だって僕らはまだまだコドモ





やりたい事なら、数え切れない位ある。

その沢山ある“やりたいこと”の中から、例えば世界の終わりの直前に出来ることがあるとしたら、




「苺食べたい」
「……いつもと変わりねェじゃねーか」




迷わず出て来た相棒の答えに、呆れる京一と。
龍麻らしいと苦笑しているクラスメイト達。

答えた龍麻の手の中には、いつもの苺牛乳がちょこんと鎮座している。
それをちゅーっと飲んだ後で、




「じゃあ京一は?」
「あ? オレか?」




龍麻と違い、京一は直ぐに答えなかった。


やりたい事。
それも世界の終わりの直前に。

何かないかと考えてみると、此方も“いつも”の事しか出てこなかった。




「ラーメンだな。最高に美味ェ奴。腹裂けるぐれェ食ってみてェ」
「それもいつもと大して変わりないじゃん」




案の定、小蒔にツッコまれた。
それに対して、どうせお前も同じようなモンだろ、と言えば、小蒔は目を逸らして愛想笑い。

どうせそんなものなのだ、こんな平和な日常の中で思い付く事なんて。
到底、“世界の終わり”とか“人生最後”なんかとは、結び付かないような希望ばかりだ。


見上げた空は遥か奥まで青く澄み渡り。
校庭では昼食を終えた生徒達がサッカー等に興じ。
校舎からは廊下を走る生徒を注意する教師の声。

なんて平和な一時。
世界の終わりなんて何処にあるのやら。



─────陰で蠢く者がいるなど、到底想像も出来やしない。




「醍醐君は?」
「お、俺ですか? 俺は……」
「いつもみてーに飯作って旦那に食って貰うんだろ」
「京一ッ」




茶化した京一に、醍醐が声を荒げる。
が、京一はケラケラ笑っているだけで、怯えた様子など微塵もない。

旦那って誰のこと? 首を傾げる小蒔に、遠野と葵が顔を見合わせて苦笑する。
これじゃあ醍醐の想いはいつになったら届くのだか。




「ねぇ、アン子ちゃんは何がしたいの?」
「あたしはねー、とびっきりのスクープゲットしたいなァ」
「世界が終わる時点で、これ以上のスクープないって」
「だから、それも忘れちゃうくらいのでっかいスクープ見つけるの!」




実に遠野らしい。
彼女の事だ、本当にそのスクープを見つける為に走り回る事だろう。
最後の瞬間まで、その“最後”に負けないような出来事を探して。




「美里ちゃんは?」
「私? 私は─────……」




葵の優しげな瞳が、同じ場にいる仲間たちをぐるりと見回す。


緋勇龍麻。
蓬莱寺京一。
醍醐雄也。
桜井小蒔。
遠野杏子。

今年の春に集まって、ずっとずっと一緒に駆け抜けてきた仲間達。
衝突して、ケンカもして、時々気まずくなって、でも。




「私は、皆と一緒に過ごしたいかな」




告げられた答えは、なんとも葵らしいもの。

小蒔と遠野が嬉しそうに笑って、葵に抱きついた。
優等生の答えだねェと呟いた京一だったが、その声に昔のような険はない。
醍醐と龍麻も目を合わせ、笑った。







世界が終わる、その瞬間。
此処にいる仲間達が一体何人揃う事が出来るだろう。

判らない、判らないけれど。
そんな絶望的な瞬間を、彼らはまだ知らない。
知らないから、こんなに希望に溢れている。


世界が終わる、その瞬間。
繋ぐ手がないなんて事は想像できない。

世界が終わる、その瞬間。
隣で笑う人がいないなんて事は考えられない。





だって絶望なんて思い描いていられない位、僕らはまだまだコドモだから。









大人になると先のことを考えるようになる。
其処に絶望があるのを考えてしまうと、踏み出す一歩を恐れて躊躇う時がある。

でも子供なら、知らないからこそ強く強く、次の一歩が踏み出せる。
例えばその先に、真っ暗な未来へ続く道があったとしても。