唇に触れたい



乾燥しがちなのか、よく罅割れている事がある。
けれども、リップクリームなんて都合の良いものを、彼が持っている訳もない。

指を伸ばしてなぞってみると、大抵、彼は顰め面をする。
そうして噤まれた唇を、少しばかり強引に指を押してやれば、意図を察したように微かに隙間が出来た。
誘われるように指を滑り込ませれば、ふ、と鼻にかかった声が零れる。




「ん、ぅ」




居場所に困ったように、彼の舌が震えているのが判った。

歯列を指の腹で撫でると、ぴくっと細身の肩が震える。
それを自覚してか、単に撫でられる感覚が嫌いなのか、じろりと緋色の混じった瞳が此方を睨み付けた。




「うんッ…!」




噛み付こうとする犬を叱るように、ぐっと口の中に親指を押し込んだ。
突然の事に京一が餌付くように喉に手を当てたが、構わなかった。


押し戻そうとする舌を親指と人差し指で摘まんで、外に引き出す。
え、と不味いものを吐き出そうとするような声が漏れた。
唾液混じりの赤い舌がてらてらと光って、零れた銀糸が少年のシャープな顎を伝って光る。

ゆっくりと顔を近付けて、少年の舌に、己のそれを重ねた。
じゅる、と液の混じり合う音がして、京一が身を固くする。




「あ、はッ……んぁ……」




だらりとされるがまま、大人しく垂らされていた腕が持ち上がって、拒絶するように胸を押す。
その片腕を捉えて、壁に縫い付けた。
同時に彼の背中も壁へと押し当てて、檻の中に囲い込む。

逃げ場を失った彼を、更に捕らえ閉じ込めるのは簡単だった。
舌を絡めて堪能しながら、唇を重ね、咥内をゆっくりと貪って行く。




「む、あ、ん、ちゅ、ふッ…!」




歯列の裏をなぞって、逃げる舌を絡めて。
彼の唾液で濡れた指で、彼の耳朶をなぞれば、彼が息を飲んだのが判った。

ちゅく、ちゅ、とわざとらしく音を鳴らしながら唇を吸えば、その都度、ピクッ、ピクッ、と京一の肩が跳ねる。


常に強気で、傲岸不遜を地で行く瞳の光に、少しずつ靄がかかる。
その様を間近でじっと見詰めていれば、次第に、艶を孕んだ瞳が見返して来て。




「は、ぁッ……あ……」




離れた瞬間、名残惜しげな声が漏れるのが聞こえた。
そんな彼を見下ろして口角を持ち上げれば、また睨んでくる双眼────けれど其処には、常とは違う色艶がある。





濡れた唇に、指を当てた。
赤い舌が覗いて、指先を舐める。

顎を捉えて、もう一度唇を重ねた。







相手はご想像に……ってつもりだったんだけど、京一のこの態度見ると、あの人しかいないような。
エロいキスって表現が難しい。