よたよたしながらやって来た御内裏に、一同は苦笑する。
京子の十二単と同じく、平安時代の貴族の衣装を身に纏った龍麻は、如何にも“着せられている”感満載であった。




「緋勇君も結構似合うね〜」
「そう、かな? ありがとう」




うきうきしながらカメラのシャッターを切る遠野の言葉に、龍麻は照れ臭そうに頭を掻いて笑う。
その表紙に烏帽子がずれて龍麻の足元に落ちてしまい、慌てて拾おうとするが、踏んだ裾につんのめって前のめりに倒れてしまった。
くすくすとした笑いが骨董品店を包む。

和やかな雰囲気の中で、判り易く大きな溜息を吐いたのは、京子であった。




「着替えが済んだなら、さっさとやろうぜ。肩凝るんだよ、コレ」
「……そうだな。蓬莱寺と緋勇は、こっちに来てくれ」
「う、ん…ちょっと、待って」




京子は和箪笥から腰を上げ、裾を摘んで歩き出した。
その後ろを、葵と雛乃が付き添う侍女のように単衣の後ろを持ち上げ、京子に助力する。

龍麻の方も醍醐と雨紋の手を借り、なんとか立ち上がる事が出来た。



如月が二人を先導した先には、ブルーシートを広げた空間がぽっかりと存在していた。
いつもは調度品や像の類でも置かれているのだろうが、この撮影の為に一時的に撤去したのだろうか。


先ずは普通に立って並ぶ。

龍麻と京子が並ぶ姿は、誰もが見慣れていたが、衣装が違うとまた雰囲気も変わって見える。
京子は葵が施した化粧によって、目尻がいつもより穏やかなものに変わっており、扇を開いて口元を隠せば、たおやかな姫に見える。
その隠した口元が、ぎりぎりと歯を鳴らしていると知らなければ、だが。

龍麻はいつも通りの穏やかな表情をしているが、時折ちらちらと隣の京子を伺っている。
単に京子がいつ爆発するかを気にしているだけなのだろうが、京子が口元を隠している所為もあってか、恥ずかしがる妻を気遣っているようにも見えた。




「十二単って綺麗だね」
「重いだけだ。くそったれ、余りモンにゃ厄しかねェ」
「そうかなぁ」




アミダ籤の際、何れにしても気乗りしなかった京子は、残った番号を選ぶ事になった。
残り物には福が、と思ってその時は大して気にしていなかった京子だが、今になって激しく後悔している。

だが、龍麻にしてみれば、結果的には福であった。
それを京子が察する事はないだろうけれど。




「……蓬莱寺、眉間に皺が寄っている。やめろ」
「るせェ、ムッツリ!! さっさと終わらせろ!」
「だから、その為にそれを止めろと言っているんだ」
「そうよ〜、京子。はい、笑って笑って」




如月の横でデジカメを構えていた遠野の言葉に、京子は益々眉間の皺を深くする。
だからダメだって、と遠野は言った。




「歌でも言ってるじゃん。二人並んですまし顔、なんだから」
「それこそ、すましたツラしたムッツリがやれよ」
「……何故僕が」
「いいじゃねーか、似合うと思うぜ」
「…何れにしろ丁重に辞退させて貰う。また着付けの時間を割く訳にはいかん」
「体のいい事言いやがって、ムカつく」




腕を組んで如月を睨み付ける京子は、もう姫とは呼び難い。

龍麻は、そんな京子に向かって手を伸ばし、眉間の深い谷を指先で突いた。
すれば案の定、じろりと今度は龍麻を睨む。
が、龍麻は全く意に介していなかった。




「早く済ませて、コニーさんの所に行こう」
「奢れ」
「うん」




傲岸不遜な一言に、龍麻はいつもの笑顔で頷いた。


京子は一つ息を吐く。
中々消えない眉間の皺は、自覚があったのだろう、自分の指先でぐいぐいと伸ばそうとする。

しばらく京子の表情待ちをして、彼女がもう一度口元を扇で隠した所で、撮影再開となる。




「やっぱり二人で良かったね」
「そうね。京子ちゃんも緋勇君も姿勢がいいから、着物が崩れることもないし」
「でも蓬莱寺は辛そうだぜ。仕方ねェか、重いもんなァ、あれ」




真っ直ぐに背筋を伸ばすというのは、意外と重労働だ。
普段から気をつけているのなら問題ない……とは言え、今は慣れない格好をしているのだ。
十二単は約二十キロはあると言うから、京子が肩凝りになると訴えるのも、無理はない。

オレなら絶対ムリだ、と言う雪乃。
オレだってムリだ、と京子が胸中で呟いていた事は、誰も知らない。



並んだショットを撮った所で、今度は向き合うことになった。
向き合うと言っても、体はそれぞれ斜め向きで、二人の視線が真正面から交わっている訳ではない。
だがカメラのファインダーを通してみれば、斜め向きでも、これで十分向き合っているように見えるのだ。

────が、




「緋勇君、真横向かないで良いんだよ」
「え? ……あ、ごめん」
「って言ってる傍からこっち見てんなッ」




思い切り京子を見詰める龍麻に、京子はその顔面を鷲掴み、方向を修正させる。
龍麻は修正された状態から動かないように努めた。

……のだが。




「だからこっち向くなっつーの!!」




ついつい、京子に視線を向けて。
そのまま首が吊られて動いてしまうものだから、龍麻はまたカメラに対して真横になってしまう。





(だって、もう見れないと思うから)





見たいと思うんだ、と。
拗ねた顔をして、売り上げ一割貰わなきゃ割りにあわない、と呟く恋人に微笑むのだった。






2011/03/03

実に色気のねえ(笑)。京子だしなぁ。