日は昇る






あの頃。

夜は、永くて、暗くて、冷たかった。





導がなくて、寄る辺もなくて。
それらから手を離したのは、本当は自分が先なんだと、気付くのも嫌で。
気付いた時も、それを認めるのが嫌で。

我武者羅に歩き続けている間、傍らにあったのは、何処までも続く終わりのない夜。



どうしたら夜が終わるのか判らなくて。
本当に夜が終わるのかも判らなくて。

何に向かって振るえば良いのか判らない剣を、ただ滅茶苦茶に振り回す。
それで何が見えてくる訳でもないのに、振り回す。
じっと蹲ってる事だけが怖くて、ただ、滅茶苦茶に。


意識が飛んでも、死に目に遭っても、それらから抜け出すことが出来ても。
夜だけが終わらない。





刻は朝を迎える。
夜の終わりを告げる刻。

けれど、夜は終わらない。
繰り返されるのではない。
終わらない。


永遠に続くようにも思えた。
永遠に続くのだと思った。





夜を終える為の指針がない、夜をどうすれば終わるのか手繰るものがない。
海の真ん中に放り込まれたようで、足先からどんどん冷えていくのを感じた。
その内頭の芯まで冷え切って、夜に溶けていく自分を知った。

このまま全部溶けて消えてしまえたら、どんなに楽か。
思ったけれど、夜に委ねようとしたら、必ず誰かが手を引いて夜の世界に足を立たせるのだ。


それは幼い頃に何も言わずに別れた切りの母だったり。
生意気な弟を小突きながら、仕方ないなァと笑う姉だったり。
………もう手の届かない、父だったり。

世話をしてくれる人々だったり。
…………何処にいるのか知らない、師だったり。


殆どは幻想なんだと、自分でも判っていた。
けれど、確かな手が確かに現実で、自分の手を引いてくれた事もあった。



だから終わりのない夜の中、溶けて消えずに、歩き続けた。




歩き続けて。
歩き続けて。




最初に逢ったのは、同じように夜に怯える男。
けれど彼の傍には、誰かがいた。
一人で怯えてはいなかった。


次に逢ったのは、夜の中で光る、星。
直ぐにでも夜に飲み込まれそうな、小さな星。
けれどもその星は、飲み込まれまいと懸命に光る。


同じ夜に怯えていた男が、一人になったと聞いた。
擦れ違い様声をかけて、何も言葉が見付からなかった。
夜が怖かったのは、自分も同じだったから。





導がなくて、寄る辺がなくて。
それを手放したのは、自分の方。


同じ導を失った男を見て、ようやく、それが判った。
眼を逸らしていたものが、別の形でやって来て、突きつけられて。

夜の孤独にずっと怯えて、本当はずっとずっと泣きたかった。
誰かに、陽の当たる場所まで連れて行って欲しかった。
でも誰にも頼りたくないから、気付かない振りをして、一人で夜に怯えていた。
……星の光も見れないくらい、みっともなく。




導を示してくれたものを、何処で手放したのか、まだ覚えていた。
寄る辺になるべく傍にいてくれた人達の事を、思い出した。

一人で生きていけないのに、一人で生きている振りをして。
歩きなさいと背中を押してくれる人達から、必死で眼を逸らして。
一人で勝手に、夜は永くて暗くて冷たいんだと、怯えていた。






立ち止まって、振り返ったら、涙が出た。
だから、みっともなく声を上げて、子供のように泣いた。

泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。




───────顔を上げたら、陽の光が眩しくて、また泣きそうになった。









このお題名で太陽ではなく、夜に重点を置く辺り、自分は捻くれてるなと(爆)。
どんなに長い夜でも、陽が昇らないなんて事はないんです。

アニメ外伝壱の最後、京一が師匠の太刀袋見つけて泣くシーンが大好きです。
その後ろで見守ってる『女優』の兄さん達も大好きです。