じっと見詰められると言う事は、警戒されていると言う事だ。

相手が自分に対して何をするのか判らない、何をして来ても直ぐに対応できるようにする為に、目を逸らさない。
だから反対に警戒している事がなければ、無防備に背中を晒したり、腹を見せてごろりと寝転んだりと言う姿も見せるのだ。

──────けれども。



「げっ」



曲がり角を曲がった先にあった姿に、京一が判り易く苦い声を上げた。
隣を歩いていた龍麻がどうしたのかと前方を見れば、ああ成程、と直ぐに得心が行った。

褪せた金色の髪に、揶揄するように薄い笑みを含んだ唇、補足切れ長の眦。
緋色の纏を羽織った和服姿の男が、おや、とわざとらしく驚いたような顔をして、此方を見ている。
拳武館十二神将が一人、八剣右近─────京一が一等苦手としている人物。

道理で京一が顔を顰める筈だと、龍麻は思った。



「やあ、京ちゃん。こんにちは」
「京ちゃん言うな」



わざとらしい程の笑みを浮かべて挨拶する八剣に、京一は苦虫を噛み潰す顔で舌打ちする。
嫌な奴に遭っちまった、と言わんばかりに顔を顰める京一を、八剣は面白ものを眺めるような目で見ている。
京一はそんな男を射殺さんばかりに睨み付け、ぎりぎりと牙のある歯を覗かせている。

龍麻はしばし、見つめ合う二人を横合いで眺めると言う姿勢で、京一がもう一度動き出すのを待っていた。
が、京一と八剣は“先に目を逸らした方が負け”とでもばかりに、互いの眼を見詰め合ったまま(京一の場合は睨んでいる)動かない。



「京一」
「あん?」



龍麻が呼んでも、京一は振り返らない。
猫のように尖った瞳は、じっと眼前の男を見据えたまま、逸らされない。



「行こうよ」
「ああ」
「今、帰りかい?」
「お前にゃ関係ねェ」



龍麻に促されて歩き出した京一に、八剣が問いを投げたが、彼はけんもほろろに冷たく返す。

道は広くはなく、人三人が並んで歩く程度には幅があるが、余分なスペースは殆どない。
だから嫌でも龍麻と京一は、笑みを浮かべた優男の傍を通らなければならなかった。
京一はそれすら不快とばかりに眉間に皺を止せ、男の傍を横切る間、じろりと彼を睨見続けていた。
男は、そんな京一を、やはり楽しそうな瞳で見詰めている。


─────その様子に、龍麻はひっそりと唇を尖らせた。



「京一」
「あん?」




名を呼べば、先と全く同じ反応。
相変わらず、彼は男を睨み付けたまま、龍麻を見ようとはしない。

そんな京一の腕を掴んで、引き寄せる。


京一の視界が、見慣れた相棒の顔で埋め尽くされた。




限界まで見開かれた瞳に映っているのが自分だけである事を確かめて、龍麻は満足そうに笑みを浮かべた。





見えなくても判っているのは知っているけど
やっぱりこっちを見て欲しい

信頼、信用してるから、龍麻は見てなくて良い京一。
警戒されてても、自分を見てくれるから構わない八剣。
信用してて欲しいし、自分を見ても欲しい龍麻。