好きだ好きだ好きだ




「好きだよ」




─────余りにも唐突な告白に、「……おお」と返すのが精一杯だった。
いや、反応する事が出来ただけでも上等だろう、と京一は思う。


龍麻の言動に突拍子がないのは、よくある事だった。
少なくとも、京一にとってみれば、ではあるが。

「あれって面白いのかなあ」と言った時の“アレ”が指すものが、一週間前に街中で偶然見かけたホビーショップの子供向け玩具であったり、「あれって美味しいのかなあ」と言った“アレ”が一ヶ月前に中華街で見た新作肉まんの事であったり。
気になってたのならその時言えよ、と京一が呆れる事も少なくない。
余りにも酷いタイムラグに、お前の頭の中にはタイムマシンがあるのか?と言ったのも一度や二度ではなかったと思う。


だから、龍麻が突然向けて来る言の葉と言うものに、京一はそこそこ慣れたつもりでいたのだが、




「好きだよ」




……これにだけは、なんと返して良いのか、相棒を自負する京一にも判らない。




「好きだよ」
「……さっきも聞いたぞ」
「うん」




短い会話の合間、風が吹いてさわさわと枝葉が揺れる。

チャイムの音が鳴って、四時間目が始まったが、京一は動かなかった。
数学なんて眠たくなるだけの授業に出るより、いつも通り、この木の上で昼寝をしていた方が余程快適だ。
遅れてやって来た親友の、この唐突な告白がなければ、だが。




「京一、好き」
「判った判った」
「うん」




判ったから、もう黙れ。
そんな意味を言外に込めて返事をしてやったのだが、案の定、効果はなく。




「京一」




目を閉じて、近付いて来る気配を無視する。
拒んだ所で聞くような相手ではないし、そもそも、拒む程に嫌悪を持つ事もない。

額に何か柔らかいものが押し当てられた。
次にそれは瞼に落ちて来て、それから眦に、頬に、……唇にはほんの一瞬、触れたか触れなかったか程度のもの。
なんで其処だけ意気地がねェんだ、と思いながら、やはり京一は龍麻の好きにさせてやる。




「ねえ、京一」




京一は返事をしなかった。
枝葉が擦れる音と、親友の声だけを聞きながら、京一は考える。

龍麻もそうだけれど、他にも『女優』の人々とか、




(……飽きねェのかね)




好きだよ、好きだよ、と同じ言葉ばかり。
よくよくいつまでも繰り返せるものだと、京一は思う。






「好きだよ」と言う言葉を受け入れて貰える喜びを、
彼はまだ知らない。










うちの龍京ってこんなばっかだなぁ。ワンパターンですみません。

好き好きって表現するのはいつも龍麻の方。
京一からは、それを寛容してるのが何よりの表現(恥ずかしいから自分からは絶対言わない)。