×ロクス

 父は娘が人間の男を知ったことをまだ知らずにいるのだろうか?
神の娘シルマリルは一糸まとわぬ生まれたままの姿で、男に抱きすくめられたままいつしか眠ってしまっていたらしい。天使と言う聖なる存在でありながら人間の男に犯された、彼女を女にしたのはあろうことか彼女の勇者・ロクス=ラス=フロレス。
いずれ神の下僕として生涯をささげる者どもの頂点に座する男。同時にその美しい容貌で女を渡り歩き遊びほうける不実極まりない男。
シルマリルに見出されてしばらくの間はおとなしく天使の指示に従っていたのだけれど、その間に美しすぎる少女の姿の天使に恋慕の情を抱えてそれを邪に増幅させてしまったらしい。昨夜遅くに酔って宿の部屋に戻ってきた際に暴挙に及んだ。
女を惑わせ不自由していなかった容姿を情交の熱に火照らせ肌を汗で湿らせて、何度も己の信仰を捧げる相手を男として貪り、ようやく落ち着いたかと思ったら犯した相手を手放そうとしたがらない様子を見せながら眠ってしまった。
その寝顔だけ見れば、まるで面差しだけ大人になった子どものようですらあるのに。
 ずっと彼に押さえ込まれているから、シルマリルは自分の翼がどうなったかさえ確かめられずにいる。
夜はまだ明けず東の空が染まりもしない夜と朝の狭間、彼女を起こしたのは下腹部に残る鈍い痛みだった。男を受け入れその精を浴びせられた名残がいつまでも残る痛みみたいで、シルマリルは起きてからずっとはらはらと声を出さずに涙ばかりこぼし続けている。
口は悪いが悪人ではない、女にだらしなくてもこんなことはしないとばかり思っていた。
信じていたのに、彼はあっさりと裏切ってくれた。
もう何を信じればいいのかわからない。
「…なんだ、まだ泣いてるのか…うん、間近で見るとやっぱり可愛いな。」
 声を殺していたのに、覆いかぶさりながら眠っていたロクスを起こしてしまったらしい。彼はシルマリルの肩から肩甲骨あたりを唇でじんわりと撫でながら甘ったるさを隠そうともしない声で彼女に囁く。
「ロクスっ!?」
「おはようにはまだ早いな。まだ痛いとか?俺のはちっちゃなここにはでかかったかなー…。」
 彼は男を教え込まれたばかりの女の肌から唇を外そうとしないで、時折肌に吸いつく音なんてわざと立てながら卑猥な睦言を口にする。じたばたと身をよじるシルマリルをおとなしくさせる、丸い肩を細いけれど大きな男性の手で押さえつけて、衣で隠せるか隠せないか微妙なあたりをひときわ強く吸った。
…おそらく、所有の印を刻んだのだろう。じんわりと疼くような痛みがシルマリルの肌を刺した。
「あ、な、なにを!?」
 肩を刺した痛みの直後、まだ忘れるには生々しい覚えのある感触に、シルマリルが押さえつけられているにもかかわらずさらに大きくじたばたと身をよじる。丸い尻からその奥の谷間に、自分ではない体温が触れているから彼女はたちまち顔色を変えた。
「何を、って…知りたいのか?」
「ちょ、ちょっと!入っちゃ…」
「入れてんだ。昨夜は最初だから手加減したけど俺は後ろからが好きなんだよ。」
「いや、いや……」
「はいはい、嫌ですか。悪かったな昨夜は痛い思いさせて。」

「私に触らないで…!!」

 シルマリルが静かに、しかし激しく拒否の言葉を口にして大きくふるえている。奥歯ががちがちと鳴るほどの恐怖、怯える様子を見せられて、ふざけてさらに体を求めようとしたロクスがようやく口を閉ざし不機嫌そうな顔のまま身を起こし、体を丸めるみたいにしながら怯えているシルマリルを見下ろした。
当然だが彼も一糸まとわぬ生まれたままの姿で、彼女を前にしてすべてを露出している。
「…そんなに俺が嫌いか?
 お前はわかりにくいんだよな、俺以上の気分屋でさ。昨夜はあっさりと抱かれたくせに今は触ったら死んでやるみたいな勢いで嫌がるし。
 嫌なら嫌でもいいからさ、だったら男を誘うような真似すんな。男のベッドで寝るなんざ間抜けここに極まれりだろ。」
 どこか冷たくシルマリルを見下ろしながら、ロクスはそう言い放つと裸のままで腕なんか組んだ。
「…欲しくなってどうしようもなくなった俺がバカみたいじゃないかこんなの……。」
「だ、だからってこんなことするなんて…」
「人間の男は獣にもなれるって何度言ったっけ?」
「でも私は人間ではありません!」
「それでも好きなんだよ。理屈じゃない。
 それこそお前が天使だってわかってて殺されるかもしれないってわかってても抑えきれないほどにな。」
「…開き直らないでください。私は…」
 もう翼が背中からもぎ取られたかもしれない。シルマリルは大きな罪の意識を一瞬たりとも忘れられなくて、開放されたのをいいことに掛け布で白い肌を、男を知ったばかりの裸身を包む。それは明らかな拒否で、ロクスは組んだ腕を解いて頬杖に変えるとはっきりとため息をついた。
「天使じゃなくなったっていいじゃないか、お前の代わりなんて俺と同じでいくらでもいるんだろ?
 お前の代わりとでもうまくやってやるさ、いやむしろお前を守るためにって理由ができて今以上にやれるかもな。」
「ロクス!」
「今の関係じゃ俺に何の芽もなかったんだ、翼をなくして俺の女になったお前を守れるってんだったら、そりゃあ俺だって今以上にがんばれるよ?
 お前の奴隷なんて真っ平ごめんだ、挙句他の男に持ってかれたりお仕事終ったらはいありがとうさようならなんて逃げられちゃ、今度は俺の方が狂っちまう。
 この状況はお前が招いたんだ。俺を選んだことが間違いだって思ってあきらめろ。」
「最低!!」
「そうだ。別に反論するつもりなんてない。
 けど覚えとけ、俺は基本逃げるもの追わずのあとくされのない男だったんだ。
 これだけの顔の男がお前に執着してるってこと、もうちょっと喜んで欲しいんだけどな。」
「顔が良くてなんの役に立つんですか! いいかげんになさい!!」
「何時だと思ってる、ここは宿屋だぞ。
 騒ぐんだったら俺としては死にそうな声で鳴かせたいけど。」
 ひとしきり痴話げんかを繰り広げたあと、ロクスはおもむろにシルマリルが自分を隠している掛け布に手をかけてそれをぐいと引っ張り再びベッドに押し倒した。当然引きながらそれを剥ぎ取り露にしようとするけれど、彼女もあきらめずに抵抗していて布から手を離そうとしない。
しかしその抵抗は無駄に他ならなくて、シルマリルは胸元どころか首から鎖骨の辺りだけしか隠せていなくてその様子は男として何かと煽られる構図でもあり、ロクスは人の悪い笑みの形に唇をゆがめて思わず舌なめずりした。
豊満な白い胸はもちろん、昨夜自分がいた谷間を隠している茂みまで露になっているんだからロクスにはそれがいかにもおいしそうに見えて仕方がない。片手で彼女と戯れながら、空いている手でいきなり大きなふくらみを軽くわしづかみ先手を取って奇襲をかけると、シルマリルは彼の思惑通りに固まった。
「お前がベッドの中で俺と渡り合おうなんざ10年早いんだよ。100年かけてもまだ早いかもな。」
「や! 離してっ!!」
「乳首立ってるぞ。ほら。」
「あ!?」
 シルマリルには必死の攻防戦だけど、ロクスにとっては女との戯れ。昨夜散々彼女を弄んだ指先でまたシルマリルを弄ぶ、紅い胸の蕾に触れられただけでシルマリルは掛け布を手放してしまった。
「あ、あ…いや…ぁ……」
「んー、いい声で鳴く。前々からこういう声で鳴かせたかったんだ。
 ほらシルマリル、どうだ? 気持ちいいか?」
「やめて…これ以上…私っ…わた…し……っ」
「うんうん、お前可愛い嫌がり方するな。
 でもお前だって今やめたらあとがつらいぞ。俺が欲しくてたまんなくてさぁ…」
「い…らな……」
「他の男なんて嫌だろ? それとも自分で慰めるか?
 俺なら満足させてやれるしお前が望むんだったらお前ひとりに決めてもいいって思ってる。
 もっともお前が二度とさせないってんなら俺だって他の女抱くのは男の生理として仕方ないけど。」
 再び昨夜と同じに肌を重ねてロクスが艶っぽく囁いて、けれどその中身は女をコケにしているとしか思えない。シルマリルは天使として人間と肉体的なつながりを持つのもそうだけど、同時に女性としてこの不実な男に己が弄ばれた事実も許せずにいる。しかしロクスはそんな彼女の不快感など無視して滑らかな肌を指先でなぞるばかり。
「…女が欲しいのは男の本能だ。けど人間としてならやっぱり好きな女を抱けるに越したことはない。
 俺みたいな手当たりしだいの男がお前だけでいいって言うあたりを読めるような女になれよ。
 お前ならなれるって思っちまったから多分俺は捕まっちまったんだから。」
「ろくす…?」
「好きなんだよ。
 無理やり押し倒して泣かせてそれでも押し切って…こんな風に女を抱いたのは初めてなんだ。
 頼むよシルマリル…おとなしく抱かれててくれ…もう俺の方が我慢できないんだからさ……。」
「きゃ!?」
 何度も貪ったのは簡単なことで、味わおうと味わおうと満たされないから。貪欲な男の本能かそれとも抑えつけられ鬱屈した感情なのか…ロクスは再び身を起こし、何を思うのかベッドを降りて床に膝をつく。
「…人間と同じじゃないか……」
「ちょ、ちょっとロクスっ!」
「シルマリル…お前まだ一度もいってないだろ。
 だからこれは痛いだけで自分まで汚されて嫌で嫌で仕方がない……。」
「や、やめてっ、そこは」
「俺がいかせてやる。お前が壊れて自分から腰を振るまで、何度も…何度でも……」
「っ!!」
 あの気位の高い男が女の前に跪き白い脚を両肩に乗せてシルマリルの谷間に顔を埋める。
女に慣れた舌先がぬるりとした感触と共にやわらかい谷間を割ってその奥をまさぐり音をたてて吸い…時折ぺちゃぺちゃと卑猥な音をたてて、荒々しい牡の吐息をそこに吐きかけて……昨夜与えられた快楽とは比べ物にならないほど強いそれに、シルマリルはたちまち陥落する。
「いた!ロクス痛いッ!!」
「痛い?これで? ホント感じやすいんだなぁお前…」
 谷間の奥にまでロクスの声が響く。彼の舌先が肌に触れるたびに痛みに近い感覚が体を駆け抜ける。
「いや!ロクスやめて下さいっ、痛い!!」
「はいはい。じゃあもう少し優しくしてやるから。」
「痛いんです、お願い!」
「痛いんじゃなくてお前の体が間違ってるだけなんだってば。」
 シルマリルの強い拒否は女の無意識のそれではないと読んだのだろう、ロクスが畳み掛ける具合をわずかに緩めて慣れていない女を丁寧に愛でる。相手が天使とは言え女の前に跪きその秘部に顔を埋めて丁寧に丁寧に舌先で愛して――――本気で痛みを感じているのだろう、シルマリルが力なくしゃくり始めたけれど、ロクスは愛撫の手はわずかに緩めても止めはしない。
欲しくてたまらない彼も止められなくて、昨日知ったばかりのそこを丁寧に執拗に愛でているうちに、シルマリルの脚がふるえ始めてしゃくる声が小さくなって、ロクスも少しずつ愛撫に力を込める。
「どうだ…少しは良くなってきたみたいだけど…」
 吐息がかかるたびに白い脚は大きくふるえ、声が響けばびくんと跳ねる。それは問いかけるまでもないんだけれど意地悪なこの男はあえて問いかける。
「慣れてくれば女はここが一番感じるんだ…お前は痛がってたけどここはちゃんと知ってるよ、ものすごいことになってるぞ。」
 そしてロクスが言いながら舌ではなく指先で女の最も感じる場所に触れた。シルマリルがびくんとふるえて表情をゆがめるけれど、ロクスからは見えない。彼女はふるふると首を左右に振ってこらえようとするけれどこらえられるようなものではなくて、まるで過呼吸のような荒い呼吸を繰り返し始めた様子にロクスがようやくそこから舌先を外した。
「落ち着け。死にゃしないって昨夜でわかってるだろ。」
「…もっ…ロクス……」
「まだ痛いか?」
「痛くはない…けどっ」
「じゃあ俺に体をまかせてろ。お前の体は素直に感じてるからつらくはないはずだ。」
 ロクスの声がそこに響いておかしくなってしまいそう。彼はつらくはないはずだなんていうけどシルマリルは実際につらくて自分が壊れてしまいそうな恐怖にふるえていて、けれどこんな自分をどうすればいいか知らないから彼の手に己を委ねるより他にない。
昨夜彼女を陥落させたロクスの指は昨夜よりも丁寧に女性の最もデリケートな部分を優しく撫でていて、一度離れた舌も再び触れて舐める音とすすり上げる音がする。
「―――――…っ…!?」
「そろそろかな?」
「や、あぁ、ダメ、ロクスだめ吸っちゃいやぁ…!」
 再びロクスの舌先がそこを捉えて撫で上げて、指先も離れずに一息でたたみかけようと容赦ない愛撫がシルマリルを襲う。頼りない金の髪を振り乱し白く小さな両手でロクスの頭をそこに押しつけてやわらかなシルクグレイの髪を細い指でかき乱して――――
 ロクスの首から背中にかけて、白い脚が絡みつく。二度、三度、何度もふるえて強張る脚は彼女の最初の絶頂を物語っていて、何よりもロクスが舌先で触れていた場所のふるえ具合がすべてを如実に語っている。
天使に絶頂を与えた罪な人間の男はまだ己の髪をかき乱す白い手を外させると、ようやくそこから顔を外して彼女の蜜でべとべとになった唇を己の指先で、それだけでは足りぬほどに貪った痕を手の甲で拭う。
「どうだった?…って訊くまでもなさそうだな。俺はなかなかのものだったろ?」
 初めて味わわされた感覚にシルマリルはすっかり放心していて、問いかけても答えなど期待できるはずもない。己の男に自信を持つロクスは満足そうに笑みを浮かべながら彼女をわずかに抱えてベッドに脚を伸ばさせて横たえて、シルマリルももうおとなしくなり抵抗する様子は見せない。
「じゃあ次は俺でいってみようか? 一度いかされてるから多分かなりいいと思うぞ。」
「…ぇ…………あ!?」
 昨夜と同じに腰を絡め、昨夜とは違いロクスは己を一息に突き立てた。シルマリルの脚を片方抱えて脚を開かせ深い場所まで己を飲み込ませて容赦なくえぐりかき回し、空いている片腕で小さな体を抱きしめて肌を重ねてひとつになる。
「ああやっぱりお前はいいよ…もういっちまいそうだ。
 男を狂わせる体を持ってるんだな…。」
 それは彼女への気持ちがそう思わせている錯覚を彼は知っている。気づいてはいるんだけど本気でそんなことをどこかで思っていて、ロクスは薄く明るくなり始めた部屋の中にベッドの悲鳴みたいな音を激しく満たしてゆく。そこに己の喘ぎと彼女の嬌声を織り交ぜて淫猥な空間の中でひと時の情事に溺れる。
いくら人間に酷似していようと天使という人間ではない存在を犯し貪りその体に溺れて、人間の男が自ら罪に溺れてゆく。
貪られる天使も己の翼への心配すべてを忘れて男の与える律動と強い快楽に身を委ねてしまった。
神聖なる存在ではなく女の顔で、己に覆いかぶさり激しく揺らしている罪人をかき抱きその名を何度も繰り返す。
「ロクス…壊れちゃう…ロクスぅ……」
 天使だけではない、神に至るまで人間の信じる心、疑わぬ願いが彼らを実体化させる。疑う者に姿は見えない。
ロクスの抱いたそれはもっとも強い願いの一つで、求められることに幼い天使は抗うことなどできなかった。己から腕を伸ばして男の体を抱いて受け入れ、シルマリルは従順に彼の要求に応え続ける。
ロクスの言葉の通り、「死にはしない」、存在が否定されるようなことはないと言うことは今彼女が身悶えていることからも明らか。彼の暴挙もその想いが募り爆発した末のもので人間同士ならよくある話に過ぎない。
いや、ロクスは女に不自由していない。シルマリル以外なら特定の女に固執することがない。
初めて己から欲した女だからこそその肌の感触に酔いしれる。
 そして昨夜とは違い、シルマリルは己の内側で男の終焉を味わわされた。
この男は本気で天使という存在を女として徹底的に味わうつもりらしい。シルマリルの中で、まだ最初の絶頂に酔う彼女のそこをわななかせながら細い髪を男の手でかき乱し、白いうなじに唇を這わせながら己の欲望の残滓を残さず飲ませるかのように深く、深く天使の蜜壷を突き上げる。

「…まだ男でいくのは無理か。まあいい。
 次は俺でいかせてやる、楽しみって結構尽きないもんだなぁ。」

 当然ながら、人間の男の欲望は簡単に尽きることなどない。
ロクスは罪に手を染めた自分をわかっているだけに、開き直り愛した女と共に堕落への道を選ぶのだろうか? 果ててしまい征服欲が満たされてもシルマリルを手放そうとはしなかった。

08/05/04