約束





───────言葉一つで君を縛る事が出来るなら、僕はどんな“約束”をするだろう




じゃあまた明日、と言う言葉が、一種の社交辞令である事は、龍麻も理解していた。
其処に特別に込められたような意味や意図はなく、ただ、明日も今日と同じ日が来ると前提しての、単なる挨拶と同義であると。


「また明日」と言えば、「おう、またな」と言う返事があって。
それが当たり前のようでいて、当たり前であるからこそ、小さな幸せの一つであると気付かない人も多いだろう。
龍麻がその幸せに気付いたのは、奇しくも、彼にとってそれが“当たり前ではなかった”過去があったからだ。

だから龍麻は、その言葉を口にする度、耳にする度、願わずにはいられない。
明日も今日と同じように、「また明日」と言って別れ、「おう、またな」と言う返事が返って来る事を。


東京と言う大都市に来てから、龍麻の世界は目まぐるしく変化した。

遠巻きに眺めているだけだった人の輪、笑い合いながら歩くクラスメイトの背を眺めながら、一人で歩く帰り道。
羨ましくて、憧れて、そして諦めて眺めていたその光景が、今は龍麻の傍にある。
時に賑やかに、時に穏やかに、振り回したり振り回されたりしながら、今の龍麻は温かなものに囲まれている。

それが嬉しくて、嬉しくて。
守りたい、といつも思う。



……それと同時に浮き上がる、薄暗い感情。



「また明日」に「おう、待たな」と言う返事を聞く度に、そのまま遠ざかって行く背中を追い駆けたくなる。
不確定な“明日”が来る前に、眼前にある存在が離れて行かないように、捕まえたくなる。

「また明日」と「おう、待たな」と言う会話の間に、意味はない。
少なくとも、京一にとっては、恐らく。
彼は去り際に投げかけられた言葉に、反応を返しているだけの事。

龍麻がどんなに、特別にその言葉を待ち望んでいるとしても、京一には、大した理由があって発している言葉ではない。


「また明日」、「おう、またな」。
それは未来の約束。
24時間後の、未来の約束。

明日も今日と同じように、明後日も今日と同じように、その次の日も同じように。
彼に同じ言葉を投げかけられるように、彼が同じ言葉を返してくれるように願いながら、約束する。



判っている。
判っている。

これは、一方的な“約束”。
龍麻が一人で繰り返している、彼の知らない“約束”。


判っている。
判っている。

これは、いつでも破られる、そんな“約束”。
龍麻一人の一方的な約束だから、彼には守らなければならないような義務はない。




それでも龍麻は、この約束を願い、望み、繰り返す。
繰り返しながら、いつも思う。

いつか、二人で約束を交わす、そんな日が来たら、大雑把な素振りをしながら、人に見えない所で案外律儀な性格をしている彼に、どんな約束を取り付けようと。


多分、きっと、ずるい約束をするのだろう。
君が明日も、明後日も、その次の日も、それからもずっと、ずっとずっと、傍にいてくれる、そんな約束を。







“また明日”って明日も逢おうねって意味の約束だと思う。深い意味はなくても。

どうしてもうちの龍麻は薄暗い……龍龍キャラに関しては、皆何処かしら病んだ部分があるけども。
龍麻は露骨にそれが表に出て来ない上、自覚と無自覚がごちゃまぜになってる気がする。