やっぱりあなただから






今ではすっかり、“歌舞伎町の用心棒の舎弟”が板について来た吾妻橋ではあるけれど。
これでも一応、京一に負けるまでは“墨田の四天王”の一角としてそこそこ有名だったのだ。

となると、その筋の連中にはそれなりに顔も名声も知れ渡っている訳で。





「お前みてェな奴が、あんなガキの下についてるなんざァ勿体ねェな」





他のメンバーと共に、路地の裏手で乱闘をした後。
全員を地面に静めた所で、恐らく連中の上にいるのだろう人間が物陰からひょっこりと顔を出して、そう言った。

高い身長にガッチリとした体格、裂傷だらけの顔。
吾妻橋の右半身も大層な事になってはいるが、恐らく、男の傷は見えない場所にも無数にあるのだろう。
そう思わせる程、男の放つオーラは尋常なものではなかった。


が、生憎、吾妻橋はその程度で怯える程小さい心臓をしていない。
それもこれも、敬愛するアニキ分とつるんでいる内に鍛えられたお陰だ。



煙草を吹かしながら、明らかに堅気でないだろう男はゆっくりと近付いてくる。




「墨田の四天王をナマで見たのは初めてだが、こりゃあ大したもんだ」
「そりゃありがとうよ。んじゃ、其処退いてくれるか」




鉄パイプを肩に担いで言えば、いやいや、と男は含みを持たせて笑う。




「まぁ、ちょいと話を聞いてくれよ」
「どーせお宅の組入れとかの類だろ。興味ねえんで、俺らァ行くぜ」




その手の話なら、今までにも何度か来た事はある。
以前はそれを、何処に属する気もないからと断っていた。

応じる気がないのは、今でも変わらない。


しかし、相手側からすれば今と以前とで、吾妻橋達の立場は僅かに変わっている。

何処に属するでもなく、同時に幅を広げていた墨田の四天王が、“歌舞伎町の用心棒”の舎弟になった。
他者につく気になった─────と言うのが、周りから見た認識だ。
ならば、どうにかして此方側に引き込む事は出来ないかと、あれこれ画策しているのである。




「幾ら“歌舞伎町の用心棒”っつったって、ありゃあガキじゃねえか。大して得もねェだろうよ」




確かに、それは否定しない。
損得勘定が頭にあっては、高校生の下につく事はないだろう。

だから、吾妻橋達が彼の舎弟になったのは、決して損得勘定ではなく。




「理屈じゃねえんだよ、あの人の持つモンってのは」




例えば、平時に見せる年相応の顔だとか。
例えば、目の前を塞ぐ相手を睨む眼光だとか。
イタズラ好きな子供のような笑顔とか。

学友達と何気ない話をしている時の表情も、威嚇するように吼える覇気も。
吾妻橋はそれを傍らで見ているだけで、惹きつけられて止まない。



強面の男は、判らんなァと煙を吐き出す。
それを見ずに、吾妻橋達は路地を後にした。




そうして、埃だらけの薄汚れた道から抜け出して、







「おう、お前ら。なんか面白ェことねェか」






見付けた光は、強く、強く、眩しくて。

だから、この人について行こうと思うのだ。
暗い世界で、まるで太陽のように生きるから。







ついて行きます、何処へだって、何処までだって。

鬼との戦いに巻き込まれても、自ら足を志願する墨田四天王。
舎弟の鏡。