルーから目を離せたのだからこのまま閉じていればいいと思うのに、瞼を下ろしてしまうとブルーの姿が見えない。その闇が嫌いだ。
それに視界を塞ぐと他の感覚が鋭敏になってしまう。
そしてブルーはまるでそれを見越したかのように、ジョミーの素肌を晒した内腿を指先でそっと掠める。
「もっ………そういうの、やめてっ」
すぐに耐え切れずに目を開けて睨み上げると、ブルーは満足そうに口角を上げて笑みを浮かべた。
「それは難しい注文だな」
赤い舌を殊更に見せるように最後にひと舐めして、ブルーの唇が自分の足の指から離れたことに、ジョミーはほっと息をつく。
「ブルー……あなた……本っ当に!しつこいっ」
「無論だとも。君がそう言うから、本当に執拗なまでの前戯とは一体どういうものかを体験してもらっているのだから」
「だからってこんな格好で、延々ずっと足の指ばっかり舐めることないだろ!?いい加減ふやけるよ!」
ソルジャーとしての服を、下半身だけ脱がされてマントもそのまま。ブルーのベッドに横たえられた状態で、足首を掴まれて持ち上げられた自分の足の合間から、ジョミーの足の指を延々と可愛がるブルーをずっと見せられたのだから堪らない。
「おや、そう言う割りには途中からは随分君も気持ち良さそうに見えたのだが」
「そ……そんなことない!嘘ばっかり言わないでよっ」
ブルーは意地の悪い笑顔を見せて、ジョミーの足首を掴んでいた手に力を込める。
あっと思ったときには、足を左右に開かされた。
「やだっ」
「必死に隠そうとしているところ申し訳ないのだがね、ジョミーの可愛いここが頭をもたげているところがよく見えるよ」
どうにか上着で隠そうとしたって、元から丈が足りないのだから無駄な努力だ。わかっている。わかっているけれど改めてそんなことを言われるのだから居たたまれない。
ジョミーはかっと頬を真っ赤に染めて、頭の下にあった枕を掴んで投げつけた。
「バカッ!ブルーのエッチ!変態っ」
投げつけられた枕を軽く片手で受け止めて、ブルーは軽く肩を竦める。
「変態というのはともかく、淫らに君を求めているということは認めよう。むしろ君にそう感じてもらえているなら誇らしい」
「やっぱりぼくはあなたを誤解してたっ!」
こんなにスケベな人だったなんて!
銀の糸のような髪がさらりと流れて、その合間からルビーを溶かして染め上げたような赤い瞳が覗く。
こんなに綺麗な人が、ぼくの足の指を舐めて喜んでいるなんて。
ああ、信じられない。
それが、嬉しいだなんて。
ブルーは枕をベッドの端に放り投げて、ジョミーの足の間に身体を割り込ませてきた。
ようやくいつものようにちゃんと抱き締めてくれるのだと胸が高鳴るけれど、精一杯目に力を込めてしかめ面を作ろうと努力する。
「ジョミー」
蕩けそうな甘い笑顔でジョミーの服の襟元をくつろげて、僅かに覗く肌に指が這う。
掠めるだけのそれが酷くもどかしくて、酷く気持ちがいい。
ふるりと小さく震えながら、それでもジョミーはすぐ間近に寄せられたブルーの瞳を睨み付けた。
「ぼく、もう今日はヤダ」
「こんな途中でかい?」
割り込まれた膝で緩やかに立ち上がりかけていたところを刺激されて、ジョミーは吐息を漏らしそうになり、慌ててぐっと唇を噛み締めた。
敏感になっているところを、布越しに擦るようにして触られると刺激が強すぎる。
どうにか登りつめる快楽を流して、ほっと息をついてから今の我慢で涙の浮かんでしまった瞳でもう一度ブルーを睨み付けた。
「あ、あなたが、『しつこい』から疲れた」
「おやおや、ジョミーは若いくせに随分と体力がないね。まだジョミーの足の先しか可愛がってあげていないのに」
「……その足の先だけでどれだけ時間を掛けたと思ってるのさ。ぼくは明日の朝も早いんだからね!もう寝るっ!」
ブルーの胸に手をついて、上からどけようと力を込めた。
だがブルーはそれに逆らうように更に身を乗り出して顔を寄せてくる。
同時に、襟元を探っていた指が、つと首筋を這うように上ってきて、ジョミーは甘い痺れを覚えて目を閉じた。
……待っていたキスは落とされず、代わりにブルーの唇がやわやわと耳朶を食む。
「あ……やだ……」
まただ。与えられる刺激が弱すぎて、ジョミーはもどかしくてブルーの服を握り締める。
けれど、自らもっと触ってとは言いにくい。
「ジョミー……まだ君はわかっていないね」
耳に吐息を吹き掛け、その形を辿るように舌が這う。
鼓膜を直接に震わせるような囁きに、頭の奥が痺れそうだ。
「な……に、を……?」
自分の手が震えていることに気づいて、ジョミーは思わず笑ってしまいそうになった。
もう意地を張るのも限界だ。もっとちゃんと愛して欲しい。
握り締めていたブルーの服から指を剥がすように、ゆっくりと手を開いて、その首に腕を絡めようと伸ばす。
「ブルー……」
視線を絡ませ、甘く名前を呼べば嬉しそうに眇められる瞳。
キスを強請るようにして引き寄せた恋人は、その微笑みのままでのたまった。
「本当に執拗な前戯とはいかなるものか」
「…………は……?」
今の雰囲気で、返ってくる言葉がそれっておかしくないか?
いやむしろジョミーよりよどほ情緒を大事にしたがるブルーなら、ここは無言のままで口付けを交わしてもおかしくはない。
首筋を撫でていたブルーの指先がまた下へと降りて、開きかけていたジョミーの襟元を更に少し広げた。
「僕は『しつこい』から、ジョミーの可愛い表情をもっとたくさん、長く見たいのだよ」
「え……?」
指先が下へと滑り、少しずつジョミーの上着を開けて行く。指先だけの刺激が、これもまたもどかしい。
「一晩かけて、君の身体を余すことなく隅々まで可愛がってあげよう」
「へ………?」
ブルーは、それはそれは綺麗に微笑んだ。
ベッドの上で絡み合うだなんて行為とはまるで対照的な、慈愛に満ちた微笑み。
「愛しているよ、ジョミー」
「本当に愛してくれてるの!?」
悲鳴はブルーの口の中へと飲み込まれた。






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しつこいと言われたことに拗ねた爺さま。
何をして言われたかはご想像でお願いします(笑)